「まだ、眠くねぇだろ?」 「…あぁ」 スタースクリームがそう答えると廊下を歩きながら行われていた会話は一度途切れ アストロトレインはゆっくりと振り返った。 しっかりと握られていた腕をびくっと震わせるとスタースクリームは 自分より少しばかり大きいアストロトレインの顔を見上げた。 「ア、アストロトレイン?」 「…」 アストロトレインがいつになく機嫌の良い笑みを浮かべる。 スタースクリームにはそれが普段の余裕を見せるために作った笑みとは別物だと わかった。 無言だが強制するようではなく、ゆっくり力のこもらない手で顎を掴むと スタースクリームは少しだけアイセンサーを細めた。 目尻にアストロトレインの唇があたる。軽く押し返しても何度も何度も 確かめるように頬、鼻先、顔中に唇を押し付けてきた。 「な、なんだよ…っ」 「…やっと、だなぁ」 言葉の意味はすぐにわかった。 スタースクリーム自身、「やっとだな」と思う。 特に考えたことはなかったがあれから幾月も過ぎ去り、それでも自分たちは ちゃんと言葉を交わしたこともなければ身体に触れ合う機会もなかった。 今日までアストロトレインは相変わらず部屋に侵入してきていたが 本人も前に言っていたように「無理やり」はそこまで趣味ではないらしい。 毎夜手を握り、名を呼んで帰り際に少しだけキスをするだけの仲で 「いつかヤろう」だなんて適当な会話をした。 だからこそアストロトレインは「やっと」と言ったのだ。 スタースクリームは口を噤むと顔を大幅にそらした。 「もっと触れさせろよ」 「廊下だ」 「…誰もきやしねぇ」 「って言うか抜け出したのバれるんじゃねぇか?」 「ばれたらまずいかよ?」 さらりと言ってのけたアストロトレインにスタースクリームは言葉がなかった。 ばれたらまずいに決まってる。いや、別にスカイワープやサンダークラッカーと だってやることやってるし、それをメガトロンも知ってるはずだ。 デストロンには特別相手を決めて抱くような奴はいない。 だからスタースクリームとアストロトレインがヤッたらしいぜ。なんて噂が流れても 誰しも「へぇ」と一言で流してくれるだろう。 だから、まずくはない、んだろうがじゃあヤろうぜ!と言う気分じゃなかった。 顔をそらしたまま黙り込むと腕をまた引っ張られた。 「あっ」と小さく声を漏らすとアストロトレインは廊下を再度歩き始める。 先ほどよりも少しばかり乱暴に、脚幅も広く歩かれるとスタースクリームの足は 縺れそうになった。 怒ったのだろうかと後ろからその背中に「おい」と数度声をかけると 歩きながら小さい声で「俺は別に構わねぇんだけど」と呟いた。 別に周りにアストロトレインとのことがばれたって構わない。俺だって構わねぇんだ。 ただ、少し躊躇われるのは何故だ。憶測でしかねぇけど理由はいくつかある。 他の連中に馬鹿にされるかもしんねぇから。 アストロトレインが俺に飽きるかもしれねぇから。 俺が本気でこいつが好きかもしんねぇから。 2つ目と3つ目は、意味は似たようなもんか。 「アストロトレイン」 「んー?」 「…お前、俺のことどう思ってんだ?」 「なんで」 「…なんでって」 返答はこざっぱりしたもんで、アストロトレインはやりてぇだけなのかもしんねぇな。と スタースクリームはその後続く道のりをずっと黙った。 最初からこいつは俺を抱いてみたいってのが目的だったし当たり前な話だけど 一度抱いたらもう夜俺の部屋に侵入することなんてなくなるだろうし もしかしたら次はスカイワープだとか、サンダークラッカーを 抱きたがるかもしんねぇ。それはこいつの自由だ。 ただ、こいつが夜俺の寝室にこなくなったら俺はどうなるんだ? その疑問を紫色の大きな背中に投げかけようかと思ったがそれはよした。 俺がこいつの立場なら、その質問はうざったいだけだ。 * アストロトレインは強くスタースクリームの腕を握った。 自分の口より「はぁっ」と堪えきれない吐息が漏れる。 やべっとその息を飲み込み、冷静になろうと努力する。 さっきから自分は興奮しっぱなしだ。やっと、この日が来た。 懸命に自分の興奮した息を殺して、ただスタースクリームをつれて歩く。 