「もっと右。あぁ、そうそうそこ」
「お前うぜぇ〜」

アストロトレインの身体にホースで水をかけながらタワシで装甲を磨いた。



ASTROTRAIN



ちょっと油断して、サイバトロンに捕まりかけた。
俺ははっきり言って悪くない。どちらかって言えばメガトロンの作戦が悪かった。
しかもジェットロンにも見捨てられてサイバトロンに銃を突きつけられた状況下。
命乞いでもするかなと思い始めてた。

あ。

ちらりと視界に紫色が入り込んだ。
上空から滑り込んできたシャトルを見て片手を上げ、大声を出す。

「アストロトレイン!!助けてくれぇ!」
「ちっ…貸しだからなっ…!」

シャトルがトランスフォームしてトレインに変わるとそのまま勢いをつけて下降してきた。
周りのサイバトロンを全て引き倒し、自分の前で急停車したアストロトレインに思わず
顔がほころび笑みが漏れる。

「おら。乗れ」
「あんがとよ!」

そうして何とか逃げ切ったのが約半日前だった。





今はこうして海水をしっかりと洗浄、ろ過したものをビークルモードのアストロトレインにかけている。
トレインモードのアストロトレインに跨り、指摘されたところを熱心に洗う。
今日は少し暑いからまだいいけど寒かったら絶対受け付けねぇ。

「…黄砂だらけじゃねぇか…」
「ちょっとなげぇこと飛んでたからよお」
「ちゃんと洗浄しろよ」
「そこ痒い」
「黄砂が隙間に入ってんだよ…」

何だかんだで自分は綺麗好きでもある。

アストロトレインは黄ばんだ砂がこびりつき汚らしかった。
それだけじゃない。埃まみれ、雨の日を走って飛び散っただろう泥水。鳥の糞がないだけましか?

正直自分以外が汚らしくても関係ないのだがこうも汚い部分を見せびらかされ
「掃除してくれ」と頼まれてはぞんざいな仕事はしたくない。

「ブリッツの馬鹿に頼んでもやってくんなくてよ」
「…俺だって普段ならやんねーよ」
「今日お前を助けてやったのは?」
「…アストロトレイン」
「そういうこった」

サイバトロンから助けてもらった「貸し」は車体洗浄で良いらしい。



「…お前…滅多に洗ってねぇだろう」
「いや、水浴びはしてる」
「その後拭かないで飛んでやがるな…埃塗れじゃねぇか」
「あー」
「こことか岩肌に擦った後つきっぱなしじゃねぇかよ!だ〜もう…」

後で俺の自室にあるコートとパウダーで穴埋めて、ナノポリマーでなだらかにして…
その後着色とワックスで何とかなっか〜?と傷を擦る。
数回傷を撫でているとアストロトレインが喋った。

「痛くはねぇんだぜ」
「しってるよ。目立つってんだ」
「そうか?」
「あぁ、洗い終わったらちょっとやってやっから…」
「…」

傷から手を放して上から降りると上からでは視認できなかった汚れを落としていく。
正面から後ろまで、更にハッチの隙間から車輪まで。全て掃除していると結構時間がかかった。

大体洗い終わったのを確認してから「開けてくれ」と言うと
アストロトレインは黙って体内への侵入を許してハッチをあけた。
トレインモードの中に侵入すると自分らサイズのでかい布を探した。
洗ってくれと頼まれてから「じゃあ布と、掃除道具一式持って来い」と告げておいた。
体内にしまいこんであるはずだと探しだす。布を見つけるとばさばさと何度かはためかせてから
外に出て汚れていないか確認する。

「よし、じゃー拭くぞ」
「別に拭かなくても」
「濡れたまま飛ぶから黄砂がつくんだぞ!!」
「…」

正面にまわり拭き始める。文句を言われるかと思ったが黙りこんだ
アストロトレインは一言も喋らずそれを享受していた。
紫の機体を拭いていき、汚れがまだ目立つところには軽く息を吹きかけて拭い落とした。
正面から一周まわって拭き終えてもう一度正面に戻ってくる。
へこみはまだだが汚れの落ちた紫色に顔がにやける。

