ジェットロンがトレーにエネルゴンを乗せて基地内を歩いていた。 新、旧あわせて6体が調理している所より宴会場予定地までを何度も往復し 様々なエネルゴンを準備していた。 「ほらよ、フレンジー」 「サンダークラッカー!もっとてきぱき働きやがれ!」 「はいはい」 会場のセッティングは主にカセットロン。 フレンジーがサンダークラッカーよりトレーに乗せている食材を受け取ると それを既にテーブルクロスの引かれた机へ盛り付けていく。 コンドルが周囲を飛んで会場全体の均一さや色のバランスを確認しそれをサウンドウェーブに報告する。 こんな大々的にやるのはデストロンの破壊大帝メガトロンが大の祭り好きで変わり者である事。 それとアストロトレインの功績がそれほどまでに大きかったことが理由である。 ボッっと言うジェットの音がしてスタースクリームが会場入りした。 変形はせずに足底のジェットだけで飛んでくると器用に両手にもったトレーを適当な机に置いた。 「お前、飛んできたのか?」 「歩いて移動なんて面倒なことできるか」 「零したらどうする」 「お前と一緒にするなよ。サンダークラッカー」 俺様のボディバランスを舐めるなよ。と腰に手をあててサンダークラッカーの前に立つと はいはいと一言で返されてしまう。 「スタースクリーム。勝手なところに置くなよ〜」 「うるせぇ。どこに置いたって宴始まったらぐっちゃぐちゃだろうが」 「メガトロン様はそうは言わねぇぜ?宴、最初の贅沢は会場コーディネートから」 「阿呆くせぇ」 コンドルが頭上を旋回してスタースクリームの持ってきた分をどこに置くかを決めている。 ジャガーがその声を聞くと机に置かれたトレーを口で挟み、奥の机まで持って言った。 サウンドウェーブが入り口付近で話すジェットロンに近づくといつもの口調で声をかけてきた。 「まだ足りない。早く取りに戻れ」 「はいはい」 「こう言う時にアストロトレインが使えればなぁ」 普段はアストロトレインに詰んでしまえば早く済む。 ブリッツウィングでも大丈夫なのだがブリッツウィングの運転では エネルゴンを零してしまうのでは?とジェットロンに往復させている現在だ。 「アストロトレインは今回の作戦の功績者」 「わーってら」 「アストロトレイン何やったんだ?」 「エネルゴンの奪取からサイバトロン撃退。メガトロン様が危険に晒された時には援護もしてる」 「あいつが…」 「珍しいな」 サンダークラッカーが珍しいと言った瞬間スタースクリームの脳内にちらりとあの出来事を思いだす。 既に時間は夕刻だが夜には宴が始まるだろう。夜から明日の朝まで開かれる宴のメインはアストロトイン。 『じゃあ、またな』 アストロトレインを思い出して少し顔を赤く染めた。 誰にも気付かれずに済んだのはそこへもう一体のジェットが現れたからだろう。 キンッと空間を微かに裂いた様な音がして一点に光が集中するとそこへどこからともなく 黒いジェット機が表れた。黒いジェットは両手に黒いトレーを持って目をぱちくりさせている。 「あっ、てめーらさぼってやがるな」 「お前ワープかよ…」 「許可貰ったぜ。メガトロン様に」 「もうお前だけでやったら?」 「ふざけんない。もう面倒で仕方がねぇってんでい」 唇を尖らせるスカイワープに2体のジェットロンは笑いかけると「じゃーまた往復すっか」と 元来た道を戻ろうとした。 スカイワープはフレンジーに一度ケツキックを決めてからトレーを渡している。 視界の端でバズソーが壁に嘴で幕を貼り付けていくのをスタースクリームは一瞬捉えた。 白貴重なその幕をつけることで鉄壁が隠れて堅い印象のなくなる会場をもう一度見渡して、結婚会場の類を連想させた。 ここまで大げさにやらずとも良いだろうに。なんだかんだでカセットロンもこういうことが好きなのだ。 是非とも自分が破壊大帝になる時はこれ以上のセッティングを心掛けて欲しいものだと思った。 * ダージは調理場にいた。 そこへ2羽のジェットロンが歩み寄る。 調理場と言っても本当に包丁やらフライパンやらで作っているわけではない。 どちらかというなら酒樽を貯蔵するように壁一面にエネルゴンの入った樽が設置されている。 樽にはひとつひとつ年号、元のエネルギー名。他にも場所やらなんやら書いてある。 それをダージがいくつか取り出してボトルに移し変える仕事をしている。 後ろの方ではビルドロンがそのエネルゴンを固形に作り変えて液状から食べ物へと変えている。 そんなエネルゴンボトルと食べ物をトレーにのせて基地内を歩き回り会場まで移動するが仕事だ。 「後いくつだ?」 「まだ足んないって言ってたぜ」 「あー、俺腹減ったよ」 「早く持っていってくれ。次は高濃度エネルゴンだから零すなよ」 ダージがそう言って旧ジェットロンへ悪そうな笑みを浮かべると スタースクリームはむっと来たのか指差して罵った。 「お前と一緒にすんじゃねぇ!ダージ!しょっぱなからエネルゴンぶちまけやがって!」 「こいつに荷運びは無理だって…」 それ故にここにいるのだ。 トレーに乗せたエネルゴンひとつ満足に運べないダージを旧ジェットロンは罵ると ダージはうっと顔をしかめた。 