俺様はサウンドウェーブが無口なのは感情が無いからじゃないのを知っていた。 感情を言葉に表せないこの男が腹立たしく、好ましかった。 航空参謀の飼い方 脱力し、デスクから上半身をずるずると落とし、汚してしまった床へと 膝をついて荒い息を整える。 サウンドウェーブがスタースクリームの肩を掴んで面を向かうように向きを変えた。 俯いて息を整えようとしているスタースクリームの顎を掴み 下腹部にあるケーブルを扱っていた指をスタースクリームの口の中に 無理に差し込んだ。 「んぐっ」 「舐めろ。お前が汚した」 「んっ!んん!!」 指をスタースクリームの舌にぐりぐりと擦り付けてスタースクリームがだした オイルを拭う。 サウンドウェーブはそれを無心で行うと、スタースクリームが冷却液で 霞んだ目を向けているのに気付いた。 「なんだ」 「……」 指を抜いて喋れるようにするとスタースクリームがぼそぼそと喋り始める。 「す」 「なんだ」 「殺す……」 「……」 「殺してやる…!」 スタースクリームが真っ赤な目を鋭くさせて睨んでくる。 なんとデストロン軍団副官に相応しい目だろうと思う。 普段、にやにやとくだらない裏切りを考えている時や、この間まで自分と一緒に いたスタースクリームとは思えない。 その目は凄く好ましく、その瞼の上に唇を乗せて舐めるとスタースクリームの 身体が硬直した。 「ひ、な…っ」 「……」 無意識だった為自分自身驚いたがそのまま舐めてやる。 スタースクリームとの付き合っていた期間が長すぎたのか、反射的な行動が目立つ。 硬直したスタースクリームの両手が顔の横で彷徨いながら空を掴むのは 気づいていたがその右手が拳を作ったことに気付かなかった。 「くそやろう!!!」 「ぐっ…!!」 派手な音がして床に殴り倒される。 更にスタースクリームが左手握り更にもう一撃とばかりに顔を殴りつけてきたが こちらも頭を掴み、デスクにぶつけた時のように押し返した勢いそのまま床に ぶつけてやる。 スタースクリームの機体が床に倒れこみ、苦しげに呻いて先ほど破損した頭部が 更に悪化する。 その上に馬乗りになるとスタースクリームは両腕をサウンドウェーブの 首にかけてきたが頭部破損により腕に力が入っていない。 「首を絞めたいのか」 「…く、そが…」 ほとんど力の入らない手を首にかけただけの状態でスタースクリームは悪態をついた。 無駄だと分かったのか、手を放して床に降ろすとスタースクリームが 先ほどと同じ目で睨んできた。 目つきは先ほどと同じだが抵抗する気も悪態をつく気もなくなってしまったのか 大きくため息をついている。 「…お前、何がしたいんだよ」 「…何がだ」 「…急にメガトロンがどうのこうだの言い始めて、急に変な事し始めて 頭を破損させられたと思ったら目を舐めたり」 「…」 「それで次は頭押さえつけながら床に押し倒されて?俺はどうすりゃ良い訳よ?」 途中殴りつけてきたのはお前だと言いたかったが確かにこいつの言うとおりだ。 自分は何がしたいのか。ただ、スタースクリームに腹が立ったのだ。憎いと思った。 自分にあんなにも懐いていたくせに、自分でなくともこいつの良いのだとわかった。 感情を言葉に出来ないまま、返答を待つスタースクリームの頭を撫でる。 頭部破損の為、頭からは紫色の体内循環用のオイルが漏れ出て手を汚すが そのままぐりぐりと撫でると文句ありげだったスタースクリームは目を伏せて その手に頭を預けてくる。 そのまま暫く互い無言で頭をなで、その手に身体を預けて、まるでこの間までの 関係のようで。 「……お前は」 「なんだ」 「俺のことが好きなのかよ?」 