「まだ、眠くねぇだろ?」
「…あぁ」

そう答えると廊下を歩きながらおこなっていた会話は一度途切れアストロトレインは振り返った。
スタースクリームは握りこまれていた腕をびくっと震わせると立ち止まったアストロトレインの顔を見上げた。

「…」
「ア、アストロトレイン?」
「…」

目尻に唇があたる。目を細めて軽く押し返すと
何度も何度も確かめるように顔中に唇を押し付けてきた。

「な、なに。なんだ」
「…やっと、だなぁ」
「…」

スタースクリームはぐむっと口を噤むと顔を大幅にそらした。

「もっとさせろよ」
「廊下」
「…誰もきやしねぇ」
「って言うか抜け出したのバレルんじゃねぇか?」
「ばれたらまずいか?」

さらりと言ってのけたアストロトレインにスタースクリームは言葉がなかった。
ばれたらまずいに決まってる。いや、別にスカイワープやサンダークラッカーとだってやるし
それをメガトロンも知ってるはずだ。まずくはない、んだろうけど。

黙り込むと腕をまた引っ張られた。
「あっ」と小さく声を漏らすとアストロトレインは廊下を再度歩き始め
歩きながら小さい声で「俺は別に構わねぇんだけど」と呟いた。

別に周りにアストロトレインとヤったことがばれたって構わない。俺だって構わねぇさ。
ただ、少し躊躇われるのは何故だろうか。
憶測でしかねぇけど、理由はいくつか。
他の連中に馬鹿にされるかもしんねぇから。
アストロトレインが俺に飽きるかもしれねぇから。
俺が本気でこいつが好きかもしんねぇから。

2つ目と3つ目は、意味は似たようなもんか。


「ア、アストロトレイン」
「んー?」
「…お前、俺のことどう思ってんだ?」
「なんで」
「…なんでって」

返答はこざっぱりしたもんだった。アストロトレインはやりてぇだけなのかもしんねぇな。と
スタースクリームはその後続く道のりをずっと黙った。





*




自分の口より「はぁっ」と堪えきれない吐息が漏れた。
やべっとその息を飲み込む。さっきから自分は興奮しっぱなしだ。
やっと、この日が来たんだ。懸命に自分の吐息を殺してただスタースクリームをつれて歩く。
腕をつかんで少し強めに引っ張り歩くスタースクリームの顔を覗いたが
スタースクリームは自分の吐息に気付いていないのか俯いたままだった。

『俺のことどう思ってるんだ?』

そんなの聞かなくてもわかるだろうがよ。
面倒臭がりの俺が働いて、こうやって時間作ったんだぞ。
もう1年位前から「やりてぇ」って言ってるんだぞ。わかるだろうが。
強く引っ張るとスタースクリームから慌てた声が漏れた。

「い、いてぇよ」
「悪い」
「その、強く引っ張んなって…」
「悪い」
「…アストロトレイン!」
「わかってんよ」

スタースクリームが黙った。
悪いとは思ってるけどよ、ちょっと今は無理だ。
落ち着けるわけがねぇよ。やっとやれるんだ。
ただやりてぇってわけじゃなくて、ちゃんと、スタースクリームだからだって理由もついてくる。
この1年、誰にも手をださなかった。
スタースクリームだけにちょっかいを出してきた。


「お前の部屋で良いな」
「あ、あぁ…」
「俺の部屋、ブリッツと一緒だからよ」
「…あぁ、そうだな」

トリプルチェンジャー用の基地ってのがある。
コンバットロンにはコンバットロンの。
ビルドロンにはビルドロンの。
スタントロンにもあるらしいしな。
デストロンの本部は海底基地だが、そこから数百キロ離れてる自分たちの基地には
ちゃんと自分だけの部屋ってのもある。しかしそこまで行くつもりはねぇ。

スタースクリームの部屋の前についてパスワードを入力する。
スタースクリームがそれを背後で見ているがカタカタと打ち込みカシュンと扉の鍵解除の音を聞いた。
再度腕を引っ張り中に入るとすぐに扉を閉めて鍵をかけた。

スタースクリームが不安げにその一連の動作を見てからこちらをみてくる。
その動作ですら愛嬌があるように見えるんだ。もう自分はこいつに惚れてるんだろうな。
目が合った瞬間にスタースクリームを今閉めたばかりの扉に押し付けて口を塞ぐ。

