毎日。


「……スタースクリーム」
「……」


毎晩。


「おい。スタースクリーム」
「……」
「起きろよ」


だから眠みーんだって。

顔を触られて微かに意識が戻ってきた。
薄くアイセンサーに光をともして暗闇にアストロトレインの顔を見た。
アストロトレインが夜になると声をかけてきて起こそうとするのは最近では毎晩だ。

当然ながらうぜぇと思うし、起こすんじゃねぇよとも思うし、起こしたい理由がヤリたいからだなんて
ふざけた内容だ。まったくもってふざけんじゃねぇよ。

普段はやってきて少し触れてきて声を数度かけて、起きないとそのまま顔を眺めて帰り際に唇に触れていく。
今回は少し、しつこかった。何度も身体をゆすられて嫌でもブレインサーキットが起動する。


「んだよ」
「…ヤろうぜ」
「…いやだ」
「やじゃねぇって」
「…なんだよ…」

頬に手を当てられてアイセンサーを起動させると横目に顔を見つめ返した。
目があうとアストロトレインはにっと笑い、頬にあった手で顎を動かして正面から見詰め合うようにされる。

「気持ち良いこと。嫌いか?」
「…好きだ」
「じゃあしようぜ」
「今は良い」

手を払うと背中を向けてもう一度アイセンサーの光を弱めていく。最近本当疲れるんだよ。
大きな作戦もそろそろ決行する時期になりつつあるしよ。メガトロンも部下使いが荒いぜ…

耳元でぼそっと何か呟かれた。聴覚が聞き取り、ブレインサーキットに届く前のその呟きは消えた。
内容を理解しないまま「今度にしてくれ」と返すとアストロトレインが身体を起こして離れたのがわかった。
やっと静かになった。と自分は安堵した。

明日になったら仕事を仕上げて。
あれやってこれやって。それ終わったらメガトロンを倒して俺がニューリーダーだぜ。

 
それからアストロトレインは部屋に来なくなった。




*



「は?」
「だから。アストロトレインは暫く帰ってこねぇよ」

顎に手を当てて少し考える。
だから昨日はあんなにしつこかったのか。

「なんで?」
「必要な物資が地球にはねぇからだよ。物資の発掘、かなり時間かかる上にここから遠い惑星だって言うから」
「アストロトレインが気になるのか?スタースクリーム」

サンダークラッカーと足元のフレンジーが顔を覗き込んでくる。
少し焦ったが何も焦る必要なんてない。腰に手を当てなおしてふんぞり返る。

「まさか。うるせぇのがいなくなって清々したぜ」
「清々…ねぇ?」
「最近アストロトレイン、スタースクリームにべったりだもんなぁ」

サンダークラッカーが呆れ声を出す。フレンジーがにぃっと笑う。
あぁ、蹴り飛ばしてやりたい。こいつらのこういう態度がムカつくんだよ…

確かに、夜とは違い昼間はそこまで目立ってなかったと思うが一緒に居ることは多かったかもしれない。
フレンジーが気付くくらいだ。もしかしたら目立ってたのか…?

「何ヶ月…いや何年先だろうなぁ?帰ってくるの」
「言い忘れたことでもあるのか?今ならスペースブリッジ使ってセイバートロン星まで行けば追いつくかもしんねぇぜ?」
「何で俺がそんなことすんだよ!しらねぇよ」

踵を返してすたすた歩くとフレンジーが笑った気がした。
走りよって蹴ってやろうと思って振り返ったがサンダークラッカーが自分の視線に勘付いて
フレンジーを床から持ち上げたのでそれは叶わなかった。

 

 


 

「…ありえねぇって…」


カツンと音を立てて寝台に横になった。いや、先ほどから横にはなっているのだが寝付けない。
暫くアイセンサーの出力を落としてもブレインサーキットが眠りに落としてくれない。
今日に限ってそこまで疲れていない。メガトロンが「疲れているだろう」とか言って意味もなく機転を聞かせて休みにしたせいだ。
何日も何週間も耳元で名前を呼んでいた存在がいなくなった途端これか。だらしねぇ。俺はニューリーダーの器だぞ!

普段は眠りに落ちる寸前で紫色の機体が部屋に入ってくる。気にしないでいると寝台に座って声をかけられて
眠いからまた明日なって言って、「起きろよな。馬鹿。その言葉忘れるなよ」って笑ったアストロトレインが
唇に触れてきて。明日になっても俺はあいつの話を聞かないでそれでまた夜になって。


「…今なら…話聞いてやってもいいのによ…」


手を目にかぶせて周りからの光を遮断することによって強制的にスリープに落ちようとした。