スタースクリームを暫く見ていないなと思ったと同時にごとん。と鈍い音がした。 メガトロンは音がした床を見ると自分が腕につけていた輪が取れていた。 「…む」 拾い上げてそれをみるとサウンドウェーブ製のシンクロ率安定機器は何の効果も発揮しない ただの重しになっていた。黙ってそれを見つめ続けるとやってくる寒気。 「…あいつが、必要か」 最後にわかれたときのあいつの表情を思い出すと会う気が失せた。 * あいつと離れてきっかり1日ではずれてしまった機器を手に持ったままメガトロンは スタースクリームを探していた。 昨夜の行動を恥じてかスタースクリームは意地でもこちらには出向かなかった。 しかしこちらも外れたということはあちらもはずれているはずだ。 寒気に身体を擦りながらメインルームへと向かう。 どうせあいつのことだから我慢できずにやってくるはずだ。ところがそれははずれた。 やってこない。 メインルームにつくとサウンドウェーブが先に仕事をしていた。 振り返ったサウンドウェーブが暫くそのままこちらを見つめていた。 こういうときは何か言いたいことがあるんだろう。 「どうした。何かあったか」 「スタースクリームなら基地内の冷蔵室だ」 「何故そんなところにいる…」 「俺が命令した。冷蔵室内のエネルギー貯蔵量を調べてもらっている」 「そうか」 何故サウンドウェーブは頼んでもいないのにそんなこといってきたのだ? 「メガトロン」 「なんだ」 もう一度サウンドウェーブを見た。 サウンドウェーブはこちらを先ほど同様の目で見ていた。 「そろそろその機器の中に入っているスタースクリームのパルスが切れる」 「あぁ。きれたぞ」 はずれた安定機器を掲げるとサウンドウェーブは頷いた。 「パルスの補充を」 「スタースクリームが戻ってきてからでも構わん」 「貯蔵量は膨大だ。夜まで戻らない」 「なら耐えられないスタースクリームからやってくるだろう」 「冷蔵室の温度は低い。多分スタースクリームにとって丁度良いくらいだ」 「…」 目の前の情報参謀を見た。 なにか、しっているのか? 嫌にスタースクリームの元へ行くことを進めてくる。 しかし、それに乗るのも良いだろう。できたらスタースクリームと2体だけで話し合いたい。 「メガトロン」 「なんだ…」 本日3度目となるサウンドウェーブの視線。 何が言いたい。まさかあれを、スタースクリームがあの出来事をいってしまったのではないだろうな。 「スタースクリームは気にしていないようだ」 「…あの馬鹿者…」 「それは一時的に身体が反射し動いてるだけ。感情はそれに伴わない」 「…わかっておるわ」 「わかっていたか。流石メガトロンだ」 背を向けてそれだけだとばかりにカタカタと仕事を続ける参謀に今度はこちらから言ってやりたい。 どこまで聞いたのか。儂から触れて、見つめられ、キスをスタースクリームがした。 それを全て聞いていればこの参謀は気付くだろう。 メガトロンが「キス」を望んだからスタースクリームはシンクロして触れることを望んでしまったと。 その背中を眺めてから背を向ける。 「ここを頼むぞ」 「了解」 全てはこいつにではなくスタースクリームに問いかければ良い。 大帝は寒さで渋る歩みを進めた。 * 「スタースクリーム!」 冷蔵室の扉を開けると足元を駆け抜けて行った冷気に身体がぶるりと震えた。 普段ならなんともない温度であろうが今の自分にはまるで攻撃のようだ。 あまり奥には入らず大声で名を呼んだ。 「はいー?」 「…」 なんと気の抜けた声か。 悩んでいた自分が愚かだと言うのか。 「なんです?」 「…機器内にパルスを流し込め」 「あぁ、俺も取れましたよ。ほら」 キャノピーからほらっと輪をだすそれは昨日まで首についていたものだ。 にしても明るい。昨日のうろたえ逃げるスタースクリームはどこへ行ったのだ… 「…スタースクリーム」 「はい?」 「昨日のことはいいのか」 スタースクリームが一度だけぎくっと強張ったが「はん」っと鼻で笑うと 両手で呆れたようなポーズをとって笑った。 「あれは突発性の事故みたいなもんでしょう」 「…」 「足りないのを急遽補おうとする本能です」 「そうだな」 「ならあれは事故です。くしゃみや咳みたいなもんです」 「…」 呆れる。 一体何があったらそんな結論にたどり着けるのだろうか。 どうぞと渡されたサウンドウェーブ製の機器を受け取りパルスを流し込む。 少し、自分の中で苛立った感情があった。 スタースクリームが銀の機器にパルスを入れ終わり渡してくるのを受け取って 逆に赤い機器を渡し返す。