「スタースクリーム。無理やり飲まされたいのか?」
「……いらねぇ…」

気持ちわりぃ。エネルギーが足りない。補給しねぇと。
でも補給すればこいつが成長する。そんなのはお断りだ…
それにどうせ補給してもこんな不味いエネルギーじゃ戻しちまう。

スタースクリームは未だに拘束具をつけられて、今度は倒れて身体を痛めない様に壁際に繋がれた。
メガトロンは哀れみの目を向けてもってきた高濃度エネルゴンをスタースクリームの補給口に流し込んだ。
口に流し込むと吐き出すので補給口から入れるがそれでも吐き出すことがある。

できることなら自分の手で補給して欲しいが拘束具をはずせば体内のスパークを無理やり引きずり出そうとする。
もう自らのスパークとの結合が強い。無理やり引きずり出せば自分の命も危険に晒すというのに。
ここまで育ってしまったならもう完成するのを待つしかない。完成すれば摘出もできると調べでは出た。

とは言っても戦争が始まってから体内でスパークを育てるものは滅多にいないらしい。
体内でスパークを生成できること自体が稀な存在ではあるが、今の主流となっているのは
やはりオールスパークより命を授かる方が低コストな上に手間も時間もかからない。
スパークの摘出方法も調べておかなくては、それに体調の悪化を防ぐようなエネルゴンに作って…



「メガトロン様」
「ん?」


メガトロンが振り返るとそこにはサウンドウェーブがいた。

「どうした」
「わかったぞ」
「……よし」

立ち上がるとメガトロンはスタースクリームをジェットロンに任せて部屋を出た。


「どうだった?」
「やはりメガトロンの思ったとおりだ」
「……」
「スタースクリームの相手はサイバトロンだ」




*







「今日はデストロンも動きはなさそうだな…」
「スカイファイアー。君は今日は休んでくれ」
「え?でも…」
「君は最近連日で仕事漬けだ。コンボイ司令官も休みをとれと言っていた」


マイスター副官がにっこり笑うのでそれじゃあ休むかなと思ってしまう。
バンブルとスパイクも今日は近くの町まででているらしい。
自分の大きな身体では町にはいけない。市民に理解はあるが
あまりビーグルモードで町の上を飛ぶのも良くないだろう。物騒だ。

急に暇を貰うとどうしたらいいか分からなくなるものだ。
とりあえず、人目のつかないところを飛んでこようか。長く休みが取れるなら宇宙にもでてみたい。
宇宙から見た地球をもう一度見てみたいな。
眠っていたから実感がわかないが地球を宇宙から見たのは1000万年前だ。

ちょっと聞いたら1000万年の間に地球での大気汚染が原因でオゾン層や地球を構成する成分に影響が出ているらしい。
なかなか興味深い。ちょっとだけ宇宙から地球を見てこようか。面白いことが分かるかもしれない。

一人考え事に頭をめぐらせて暫く歩き、人目のつかないところまで来てトランスフォームしようかなと考える。
すぐ行って帰ってくればそんなに時間もかからないだろうし。



「スカイファイアー」
「!?」

空ばかり見ていたので気付かなかった。

「メガトロン!?」

しまった。銃器がない。
体格差を上手く利用すれば勝てるか?しかし融合カノン砲を一発でも食らうわけにはいかない
数歩下がって距離をとる。メガトロンの後ろにはサウンドウェーブだ。
逃げ切れる自信はないが2対1よりは逃げを選んだほうが無難だろう。


「待て。今日は争いに来たわけではない」
「なに?そんな嘘に騙されるわけにはいかない」
「スタースクリームについてだ」

さらに数歩下がったらトランスフォームして飛ぶつもりだったが旧友の名前を聞いて脚を止める。
メガトロンの顔を見ると戦意はなさそうに見える。油断は出来ないが。

「…スタースクリームが…どうかしたのか?」
「…あえばわかるわい」
「基地にいけと言うのか」
「そうだ。スタースクリームにあえ」
「断る」

メガトロンの言葉の意味がわからないが罠の可能性が高い。
確かに最近姿を見ないスタースクリームは気になってはいた。私を罠にはめる為の伏線だったのか?
するとサウンドウェーブが数歩前に出た。


「スタースクリームは現在体調を崩し動けない状態だ」
「なに!?」
「お前に逢いたいと言っている」
「…スタースクリームが…?」
「どうする」


平坦な声で喋る顔色も伺えない参謀。嘘かもしれない。でも本当だったら。
スタースクリームが怪我や病気で動けない。私に逢いたがっているのだ。


「連れて行ってくれ」
「……メガトロン」
「あぁ。歓迎しよう。スカイファイアー」


スカイファイアーはトランスフォームした。
メガトロンとサウンドウェーブを乗せて海底基地に向かうために。




*







「め、メガトロン様ぁあ!サウンドウェーブ!!」
「どうしたフレンジー?」
「ス、スタースクリームが吐き気がするって」
「スタースクリームが!?」

スカイファイアーは身を乗り出した。
メガトロンとサウンドウェーブを押しのけてフレンジーにつかみかかる。
対格差がありすぎて体が宙に浮くフレンジーはばたばたした。

「どこに!?」
「えっ」
「どこにスタースクリームはいるんだ!」
「そ、そこ曲がったとこの一番奥…」

フレンジーをできるかぎりゆっくり床に降ろしたが急いでいてどさっと音がした。
「いてっ」と言う声も聞こえた。後で謝っておこう。でも今はそれどころじゃない。
背後からメガトロンの静止の声が聞こえる。でも聞けない。
スタースクリーム。まさか本当だったなんて。心配だ。私はやはり君のことを忘れられない。

