アストロトレインは珍しく集中していた。
本気で戦い、サイバトロンを駆逐することに成功し、メガトロンより褒められた。
全てはある目的のためだ。

「スタースクリーム」

ブリッツウィングがいたら「気持ち悪っ」って言われるような優しい声が
自分よりでた。
振り返ったスタースクリームに「よう」と笑いかけるとスタースクリームは
笑いながら「気持ち悪いぞお前」といってきた。



よる
 


始まりはこんなことだ。
スタースクリームって、案外もてるんじゃねぇのか?
そんな些細な疑問が自分のブレインサーキットに湧いた。
湧いてるのは疑問ではなく自分の阿呆さ加減だとも思うんだが
ある一件からスタースクリームに惹かれているのを自分でも理解しているし
スタースクリームも俺を悪く思っていないようで声をかければニヤリではなく
にこっと笑みを返してくれる。その笑みが結構好きだったりするのも自分だ。

話を戻してあいつがもてるんじゃないかと思った経緯は
ちょっと目で追えばわかる事がある。
例えば、あいつがモニター管理をしていればジェットロンと絡んでへらへらしてて
それだけなら小鳥がちゅんちゅん言って電信柱にでも止まっているようにしか見えないが
そこに新ジェットロンの連中やら、カセットロンとかが来るとすぐスタースクリームに
ちょっかいだしやがるし。ジェットロンの中でもスカイワープはスタースクリームに
ベタベタだ。
もちろんメガトロンだってそうだしよ、なんだかんだでサウンドウェーブも
そうなんじゃとか馬鹿みたいな考えを巡らせてスタースクリームを見ていた。
はっきり言えばあいつに近づく奴全員そういう風に見えちまうだけなんだけど。

スタースクリームは悪いスイッチが入らなければ基本的に人当たりは良いほうだと思う。
もちろんそれはデストロン軍内の話であって、トランスフォーマーとしては悪いほうだ。

スタースクリームはサイバトロンと出会えば悪知恵働かせるし、メガトロンに
怒鳴られたりすればすぐに機嫌を損ねて声をかけても無視するようなやつだ。
それでもやっぱり普段のスタースクリームは外見と実力も見合って必ず周りには
誰かが居る。それに気付いてすぐにアストロトレインは思った。

このままじゃ誰かに取られるな。

スタースクリームと「ヤろうな」って言ってからもう1年は立った気がする。
そのうち半年は惑星探査にでかけてたし、戻ってきてからもスタースクリームは
怪我してみたり、「眠い」だとか「うるせぇ!」だとか、なかなか取り合ってくれる
様子がない。



アストロトレインは現在スタースクリームの専用ラボに来ていた。
アストロトレインの自室の扉よりも2つ分大きい扉が左右に割れスライドすると
微かに鼻をかすめるエネルゴンと薬品の匂い。
更に脚を進めると火薬の匂いや様々な匂いが混じって普段の空気がわからなくなった。
スタースクリームはアイセンサー保護のためにゴーグルをつけていて
名前を呼ぶと「おっ」と小さく声を出して口に笑みをつくりゴーグルをとった。

「スタースクリーム」

もう一度名前を呼ぶとスタースクリームはデストロンに似合わない明るい笑みを浮かべた。
こっちまでつられて頬が緩みかける。

「気持ち悪いぞお前。なんだよその声」
「ひでぇな」

隣に立つと自分より背の低い参謀がゴーグルをくるくる指先で回しながら
今まで弄っていた実験道具にちらりと視線を向けていた。

「何しに来たんだ?」
「別に、ちょっと暇だったからよ。お前は?」
「アーク溶接中。人間どもにはこれする時色々と防具つけなきゃいけねーみたいだけど」

俺にはこれだけで十分だ。とゴーグルを回す指を止めた。
ゴーグルはスタースクリームの指に引っかかったまま大人しくなると
それが新品でなかなか綺麗なものだとわかった。

「ゴーグル必要か?」
「なくてもいいんだけどよ。してねぇと流石に飛行に影響でるからよ。
 アーク光長時間アイセンサーにはきつい」

ゴーグルを机の上に放るとスタースクリームは屈伸をしてこちらをみた。
仕事の合間に少し休憩を挟むような、落ち着いた様子だった。
微かに疲れた様子を見せつつも機嫌が良いのか笑うスタースクリームの頭部に手を置いて
撫でるとスタースクリームは少し驚いた後、にこにことした。あぁ、良いな。それ。