いや、装着してやった。 「うぎっ!」 「変な声を出すな」 「ちょ、ちょっと!折角…!」 首を押さえつけてその機器を昨日と同じ場所につけてやった。 首をぎゅうと押さえつけた機器は形状を整えていきまたそこで静かに収まった。 「何するんで!」 「このほうが似合っておるぞ」 微かに笑ってやるとスタースクリームは赤い目を睨みつけてきた。 自分は自分で腕に白銀の機器を取り付ける。やはり偽者であってもあるとないでは違うなと納得する。 一度スタースクリームに視線をやるとすぐに背を向けた。 「スタースクリーム」 「あぁ!もうなんですか!」 苛立ちを含む声を吐きながらスタースクリームは怒鳴った。 あぁ、落ち着きのない愚かな参謀め。 「あまりパルスを流し込んでおらんから」 「は?」 「多分夜には切れるぞ。だから夜、儂の部屋にこい」 スタースクリームはきょとんとした後に 「まぁ、夜には取れるのなら」と、首にある赤い機器を撫で擦った。 そこではない。スタースクリーム。気付かんか? 儂も、気付きたくない事実だがお前を長い間視界から排除しておきたくないのだ。 大丈夫だとは思うがこうでもしないとこいつはもう二度と自室へやってこないのではと思った。 この安定機器があれば同室で寝なくても大丈夫だと言われる気がしたのだ。 だから、わざと来なくてはならないようにした。 今日、儂はこいつに触れるだろう。 それでもお前はこれが「くしゃみや咳の類」と一緒にできるのか? 儂がお前を押し倒し、蹂躙しても、ただと反射だと、生理的本能だといえるのか。 またデータを見ながら冷蔵室内を飛び回るスタースクリームをもう一度視界に納めて メガトロンは夜になるまではこの「偽者」で我慢すると白銀の機器を一噛みした。 * 夜になり部屋に訪れたスタースクリームは普段どおりだった。 ぼんやりしたりへらへらしたりするだけで緊張する面持ちはない。 普段どおりではないのはむしろ自分だ。 できる限り、できることならあの夢を現実にはしたくない。 しかしブレインサーキットが拒んでも、身体は触れたいと望み動く。 スタースクリームを我慢のできない愚か者と罵ったのは最近だ。 自分もだ。似たようなものなのだ。 我慢できそうにない。 「スタースクリーム」 「はい?」 スタースクリームはエネルゴン菓子を口に入れながら振り返った。 ここは儂の部屋で、儂の寝台の上である。 まったくなんと意地の汚いやつだ。と罵りたくなるのを耐える。 スタースクリームは菓子を口に放りつつもその手にはセイバートロン星の書物をデータ化したものを 小さい簡易モニターに送って眺めていたようだった。 「少しこちらにこい」 「寒いんで?」 大きい寝台で自分は枕元でカノン砲を外していた。 磨き終えたそれを身近な台に乗せると自分の足のほうへ顔を向けていたスタースクリームが起き上がってこちらを見た。 一応先ほどから互いの脚と腕を絡めていたのだがスタースクリームは面積が足りないのかとこちらを見てくる。 一部分だけでも十分事足りているのだが触れる面積が大きければ大きいほど互いには良い。 「あぁ。それと、少し実験したいことがある」 「はぁ?」 「お前は菓子でも食ってろ。儂一人でやる」 引き寄せて自分の膝の上に乗せる。 スタースクリームはいつも望んでいる、メガトロンを見下ろすことのできる場所に 招き入れられて驚いたと同時に優越感をも得ているようだった。 「…まじで菓子食いますよ」 「好きにしろ」 自分はアイセンサーを薄く閉じて集中していた。 スタースクリームがまたぱくぱくと食べ始めたが無視をする。 メガトロンはスタースクリームが立てる飲食音を意識外へ追い出すと 触れている部分に意識を集中させて暖かさを放つスタースクリームの装甲を脳内で想像した。 ゆったりと、冷静に頭の中でスタースクリームに触れる。 現実にはしないだろう行動。 スタースクリームの腕を撫で擦り、その両手をスタースクリームの頬にあつめる。 唇を自分のそれでふさいで、口内をも蹂躙して、スタースクリームが自分に腕を回す。 それを待っていたように顎から首元に手を滑らせて、キャノピーを伝って、指先を。下へ。 「ふっ…」 スタースクリームの声で意識が戻ってくる。 自分は今の今まで、時間で言えばたかだか数分。ある妄想にふけっていただけだ。 スタースクリームに触れるイメージ。そしてそのイメージを触れている装甲を通して スタースクリームの脳内に、体中に送りつけるようにイメージした。 本当に触れたわけでもなく、コネクタとレセプタを通してパルスを流し合ったわけでもない。 