自分のキャノピーが撫でられた。 ゆっくりと撫でて、表面を往復する。時々円を描くように指に腹で押される。 その感触にスリープモードからうっすら意識が持ち上がってきたが、まだアイセンサーに光はともらなかった。 微かに笑う声が聞こえて誰かが近くにいるのがわかった。しかし自分は抵抗しなかった。 俺の部屋に入ってこれるのはメガトロン様かサンダークラッカー達だけだからな。 場合によっちゃサウンドウェーブがハッキングしてきやがるがハッキングした場合は防犯システムが作動するようにしてある。 強制ロックも外敵駆除のシステムが起動した音もしない。ならばそれは自分が入室を許可している奴だ。 「スタースクリーム」 「…んっ…」 「起きろよ…」 「……メガ、トロン様?」 「ちげぇよ」 「スカイワープ…」 口調がスカイワープだったのでもう一度スリープモードに入ろうとした。 スカイワープは頻繁に部屋に入ってくる。許可もなしに。 まぁ、サンダークラッカーやスカイワープが部屋に来るのは俺も基本的に許してるし、構わねぇんだけど。 「なんだよ…」 小さい声で問いかけると「眠いのか?」と返答が返ってきた。 一度頷くとまた笑いかけられる。なんかいつもより落ち着いた声で、聞いていて眠くなる。 かろうじて返答を返せる程度のうつろな意識でその声に集中した。低くて、微かに笑うような含みを持ってて。 こんな落ち着く声だったっけか。スカイワープはもっとうるせぇイメージだったんだけどよ。 「…お前も、寝るか…?」 「…それより、構って欲しいんだけどよ」 「ん…」 唇に何かが触れた。相手の唇だと言うのはすぐにわかった。こいつ寝込み襲うつもりかよ。 口内まで侵入してくるわけでもなく、唇を甘噛みされる。 その感触は気持ちよかったが、のろのろとした動きで顔を押し返した。 「わりー…今は眠いんだよ…」 「…じゃあ起きたら付き合ってくれよ」 「あぁ…」 おとなしく引き下がったこいつが珍しく可愛いく感じられ、宙に手を彷徨わせると相手の頬に触れた。 その手を顔を這わせて首の後ろに手を回すと抱き寄せてそのままスリープに落ちるとまた笑われた。 * 2度目の目覚め。 今度はさっと意識が浮かび上がってきた。体中に新しいオイルが供給され、電気信号が体内を駆け巡った。 ブレインサーキットが「動け」と命令を下せばアイセンサーに光がともった。 「起きたか?」 「…あぁ」 「随分長い間落ちてたじゃねぇかよ」 隣にまだいる存在に気付く。隣って言うか、ほぼ抱き寄せてるんだけどよ。 視界には微かに紫が目に入った。背中に回した手を放して身体を離そうとする。 「昨日、…頼まれた仕事が結構あってよ…」 「へぇ?」 隣にいるトランスフォーマーをみた。文句をつけてやりたくなった。 スカイワープの野郎、勝手に部屋に入ってきて寝込み襲うなんていつからそんな趣味が 「アストロトレイン!!?」 「ん?まだ気付いてなかったのかよ」 寝転んでいた身体を一気に起こすと隣にいた存在をにらみつけた。 にやにやと笑うアストロトレインを見下しながら少し歯をむき出して威嚇する。 「まさかスカイワープの野郎と間違えられるなんてよ」 「なっ…なんだてめぇ…!部屋どうやって入ってきやがった!」 紫色した機体が一度きょとんとしてこちらを見た。そして再度にやりと笑う。 「スカイワープに酒奢ったらすぐ教えてくれたぜ?」 「あ、の野郎…っ!でてけ!」 「何だよ。夜はあんなに懐っこかったのになぁ?」 「殺すぞ!」 「お前寝てる時は機体の保温度高ぇのな。温かかったぜ」 「うるせぇ!」 アストロトレインは随分と落ち着いていた。 「まぁまぁ」なんて笑いながら言われると更に腹がたった。 黙って今度は威圧的な態度をとったがそれでもにやにやと笑うだけだ。 「起きたら」 「あぁ?」 「起きたら続き。して良いんだろ?」 「……」 『わりー…今は眠いんだよ…』 『…じゃあ起きたら付き合ってくれよ』 『あぁ…』 ブレインサーキットに送っていたオイルが水のように冷たくなって頭が冷えた。 承諾した覚えがあった。いや、キスされたような覚えもある。 まずいと思ったときにはアストロトレインの手が羽を掴んできた。 「逃げないよなぁ?」 「な、なんがだよ!急に…!」 「いやぁ、スカイワープと酒飲んでたら『ヤってる時のスタースクリームすげぇ可愛いんだぜ』って言うからよ」 「あいつの冗談だ!放せ!おい!」 「そう言うなよ。実際寝起きのお前は結構可愛いかったぜ?」 ぐいぐい羽を引っ張られて羽の付け根が痛くなった。 正面より羽を掴まれて後ろに下がることも逃げることも出来ない。 「俺には仕事があるんだよ!てめぇと一緒にすんな!」 「おいおい。お前は俺の先輩なんだろ?だったら後輩指導だとでも思えよ…」 「思うか!破壊するぞ!」 急激に羽が痛くなった。小さく呻くとアストロトレインが笑いを消した声で囁いた。 「…力では俺のほうが強いんだぜ?」 耳元で囁かれた声に悪寒が走った。 →