廊下の曲がり角を曲がって真っ直ぐ進むとそこにある扉を開いた。



「スタースクリ……ーム」
「…げほっ…スカ…?」

「え?スカイファイアーがなんで…」
「なんで?」

ジェットロンからなんでお前がこんなところにいるんだよと声をかけられた。
しかし聞こえていてもブレインサーキットに届かない。

両腕を背中で拘束されて這い蹲るスタースクリーム。
げほげほとむせて口から出ている液体はエネルゴンだろうか?
数歩ずつ近づいてゆっくりしゃがむ。


後ろからメガトロン達が追ってくる。
ジェットロンが腕や羽を掴んでこれ以上スタースクリームに近づけないようにするが関係ない。


「サンダークラッカー。スカイワープ。放っておけ」
「え!?いいんですかい?」
「スタースクリームのやつ…また暴れて壁に縛っておいたのにこの様ですぜ」
「…今は放っておけ」


そういうとサンダークラッカーとスカイワープはスカイファイアーから離れた。
スタースクリームは不思議そうにスカイファイアーをみた。


「どうして…おまえが…」
「…スタースクリーム…こんなに衰弱して…」

抱き起こして顔を拭った。エネルゴンを吐いたのだろうか。口の周りが紫色に染まっている。
具合が悪いのか目を細めてときおり気持ち悪そうに下を向く。
顔を覗き込んでエネルゴンを指で拭う。

「スカイ…ファイア…」
「……スタースクリーム…」

いとおしく顔を撫でた後、強く抱きしめる。
背中の拘束具もとってやるとスタースクリームは圧迫感がなくなったのかほっと一声漏らした。


「メガトロン!スタースクリームに何を…!」
「スタースクリーム」

メガトロンはスカイファイアーの質問に答えなかった。
その代わりスタースクリームの名を威圧的に呼んだ。


「…自分ではわかっておったのか?」
「……あぁ?」
「自分の相手がスカイファイアーだということに」


スカイファイアーは現状がわからない。
スタースクリームは俯いて何も言わない。


「その様子だとわかっておったな」
「…ちがう」
「だからそうやってスパークを壊そうとするのだろう?」
「ちがう」
「1000万年も前に交歓行為を」
「黙りやがれ!!!」

メガトロンの言葉に怒鳴り声で返すとスタースクリームは口を押さえた。

「す、スタースクリーム!大丈夫かい…?」
「………」

口を押さえたまま動かないので不安になる。
メガトロンはまだ続けた。


「スカイファイアー。1000万年前スタースクリームとはどういう関係だったのだ」
「は?…なにを」
「スカ…!!答え…んな」

腕をスタースクリームが掴んでくる。
それでもメガトロンから目を離せなかった。威圧的で、目を離せば殺されそうだ。
スタースクリームを抱きしめる腕の力を強める。


「スカイファイアー。答えられんか?」
「……」
「言う…な」
「スタースクリーム」
「……スカ…?」


顎に手を置いて上を向かせる。
そのまま引き寄せるとスタースクリームがはっとして暴れた。

「なっ、よせ!」

メガトロンもサウンドウェーブもジェットロンもいる。
それでもこの手は放さずに、力ないスタースクリームを引き寄せて唇に触れた。


「んっ…!」

スタースクリームは決して口を開かなかったし、自分も公衆の前で舌を押し込むつもりはなかった。
そのかわり、触れるだけのキスを唇にして、眉間と頬にもキスをした。


「今でも好きだよ。スタースクリーム」
「……てめぇ…!」
「君は違っても私は」
「帰れ!何しにきやがった…!」
「スタースクリーム…」


スタースクリームは振り払おうとしていたがまったく力が入っていない。
苦しめたくはなかった。言うつもりはなかった。彼がデストロンである限り。


「スカイファイアー」


メガトロンの威圧的な声。
デストロンの副官にキスをしてしまった。
何を言われるか、何をされるか。


「完成はまだまだ先だが」
「……は?」
「名前を決めておけ。それとホイストとグラップルに頼んで機体の設計図を作れ」
「…………は?」
「メガトロン!俺はこんなもの捨て」
「それはできんと何度も言わせるな」


「…あの、話がみえないのだが…」



サウンドウェーブがまた前に出た。
そして冷静な声で告げる。




「スタースクリームの体内にスパーク反応が2つ。ひとつはスタースクリーム。
もう一つはお前とスタースクリームの交歓行為によるスパーク結合から発生したスパーク」
「………なに?」
「地球人風に言うならスタースクリームとお前との間にできた子供だ。妊娠だ」
「妊娠って言うんじゃねぇ!!俺はこんなスパーク捨てる!」
「無理だ」
「グレン呼べ!堕ろす!」
「無理だ」



スタースクリームは少し楽になった身体で立ち上がり、サウンドウェーブに掴みかかろうとしたが
その腕を引っ張られまた倒れこんだ。スカイファイアーの胸元に。


「なにすっ…」
「おめでとうスタースクリーム」
「……な、んで」
「嬉しい。凄く。スタースクリーム。嬉しい」
「………じゃあなんで…」


スタースクリームはスカイファイアーの目から零れる冷却水を拭った。
スタースクリームの指先が冷えた。スカイファイアーはそれでも笑っていた。



「嬉しいよ。スタースクリーム。嬉しくてアイセンサーの熱がおかしくなったみたいだ」




切れていたはずの君との繋がりが戻ってきた。