腕を何度も掴みなおし、少し強めに引っ張り歩きながらも スタースクリームの顔を覗くとスタースクリームは自分の吐息に 気付いていないのか俯いたままだった。 『俺のことどう思ってるんだ?』 そんなの聞かなくてもわかるだろうがよ。 面倒臭がりの俺がこうしてデストロンのために働いて時間作ったんだぞ? もう1年位前から「やりてぇ」って言ってるんだ。聞かなくてもわかるだろうが。 強く引っ張るとスタースクリームから慌てた声が漏れた。 「い、いてぇよ」 「悪い」 「強く引っ張んなって…」 「悪い」 「…アストロトレイン」 「わかってんよ」 スタースクリームが黙った。 悪いとは思ってるけどよ、ちょっと今は無理だ。 本当はもっと普通に、冷静に、こいつをエスコートしてやりたいが 落ち着けるわけがねぇよ。やっと触れる。ただやりてぇってわけじゃなくて ちゃんとスタースクリームだからだって理由もついてくる。 この1年、他の誰にも手をださなかった。スタースクリームだけに ちょっかいを出してきた。 それは最初こそスタースクリームを抱くまでは他の奴に ちょっかい出すのはやめとくかって簡単な理由だったが今となっては こいつ以外を抱く気になれない。多分それは抱いた後もかわらねぇ。 「お前の部屋で良いよな」 「あ、あぁ…」 「俺の部屋、ブリッツと一緒だからよ」 「…あぁ、そうだな」 トリプルチェンジャー用の基地ってのがある。 コンバットロンにはコンバットロンの。ビルドロンにはビルドロンの。 スタントロンにもあるらしいしな。デストロンの本部は海底基地だが そこから数百キロ離れてる自分たちの基地にはちゃんと自分だけの部屋ってのもある。 しかしそこまで行くつもりはねぇ。 スタースクリームの部屋の前についてパスワードを入力する。 スタースクリームがそれを背後で見ているがパスを打ち込み、扉の鍵解除の音を 聞いた。再度腕を掴みなおして中に入るとすぐに扉を閉めて鍵をかけた。 スタースクリームが不安げにその一連の動作を見てからこちらを見てくる。 その動作ですら愛嬌があるように見えるんだから、もう自分はこいつに 惚れてるんだろうな。 目が合った瞬間、スタースクリームを今閉めたばかりの扉に押し付けて その口を塞いだ。 「んっ」 「…もっと、舌だせよ」 「…っ」 軽く胸を押し返される。なんで首に腕回してこねぇんだよ。 こんな状況だ、もっと甘えてくれて良い。むしろ甘えて欲しい。 こいつの性格考えりゃ無理な話だけど拒否するこたねぇだろう。 腕を掴んで自分の首の後ろに回させるとスタースクリームは少し吐息を吐いて ゆっくりだが自分で首にしがみ付いた。 互いに興奮してるのは触れた装甲の更に奥にあるスパークの音でわかる。 いつも以上に舌を絡めるとスタースクリームの顎を互いのオイルが 混ざり合ったものが垂れた。 それを舌で追って顎を舐めるとスタースクリームの口から震えた喘ぎが聞けた。 「…寝台行くぞ」 「…」 一度頷かれ、嬉しくなった。 普段なら「眠い」とか「忙しい」とか言って取り合ってくれねぇ。 顔を押しのけられて「帰れ」と言われてそこでおしまいだ。 扉に押さえつけていた腕からすり抜けてスタースクリームが寝台に行こうと するのを止めると腰に手を回して驚くスタースクリームに構わず肩に担いだ。 そのままアストロトレインの足で寝台に向かうとスタースクリームは照れてるんだか 何なんだか口数が減ったままで室内には無言が訪れる。 しかしもぞもぞと動くとやはり羞恥に耐え切れなかったのか スタースクリームが口を開いた。 「ちょ、おい…っ」 「なんだよ」 「自分で行く!」 「あぁ、そうだな」 スタースクリームの言葉もちゃんと聞いているが返答は適当だ。 良いんだよ。俺がつれていきてぇんだ。 それを直接スタースクリームに言うのは流石に変態だと思われそうなので遠慮した。 「よいしょ…っと」 「うあっ!な、なにすんだ!」 寝台に下ろしてそのスタースクリームの腰の上に座る。 スタースクリームが見てわかるほど怯えてる。そんなに俺は乱暴に見えるのかよ。 「ま、まって」 拒むように伸ばしてくる指に自分の指を絡ませて強く握った。 そのまま手ごと寝台に押し付けて縫いとめると慌てるスタースクリームの口を もう一度塞ぎ今度は荒らすようではなく、ゆっくりとその口内を食んだ。 