「ところでさっきから似たようなエネルゴンが多いじゃねぇか。もっと色々持っていかなくて良いのか?」 「あぁ、あれはアストロトレインの好きな種類だからよ」 「そうなのか?」 「俺とアストロトレインは結構仲長いんだぜ?間違えるかよ」 スタースクリームは初耳のそれを渋い顔で聞いた。 アストロトレインに好きな種類のエネルゴンがあるなど、本人からだって聞いてない。 馬鹿なダージは今もこの間はアストロトレインに助けてもらって貸しがあるなどぐだぐだ喋り続けている。 「…スタースクリーム何むっとしてんだ?」 「うるせぇ」 トレーに用意された高濃度エネルゴンを乱雑にのせていくと ラムジェットとスラストが追いついてきた。 空のトレーを手に、スカイワープを除いたジェットロン5体がそろったわけだ。 ラムジェットが「よう」と近づいてくる。 「何やってんだてめぇら」 「うるせぇ。うるせぇ。さっさと運べ」 「?何いらついてんだこいつ。怒るなよ」 ラムジェットがスタースクリームの機嫌を取ろうと近づくが 伸ばした手を振り払われて更に睨まれる。 機嫌が悪いのがわかるとスラストはサンダークラッカーの後ろに隠れた。 サンダークラッカーはスタースクリームの機嫌の悪い理由をほんの少しだけ理解すると ラムジェットの腕を掴んで引き戻した。 「あー、もうわかったから仕事しろお前ら」 スタースクリームはさっさとジェットを点火させてそこから出ると スピードそのままで一滴も零さず基地内を飛び回り、また会場へと向かった。 内心は意味もわからず苛立っていたのだがちらりと紫が目に入ってジェットの火を弱めると それが自分よリ大きい存在だとわかる。 「スタースクリーム」 「アストロトレイン…何してんだ」 先と変わらずにんまりと笑うアストロトレインをスタースクリームは睨んだ。 その顔を見てアストロトレインが「ん?」と首を傾げて近づいてくる。 「何怒ってんだ?」 「怒ってねぇ」 「機嫌悪いじゃねぇか」 「別に」 アストロトレインが先ほどのラムジェットのように手を伸ばして機嫌を取りに来る。 振り払いはしなかったが視線を違う方に送ると「おら、怒ってるじゃねぇか」と アストロトレインはスタースクリームの腰に手を回した。 「邪魔すんな。仕事中だ」 「お疲れ様だな」 「お前が居ればすぐ終わる仕事なんだ」 「俺を祝うのに俺を働かせてどうすんだよ」 「…」 アストロトレインがスタースクリームを掴んで少しわき道にずれた。 基地内で会場に向かうにはここの廊下を必ず通る。 このままここで腰に手を回していたら他の連中が来るのを悟ったのだ。 スタースクリームは引き寄せられてますます顔をしかめたが 道をそれて壁に背中を押し付けられるとそれどころではなくなった。 「ちょ、おい…待てよ…!仕事…」 「少しだよ」 「だっ、お前…!」 トレーを落としかけてバランスを取り直すとアストロトレインが笑った。 スタースクリームの足の間に膝を入れるとそのまま壁に押し付けて スタースクリームに何をしても床に倒れないように支えた。 その動きをスタースクリームは受けて何をするのかわからず焦った。 「待て!零す!」 「零さねぇように腕に集中してろよ」 「夜まで待つんじゃねぇのかよ!」 「…お前が俺のために働くってのが良いな」 「はぁ!?」 「普段、お前ってこういう仕事しねぇじゃねぇか。運搬とか」 首筋に噛み付くように唇を触れさせるとスタースクリームはますます焦った。 トレーに乗せられる高濃度のエネルゴンがたぷんと動いて零れかける。 そちらに視線をおくるとアストロトレインは聴覚機器を舐めてきた。 「ひっ、あ!馬鹿!やめろ馬鹿!!」 「馬鹿馬鹿いうなよ。ほら…」 「やっ、やめ」 聴覚の隙間に舌を入れてぐりぐりと動かす動きに身体が反応する。 その間に脇をアストロトレインが撫でる。ぞくりと足に来て震えたが エネルゴンは零れずにいた。 「その調子だぜ」 「お前いい加減にしろ!あいつら来ちまうよ!」 「ジェットロン?」 「あぁ…!」 「静かにしてれば大丈夫だって…」 口をアストロトレインが塞いでくる。 互いの口を合わせてちゅっと音を立て、舌同士を味わうように絡めた。 ふと思う、夜以外にアストロトレインとキスしたことはあっただろうか。 毎度自室で、夜にキスをすることはあってもこうして外はなかった。 「…あっ」 腰にきて身体が崩れかける。 スタースクリームの足の間にあるアストロトレインの膝がそれを助けると スタースクリームはその膝に座るように体重を預けた。 「…頼むから機嫌悪くなんなよ」 「…」 「夜なら我侭聞いてやってもいいからよ」 「…我侭ってなんだよ…」 スタースクリームの顔をなでて微笑むとスタースクリームはようやく アストロトレインの顔を正面から見た。 「…仕事続ける」 「…おう。宴、一緒に飲もうな」 「…」 一度頷くと機嫌が治ったのに気付いたアストロトレインは笑った。 頭をなでなでと撫でられて怒るはないまでも頬が熱くなる。 トレーをみると数滴、エネルゴンが零れていた。 →