「お前、凄かったらしいじゃねぇか」
「あぁ、サイバトロン撃退?」
「メガトロンが褒めて褒めてうるせぇんだよ。アストロトレインがあーだ、こーだ」
「わりぃなぁ、メガトロン取っちまって」
「別に。俺はここに篭って新兵器つくらねぇといけねーし」

拗ねたように言ったスタースクリームは最近毎日ここにいる。
朝から夜まで。だから最近はスタースクリームの部屋に行ってもいなかったり
いても熟睡してたりしてなかなか会話する余裕がない。

だから、自分は今日頑張ったのだ。

「メガトロンが宴開くってよ」
「へぇ」
「だからお前もあんま、こればっかやってんなよ」

そういってスタースクリームの右手を掴んだ。
青い指が少し黒ずんでいる。長いこと溶接していたのだろうか。
両手でスタースクリームの右手を開くとその手をマッサージするように撫で擦った。
何となく思いついてスタースクリームを背中より抱きしめるようにして抱え込む。
背後よりスタースクリームの顔を覗き込みながらも手へのマッサージも忘れない。

「な、なんだよお前」
「疲れたら宴でねぇだろ」
「いや、でるけどよ…」
「じゃああんま仕事すんな。それに酒飲むなよ」
「あぁ?何?お前なんだよ。出ろって言ったり飲むなって言ったり…」

スタースクリームが顔を天を見上げるように持ち上げるので上からそれを覗き込んだ。
ぶすくれているようで顔を近づけていくと拒否の意を込め反らされた。
ここで機嫌を損ねるわけにはいかない。

「…宴当日と翌日は基本全員自由だろ…」
「あぁ?まぁ、そうだな。大抵酔って次の日使えねぇしなぁ」
「…だから、今日の夜、会おうぜ」
「いつも言わなくても来るじゃねぇか…」
「わかんねぇのか?」

スタースクリームが困惑した表情を向けてきた。
しかしすぐ悟ったように目を見開いた。ついでに口も半開きで驚きを隠せていない。
暫くあわあわとした後にそれを取り繕うように一度咳をして凛とした表情に変えた。

「駄目か?」
「何を思ったんだかしんねーけど。なんだよ」

誘うようにスタースクリームの腕を撫でる。
甘えるように拗ねたその顔に自分の顔を近づけて至近距離で見つめると
スタースクリームの懸命に被った仮面はすぐに取れた。
目が合うと微かに顔を赤くしてとスタースクリームはアストロトレインより反対側に
顔を向けてもう数度咳をした。

「てめぇ何甘えてんだよ…!」
「気分、だなぁ」
「…俺は、興味ねー…っ」

首筋に唇を押し付けるとスタースクリームは黙り込んだ。
スタースクリームは指先を溶接で少し黒ずませ、痛いだろうにその指先を
ぎゅっと強く握りこむと肩をすぼませて目を細めた。
別に初めてでもないだろうにどうしてこんな風に反応するのか。
このいつまでも慣れない雰囲気が好きなんだよなぁと自分だけで内心納得する。

「まだ昼間だぞ…!」
「夜じゃねぇと嫌か?」
「…」

唇を尖らせて身を捩るスタースクリームの頭を撫でた。

「とりあえず、言ったからな」
「お前…!勝手すぎだろ…」

あぁ。わかってる。ただ、もう流石に我慢できねぇわ。
こいつに興奮したわけじゃなく、このままぐだぐだ何もなしに流されていって
そのうちスカイワープあたりとスタースクリームがやっちまうんじゃねぇかと思うと
我慢できないのだ。自分にしては珍しく嫉妬深い。

後ろから頭一つ分以上小さいスタースクリームに圧し掛かりつつ机に放られたゴーグルを
もう一度引き寄せて、スタースクリームのアイセンサーに押しあてた。
驚いたようにスタースクリームは押し当てられるゴーグルに自らも手を当てて
こちらを見てきた。

「まぁ、キリの良いところでやめとけよ」
「あ、ぁ…」
「…」

ゴーグルを自分の手でアイセンサーに装着しなおすのを見ながらその唇を指でなぞった。
スタースクリームはまたきょとんとして何か言おうとする。

「じゃあ、またな」

スタースクリームの唇に同じ形をしたものを軽く触れさせると自分は笑ってラボから出た。


*

 
 