初めてでもないくせに少しアイセンサーを水っぽくさせて 吐息の荒いスタースクリームの反応を見て楽しんだ。 子犬が鳴くような小さい喘ぎに身体がぞくりとする。 コイツを今から好きに出来るんだ。その許可と権利が俺にはある。 「やべぇ…堪んねぇな…」 「…ア、アス…」 「覚えてるか?1年前によ」 「うん?」 「…お前の、『航空参謀殿の望むがままに』って言ってやったろ」 「…そんなこと良く覚えてるな…」 「何、してほしい?何でもやってやるよ」 何度も額に口付けるとスタースクリームが「なんでも?」と尋ねてきた。 「あぁ」と言い返す。スタースクリームは暫く黙って考えるようなそぶりをしていた。 甘やかして欲しいならやってやるし、激しく抱いてくれって言うならそれも可能だ。 「じゃあ」 スタースクリームを寝台へ押し倒したままアストロトレインは頭を スタースクリームの首筋に押し当てて甘えるように擦り付けると 頭部にスタースクリームの手が触れ押し返してきた。 顔をあげると自分を煽るジェットロンの顔が見えた。 「なんだ?咥えてやろうか?それとも騎乗位が良いとか…」 「馬鹿。んなこと言うか」 「じゃあなんだ」 スタースクリームが顔を叩くように押し返してくる。 いてっと叩かれた部位を撫でるとスタースクリームは仕方なさげに小さく笑い 付け加えるように「して欲しいことだけどよ」と言った。 「俺をその気にさせてくれ」 「…は?」 「今、あんまやる気がなくてよ…」 「はぁ!?お、おまえ…!俺がどれだけ…!」 「だってお前、何かがっつきすぎって言うかよ…!俺の話、全然聞いてくれねぇし…」 「…」 「…」 「…わかった、やってやるよ」 アストロトレインがため息を一つ吐いてスタースクリームの唇をふさごうとすると 本日2度目の顔面への攻撃を食らった。押しのけるようにパシンと顔を叩かれて 顔をしかめる。 「なんだ!」 「やる気でるまで触んな」 「なっ…」 「当然、全身だぞ」 「お前、それでどうやってやる気に…」 「…言葉でだよ」 「…言葉?」 「あぁ、…前までお前は言葉だけで俺を煽れてたぜ…」 「…」 暫く黙って考える。 スタースクリームでなく壁を暫く見つめたままアストロトレインは渋い顔をして 思考をめぐらせた。 言葉だけで煽るってそれはもう直接的な発言をするなり赤面するような 発言をするなりする必要がある。それを考えながらスタースクリームをもう一度見た。 「あのよ」 「ああ?」 「…これ結構、恥ずかしいんだが」 「…っくく…恥ずかしいって…」 「気持ち悪い発言しか思いつかねぇよ」 「例えば?」 もう一度壁をみて考える。 んーと一度唸るとスタースクリームは催促するように「あぁ」と頷いた。 「…お前は最高だぜ…とか」 「ぶはは!」 「んだよ!お前の笑い方可愛くねぇぞ!もっと可愛い声だしやがれ!」 「無理だってんだ。俺様は男なんだからよ」 「てめぇなら関係ねぇだろ」 「…今のは結構良い、その調子で」 一瞬きょとんとした顔をほころばすと小さく笑った。 あ、今の可愛いな。 「可愛い」 「格好いいの間違いだろ、もっと別の」 「…んん…」 前戯が長くなりそうだとアストロトレインは思いつつ 今はスタースクリームのことだけを考えた。 触れそうなほど唇を近づけると笑顔は引っ込み「おい!」と否定的な声を 投げかけられた。 「わかってる」と少しの距離を置いて触れさせず、触れているつもりだけで 鼻先や目元に唇を持っていった。 「早く触りてぇ…んだよこのお預けプレイ…」 「お前がやる気にさせてくれりゃすぐでも始めて良いんだけどなぁ」 「…言ったな」 スタースクリームに不敵な笑みを向けると少し竦んだ表情をみせたが すぐにスタースクリームも笑みを向けてくる。もう色気より勝負みたくなってきた 「てめぇを抱きたくて仕方がねぇよ」 「んん…」 「お前のえろい顔が見たい」 「んー…」 「…スタースクリーム?」 「…」 スタースクリームが少しだけ面白くないような顔をした。 頬に手をやると微かに逃げるような動作をして目を細められる。 スタースクリームのこの表情は大抵嫌なことがあったときの表情だ。 何か嫌な事を言ったか? 「嫌か?」 「…抱かれるのがか?」 「あぁ」 「嫌じゃねぇよ…」 「じゃなんでそんな顔すんだよ…優しくするぜ?」 