ガタンと音がした。
立ち上がって物音を確かめに行く。

しゅっと音がして扉がスライドするとサウンドウェーブは下をみた。


「スタースクリーム」
「…っ、サウンド、ウェーブ…」


床を這うようにスタースクリームはうなだれていた。
首を微かに傾げるとスタースクリームは顔をくしゃっとゆがめた。

「俺おかしくなっちまった…!」
「…は?」

 

 

 

 


エネルゴンを与えて寝台に座らせるとスタースクリームは俯きつつも息を吐いていた。
その正面に立ってスタースクリームを眺めていると普段どおりの表情が帰ってきた。


「……わり…」
「構わない」
「…」

首にある赤い機器を撫でてスタースクリームはもう一度ため息を吐くと
意を決したようにこちらを見上げてきた。

「まだ、できあがんねぇの?」
「サイバトロンが暗号化している機器だ。解読に時間がかかる」
「…頭おかしくなりそうなんだ!早くしてくれよ!」
「…何があった」

スタースクリームは黙った。
視線を手元のエネルゴンに落とすと小さく口を開いた。

「…メガトロン」
「あぁ」
「メガトロン、と」
「あぁ」
「…キスしちまった…」

サウンドウェーブは黙っていた。
スタースクリームも黙っていた。
どちらも相手が話すのを待っていたのだが口を開いたのはサウンドウェーブだった。
スタースクリームはサウンドウェーブが驚くと思っていたがそうではなかった。

「そうか」
「そうか…って」
「そんなこともある」
「……はぁ?」
「シンクロ率を高める為、身体が身体を守るために行う防衛行為だ」
「…?」

スタースクリームが首をかしげた。
サウンドウェーブは混乱しているスタースクリームにわかるように
語句を慎重に選び、普段よりも丁寧に話そうと心がける。
今のスタースクリームは巣から落ちた雛鳥のようだ。これ以上混乱させ荒らす必要もない。
安堵を与えるのが今の自分の仕事だ。

「どういう状況下はわからない。が、そうなることもあるだろう」
「…どういう意味だよ…」
「身体が損なわれている部分の修復をするためにメガトロンを摂取しようとしたまで」
「…」
「ブレインサーキットを通さず身体が反射で起きたのならお前の意思は関係しない」

わかっただろうかとスタースクリームを見つめると
当の本人はぽかんと口を開いたままだった。
目を細めて自分の言った言葉をスタースクリームなりに分解しわかるように再構成しているのだろう。

「つまり、俺がおかしいんじゃなくて」
「お前の身体が生存本能を露にしたまで」
「…本当かそれ…」
「お前はメガトロンにキスをしたいのか」
「まさか!!」
「それが答えだ。身体の調子が元に戻ればそんな異常行動はすぐに収まる」
「本当だな!本当なんだな!」
「あぁ」

スタースクリームは立ち上がった。
立ち直りの速い奴だと見つめるとスタースクリームはぐっと手に持っていたエネルゴンを
口に運び全て飲み干した。

「わかった」
「そうか」
「あぁ。じゃ、それ、メガトロンにもそれとなく説明してくれよ…」
「それとなく?」
「俺が言ってくれって言ったんじゃなくて、よ。こんなこともあるかも…って感じで」
「……了解した」

スタースクリームが自分の動揺するさまをメガトロンに知られたくなくてこんなことを言ったのを
サウンドウェーブは気付いていた。
しかし了解したと言ってもサウンドウェーブはどうでもよかった。

メガトロンには説明しなくても理解しているはずだ。
スタースクリームはメガトロンを好意を抱いていない。主君として少なからず崇めてはいても
恋愛対象としての好意を抱いてはいないだろう。ならば何故そんな行動に走ったのか。

サウンドウェーブは「頼むぞ!」といつもの調子を取り戻しつつあるスタースクリームを見ずに「あぁ」と返事を返した。