「…またか」 「嫌いなら、俺に触るな。お前の相手は疲れるんだよ」 「……」 「本当、疲れる」 スタースクリームはのんびりと言った。 その言葉になんて言葉を返そうか。 俺はこいつに好意を持っていない。 しかし、わかったのはこいつが自分以外の誰かと一緒にいると腹が立つ。 「お前考えてから行動するから面倒なんだよ…」 「………」 「デストロンならデストロンらしく本能で動きやがれ…」 「……」 「その場その場で思ったこと言えよ…!!」 言われてみればそうかもしれない。 こいつは少し本能で動きすぎているが自分はあれだこれだと考えすぎて いるのだろうか。 スタースクリームの顔を見ると表情が歪み、泣きそうにも見える。多分本人に 自覚はないのだろう。本当にころころ表情が変わる奴だ。 無表情だったり、怒ってみたり、泣きそうになってみたり。 「わかった。スタースクリーム」 「あぁ?」 「唇に触れたい」 「…………あぁ」 返事を聞いてからその唇に指で触れる。 何度も指の腹でなぞって、その唇を開かせる。 指を口の隙間に差し込むとスタースクリームは察したかのように口を自ら開いた。 馬乗りになっていた身体を屈めてその唇に唇を重ねるとスタースクリームは 口内も破損しているようで口内オイルとは違う、油臭さよりも鉄臭い味がした。 「んっんっ…!ばっ、そこ…!」 舌を口の中で無造作に動かすと口内で破損部分が見つかり、そこを重点的に攻めると 痛かったらしく少し押し返され、仕方なくその唇から舌を抜くと、舌が 紫色に染まっていた。 「スタースクリーム」 「いてぇな!なんだよ…!」 「メガトロンのところに行くな」 「………」 スタースクリームがぽかんと口を開いたまま身動き一つ取らず見返してくる。 お前が考えずに思ったことを言えといったんだ。満足だろう。 「……どう、いう意味、だ?」 「お前がメガトロンと一緒にいると腹が立つ」 「……なん、でだよ…」 スタースクリームの顔が泣きそうなまま、口だけ笑った。器用な奴だと思う。 ただ、この口のはにかみ方は嬉しいのをばれない様に我慢する時の スタースクリームの顔だ。何が嬉しいんだこいつは? 「何が嬉しい」 「…何で一緒にいると腹が立つんだよ?」 「わからない。お前が最近メガトロンの寝室に入り浸りだと聞いた」 「あぁ、そうだな」 「それを聞いて腹が立った」 「あぁ」 「憎い」 「…あぁ」 「お前がメガトロンの寝室で何をしてるか想像すると憎い」 「………」 普段はもう少し言いたい事をまとめて簡略化して言葉にするのだが スタースクリームが言いたいこと全部言ってみろと言うので望みどおり言ってやった。 それが嬉しいかったのだろうか。随分と満足げに笑う。 「サウンドウェーブ」 「なんだ」 「お前、やっぱ馬鹿だよ」 「なに」 「それって、嫉妬じゃねぇのか?」 嫉妬。 嫉妬とは。 嫉妬、jealousy、自らよりも優れる者を恨み妬むこと。 自分の愛する者の愛情が自分以外に向けられ妬むこと。 「……」 「馬鹿だよ。馬鹿。すげー、馬鹿」 「……嫉妬」 「そうだろうが」 自分が、スタースクリームに?いや、メガトロンに嫉妬したのか? 自分にそんな感情があるんだろうか。考えたことも無い。 「サウンドウェーブ、もう一度聞くけどよ」 「なんだ」 「俺のこと好きか?」 「……わからない」 「じゃあ……」 スタースクリームは嬉々として好意の有無を聞いてきたがわからない。 わからないとだけ言葉を発するとスタースクリームは言いあぐねる様に 口をつぐんだ。 「俺様に何したいよ」 「……」 スタースクリームにのしかかっていたのを忘れていたわけではないが その発言でもう一度今の状態を再確認する。 