「…そりゃ、わかってるけどよ」 「…本当に嫌なのか?」 「ち、ちげぇって」 スタースクリームが数度口を開け閉めする。 何か言いたげにこちらを見ては口を閉め、視線をそらし、また何か言おうと口を開く。 それを繰り返すのを見てからアストロトレインは額と額をぶつかるように 顔を近づけてスタースクリームの顔をよく見た。 「いてっ」 「…嫌ならしねぇぞ」 「…アストロトレ」 「しねぇ」 「…し、したい」 「…」 「したいんだけど、よ」 したいと言うのなら何が駄目なんだ。 顔をしかめてスタースクリームの表情を更に覗き込むと 小さく口を開いて「えっと…」と呟き始めた。 「う、うぜぇこと言って良いか?」 「はぁ?」 「お、お前って一度ヤったら…どうすんだ?」 「なにが?」 「ど、どうするタイプだって聞いてんだよ」 「質問の意味がわかんねぇ…」 「もう抱かねぇとか」 「…?」 「飽きちまう、とか」 「何がいいてぇんだよ」 本当は「飽きちまう、とか」の時点で何が言いたいのか気付いたのだが その予想を確実なものとするために、そしてそれがあっていたら是非 スタースクリームの口から聞きたい為に、促した。 「…俺に」 「あぁ」 「…飽きるんじゃねぇのかよ」 スタースクリームが恐怖の意思を露にこちらをみた。 こいつは何を言っているんだ?わからねぇと言うか馬鹿としか言いようがねぇな 「馬鹿じゃねぇのか」 「な」 「俺がいつそんなこと言った」 「てめぇは」 「確かに誰でも抱いてたけどここ1年は誰ともやってねぇだろ」 「…」 「最初は、まぁ、お前を抱くのも興味だったけどよ」 「…」 「今はちげぇぜ。お前以外に興味がないんだよ」 「だ、だから抱いたら終わりだろ!?」 「…信用ねぇなぁ」 スタースクリームが俺に飽きられるのを怖がっているのは良くわかった。 それが凄く嬉しい反面馬鹿な野郎だなと思うところもあるし、可愛いとも思える。 飽きられるのが怖いくらい俺に惚れてくれてるんだろ? あの航空参謀が。光栄じゃねぇか。 「じゃ、抱くのやめるか?」 「…え?」 「抱かれたら飽きられると思ってんなら抱かなきゃいいんだろ?」 「…」 「飽きるつもりはねぇけどよ」 「…」 スタースクリームは驚いていた。 俺の言葉が足りなかったのは確かだ。特別こいつに対して愛情を 表現したことはなかったし何より最初のあれがよくなかったのか? 最初の最初、こいつの部屋に忍び込んで襲うようなことをした。 当然最後までやりゃしなかったけど、確か「俺のほうが強いんだぞ」的な発言をして 襲い掛かったような気がする。 そんなことされれば最終目的は犯すことだと思っても仕方がねぇかもな。 「悪かったよ」 「え?」 「お前さんが好きだぜ。スタースクリーム」 「…」 「言うの遅かった。今日まで一度も言ってなかったわ」 スタースクリームは口をぽかんと開けたまま硬直していた。 そんなに驚くことでもねぇだろうよ。と言いたいがスタースクリームは驚く 内容だったらしい。 自分の頭を一度がりがり掻くと「あー」と間延びした声をだした。 「てめぇは?」 「な、」 「…返事聞かねぇとなぁ」 スタースクリームの両頬を撫でてやる。 呆けた面から段々と頬の熱をあげていくスタースクリームは 俺が何を求めているかわかってるんだろう。 促すように「なぁ」ともう一度訴えかける視線を送ると さっきまでの悲しげな表情はどこへやら、スタースクリームは酷くうろたえた。 「わかってんだろうが…!」 「俺だけに言わせておいて、てめぇ…」 「う、あー…」 スタースクリームが視線を部屋の壁へと走らせてそのまま天井を見る。 自分には極力視線を合わせないように動くのは微かに苛立ちを感じさせたが ここは辛抱だ、と自分の口内を軽く噛んで耐えた。 よろりと覚束ない動きをしながらスタースクリームの腕が伸びた。 一度頬に触れてきて、その手を這わせるように首の後ろへと持ち上げていく。 その間も視線をあわせる気はないようだった。スタースクリームと 一度名前を呼ぶと寝台へ密着していた背中が少しだけ浮いて 圧し掛かる自分への距離が狭まると唇を同じ形がしたそこに押し当ててきた。 