メガトロンはガチガチと震えていた。 サウンドウェーブが哀れを含んだ視線を送るとメガトロンは歯を引き締めた。 しかしそれだけで身体の震えが収まるほど簡単なものではなかった。 メガトロンは真冬、北極の白雪に全身包まれたような感覚が数時間続き どう努力しても身体はがちがちと摩擦熱を求めて震えてしまう。 「メガトロン様」 「…なんだ」 白い息が漏れないのがおかしいとメガトロンは違和感を感じていた。 それでも声をかけてきた忠臣に今出来る限りの破壊大帝らしい顔と声で返事を返す。 サウンドウェーブは無言でその表情を受けていつも通りの平坦な声をあげた。 「…スタースクリームを回収するか」 「何故だ」 「…見るに耐えない」 「それは儂がか。愚か者」 サウンドウェーブはわざとらしく下を向いた。 メガトロンはサウンドウェーブの視線の送り方は自分の目線を追えと言っているようで視線の先を追った。 自分の足元に注がれた視線の先にはやはり自分の鉄製の足が2本そろっていた。 しかしその2本をせかせかと擦りあわせ、まるで貧乏ゆすりのように足を動かす様は確かに見苦しいかもしれない。 破壊大帝は自分の無意識の行動に少しだけ、いやかなり恥じた。 ぱっと足を離してしっかりと両足を床に置くとサウンドウェーブを見た。 「…スタースクリームを回収するか?」 「…頼む」 コンドルに連絡を入れるサウンドウェーブを眺めながらメガトロンは小さいため息を吐いた。 やはりそのため息は白い息として吐き出されることはなく この寒い中なのに実は室内の温度はそれほど低くないことを再確認させた。 * コンドルが一鳴きした。 その声は北極の吹雪に負けないほど大きくジェットロンはその声をしっかりと聞き取っていた。 サンダークラッカーの懐でぬくぬくとしていたコンドルが頭をもたげて鉄羽をばさりと広げた。 「お、どうした?」 「コンドル?」 もう一度一鳴きしてスタースクリームへと飛んでいく。 スタースクリームはメガトロンが寒さを例えた北極の白雪にどっぷり浸かっていた。 それでもスタースクリームは心地良さそうにアイセンサーを細めて雪の中を泳いでいた。 コンドルが少し躊躇いながらも少しだけでたスタースクリームのインテークに舞い降りた。 「引き上げるつもりか?」 「コンドル寒くて飛べるのかぁ?」 「そんなやわじゃねぇよ」 ジェットロンの2体がそれを眺めつつ身体を震わせた。 自分達も寒いのだ。早々に立ち去りたいと思っていたところだ。 コンドルはインテークを掴みスタースクリームを少しだけ持ち上げ引き上げると雪というよりも 氷というに相応しい堅い地面へと投げた。 いてっとスタースクリームが起き上がる。コンドルをにらみつけるとナルビームを構えて応戦するという意思表示を見せ付けた。 「てめぇコンドル!」 『スタースクリーム』 「あぁ!?…サウンドウェーブか?」 『メガトロン様が戻ってこいといっている』 「…せっかく身体が冷えてきたのによ…」 『…お前は今自分の体温調節が出来なくなっている。無造作に冷やすと凍りつく』 「…早く言えよ」 そういうと自分の腕を見た。 視線をあてた腕は凍り付いていた。ナルビームは分厚い氷で覆われて動作不良を起こしかけていた。 スタースクリームは身体を見渡し、飛べなくなっている羽を見た。 そこも凍りつき、飛ぶには解凍するしかないと気付くと構えていたナルビームを降ろしてコンドルをみた。 「…コンドル。運んでくれ」 コンドルはまた一鳴きした。普段主に名前を呼ばれた時よりも 仕方なさ気なその音質にスタースクリームは文句言いたそうな表情を送り返した。 「んだよ。早く」 そこまで言うとコンドルはスタースクリームの足元を撃った。 直撃はしないながらに堅い雪は割れ、スタースクリームを転ばせるには十分すぎる攻撃力だ。 大げさに頭から倒れこむ航空参謀をみてジェットロンは笑った。 スカイワープは両手を叩いて喜ぶと指差して笑い、コンドルに賞賛の声をかけた。 