暖かいまどろみと、心地よさ。
こいつに触れていると言う事実は体温以外にも火力、体調、エネルギーの燃費。
更には自分の感情にまで左右してくる。

「ふっあ…っ…」
「…」
「や、…っん…」
「…スタースクリーム」

名を呼ぶと自分の下の存在はゆっくりとアイセンサーをこちらに向けた。
一度腰を打ち付けるとスタースクリームは無言で顔をそらし口を食いしばった。
その口に指を這わして開かせる。もう一度アイセンサーをこちらに向けるとその拍子に冷却材がぽろぽろと落ちた。

「…スタースクリーム」

再度名を呼ぶ。スタースクリームが拭うこともせず冷却材をこぼしたまま虚ろに見つめ返してくる。
指を絡めて身体を擦り付けあい、奴の中に自分を押し込んだ。
元は一つのものだったもの同士がひとつになる感覚。恐ろしく心地が良い。
壊れていた箇所が直されていく、満ち足りなかった部分が復元されていく。

「…メ、ガトロンさ、ま」

泣きながらスタースクリームはすがり付いてきた。震える指を背中に回し
離れるのを嫌がるように擦りつき、また泣きじゃくる。

「っあ、あ」
「…」

少し、意地悪を考えて体を引くとその力の篭っていなかった腕に力が入り
ぎゅうと抱き寄せられ、逃げないように締め付けられる。

「行かないで。離れないで…っ」
「…あぁ、スタースクリーム。儂はここにいる」
「……メガトロン様」

少し鮮明になった声。はっきりと自分の名を呼ぶ。
あぁ、スタースクリーム。どうした?何を物欲しそうにする必要がある。
お前の欲しいものは全てやる。だから言ってみろ。

「…あんたが、 きだ」

小さすぎる声。掠れて落としてしまった声。しかし聞き取ったぞスタースクリームよ。










「っ…いってぇな!このおんぼろ!」
「……」

自分の目の前には寝台より落ちたスタースクリームと自分とスタースクリームをのせてもまだ余りある大きな寝台。
自室だ。と自覚し周りを見渡すとスタースクリームが顔を抑えてもう一度寝台にあがってくる。

「…何をしておる」
「あんたが蹴落としたんだろ!うんうん唸ってるから起こそうと思えばこれか!」
「唸っていただと?」
「そうだよ!う〜だとかにゃーだとか」
「誰がそんな声をだすか愚か者」

夢を見ていたようだ。金属生命体が夢を見るなど、珍しい。
スタースクリームが左で吠えているがそれ以上に今見ていた夢を思い返すことを優先していた。
覚えてはいる。唸る、いや喘いでいた。自分ではない。
もう一度スタースクリームの方に顔を向けると更に鮮明に思い出すことができた。

『行かないで。離れないで…っ』

思い出す声。しかしそれは夢だったようだ。
本当に触れていたような感覚。まだ腕に暖かさが残っている。
しかしそれが夢だったのは乱れていない寝台と、静かな自分の身体。
そして極めつけいつも通りうるさい航空参謀だ。

馬鹿馬鹿しい。夢にしてはリアルで、それでいてありえないくらいの心地よさ。
思い出せばぞくりとするほどスタースクリームは愛しい存在だった。
しかしそれはやはり夢の中の妄想で、今目の前に居るスタースクリームを見ても何も感じなかった。

「ポンコツ!スクラップ!」
「……うるさい!!」

その顔を掴んでもう一度寝台に落とすまで2分といらなかった。




*





「ぶあっはっは!お前の顔面白いことになってんぞ」
「…触ったら殺すぞアストロトレイン」

朝から一戦交えてあえなく返り討ちにされ自慢の顔に傷をつくってしまった。
リペアしたくてもメガトロンが一緒に来てくれないとリペアも満足にできない。
一人だけでリペアしたら温度感知異常とエネルギーの燃費の悪さで頭が朦朧として余計な怪我作りそうだ。
現在は装甲が削れ、微かにへこむ顔を抑えておくだけでスタースクリームは耐えていた。

いっそメガトロンとぴったりくっついて暫く過ごせば自己修復能力の強化により
顔の怪我などすぐに治るのだろう。それはメガトロンもスタースクリームも理解していた。
しかし朝から喧嘩したのはその当本人なのだ。必要最低限の距離にいたいと思っていた。