「んっ…!?」
「…もっと、舌だせよ」
「…っ」

軽く押し返される。
なんで首に手回してこねぇんだよ。
腕を掴んで自分の首の後ろに回させるとスタースクリームはゆっくりだが首に手を回した。


「…寝台行くぞ」
「…」

一度頷かれ、嬉しくなった。
普段なら「眠い」とか「忙しい」とか言って取り合ってくれなくて顔を押しのけられて「帰れ」と言われておしまいだ。
スタースクリームが押さえつけた腕からすり抜けて寝台に行こうとするのを
止めさせて担ぎ、アストロトレインの足で寝台に向かった。
スタースクリームは照れてるんだか何なんだか口数が減ったままだ。

「ちょ、ちょい、こら!」
「なんだよ」
「自分で行く!」
「あぁ、そうだな」

スタースクリームの言葉もちゃんと聞いているが返答は適当だ。
良いんだよ。俺がつれていきてぇんだ。
それを直接スタースクリームに言うのは恥ずかしいと言うか変態くさいので遠慮した。

「よいしょ…っと」
「うあっ!な、なにすんだ!」

寝台に下ろしてそのスタースクリームの腰の上に座る。
スタースクリームが見てわかるほど怯えてる。そんなに俺は乱暴に見えるかよ。

「ま、まって」

拒むように伸ばしてくる指に自分の指を絡ませて強く握った。
そのまま手ごと寝台に押し付けて縫いとめると慌てるスタースクリームの口をもう一度塞ぎ
今度はゆっくりと食んだ。

初めてでもないくせに少しアイセンサーを水っぽくさせて吐息の荒いスタースクリームの反応をゆっくりと見て楽しむ。
子犬が鳴くような小さい喘ぎに身体がぞくりとする。コイツを今から好きに出来るんだ。
その許可と権利が俺にはある。

「やべぇ…堪んねぇな…」
「…ア、アス…」
「覚えてるかよ?1年前によ」
「うん?」
「…お前の、航空参謀殿の望むがままにって言ってやったろ」
「…そんなこと良く覚えてるな…」
「何、してほしい?何でもやってやるよ」

何度も額に口付けるとスタースクリームがなんでも?と尋ねてきた。
「あぁ」と言い返す。スタースクリームは暫く黙って考えるようなそぶりをした。


「じゃあ」


スタースクリームを押し倒したまま自分の頭をスタースクリームの首筋に押し当てて
甘えるようにすりすりとこすり付けるとスタースクリームは押し返してきた。

「なんだ?咥えてやろうか?それとも騎乗位が良いとか…」
「馬鹿。んなこと言うか」
「じゃあなんだ」

スタースクリームが顔をべしんと叩いてくる。
いてっと叩かれた部位を撫でるとスタースクリームは仕方なさげに小さく笑い
付け加えるように「して欲しいこと」を言った。

「俺をその気にさせてくれ」
「…は?」
「今、あんまやる気がなくてよ…」
「はぁ!?お、おまえ…!俺がどれだけ…!」
「だってお前、何かがっつきすぎって言うかよ…!俺の話、全然聞いてくれねぇし…」
「…」
「…」
「…わかった、やってやるよ」

アストロトレインが少し拗ねた様子でスタースクリームの唇をふさごうとすると
本日2度目の顔面への攻撃を食らった。
押しのけるようにパシン!と顔を叩かれて顔をしかめる。

「なんだ!」
「やる気でるまでキス禁止だ」
「なっ…」
「当然、身体触るのもだぞ」
「お前、それでどうやってやる気に…」
「…言葉でだよ」
「…言葉?」
「あぁ、言葉…前のお前は、言葉だけで俺を煽れてたぜ…?」

「…」

暫く黙って考える。
スタースクリームでなく壁を暫く見つめたまま考え
アストロトレインは渋い顔をしてスタースクリームをもう一度見た。

「あのよ」
「ああ?」
「…これ結構、恥ずかしいんだが」
「…っくく…恥ずかしいって…」
「気持ち悪い発言しか思いつかねぇよ」
「例えば?」

もう一度壁をみて考える。
んーと一度唸るとスタースクリームは催促するように「うん」と頷いた。

「…お前は最高だぜ…とか」
「ぶはは!」
「んだよ!お前の笑い方可愛くねぇぞ!もっと可愛い声だしやがれ!」
「無理だってんだ。俺様は男なんだからよ」
「男でもお前なら良いよ」
「…今のは結構良い、その調子で」

一瞬きょとんとした顔をほころばすと小さく笑った。
あ、今の可愛いな。

「可愛い」
「あたりまえだろうが、もっと別の」
「…んん…」



前戯が長くなりそうだとアストロトレインは思いつつ
今はスタースクリームのことだけを考えた。