ジェットロンがトレイにエネルゴンを乗せて基地内を歩く。
新、旧あわせて6体が調理している所より宴会場予定地までを何度も往復し様々な
エネルゴンを準備していた。
 
「ほらよ、フレンジー」
「サンダークラッカー!もっとてきぱき働きやがれ!」
「はいはい、わーったよ」
 
会場のセッティングは主にカセットロン。
フレンジーがサンダークラッカーよりトレイに乗せている食材を受け取ると
それを既にテーブルクロスの引かれた机へ盛り付けていく。
コンドルが周囲を飛んで会場全体の均一さや色のバランスを確認しそれを
サウンドウェーブに報告する。
 
こんな大々的にやるのはデストロンの破壊大帝メガトロンが大の祭り好きで
尚且つ変わり者である事。
それとアストロトレインの功績がそれほどまでに大きかったことが理由である。
 
ジェットの音がしてスタースクリームが会場入りした。
変形はせずに足底のジェットだけで飛んでくると器用に両手にもったトレイを
近場の机へと置いた。
 
「お前、飛んできたのか?」
「歩いて移動なんて面倒なことできるか」
「零れんぜ」
「お前と一緒にするなよ。サンダークラッカー」
 
俺様のボディバランスを舐めるなよ。と腰に手をあててサンダークラッカーの前に立つと
はいはいと一言で返されてしまう。
そんな2体に小さいトランスフォーマーが困ったような表情で近づいた。
 
「スタースクリーム。勝手なところに置くなよ〜」
「うるせぇ。どこに置いたって宴始まったらぐっちゃぐちゃだろうが」
「メガトロン様はそうは言わねぇぜ?宴、最初の贅沢は会場コーディネートから」
「阿呆くせぇ」
 
コンドルが頭上を旋回してスタースクリームの持ってきた分をどこに置くかを決めている。
ジャガーがコンドルの一鳴きを聞くと机に置かれたトレイを口で挟み
奥の机まで持っていった。
サウンドウェーブが入り口付近で話すジェットロンに近づくといつもの口調で
声をかけてくる
 
「まだ足りない。早く取りに戻れ」
「はいはいはい」
「だり〜…こう言う時にアストロトレインが使えればなぁ」
 
こういう時、普段はアストロトレインに詰んでしまえば早く済むのだ。
ブリッツウィングでも大丈夫なのだがブリッツウィングの運転は荒い。
それではエネルゴンを零してしまうのでは?とメガトロンの命令で
ジェットロンに往復させている現在だ。
 
「アストロトレインは今回の作戦の功績者、働かせるわけにはいかない」
「わーってら」
「アストロトレイン何やったんだ?」
「エネルゴンの奪取からサイバトロン撃退」
「へぇ」
「メガトロン様が危険に晒された時には援護もしてる」
「あいつが…」
「珍しいな」
 
サンダークラッカーが珍しいと言った瞬間スタースクリームの脳内にちらりと
先ほどの出来事を思いだす。
既に時間は夕刻だが夜には宴が始まるだろう。
夜から明日の朝まで開かれる宴のメインはアストロトインである。
 
『じゃあ、またな』
 
アストロトレインを思い出して少し顔を赤く染めた。
誰にも気付かれずに済んだのはそこへもう一体のジェットが現れたからだろう。
 
一瞬、キンと空間を微かに裂いた様な音がして一点に光が集中すると
そこへどこからともなく黒いジェット機が表れた。
黒いジェットは両手に黒いトレイを持って目をぱちくりさせている。
 
 
「あっ、てめーらさぼってやがるな」
「お前ワープかよ…」
「許可貰ったぜ。メガトロン様に」
「もうお前だけでやったら?その方がはえーって」
「ふざけんない。もう面倒で仕方がねぇってんでい」
 
 
唇を尖らせるスカイワープに2体のジェットロンは笑いかけると
「じゃーまた往復すっか」と元来た道を戻ろうとした。
スカイワープはフレンジーに一度ケツキックを決めてからトレイを渡している。
 
視界の端でバズソーが壁に嘴で幕を貼り付けていくのをスタースクリームは一瞬捉えた。
白基調なその幕をつけることで鉄壁が隠れて堅い印象のなくなる会場を
もう一度見渡して、結婚会場の類を連想させた。
ここまで大げさにやらずとも良いだろうに。なんだかんだでカセットロンも
こういうことが好きなのだ。
 