ただの自分の妄想に過ぎないのだが、それから発生する内容はそれではすまない。 細くしていたアイセンサーをスタースクリームに向けてみた。 「…な、なに…?」 「どうした?」 スタースクリームは持っていた菓子を震える手で寝台脇に置いた。 立ち退こうと起き上がりかけるスタースクリームの腕を掴むとスタースクリームは「ひっ」と息を呑んだ。 「どうしたスタースクリーム」 「か…身体が…!」 スタースクリームは見るからにおかしくなっていた。 はぁっと荒い息をはいて酷く焦っている。はたから見れば興奮しているようにも見える。 いや、興奮しているんだろう。そうしたのだ。 暑そうに顔を上気させて吐息を漏らすスタースクリームは少しばかり夢で見たこいつに似てる。 「スタースクリーム。暑いのか?もっと寄れ」 「い、いやだ…!ち、がう!」 逃げようとする腕を逃さず名を呼ぶとスタースクリームは慌てた。 先ほど自分の考えた妄想。それを接触した上でスタースクリームに送りつけるようにイメージする。 そうすればこうなるだろうと思っていた。自分に感化されてスタースクリームは痴態を晒すだろう。 スタースクリームのブレインサーキットでは身体に触れられているのだ。実際に触れていなくても その感覚だけは拭えないだろう。 「どうかしたのか?具合が悪そうだ」 「…う、そだ!うそだ…」 肩を擦ってやるとスタースクリームは大人しくなった。 大人しくなった、というよりもブレインサーキットが身体の欲に負け始めているのだ。 もう一度脳内でスタースクリームの唇に触れるイメージをする。 スタースクリームはそれを接触している体の部位からシンクロして感化されると 昨日同様、唇を近づけてきた。 「や…!」 「なにをしているのだ。スタースクリーム」 そしらぬフリをする。顔を近づけてきたスタースクリームが 何をしたいのかわからないとでも言いそうな表情を作って首を傾げてみせた。 嫌だっと小さく零して頭を抱えている。 しかし身体は自由に動かないだろう、互いが必要だとブレインサーキットが判断を下している。 スタースクリームは拒むように、嫌いなものにキスをするように同じ形をした部位をくっつけた。 稚拙ながら舌を絡めてくるスタースクリームを薄めで見つめるとスタースクリームは泣きそうになっていた。 「なにをするのだ…お前は」 「ちが、…違う…」 そう言いながらスタースクリームが舌で首筋をなめてくる。 そのまま顎にキスをしてメガトロンの胸元に頬を擦り付ける。 「お、押し返して…!撃っても良い…!」 「儂が大事な部下を撃てる筈なかろう…」 「…っ!」 スタースクリームが目を見開いた。 メガトロンが笑っていたからだ。 「撃てる筈ない」などというあからさまな嘘もスタースクリームを狼狽させていた現実から 冷静になるきっかけを与える要因になっていた。 スタースクリームは冷却液を溜めたアイセンサーに睨んだ。 紅潮した頬ともれる吐息を懸命に殺しながら言葉を放つ。 「あんた…!なにしやがった…!」 「儂が何かしたとでも?」 「てめぇが…!」 威勢の良いスタースクリームを見てメガトロンは夢を思い出していた。 自分にコネクタを挿しこまれ、喘ぎ悶えるスタースクリーム。 見れないものだと、夢であってスタースクリームにあんな表情はできないと思っていた。 『…あんたが、 きだ』 夢である。わかっている。しかし言わせてみたくなるものだ。 「ぅぁ…っ」 スタースクリームが小さく悲鳴を上げる。 仰け反って自分に入り込んでくるメガトロンの意識を抵抗できるまでもなく 受け入れるとそれを自分の意思のように行動で表し始めた。 悲鳴の原因はメガトロンの脚にあった。 スタースクリームが自ら僅かに足を広げてメガトロンの膝の上に乗せている赤い下腹部のパーツを わざとらしく、痴女が男を誘うようにすりすりと下半身を擦り付けた。 「っ…!」 「…みっともないぞスタースクリーム」 「メガトロン…っ!」 スタースクリームは軽蔑するような目で自分を見下ろした。 何をそんなにうろたえるのか。 「あんたと俺は…大帝とその副官だぞ!」 「わかっておるが」 「わかってねぇよ!何してんだ!ざけんなっ」 「わかっておる!」 怒鳴り返すとスタースクリームは一瞬怯えを表情に出して固まった。 その唇に指を触れさせてみた。スタースクリームはまるで今にも発射できるカノン砲を 突きつけられているのではと思うほど震え上がり、人間の歯に当たる部分をカチカチと震わせた。 「…わかって、ねぇよ…!」 