それはお互い様でありながら理由は少しだけずれていた。
スタースクリームは純粋に「腹が立つ」「ムカツク」と直情的で嘘はなかった。
メガトロンは違った。メガトロンの内心はそんな表の感情とは違い、微かな罪悪感が生まれていた。

夢であった。夢であったとしても、自分はスタースクリームを犯してしまったのだ。
夢の中では同意だったとはいえ、自分もおかしくなったとメガトロンはため息を吐いた。
これもこの身体のせいだろうか。シンクロ率の足りなさを実際に触れて、パルスを流し合う
交歓行為によって保持したいという願望の現われなのだろうか。だとしたら狂ってる。

目線を少し先に送るとスタースクリームとアストロトレインが騒いでいた。
アストロトレインがスタースクリームの顔の怪我を覗き込もうと腕を掴み逃げることを制限させている。
いやだと身体を捩るスタースクリームと、にやにやするアストロトレインが目に入ったが
嫉妬だとか、苛立ちなどという人間のような感情は特別表れることはなかった。


「メガトロン様」
「…む。サウンドウェーブ。できたのか」
「はい」


その会話をスタースクリームが目ざとく聞きつけやってくる。
そのスタースクリームをわざと視界の端に排除してサウンドウェーブに話を促した。

「できたってなにがでい」
「アストロトレインに持ってこさせたサイバトロンの機器だが」
「あぁ、直るのか?これ」
「無理だ」

スタースクリームが頭を抱え込むように大げさなため息をついた。
こちらに指してくるのを視界の端が捕らえる。
破壊大帝を指差すとはどういうことだと怒鳴ってやりたいのを我慢した。

「じゃあ俺様はまだこれと一緒に居なきゃいけねーのかよ」
「いや」

サウンドウェーブが否定の言葉を出した。
メガトロンもそれを聞いてサウンドウェーブを正面から見つめると
薄くアイセンサーを閉じて「どういうことだ?」と尋ねた。

「機器をベースにシンクロ率を安定させる機器を別に作った」
「それで直るんじゃねぇのか?」
「それは不可能。一日はもつがそれ以上は互いを必要になる」
「…ある程度別行動ができるようになるのか」
「そうだ。使い方を説明する」

サウンドウェーブ曰くいつも一緒に居るのは互いの行動に制限をかけていて面倒ごとが多い。
そして他のデストロンにばれない方がいい。士気の低下に繋がる為だという。
確かにジェットロンやアストロトレイン以外には黙っていたほうが良さそうだとは判断していた。
部屋に今反乱を起こされては困る。

サウンドウェーブが円形のドーナツのように穴の開いた機器を取り出した。
2つあるそれは色が異なっていてサウンドウェーブがその機器の一部をまさぐるとコネクタが露出する。
メガトロンはすぐにそれを「腕輪」だと判断した。

「この中にパルスを送ってもらう」
「…なるほど」
「互いのパルスをいれた物を身につけて安定させるってわけか」
「しかし一日でパルスは微弱化する。その後は再度パルスの充電が必要だ」

それでもずっと一緒に居なくて良いのは互いにとって嬉しい話である。
こんな奴と毎日毎晩同じ行動してずっと触れ合って、同じ寝台で眠る。もううんざりだった。

「赤がスタースクリーム。銀はメガトロン様」

そう言いながらコネクタが露出しているそれを渡してくる。
メガトロンが渡されたのは赤だった。サウンドウェーブに視線を向けると
「コネクタを首のレセプタに挿してパルスを」と促される。
言われたとおりにパルスを送るとスタースクリームもそれを見てパルスを送り始めた。

「もう良い」

サウンドウェーブがもう一度受け取り今度は赤をスタースクリーム。銀をメガトロンに渡しなおす。
自分の色であるそれを受け取りメガトロンは様々な角度からそれを見ていた。
小さいスイッチが2つ横並んでいた。本当に小さい見逃すようなスイッチ。

「これは?」
「ひとつはコネクタを露出させるためのものだ」
「じゃあこっちはなんだ?」

スタースクリームが説明するサウンドウェーブを無視してボタンを押すと
丸かったものが割れてトラバサミのようにスタースクリームの首に飛びついた。
あ。とサウンドウェーブが小さく声を漏らしたのを聞きつつメガトロンは
スイッチを押そうとしていた指を下ろした。馬鹿がおるな。