スタースクリームは自分が破壊大帝になる時はこれ以上のセッティングを
心掛けて欲しいものだ、と誰に言うでもなく一人小さな声でごちた 
 
 
*
  
 
 
2羽のジェットロンが歩み寄ると調理場にはダージがいた。
調理場と言っても本当に包丁やらフライパンやらで作っているわけではない。
どちらかというなら酒樽を貯蔵するように壁一面にエネルゴンの入った樽が設置されている。
樽にはひとつひとつ年号、元のエネルギー名。他にも場所やらなんやら書いてあり 
それをダージがいくつか取り出してボトルに移し変える仕事をしていたのだ。

後ろの方ではビルドロンがそのエネルゴンを固形に作り変え
液状のままではなく食べ物へと形を変えている。
そんなエネルゴンボトルと食べ物をトレイにのせて基地内を歩き回り
会場まで移動するが仕事だ。
 
「後いくつだ?」
「サウンドウェーブはまだ足んないって言ってたぜ」
「あー、俺腹減ったよ」
「早く持っていってくれ。次は高濃度エネルゴンだから絶対零すなよ」
 
ダージがそう言って2羽のジェットロンへ悪そうな笑みを浮かべると
スタースクリームはむっと来たのか指さして罵った。
 
「お前と一緒にすんじゃねぇ!ダージ!しょっぱなからエネルゴンぶちまけやがって!」
「こいつに荷運びは無理だって…」
 
それ故にここにいるのだ。
トレイに乗せたエネルゴンひとつ満足に運べないダージを2体は罵ると
ダージはうっと顔をしかめた。
スタースクリームだけでなくサンダークラッカーまでもが小さく失笑をもらす。 

「ところでさっきから似たようなエネルゴンが多いじゃねぇか。
 もっと色々持って行かなくて良いのか?」
「あぁ、あれはアストロトレインの好きな種類だからよ」
「そうなのか?」
「俺とアストロトレインは結構仲長いんだぜ?間違えるかよ」
 
スタースクリームは初耳のそれを渋い顔で聞いた。
アストロトレインに好きな種類のエネルゴンがあるなど、本人からだって聞いてない。
馬鹿なダージは今も「この間はアストロトレインに助けてもらって貸しがある」など
ぐだぐだ喋り続けている。

別にあいつの好みなど聞きたいと思ったこともないが知らないと
それはそれで苛立つ原因のひとつになった。
ましてやダージがしたり顔で自慢するように語ればますます腹が立つ。
 
「…スタースクリーム何むっとしてんだ?」
「うるせぇ」
 
トレイに用意された高濃度エネルゴンを乱雑にのせていくとラムジェットと
スラストが追いついてきた。
空のトレイを手に、スカイワープを除いたジェットロン5体がそろったわけだ。
ラムジェットが「よう」と近づいてくる。
 
「何やってんだてめぇら」
「うるせぇ。うるせぇ。さっさと運べ」
「?…何いらついてんだこいつ。怒るなよ」
 
ラムジェットがスタースクリームの機嫌を取ろうと近づくが
伸ばした手を振り払われて更に睨まれる。
機嫌が悪いのがわかるとスラストはサンダークラッカーの後ろに隠れた。
サンダークラッカーはスタースクリームの機嫌の悪い理由をほんの少しだけ理解すると
ラムジェットの腕を掴んでこれ以上悪化させないよう引き戻した。
 
「あー、もうわかったから仕事しろお前ら」
 
スタースクリームはさっさとジェットを点火させてそこから出ると
スピードそのままで一滴も零さず基地内を飛び回り、また会場へと向かった。
他のジェットロンは飛ばずに歩いてくるだろうから追いつかれることはないだろう。 

理由など考えず苛立ちから舌打ちをするとその視界にちらりと紫が入り
ジェットの火を弱めて減速するとそれが自分よリ大きい存在で自分の苛立ちに
関係のあるトランスフォーマーだとわかる。
 