サンダークラッカーも口元をにやけさせ笑う。 「へっへっへ…凍っちまったのはスタースクリームだったぜ。だっせぇ!」 「コンドルが航空参謀の方が良いんじゃねぇのか?おい」 口元をゆがめ、今にもナルビームを発砲しそうなスタースクリームが起き上がる前に コンドルはその足を掴むと基地へと来た道を戻るのだった。 基地につくまでの間、スタースクリームはぎゃんぎゃんと騒いで喚き散らした。 しかし雪や氷が見えなくなり、赤道に近づくにつれてスタースクリームは静かになっていき たった少しだけ温度が上昇しただけでスタースクリームは暑いと言い始めた。 コンドルのスピードに平行して飛んでいるジェットロンに助けを求める視線を送りつつ スタースクリームは足首を持たれ、逆さまな状態でぐったりと連行された。 一鳴きしたコンドルは海底基地上空へとつくとサウンドウェーブがそれに気付いて 海上が山を作るようにせり上がりそこから見知った我らの基地がでてきた。 それを見てスタースクリームを吊り上げたコンドルがまず先に、次にスカイワープ、サンダークラッカーと続き やはりまだ熱風を発する基地内へと入っていった。 「メガトロン様!」 「ス、うお!」 メガトロンは両手をスタースクリームに向けた。 誘い込むように広げたわけではなく突っぱねるように両手を伸ばしたのだが それを払いのけるとスタースクリームは「これを待ってた」とばかりに抱きつき ぎゅうぎゅうとメガトロンを抱きしだいた。 メガトロンは歯をむき出しスタースクリームの首を掴んで引き離そうとしたが 触れた手がじんと熱湯を浴びたように熱くなった。熱いと感じ取る前に今度はゆっくりと暖かさが全身を包んだ。 それは今まで自分を氷の厚壁に閉じ込めていたような寒さから掬い上げて何かに包む様な暖かさだった。 ぐっと眠りが自分を誘った。抵抗する気がどんどん失せていった。 「…メガトロン…っ」 スタースクリームの身体は冷たかった、のだと思う。 翼や腕からナルビームにかけ凍りついているがそれよりも自分の身体にスタースクリームの身体は 良く馴染み思わず抱き寄せて安堵のため息を吐いてしまった。 スタースクリームは自分の名を呼んでいた。甘く、囁くようにメガトロンメガトロンと呟き 時折すりすりと擦り寄ってくるその声、動作はまるで恋人同士のようなものだった。 「…メガトロン様…」 「…うわぁ」 「こりゃだめだ…」 声にアイセンサーを光らせて声の主である3体を見た。 3体は先ほど同様引いているようで「うるさい」と目で制する。 認めたくはないがスタースクリームが居ないと自分はまともな行動を取れそうにない。 身体は凍え、凍結ガスで関節を凍らされたように動きが鈍く判断能力も著しく低下する。 しかしスタースクリームが自分の身体に触れているときはどうだ。 身体が、全身が暖まり普段よりもエネルギーに満ちている気がする。 自分の手を見て少し握りこんでみた。ゆっくりと融合カノン砲にも目をやる。 やはりカノン砲も熱をおび、エネルギーに満ちているのが理解できた。 むしろ普段よりエネルギーの回りがいい。今ならいつも以上の力が発揮できる気がした。 …きっとこれが「シンクロ率の一定、安定化」なのだろうか。 スタースクリームに触れている間のみ、確かに身体のエネルギーの安定を感じる。 それはスタースクリームもきっと同じだろう、つまり自分とスタースクリームは一緒に居る間は 普段よりも強くなっているということだ。これがサイバトロン兵器の本当の力なのか。 失敗さえしなければ常に一緒に居なくてもいい、それでいてパワーアップを促進する都合のいいものだったのだろう。 ちっと舌打ちをする。こいつが愚かな真似さえしなければ。 すりすると触れてくるスタースクリームの頭を掴み床に投げつける。 「いってぇ!」 「愚か者め!」 「な、なんなんだよあんた!あんたが呼んだんだろ!?」 