「…うん。綺麗になったな」

トレインモードで顔に当たる部分を撫でてうっとりと呟いた。

「…」
「ん?何か言え、わっ!」

ギゴゴっと音を立てたいきなりのトランスフォームにびびる。
自分よりも背の高いアストロトレインが自分を見下ろしてきてギクリと身体を強張らせた。

「な、なんだよ」
「お前良い仕事すんのなぁ」
「と、当然だろ」
「…言われてみりゃお前いつも装甲整えてんもんな」
「……さ、触んなよ」
「おー」

羽やインテークをよくよく見られて身をよじる。
今自分がやっていたように羽の先から指先をつつっと伝わらせて背中に回り
隙間にゴミや埃が入り込んでいないのを確認しながら正面に回ってきたアストロトレインは
自分の顔を掴んで覗き込んできた。両頬を包まれ覗き込まれると流石に振り払った。

「そうだ。お前も洗ってやろうか」
「いらねぇよ…サンダークラッカーに頼む」
「あいつ?」
「あいつ。結構丁寧だぜ。お前みたいなずぼらな奴には任せらんねぇよ」
「言ってくれるじゃねぇか」

終わったんだから俺の部屋よってリペア室行くぞっと告げるとアストロトレインはへいへいと
半分笑いを含んだ声を発した。その声はただの笑い声じゃないと何となく勘付いた。

「…なんだよ」
「お前結構世話焼き?」
「ちげぇよ」
「そうだって」
「ちげぇ」
「わかったよ」

じゃ、いこうぜと肩を抱き寄せられて顔を歪める。
何となく密着率が高い。避けようとしてもますます強く抱きしめられるだけだった。

「触るなよ」
「綺麗になったんだからいいだろ?」
「…何がいいんだ…」


いっそへこみをもっと酷い事にしてやろうかとも思ったが
それは自分の美的感覚に外れるなと諦めて自室へ向かった。









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アストロ+スタスク。洗車とかやっぱあるんかなーと。
アストロの清掃はすげぇ面倒くさそうw



オマケ





「はい。終了」
「…おお」


腕にあった擦り傷が跡形もなく消えるとアストロトレインは感嘆のため息をだした。


「お前リペア技師なれるんじゃね?」
「リペア技師とはまた微妙に技術がちげぇ。医者と塗装屋くらいちげー」
「へぇへぇ」
「お、おい!触るなよ!」

正面から両肩を掴んできたアストロトレインを睨むと笑われた。

「なんで?」
「お前今紫色の塗装乾いてないだろ!」
「あ、そか」

アストロトレインの紫色を作るに一番時間がかかった。少し薄い紫だからだ。
メガトロンなんかだったら大量に作り溜めしてるから速いんだけどな。

「あっば、ばか!つく!」

更に抱き込まれそうになって身じろぐ。
アストロトレインの腕や腰の辺りが乾いていない塗装のせいでテカテカと光を反射する。

「動いたら、ついちゃうかもな」
「アストロトレイン!!」
「まだ塗装余ってるし、お前も紫色塗っちゃう?」
「死ね!!」

流石にいらっときて自分より背の高いアストロトレインの顎に拳を振り上げた。

「いってぇえ!」
「へこめ!」
「本当にへこんだらどうしやがんだ!てめぇこら!」
「いっそ死にやがれ!」

そのまま走って逃げ出すとアストロトレインが「覚えてやがれ!」と怒鳴り返してきた。

「こっちの台詞だぜ…次はへこみじゃすまさねぇ!」


走りながら自室に向かう最中、自分の肩に紫色が少しだけついていた。
あっと思って少し拭うとやはりそれはまだ乾く前のアストロトレインの紫色だった。

「部屋にまだ白のストックあったっけな…」

なかったら困る。
そう思いながらもうアストロトレインの馬鹿はリペアしないと誓うのだった。