「う、うわあ!なんだなんだ!」
「暴れるな。放っておけ」
「サ、サウンドウェーブ!」

首に飛びついた機器が形を変えて首に巻きついていく。
ある程度首を囲うとまた丸く形を生成して落ち着いた。

「……」
「……」
「……」
「ぶっ…!ぎゃはははは!!!」

アストロトレインが大笑いするとスタースクリームはアストロトレインを蹴りにいった。
説明を求める視線をサウンドウェーブに向けるとサウンドウェーブは一度頷き
メガトロンの手にあるそれを受け取った。

「本来は手に当てながらスイッチを押す。そうすれば手首の形に合わせて生成される」

サウンドウェーブがメガトロンの手を取ると今のスイッチを押した。
2つに割れて手首に巻きついたそれは手首を囲うとぴったりと自分に合う大きさで生成されて動きを止めた。

「…なるほど…邪魔にならんな」
「体内にいれるとパルスチャージ時に面倒だ。パルスが微弱になれば勝手に外れる」
「こ、これはずれねぇのか!?」

アストロトレインを蹴り倒し終えたスタースクリームがサウンドウェーブに掴みかかった。
その首には赤い首輪が。愚か者め。

「似合ってる」
「いらねぇフォローするんじゃねぇ!はずせ!」
「無理だ」
「はーずーせー!!」

首で生成されたメガトロンのパルス入りのシンクロ率安定機器は自分は飾りであるがごとく
静かにスタースクリームの首で赤く光った。





*




久しぶりに仕事がはかどる。自室に今日は自分だけ。
寝台に寝転びながら小さいコンピューターをたたいた。
モニターには基地のデータを示す数字が並び、それを見ながら破壊大帝は仕事をしていた。

身体はというと寒くはなかった。しかしやはり「スタースクリーム」ではないのを身体は気付いている。
手首に居るスタースクリームのパルスは偽者で、本物は離れた場所に居るのを身体は気付き
それにクレームをつけるように微かに身体を凍えさせ、少しだけ落ち着きを盗んでいく。

しかし耐えられないほどじゃない。
メガトロンは特に問題なしと仕事を続けた。
ところが身体がちくりと反応した。あぁ、あれがいるぞとメガトロンのブレインサーキットに呟いた。
身体が反応するままに視線を向けると自室の扉だった。
まさかな、と思いつつも静かに立ち上がり扉の前に立った。扉に手をそえるとますます
身体が歓喜していくのがわかる。いるのか、そこに。

扉を開けると招いても居ない客がそこに居た。


「…スタースクリーム」
「メ、メガトロンさま…!」


驚きと怯えを全面に押し出しながらスタースクリームは後ずさった。
スタースクリームは未だに顔に擦り傷を作ったままの状態で、視線を廊下に向けては逃げようかと足を動かしている。
その腕を掴んで微かに背の低い参謀を見下ろすと逃げようとしていた参謀は
視線を更に右往左往させた後に腹をくくったように視線を返してきた。

「…その、やっぱこれじゃ落ちつか、なくて…よ」
「…」
「戦闘時や作戦時はこれで我慢できますよ?でも今は別に…一緒に居ても良いでしょうが!」
「…」

掴んだ手首から流れ込んでくるスタースクリーム自身を身体は大歓迎していた。
ブレインサーキットは「追い出してしまえ」と命令を下していたが身体は「招き入れろ」と言ってくる。
手首にあるスタースクリームの代わりはスタースクリーム自身に触れてしまえば本当に小さな物だったことに気付く。

「…入れ」

手首を引っ張るとスタースクリームは硬かった表情をぱっと笑顔にした。
邪魔をするなよと一言言っておけばスタースクリームは「へいへい」と言いながら
寝台にあがってきて体の一部分を触れ合わせながらごろごろと転がった。

もう一度モニターをみると先ほどよりも視界が良好だ。
やはりこいつでなくてはいかんのか、と再認識して仕事を続けた。

「これ、早くとれませんかねぇ」
「似合っているぞ。ペットのようだ」
「…」

むっとした表情をむけるスタースクリームの顔を見てますます猫のようだと思う。
首についた赤い機器はサウンドウェーブが設定したとおりに自分達の損なわれた安定感を
維持する為に仕事を続けているのだろうが手首でなく首についてしまったそれは装飾品に見える。