「まずはこの力がどれほどが調べる必要がありそうだな…」 スタースクリームの背中を踏んで、そこから身体を暖める。 あぁ、よかったと安堵した、全身で抱きつく必要性などないのだ。 少しだけでも、一部分だけでも触れておけば体調は多少よくなるようだ。 これならサイバトロンにこの自分の力を試してみるのも面白い。 背中と翼をがすがすと踏みしめながら破壊大帝は笑った。 そんなスタースクリームを踏んづけた状態の破壊大帝を見て 今まで傍観に達していた3体は嬉しげな、安堵を含んだため息を吐いた。 これでこそ破壊大帝。これでこそスタースクリームとメガトロンの関係だ。と微笑んだ。 * 「撃てスカイワープ!」 「へい!」 基地内の射撃場にてスカイワープが拳銃を構えた。黒と紫に銀のワルサーは実に絵になった。 戦闘慣れしたジェット機がかちゃっと丁寧にワルサーを構えて息を止めた。 敬愛する主を両手に収めて普段はへらへらするか面倒臭そうにしてるか苛立ってるかの表情を 凛とさせたスカイワープが遠く離れた的めがけて一度発砲した。 サウンドウェーブが隣でそれを見ると的の当たった部分を見つめた。 「どうよ」 「…的には当たっている。が、精度はよくない」 「っかしいな…」 スカイワープは狙撃の腕には自信があった。まだセイバートロン星に居た頃狙撃の練習を何度もしたのだ。 理由はスタースクリームとサウンドウェーブがトランスフォームしたメガトロンを構える姿が羨ましかったからだ。 現にメガトロンは自分の狙撃の腕を知って撃たせてくれるようになった。 戦争中の今現在、的に銃口を向けて練習射撃をしているのは決して「腕を磨き上げたい」という理由ではなかった。 メガトロンが確かめたいことがあるから自分を使って的を撃てと命令したからだ。 「何点?」 「…5点だ。何より破壊力がかなり低下してる」 「なんだと?」 スカイワープが両手で大事そうに抱えていた白銀のワルサーが動くと地面に降り立った。 地面に落ちてガツンと音をさせる手前でトランスフォームするとサウンドウェーブとスカイワープよりも 少しだけ背丈のある主人が現れた。 「威力が低下しておるだと?」 「普段よりも半分以下だ」 「ふむ…精度落ちもスカイワープのせいではなく儂のせいか…」 「メガトロン様…」 スカイワープが嬉しさと戸惑いを混ぜた表情でメガトロンを見つめる。 当のメガトロンは顎に手を当てて考え込むと背後にいるスタースクリームの名を呼んだ。 「スタースクリーム…おい。スタ…」 「聞こえてますよ…」 「…なんだそれは」 氷山の一角を削り取り持って来た氷にスタースクリームはへばりつくとそのままの格好でメガトロンを見た。 サンダークラッカーが困った表情で「止めたんですけど…」と発言しスタースクリームの傍に立つ。 「…捨てて来い」 「嫌です」 「捨てろ」 「嫌です」 「…わかったからこっちに来い」 手招きをすると氷から離れたスタースクリームが近くに寄ってきた。 言わずともぺったりと腕に触れてくるスタースクリームを鬱陶しげに見てトランスフォームする。 「次はお前が撃て。スタースクリーム」 「へいへい。撃ちゃあ良いんでしょ」 スカイワープ同様、的へ向けてメガトロンを構えるとスタースクリームは少しだけアイセンサーを細めた。 スカイワープとサウンドウェーブがその先の的を見つめるとスタースクリームは「じゃ撃ちますよ」と宣言した。 スタースクリームの手に収まりトリガーに指をかけられたメガトロンは身体が芯から暖まるのを感じていた。 スカイワープでは感じなかった暖かみと全身に広がるエネルギーの流れ。バレルに熱が溜まって そこから今まさにエネルギー弾を打ち出すのがスローモーションのように感じられる。 一筋の光が的へと放たれた瞬間身体全身が痺れた。 「いってぇっ…!!!」 だらしなく構えていたスタースクリームがトリガーを引いた瞬間に後ろに反動で反り返り 踏ん張りがきかないままに赤い尻を地面に強打し、そこを撫で擦った。 