微かに仰け反るが唇を数度食む様に甘噛みされ 舌が入り込んでくると自分もスタースクリームの動きを助けるように その後頭部に腕を回して抱き寄せてやった。 「やる気でるまでキスしねぇんじゃなかったか?」 「…くそ…っ」 スタースクリームの脚が自分の脚に触れた。 脚の内側を擦り付けるように絡んだだけだがお互いこういった雰囲気の場数は多い。 少しだけ遠まわしだがお誘いだ。 それを強調するように首に巻きついていた腕の力が強くなる。 「口で言おうぜ」 「…う」 「待っててやるよ」 にやにやと口角が上がるのを押さえられず、自分がにやけているのに気付く。 その顔を見てスタースクリームが羞恥で赤く染まったが それでも自分のこの高揚感を抑えることは出来ないし、むしろ煽られる。 「…やりて…ぇ」 「…」 酷く小さな声だった。 普段なら聞き逃すだろう声を聞き落とさぬように拾い上げて 忘れやすいメモリにしっかりと記憶させた。 一度記憶させたがちゃんと刻み込まれたか心配になる、それほど自分にとって その言葉は大事なものだった。きっと嫌がるだろうとわかっていながら 「もう一度」と言ってみた。 「接続っ…したい…」 「…いいぜ…」 「したい」の部分は先ほどよりも声が小さくなったが 今度もアストロトレインは聞き逃さなかった。 一度頷いて首の後ろに回された腕を解く。 腕を寝台へ下ろさせて楽にしてろと一言告げると酷く緊張した顔を少しだけ和らげた。 それを更に和らげてやろうとスタースクリームの額にキスをした。 スタースクリームが身じろいでまだ赤みをもつ表情を隠そうとする手に舌を這わせた。 「お前、どれくらい接続した?」 「…どれくらいって…」 「年に何回とか、回数的によ」 「はぁ?数えてねぇって…多分…年に30もねぇぞ」 「…嘘だろ?」 「いや、つか…今までの回数全部合わせてもそんな回数ねぇと思うけど…」 スタースクリームが暫く唸って考えるが「覚えてねぇよ」ともう一度 はっきり言葉に出した。 アストロトレインはスタースクリームの顔を覗き込むともう一度「本当に?」と 聞き返して困惑しつつ頷き返すスタースクリームに隠れてにやりと笑った。 はっきり言ってアストロトレインにとってその回数は少なすぎると言える。 むしろ平均以下なのではと思う。 トランスフォーマーに「交歓行為」なんてものは不要であって いままで何千年生きてきて一度も機会がなかったなんて奴も少なくないが アストロトレインからしたらスタースクリームの今告げた回数は少なすぎるのだ。 人間だって決まった相手がいれば週に1度2度はあるだろう。 スタースクリームはそれよりも少ないのだ。 ちょっと悪いことに手を出していたアストロトレインはウーマン型を見かけたら 放っておかなかったし、男しかいないなら別に男で済ませてきた。 今は大分落ち着いたが当時はヤりたくなったら知らない奴でも連れ込んで 無理やりにでも行為を行っていた。つまりは最低だったわけだ。 そのアストロトレインにとってスタースクリームのその言葉は心底嬉しい情報だった。 「ア、アストロトレイン?」 「…そうかそうか。へぇ」 「…なに?どうしたかよ…?」 「いや、なんでも」 ってことは変なプレイなんてやったことないだろう。 どこまでやっても大丈夫だろうか。何まで経験済みだろうか。 心の底から楽しみになってきた。 スタースクリームも自分と同じくらい色々やったことあると思っていたが まさか経験が浅いとは。 俺とヤっても大丈夫か? 正直、今回は我慢できない。 「スタースクリーム…」 「んっ、ん」 ジェットロン特有の顔側面にある聴覚の機能も持つ隙間に指を入れて 曲げたり伸ばしたりしながら弄ると嫌だと身を捩られた。 そんな事をしながらも最後に、もう一度確認を取っておく。 「最後までやって、良いんだな…?」 「た、たりめぇだろ…遠慮すんじゃねぇ」 「…わかった」 アストロトレインは笑った。キャノピーから腹まで数往復撫でてその手を止めると 完璧にスイッチが入った事に気付く。 それは興奮だとか興味だとかそういった話ではない。 普段はへらへら笑いながら手に触れ、少しだけ唇に触れ、眠るスタースクリームを 見るだけだったのが今から自分はデストロン航空参謀スタースクリームを抱くのだと 言う夢想のような現実に自分はしっかりと触れて、浸った。 →