「ちょっときちぃ…」
「どれ…」

仕事の手を止めて見てやると言うとスタースクリームが寝台から起き上がって身体を寄せてきた。
顎を掴んで上を向かせる。見えやすくなった喉を見れば確かに絞め付けているような後がある。
自分の手首もぴったりとしている。首なら少し苦しいかもしれんなと首を擦りながら思った。

「とれるまで待て」
「あの野郎のせいだ…あいつがろくに説明もしないで」
「お前が聞かなかったのだろう。愚か者」

スタースクリームが壁へと向けていた視線を自分へと向けた。
何か文句でもあるのかと言い返そうとこちらも睨み返すと思いのほか距離が近いことに気付いた。
いや、スタースクリームはいつも通りの表情だ。自分があんな夢を見たせいで近いと誤認しているのか。
スタースクリームの真っ赤な目が視界からそれる事はなかった。

「…メガトロン様?」

まずい。

破壊大帝は硬直していた。
自分のブレインサーキットではなく、他から来る衝動を抑えるのに精一杯だった。
この距離はまずいのだ。スタースクリームよ。さっさと離れろ。
顎に片手をそえて、もう片方の手をスタースクリームの肩に乗せていた。
身体が足りないものを求めてうずき始めている。触れたい。
しかし駄目だ。儂は破壊大帝だ。何を考えている。逃げろ。スタースクリーム。

ふとスタースクリームが動いた。
その表情は無表情というには熱を持った、悦を感じさせる顔だった。

「ス、」
「メガトロン…さま」

スタースクリームの両手が肩に触れ、その距離を更に縮めた。
触れてはならん。とブレインサーキットが鐘を鳴らす。
それでも身体は動かなかった。
スタースクリームの動きを拒むこともできず、唇同士が重なるのをただ黙って迎え入れていた。

スタースクリームの顔にできた傷がどんどん癒されていくのを自分は視界で捕らえた。
重なった唇はそれ以上動くこともなく、もとから繋がっていたもののように触れ合ったままだった。

欲望というのは恐ろしいものである。
ひとつ達成されてしまえば更なる欲が出てくるものだ。
舌を入れてしまえと身体が命令してくる。ブレインサーキットはそれを拒んでいた。

「っ…はな」
「…トロン様…」
「はなっさ、んか!愚か者!何を呆けておるのだ!」

思い切り引き離すとスタースクリームは恍惚とした表情を引っ込めて
ぱっといつも通りの顔に戻った。
暫く硬直した後に首を傾げて「あれ?」と疑問を口に出した。

「…あ?あ、れ。俺…その」
「…」
「……あっ!ち、違う。あれ?なんで」

見る見るうちに顔に熱が溜まっていく。
スタースクリームの手が震えだして立ち上がるとそのまま頭から床に落ちた。

「な、何をしておる…」

鈍い音がして受身も取らなかったのがわかる。
寝台から床に落ちた部下に手を伸ばすとその手を振り払われた。

「さ、触んな!」
「…なに」
「違う!おれ、俺じゃない!あんたが…!」

スタースクリームは飛び起きてそのまま数歩下がると逃げるように飛び出していった。
追いかけようとした。しかしそれはしなかった。追いかける必要などないと思ったのか
追いかけてもどうしようもないのを理解していたのか。

『俺じゃない!』

あぁ、お前ではないわスタースクリーム。多分、儂のせいだろう。
首、肩と色々な所に触れ合いシンクロ率を高めている最中に「口に触れたい」と思ってしまった。
スタースクリームにそれが伝わってしまったのだろう。自分よりも自制心が足りないスタースクリームだ。
行動に出てしまってもおかしくない。今は混乱していて何故自分がこんな行動に出たかわかっていないだろう。
しかしすぐに気付く。あやつも馬鹿ではない。


「愚か者め…!」


自分にでもなく、スタースクリームにでもなく呻くように言い放った言葉はどこにも吸い込まれず消えていった。











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ほぼメガスタになった元メガ+スタ。

スタスク視点
読んでも読まなくても大丈夫ですが読むと次のスタスクの心境の変化がわかりやすかったりそうでもなかったり。