あいつがいなくなって2週間たった日。 誰かが頬に触れた。 「アストロ…!」 「…は?アストロ?」 「…す、スカイワープ…」 口元を歪めるとスカイワープは首をかしげた。 「久しぶりに遊びに来たんだけどよ…アストロってアストロトレインのことかよ?」 「…何しに来たんだよ…消えろ」 「なんだよ〜。アストロトレインにお前の部屋に入るパスワード教えたからあいつ来ただろ?」 思い出してイラっとする。 そうだ。アストロトレインが俺の部屋に入り浸ってあんなこと始めた元凶はこいつだ。 ようやく眠りに落ちたのにスカイワープのせいでまたアストロトレインについて考え始める。 「……あぁ。きたな」 「どうだった?もうヤッたのかよ?気持ちよかったか?」 「……お前まじ帰れ。俺は今寝てたんだよ」 あからさまに嫌な顔をしてるのにスカイワープはへらへらしている。 もしかしたら酔ってるか、テンションあがりすぎてブレインサーキットが沸いてるか。 こう言う時のスカイワープはちょっと危ない。 「良いじゃねぇか…たまには俺ともやろうぜ?」 「ちょ…こら!やめろって…!」 足の関節部位にスカイワープの指が触れて思わず驚きの声を上げた。 その声を喘ぎ声だとでも思ったのかスカイワープはますます触れてきた。 こいつのことは嫌いじゃないがそんな気分じゃないって何度言わせるつもりだ。 頬を両側から固定されて舌が入り込んでくる。 噛み付いてやろうかと思ったがそこまで嫌でもないので甘んじて受けた。 それがこいつを調子にのせたようで中々離れない。 「んっ!んん!!」 「…もっと絡めろよ。ノリわりぃな」 口を閉じようにもスカイワープの親指が口内に入り込んできていて閉じられない。 そしてやはりこいつ酔ってる。エネルゴン臭い。押し返しても動かない。 口内をかき回す舌が口の端からオイルを押し流して行く。 「スカ…イワ」 「ん。ん…」 唇をちゅっと吸われて意識がとろんとしてくる。 「お、やっとやる気でた?」 「……」 小さく首を左右に振るとスカイワープは唇を尖がらせた。 「んだよ。じゃあ無理やりやってやろうか」 「は?何、わ、や」 両腕を掴まれて頭の上でしっかりと押さえつけられる。 スカイワープは随分楽しそうだ。しかしそうも言っていられない。 「こんな感じでよ…興奮しねぇ?」 「するか!やめやがれって!」 「やめません」 「やめろ!」 足でスカイワープの腹部を蹴ると少し痛がったがそれだけで酔いが醒める様子はない。 むしろ少し頭に熱が回ったようだった。舌をぺろりと出して唇を舐めると獲物を見るような目で笑った。 「おら!スタースクリームてめぇ…!」 「ば、馬鹿!どこに手ぇつっこんでやがる!」 「……お前らっていつもそんなプレイなのか?」 寝台の上で2羽ばたばたと暴れていたら聞けるはずのない声を聞いた。 「あれ?アストロトレイン?なんでいるんだ?」 「あ、アストロ…!」 「発掘作業が遅れてるからな。一回戻ってきてビルドロン借りようと思ってよ」 押し倒されたままの状態でスカイワープとアストロトレインは会話していた。 会話に混ざろうにもこんな状態だと思ったように言葉が出てこない。むしろ速くどけスカイワープ。 アストロトレインは呆れたような表情で寝台脇に立っていた。 「ちょっと覗いただけだからよ。邪魔して悪かったな。続きは自由にしてろ」 「おう。また数ヵ月後にな」 「ちょ、ちょっと待て!!アストロトレイン!」 背中を向けたアストロトレインを呼び止めるとアストロトレインは少しだけ振り返った。 「なんだよ」 「は、え、話が…」 「話?」 首だけをこちらに向けていたが「話」と聞いて身体ごと向き直った。 スカイワープが「えー」と声を上げたがアストロトレインはスカイワープを後ろから抱き起こすと床に立たせた。 「ま、お前らが無理やりプレイが好きだってんなら文句はねぇけど今は用があるみたいだからよ」 「おい!なんか誤解してるだろお前!」 「じゃスタースクリーム。また明日来るわ」 「来るな!馬鹿ワープが!」 ひらひらと指先だけ振ってスカイワープは出て行った。あの酔い方だと多分明日には忘れてるだろうけどよ。 「で、話って何だ?」 「え、その、スカイワープを追い出す為にちょっと利用させてもらっただけ…とかよ…」 「…お前無理やり好きだったんだな」 「好きじゃねぇよ!その誤解を止めやがれ!」 「誤解?あの様子だと誤解もなんもないと思うんだが」 再度背中を向けられて意味もなく焦る。 『アストロトレインは暫く帰ってこねぇよ』 『何ヶ月…いや何年先だろうなぁ?帰ってくるの』 「いつ戻ってくるんだ?」 「さぁ、ビルドロンどもの頑張り次第だな。このペースだと速くて半年…」 「半年…」 長くない。長くはないが早くもない。 「もう行くのか?」 