「何故、そう思う」 「デストロンだぞ…あんたは破壊大帝だ…俺は…あんたをいつも裏切っ」 うるさいとばかりに指3本で口を押さえた。 まだ怯えた様子のスタースクリームは震えながらメガトロンの顔を見つめ返していた。 首の後ろへもう片方の手を回して引き寄せるとスタースクリームは思いのほか力なくしなだれ寄りかかってきた。 自分の胸に落ち着いたスタースクリームの聴覚に唇をあてると小さい悲鳴が聞こえた。 「…お、れをどうするつもりだよ…!」 「何もせん」 「…うそだ…」 「せん。何もな」 そのまま抱き込んだ。自分の身体の上にスタースクリームを乗せて後頭部を押さえつける。 今までで、一番触れ合っている面積が大きい気がする。暖かいスタースクリーム。 「っ…ふ…」 「…どうした」 「なんでも、ない!」 「暑いのか?」 「…丁度良い…」 スタースクリームがぼそぼそと喋った。 最後の言葉に微かな笑みがでた。そのまま目前にある額に唇をあてた。 「ぅわ…!」 「待て」 逃れようとしたスタースクリームの後頭部を押さえて逃さない。 スタースクリームの額を音を立てて吸い、ゆっくりと放してスタースクリームの目を見た。 信じられないと言う視線にわざとらしく悲しげな視線を返して見る。 「いやか?」 「……俺らは、だって…!」 たじろぐスタースクリームにできる限り微笑んだ。 「立場が気になるのかスタースクリーム。ならば儂のせいにすればいい」 「…え?」 「儂はお前に触れたい」 スタースクリームの目が見開いた。ゆれるようなアイセンサーを見て それを落ち着かせるように頬を親指で撫でる。 「これは身体の不安定化が原因だろう。それはサウンドウェーブがどうにかしてくれる」 「……サウンドウェーブ、が」 「そうだ。だからそれまでは好きにさせろ」 「…あんた、の?」 「あぁ。スタースクリーム。破壊大帝に命令されたからお前は従わなくてはならなかった」 それでいいだろう。立場が気になるのならそれを利用して 自分は悪くないと儂に責任を転嫁したらいい。 いつもしてるではないか。 「あっ、まって」 「顔をあげろ。命令だ」 唇に触れようとすると下を向き、あまつさえ触れられるのを逃れるように 胸元に顔を押し付けて意地でも顔を向けないスタースクリームに命令を下す。 背中でぷるぷる震える羽を数度撫でて落ち着かせるフリをしながら またスタースクリームに自分たちがキスをするイメージを送り込む。 よろよろと、ゆっくりとスタースクリームは顔をあげた。 待ってたとばかりに笑いかける。 スタースクリームは頬が紅潮して赤くなっていた。 何がデストロンだ。デストロンならデストロンらしく凛とせんか。 唇をゆっくりとした動きでふさいだ。 互いに確かめ合うように舌を触れさせて顔の角度を何度も変えながら深く絡むように動きあった。 スタースクリームが耐えられなくなってきて震え始める。 背中に手を回してより深く舌を絡めると口同士が僅かに離れるその隙間からスタースクリームは悲鳴を上げた。 「っ…っ…ま、って」 「…」 「メガト、…ぅん」 互いに夢中になる。その雰囲気を壊すようにパキっと音がした。 舌の動きを止めて薄く唇を離す。スタースクリームも恍惚とした表情を隠そうともしないで ぼうっと視線を移ろわせていた。音の原因は近いところだった。 2体同時に音がしたものをみる。それは首から落ちてメガトロンとスタースクリームの間にいた。 「…あ」 「…機器の中のパルス切れ。だな」 パルスが夜切れるようにしておいたのは覚えていたが今取れるとは。と メガトロンはそれを胸元から拾い上げた。 赤く光沢を放つそれをスタースクリームと一緒に眺めつつも右手にもったそれを 先ほどカノン砲を置いた台へと移動させる。 スタースクリームはその動きを全て見て最後にメガトロンをみた。 「…?」 「朝方、パルスはいれておいてやる…今は儂がおるだろう」 「……あんたは…」 「…もう、寝るとするぞ」 「…はい」 スタースクリームは視線をそらした。 自分の上からどこうとするスタースクリームの腕を強く掴んで引き戻す。 「離れるな」 「っ…」 「…この呪いのようなものが解ければすぐにでも解放してやる。約束しよう」 すっかり静かになってしまったスタースクリームを撫でながら言ってやる。 「それまでだ。お前は儂のものだ。儂も、お前のものだ」 「…うる、せぇよ」 スタースクリームのスパークがばくばく音を立てているのに気がついていた。 メガトロンはそれを指摘しなかった。ただその音も自分を楽しませるひとつだった。 →