反動で手が痺れてメガトロンを床に落とすと今度はカツンと音を立て、堅い床で2度跳ねた。 「メガトロン様!」 「メガトロン様!!」 「…大丈夫だ」 駆け寄ってきた忠臣たちをトランスフォームし手のひらで制して立ち上がる。 未だに床に転んだままのスタースクリームに仕方なく手を差し伸べると 少し驚いた顔をしたスタースクリームはその手を掴み立ち上がった。 「ふ、普段より反動が強かったんだ…わざと落としたんじゃ…」 「わかっとる。…儂もそれは感じた。力の制御がきかなかったわ…」 「メガトロン様…」 サウンドウェーブは的を指差した。スタースクリームとメガトロンがその指を追って的をみた。 「…的はどこだ」 「粉砕した」 「はぁ?あれ、かなり丈夫な鋼鉄使って作ったんじゃ…」 「それが形も残らず砕け散った」 「…何処に当たったか見たか?」 「的の中心。ど真ん中だ」 「…スタースクリーム。何か変わったことは?」 「…いつもよりもよく見えたぜ?手ぶれもしなかったしよ」 「…ふむ」 メガトロンは自分の手を見た。先ほどまで体中に流れるエネルギーを全て掌握していたのに今では 何も感じない。むしろいつも通りだった。先ほどまでがあまりにも調子良かった。 「やはり…思ったとおりだな」 「な、なにが」 「お前に触れている間は能力が爆発的に上がる。多分、お前もだろう。よく見えたのだろう?」 「…あぁ」 「その代わり、反動として触れ合っていない間は体温異常や無駄にエネルギー消費をするようだな…厄介だが使えなくもない」 にぃっと笑うメガトロンはその有能なブレインサーキットを動かし次なる作戦を考えていた。 そうだ、サイバトロンを罠にはめて。それで、…む、寒い。 スタースクリームの腕を掴んで引き寄せる。 わっと驚きのあまり珍しく幼げな声を出したスタースクリームに目もくれず作戦を考えた。 「…いい考えが浮かんだぞ」 「…あ、あの…っ」 「メガトロン様」 「…その状態では説得力がない」 スタースクリームの細い腰に手を回し抱きしめたまま破壊大帝の笑みを浮かべたメガトロンを 部下は「仕方がないのはわかるんですけどね」とため息を吐いて眺めた。 スタースクリームも腰に回された手を恥ずかしげに受け入れていた。 冷たくて気持ちが良いものを払いのけられるはずがないのだ。 「…しかし、今日はここまでだ。少し疲れた。皆休め」 「はい」 「了解」 「…あの、俺は」 「…お前は儂の部屋に来い。お前が居なくては無駄に体力を消耗するだけとわかったからな」 「…あー、はい…メガトロン様」 困った表情のまま笑みを浮かべたスタースクリームの手を引いて自室へと向かった。 こいつを室内に招き入れるのは珍しくなかったが泊めたことはなかったなと思い出す。 むしろ寝台は一つしかない。メガトロンは寝室につくまでの間、どうしたものかと考え続けた。 「…あのー」 「どうした」 「…俺様を」 「あぁ」 「寝台に」 「あぁ」 「あげやがれ」 スタースクリームはメガトロンを睨みあげた。 ふかふかの地球製の寝台に寝転ぶ破壊大帝を床から見上げて航空参謀は悪態をつく。 メガトロンはそれを寝台の上より静かに見下ろしてから怪訝な顔をつくった。 「まさか貴様…主人と同じ寝台で眠るつもりか?」 「あんたが床で寝ろ!」 「ふざけるのも大概にしろスタースクリーム」 床に寝転んだスタースクリームの羽先だけを掴んでメガトロンは今まで見ていたデータから視線をずらした。 ずらした先にはスタースクリームが呪い殺さん勢いで睨みつけてきていたがメガトロンは ため息一つついて仕方なさそうな視線を送った。 寝室につくまで考えたがあまり実現できそうな方法は思い浮かばないままで 仕方なく床を指差してお前はここだと言うしかなかった。 寝台で共に寝る気など起きないし自分が床だなんて気は破壊されても起きないだろう。 「儂にどうしろと?」 「俺も寝台で寝たいんだよ」 「お前の寝台は鉄製だったろう。床とそう変わらんではないか」 「視界の高さがちげぇだろ!