「今ビルドロンはメガトロンの命令で動いてるから基地に戻ってきたら乗せて出発だ」 「…じゃあ、まだいかねぇんだよな」 「あ、あぁ?んだよ…」 畜生が。何で今日に限って誘ってこねぇんだ。 俺がスカイワープみたいに「ヤろうぜ」って言えたら。 アストロトレインの腕を掴んで強く握った。 アストロトレインは驚いたようで少しうめき声をあげたが気にしない。 「う、お?どうした?スタースクリーム」 「……」 アストロトレインのほうが大きいので普段顔を寄せることはない。 握った腕を強く引っ張りアストロトレインの鼻筋に唇を寄せた。 「気づけよ。大馬鹿野郎」 今なら俺様に触れる許可やるって言ってんだからよ。 アストロトレインが黙り込んだ。 自分が喋る番ではない。お前が何か言うべきだろ!言えよ!喜べよ! 「スタースクリーム」 アストロトレインにしては低い、抑揚のない声だった。 ギクリと身体が強張ってアストロトレインから離れた。 寝台に座っていたので飛び退くことは出来なかったがアストロトレインの低い声にスパークがばくばくいってる。 久しぶりの低い落ち着いた声。自分の柄にもなく顔が熱くなってくる。 「少し上を向けよ」 「…あ、アスっ…」 アストロトレインの唇が自分の唇に触れた。 アイセンサーを細めて唇の形を覚えた。小さく唇を開くと下唇をそろりと舌で一舐めされた。 徐々に口を開いていく。意識が唇にいっていて気付かなかったが、カツっと金属が音を立ててアストロトレインの指が自分の手に触れた。 アストロトレインの指が自分の指の間に絡んで強く繋がる。完璧に左手がアストロトレインの手と絡まると次は右手が絡み始めた。 意識をそっちに散らせば舌がぐいっと入り込んでくる。集中しきれない。 「あ、あすと」 「少し黙ってろ」 「んっん…」 ゆっくりと入り込んできた舌が舌に触れた。 こいつも、自分も結構遊ぶほうだ。キスだの接続だの、もう何度でもしてきている。 今回は断ったがスカイワープと接続だってする。サンダークラッカーともするし、時々、メガトロンとだってする。 だからアストロトレインとするのだってなんとも思わないはずなのにアストロトレインの性格とは反対に ゆっくりした動き、性急に事を進めようとしない態度が自分を煽っていた。 舌が触れた瞬間アストロトレインが指の腹を引っ掻いた。キキッと擦れる音がして身体が少し跳ねた。 絶対傷が付いたと睨みつけるとアストロトレインが舌を引っ込めて唇を離し小さく笑った。 「わりぃな」 「……てめぇ…」 「ほら、もう一度」 「な、なんだよ」 再度口が触れる。今度は触れてすぐ舌が入り込んできた。 右手がしっかりと絡まると更に舌の動きが激しくなった。飲み込みきれないオイルが少したれる。 繋がった両手が押されて後ろに倒れるとそのままアストロトレインが寝台にあがってきた。 身体が寝台に完全に倒れこむとアストロトレインが顔の角度を調節して深く舌を絡めてきた。 「…随分とろんとした表情じゃねぇか。スタースクリーム?」 「っは…うるせぇな…てめぇが口ばっか…」 「そりゃあ俺はキスが好きだからな」 「あ?そうなのか」 「あぁ。接続も好きだけどよ。口内を荒らしてその表情を間近で見れる最高のポジションだろ」 「…趣味悪いな」 熱い息を吐いて自分からアストロトレインの唇に触れた。身体が熱い。熱に浮かされて視線がぼんやりする。 一度触れるだけのキスをして唇を吸う。それからゆっくりと舌で歯列をなぞった。 アストロトレインが意外そうな顔をしてから満足そうに目を細めたのがわかった。 互いに舌を絡めるとぎゅっと手を握ってくるので自分も握り返して舌の動きに没頭した。 「はっあ…っアストロ、トレイン…!」 「……」 鼻筋を軽く噛まれる。それすらも快感に感じて目を細めた。 熱い。体中が、顔も、口も、腹も熱い。 早く触れ。俺に。もっと全身に触れて俺を懐柔しろよ。この熱を開放させてくれ、アストロトレイン。 「ってわけで、ここまでにしておくか」 「…はぁあ!?」 「俺はお前の舌の味を味わえたんでもう満足した」 「ま、満足だぁ!?俺はしてねぇよ!おい!」 「あぁ?お前の満足って無理やりプレイかぁ?」 「違うっつってんだろうが!」 両腕が絡んだままなので暴れようにも暴れることが出来ない。 怒鳴り散らしてぶつかるんじゃないかと思うほどに顔を寄せて睨んだ。 「てめぇが俺の上に立てる状況なんて今くらいしかねぇんだぞ!」 「俺はいつでもお前より上だろ」 「てめぇ…!俺のほうが先輩だぞ!」 「じゃあ先輩は我慢を覚えねぇとなぁ?」 笑って目尻にキスをされる。こんな恋人にでもするように触れてくるなんて卑怯にもほどがある。俺達はデストロンだぜ? この間からこいつはそうだ。他の奴らみたいにやりたいときに呼ぶとか、そういうのじゃなくて 寝台のわきで頭を撫でながら「やろうぜ」って言ってくるだけのこいつはまるで恋人のようだ。 