自分の下で微かに笑うこのスタースクリームに何がしたいか。 顎を両手で固定してその唇に触れる。唇を舐めて首筋を舐めて、首にある パイプを軽く噛む。 「ぃてて…、…くすぐってぇよ…」 「触れたい」 「あぁ、かまわねぇよ」 随分と気をよくしたようでくくっと笑い声が聞こえる。 スタースクリームも頭を撫でたり頬を擦り付けてきたりと触れてくる。 あぁ、これだ。これがしたかったのかもしれない。 「スタースクリーム」 「なんだ?」 「接続したい」 「なに?」 返答を待たず開けっ放しだったパネルの先にあるレセプタに指を這わせる。 スタースクリームがそれを察して腕を押さえ込んでくる。 「なんだ」 「ばかがっ…!誰が、良いって…!!」 「接続したい」 「っ…だから…!その…ダメだ!」 「何故だ。俺が好きなんだろう」 「……す、好きとか、そう言う話じゃねぇ!」 「好きなんだろう」を否定されなかったことに気分が良くなる。 腕を押さえつけられたまま力ずくで腕をレセプタまで持っていく。 当然スタースクリームも必死になって同等の力で押さえつけようとしてくる。 「心配ない」 「心配とかじゃねぇ!ちょ、おい、わっ、わーわーわ!!」 「声がでかい」 「んむぅっ!!んーー!んんん!」 中指の先がレセプタまで届き、その淵をゆっくり浅く中指の腹で撫でると スタースクリームが大声を上げた。 さっきから床に押し倒したり殴りあったりと音は散々立てているがこの大声はまずい。 口を塞いで注意を促すとスタースクリームがその押さえつけた腕を叩きながら呻く。 「なんだ。うるさい」 「サウンドウェーブ!駄目だ!今日は…!」 「何故だ?」 「…こ、この後、メガトロンに呼ばれてるって言っただろうが…」 「メガトロン様…」 「そうだ。俺らのリーダー。破壊大帝メガトロンだぜ?すでに遅刻だってのに…」 ふつふつと、また苛立ってくるのがわかった。 なるほど。これが嫉妬か。 メガトロンの元に自ら行こうとする事に苛立つ。 「だから、な?」 「言い訳にならない」 「なに?」 「すでに遅刻なのだろう。今更行っても同じだ」 「な、だ、わっ!駄目だって…!おい!」 「行かせない」 「……っ!」 スタースクリームの顔が加熱されるのがアイセンサーでわかる。 最後の発言がきたようだ。こいつは求められる事に弱い。 だからこそ心配な面もあるが。 「……でもよ…何て言い訳しろってんだ…」 「なんとでも言えばいい」 「お前はそうでもな!だいたい、お前、ここメインルームだしよ…!」 「俺の部屋ならいい」 「え」 覆い被さっていた身体を起こして立ち上がらせる。 あわてた様子のスタースクリームの腕を掴んでそのまま歩き始める。 メインルームの扉が左右に割れてそのまま廊下に出ると小声ながら スタースクリームの反論が聞こえた。 「な、なんだよ…!お前!急にどうしたんだ…!」 「………自分のやりたいことがわかった」 「あぁ?」 「今すぐお前と接続したい」 「だ、から…!そう、何度も言うんじゃねぇよ…」 「お前は?」 「は?」 「聞いてなかった」 「え…いや、俺は」 「スタースクリーム」 メインルームの扉を超えた誰もが通る廊下でスタースクリームの唇が 触れる距離で顔を近づけた。スタースクリームは慌てて周りを見渡してから 見返してくる。 「俺は…」 「………」 「…………たい」 「聞こえない」 「…接続…したい」 最後は消えるような小さな声で呟いてスタースクリームは目をそらした。 今自分は自分の意思でこいつに触れたい。嘘も、後ろめたさも何も無い。 もう一度スタースクリームの腕を掴むと先ほどよりも幾分引っ張りやすくなった。 next