「スタースクリーム」
「アストロトレイン…何してんだ」
 
先と変わらずにんまりと笑うアストロトレインをスタースクリームは睨んだ。
その顔を見てアストロトレインが「ん?」と首を傾げて近づいてくる。
 
「何怒ってんだ?」
「怒ってねぇ」
「機嫌悪いじゃねぇか」
「別に」
 
アストロトレインが先ほどのラムジェットのように手を伸ばして機嫌を取りに来る。
振り払いはしなかったが視線を他へ移動させると「怒ってるじゃねぇか」と
アストロトレインはスタースクリームの腰に手を回した。
 
「邪魔すんな。仕事中だ」
「お疲れ様だな」
「お前が居ればすぐ終わる仕事なんだ」
「俺を祝うのに俺を働かせてどうすんだよ」
「…」
 
アストロトレインがスタースクリームの腰に手を回しつつも
辺りを見回して少し道をずれた。
基地内で会場に向かうにはここの廊下を必ず通る。
このままここで腰に手を回していたら他の連中が来るのを悟ったのだ。
 
スタースクリームは引き寄せられてますます顔をしかめたが
別の廊下に移動すると壁に背中を押し付けられて黙っているわけにはいかなくなった。
 
「おい…待てよ…!仕事…」
「少しだよ」
「っ、お前…!」
 
トレイを落としかけてバランスを取り直すとアストロトレインが笑った。
スタースクリームの足の間に膝を入れるとそのまま壁に押し付けて
何をしても床に倒れないように支える。
その動きをスタースクリームは受けると何をされるのかわからず焦った。
 
「待て!零す!」
「零さねぇように集中してろよ」
「夜まで待つんじゃねぇのかよ!」
「…お前が俺のために働くってのが良いよな、滅多にねぇ」
「ああ!?」
「普段、お前ってこういう仕事しねぇじゃねぇか。運搬とか」
 
首筋に噛み付くように唇を触れさせるとスタースクリームはますます焦った。
トレイに乗せられる高濃度のエネルゴンがたぷんと動いて零れかける。
高濃度のエネルゴンだ。零せばどやされると慌てて腕に力を込めると
それを邪魔するかのようにアストロトレインは聴覚機器を舐めてきた。
 
「ひっ!馬鹿!やめろ!」
「馬鹿馬鹿いうなよ。ほら…」
「やめっ…」
 
聴覚機器の隙間に舌を入れてぐりぐりと動かすとその動きに身体が反応する。
目を細めて身を捩れば脇をアストロトレインが撫でる。ぞくりと快感が足にきて
全身震えたがエネルゴンは零れずにいた。
 
「その調子だぜ」
「お前いい加減にしろ!あいつら来ちまうよ!」
「ジェットロン?」
「あぁ…!」
「静かにしてれば大丈夫だって…」
 
ちゃんと道だってそれただろ?と口をアストロトレインが塞いでくる。
互いの口を合わせてちゅっと音を立て、舌同士を味わうように絡めた。
ふと思う、夜以外にアストロトレインとキスしたことはあっただろうか。
毎度自室で、寝台に横になりながらキスをすることはあっても廊下ではなかった。
 
「…あっ」
 
腰にきて身体が崩れかける。
スタースクリームの足の間にあるアストロトレインの膝がそれを助けると
その膝に座るようにスタースクリームは全体重を預けた。
 
「…頼むから機嫌悪くなんなよ」
「…」
「夜なら我侭聞いてやってもいいからよ」
「…我侭ってなんだよ…」
 
スタースクリームの顔をなでて微笑むとスタースクリームはようやく
アストロトレインの顔を正面から見た。
「もう一度機嫌直せよ」 と頼むように言われる。
そこまでして自分の機嫌を良くしたい理由を聞いてみたいもんだ。
暫くアストロトレインの顔を見つめながらもスタースクリームは
内心もやもやと感情を持て余していた。

「…仕事続ける」
「…宴、一緒に飲もうぜ」
「…」
 
一度頷くと機嫌が直ったと思ったアストロトレインは笑った。
「よし」と頭を撫でられて怒るとまでいかないが頬が熱くなる。
こいつは自分を子供か何かと勘違いしてんじゃないだろうか。

「俺はまだ寝室でゆったりしてるからよ」
「あぁ…」
「また後でな」

アストロトレインが背を向けて自分から離れていくのを見つめた後
一息つきながらスタースクリームはその場に立ち尽くしていた。
ちらりとトレイをみると数滴、エネルゴンが零れている。
 
この程度ならばれないだろうと指先で拭って会場へとまた歩んだ。