なのに許可出たらやろうとしないってどういう意味だよ…! 「そんなに俺を感じたいのかよ?スタースクリーム」 「変な言い方すんじゃねぇよ!てめぇ煽るだけ煽って…!」 「帰ってきたらお前の望むとおりにしてやるよ」 絡んだままの腕を引かれて指先に唇を押し当てられた。 「航空参謀殿の、望むがままに」 そんな風に言われたら言い返せねぇじゃねぇか。 「ま、寝るまでいてやるよ」 「俺はガキか」 「一理あるな」 手を開放されると顎をガツっと一度殴って背中を向けた。 「いってぇな…んだよ。寝るのか」 「寝る」 「…ヤろうぜ。スタースクリーム」 「…」 インテーク越しに睨みつけるとアストロトレインはおかしかったのが大笑いし始めた。 うるせぇ。うぜぇ。帰れ。消えろ。なんなんだよこいつは。 そのまま背中を向けてアイセンサーの出力を落としていくとアストロトレインの手が額に触れた。 「やろうぜ。スタースクリーム」 「……眠い」 「くくっ…もう寝ちまうのか?」 「……」 「……」 金属の動く音がして顔を覗かれているのがわかった。 軽く唇に触れて、アストロトレインはすぐに離れた。 「またな」 返事は返さなかったがアストロトレインは満足そうに部屋を出て行った。 半年後まで、我慢しててやるよ。 先輩だからな。 --------------------------------------------------------------------------------- 大幅修正+書き下ろし↓をちょっとだけ。 なんだかんだでアススタ人気でしたねー。今書いてる長編でアススタちょっとあるんですが そっちのアストロトレインは真っ黒なんで白アストロ(トイの話ではない)が好きな人はちょいと 駄目かも知れん…でも真っ黒アストロのほうが先に思いついたんだぜ… * 久しぶりに地球に戻ってくるとぼろぼろのメガトロン様とすれ違った。 「め、メガトロン様ぁ?」 「戻ったか。アストロトレイン」 「…その怪我はどうしたんで?」 「ホイルジャックの新しい兵器だ。なかなか手ごわい兵器を作りおったわ」 「……はぁ…」 とりあえず一礼するとビルドロンがメガトロンに資材の説明を始めている。 それを尻目に見るとスタースクリームの元へ向かった。 かなりの長い間、あいつの寝顔を見ていなかった。 習慣になりかけていてそろそろ見たくて仕方がなかったところだ。 最後の会話を思い出すたびににやつく自分の顔を抑えるのに必死だった。 いつものようにスタースクリームの部屋のパスワードを入力するとゆっくりと扉はスライドした。 羽が扉にぶつからないように入ると真っ暗な部屋の中、スタースクリームに近寄った。 「…スタースクリーム?」 近くまで行くとスタースクリームの身体がぼろぼろなのがわかった。 両腕に刺さっているケーブルは体内洗浄のためのものだろう。 更に常に新鮮なオイルが身体を巡回するようにリペア機具までも繋がっている。 重症だ。 「…お前は弱ぇんだから無茶するとこうなるんだぜ…」 薄汚れた頬を擦ったがスタースクリームは強制的にスリープ状態を維持しているため目覚めることはなかった。 左頬に擦り傷がある。スタースクリームは普段の戦いでも顔の怪我だけは避けるようにしてるが それでもこうも目立つ傷があると言うことかなり激しい戦いだったのだろう。 怪我人に手を出す趣味はないがどうしても口に触れたかった。 多分サンダークラッカーあたりが関節部位を痛めているスタースクリームに機転を利かせて普段は鉄の寝台に 少し柔らかい布が寝台にかかっていてスタースクリームはそこに横になっていた。 その布の上に膝を置くと顔をもっと近くで覗き込んだ。 腕のケーブルより繋がるリペア機具には意識レベルは0。強制スリープ中と記載されていた。 何をしても起きないだろう。 頬を何度も撫でて唇を噛んだ。 今この場を見られれば大怪我をしている意識のないスタースクリームを襲っているアストロトレインの姿の噂が広まるだろう。 嘘ではないが、襲っているつもりはない。こいつも意識があれば同意するだろうよ 顔を角度を変えて唇を何度もはむとその後に唇をちゅっと吸った。 いつもならこの辺で薄くアイセンサーに光を灯すスタースクリームはいつまでも停止していた。 僅かにもれる息がスリープモードだと教える。 頬において手を指でなぞっていって首筋、キャノピー、腰、脚の付け根と撫ぜていく。 それだけで自分が興奮しているのに気付いた。珍しく、もっと奥まで触れたい。 「…タイミングの悪い航空参謀殿だぜ…まったくよ…」 もう一度唇を吸って身体を離すと暫く汚れた頬を撫で続けていた。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 結局やるタイミングのあわない2体。