大体あんたのその寝台なんだよ!地球製のスプリング付きたぁ、また大層なご趣味で!」 「気に入らんか。なら床で良いだろう」 その言葉を言い終わらんうちに寝台にスタースクリームの膝が乗った。 ぎししっと音が鳴って軋むとスタースクリームは「ふんっ」と拗ねたように寝転んだ。 「こっち向くなよ!」 「それは儂の台詞だわい。少しでも暴れれば床行きだぞ」 スタースクリームが背を向けて眠りにつこうとする。 羽の一部が背中に触れ、それだけで体温を保とうとするのは少しだけ辛いものがあった。 触れている部分が大きければ大きいほど暖かさを得るスピード、量、熱全て違う。 出来ることならもっと触れたいと言う気持ちは押し付けていた。 しかしそう思っていたのは自分だけではなかったようで、しかもこの部下が我慢なんて出来るはずもないのだ。 「…」 「…どうしたスタースクリーム」 「あの、ちょ、ちょっとだけ」 「…」 羽が一度背中より離れると次は2つの手のひらが背中に触れた。 背中向きからこちらを向いたのに気付いたが引き剥がさず黙って受け入れてやった。 先ほどよりも触れる面積が大きい分、暖まる速度も速く感じられる。 「…はぁ…っ」 スタースクリームが満足するような声を上げた。背中からスタースクリームの熱を感じる。 最初は恐ろしいものを触るような手つきで指先が触れ、徐々に面積を広げ手のひら全体が触れ こいつからしたら冷却作用を求めてなのだが、儂の背中をいとおしげに数度撫で擦るように触れた。 自分も止めないあたり、バカバカしいがこの暖かさがないと眠りにも落ちれない。 羽先だけが少し背中に当たる程度じゃ足りない。もっと強く触れていたいと思うのはお互いなのだ。 「…」 「…っ…」 スタースクリームが今度は頬も背中に当ててきた。すりっと猫が手に頭を撫でつけてくるように 背中にスタースクリームが何度もくっついてきて自分のスパークが脈を打った。 身体の密着率が上がり体温が平均値まで整えられていく。 あぁ、もう我慢ならんわ。この愚か者のスタースクリームめが! 「うわぁっ!」 「この…っ」 上半身を寝台より起こして背中に両手を当てたままだったスタースクリームの腕を掴み 手首が取れるんじゃないかというほど握りこんだ。 スタースクリームが大声をあげて痛がるそぶりを見せるが冷たさを求めて自分を振り払わなかった。 痛いと小さく悲鳴を上げて握られていない方の手で殴られないように頭を守る動きに出る。 「な、殴らないで!」 「愚か者!」 腕を引き寄せて正面から抱きしめる。 スタースクリームが硬直して自分の背中に回させた指先が震えたのがわかった。 こんな生意気な部下を抱きしめるなど普段ではありえないがくっついていた方が 有益なのだ。エネルギーも消費しない、調子も良い。 破壊大帝あるもの、私情よりも有益さをとるものだ。 腹が立つが、傍から見たら異様な光景かもしれないが、それでも自分の体調と、エネルギーのためならこんなこと耐えられる。 「…寒いのか?」 「ち、ちが、います」 熱いわけでもない、寒いわけでもないのにスタースクリームの指先は震え、口からでる息は熱さを帯びていた。 それでも震える指を背中に回してきて正面より抱きつくと先ほどよりも満足な声がでている。 やはりこいつも密着したいのだ。お互いやっかいな身体になったものだ。 メガトロンの白銀の胸に顔を寄せてきてスタースクリームはアイセンサーの出力を落とし始めた。 それを見やり暫くスタースクリームを好きにさせると満足げなため息は消え、一定のリズムで呼吸が聞こえた。 「…」 少しだけ身じろいで表情を伺うとスタースクリームが眠りに落ちているのを確認できた。 無意識にその顔に手を伸ばし、額を一度撫でるとそこから奪った熱で自分が熱くなるのを感じた。 「…よく眠れ…スター…スクリーム」 そう言い終えて欠伸を一度するとメガトロンは普段よりも狭い自分の寝台で眠りに落ちた。 →