「……」 下半身の倦怠感と、サウンドウェーブの後姿を見ると 自分達が今まで何をしてたかはっきり思い出せて恥ずかしかった。 今日はいつもよりも性急に事を進められたのだ。 待ってくれと言ってもやめないサウンドウェーブが格好よくも見えるし 怖くも見えるしそれでも嫌じゃなかったのが自分の本心なのだろうか。 サウンドウェーブにばれないように顔を手で隠しながら後姿を眺める。 手には小さい瓶。それをたぷんと音をさせてゆすっている。 それをサンダークラッカーは寝台に横になりながら見ていた。 あれってなんなんだ…?いっつも飲んでるよな…サウンドウェーブ… ゆっくり小瓶を呷るサウンドウェーブを見ながら サンダークラッカーは小さいため息を吐いた。 tranquilizer 「起きてたのか」 「え!あ、ごめ…」 小さいため息は聞こえていたようで サウンドウェーブは飲み干した小瓶を端に寄せるとこちらを向いた。 「痛むか」 「だ、大丈夫だぜ…もう…慣れたし…よ」 サウンドウェーブを直視できない。 交歓行為後はいつもそうだ。どうしても気恥ずかしくなって、顔を隠してしまう。 サウンドウェーブも無理やり顔を覗くような無粋な真似はしないし それが自分的に助かってる。 スカイワープやスタースクリームは「あいつは嫌な奴だ」 「あいつを好きになるお前はおかしい」だなんて言ってくるけど 基本的に優しいし、俺はサウンドウェーブのこと結構好きだ、と思うんだけど。 「ん、なに…?」 「……」 ゆっくりと圧し掛かってきて指を絡めた。 サウンドウェーブは事後はあまりちょっかいをだしてこないので珍しい。 マスクをしたままのサウンドウェーブが額同士をこすり合わせて バイザー越しに見つめてくる。 恥ずかしい。口をもごもごさせてその視線を逃れようとする。 「もう一度」 「…まじかよ…」 嫌そうな声を出したけど本当は嫌じゃない。 戸惑うのは自分の癖みたいなもので、好きだって言われるとむず痒いし。 繋がりたいって言われるとどうしたらいいかわからない。 でも抵抗しないってことはどういう意味か読み取ってくれる サウンドウェーブが好きだ。 音がしてマスクが外れると鼻筋を一噛みされる。 絡まった手とは逆の腕が動き、せっかく処理を終えたキャノピーを するっと撫でる。 「わ、わわ」 「今度は、ゆっくりやる」 「ん、ん」 首をこくこくと頷かせるとサウンドウェーブから満足そうな空気を感じた。 この言葉にせずとも、わざとらしく笑わなくても、雰囲気で意思疎通が取れる。 これが気に入ってるんだ。 行為後、サウンドウェーブはメガトロン様に用があるとかで先に退出した。 サウンドウェーブの寝室に一人でいるのは落ち着かない。 とりあえず下腹部を処理して寝台から起き上がった。 「…なんだろな。これ」 薄い赤紫の液体の入った小瓶。 ゴミ箱に投げ捨てられていたその瓶をわざわざ拾い出して覗き込む。 中身は身体が何滴か残っている小瓶をゆすってみた。 「…スタースクリームならわかるかな」 サウンドウェーブに直接聞けないのは自分の直感だった。 * 「…これどっから持ってきた?」 「え、や、いつも飲んでるからよ…もしかして薬か何かか? サウンドウェーブどっか悪いのか?」 「……」 スタースクリームは珍しく科学者モード入ってて、ラボに篭りっきりで 分析していたのでついでに小瓶を渡して頼んだ。 自分の趣味兼仕事を邪魔されて嫌そうな顔をしたが少しだけ残った液体を 見て受け取ってくれた。 「…色がおかしいな」 「色でわかるのか?」 「だいたいな。てめーとは頭の出来が違うからよ」 「……」 少しむっとするとスタースクリームは笑って椅子まで移動して 背もたれに寄りかかった。 話を聞く体勢になってくれただけでも奇跡に近い。 「いつでも良いんだな」 「あぁ。時間ある時で良いからよ」 「わかった。そのうちな」 瓶から残り液を専用の試験管に移し変えデスクの上のクランプに設置する。 木でできた蓋をすると蓋に日付を記入した紙切れを貼った。 それは科学者時代の癖なのだろうかデスクの上にあるビーカーやら 三角フラスコやらにも同様に日付が記載されている。 スタースクリームのやる気あるんだかないんだかの顔を見る限り 後回しにされそうだな… それでも頼むぜっと後押ししてスタースクリームのラボをでた。 サウンドウェーブ怒るかもな…むしろばれてるかも。 ゴミとはいえ勝手に持ち出したからな。 しかしそれは自分の思い過ごしでサウンドウェーブとの仲は 今まで通り進んでいった。 5日後くらいに渡した液体の分析結果がでた。 スタースクリームが本当にやってくれるだなんて奇跡を通り越したろ。 「…これ、サウンドウェーブどれくらいの量飲んでんだ?」 「んー…多分2、3日に一本?その瓶で満タンの量だな…」 「…別に俺はサウンドウェーブがいねぇほうが良いからとめねぇけどよ」 「うん?」 「あんまり飲むのは進めないぜ」 「何でだよ?」 スタースクリームは暫く黙った後ため息を吐いた。 「…精神安定剤だ。ブレインサーキットが冷静さを失った時に 身体を抑えて脳内の興奮を促す電子をシャットダウンする」 「…えーと?」 「頭悪い奴には説明が長くなるから嫌なんだよなぁ」 「ただの安定剤だろ?サウンドウェーブどっか悪いのか?」 「ただの安定剤じゃねぇよ。お前なんかが飲んだら馬鹿になるぜ」 スタースクリームの説明はいつも雑だ。噛み砕いて教えてくれない。 困った顔でスタースクリームを黙って見つめているとスタースクリームは 解析データをゴミ箱に捨てた。 「どんだけのもん抑えてるかしらねぇけど、こんなの1週間に2本も飲んでみろ。 電子の流れを絶ちすぎて空っぽになっちまう」 「…サウンドウェーブが?」 「…詳しくは本人にでも聞けよ」 スタースクリームは再度科学者モードに入ると両手に解剖機具を持って 先日摂取した新種のエネルギーを解剖し始めた。 これ以上声をかければ「うるせぇ!」と撃たれるのがわかって背を向ける。 サウンドウェーブに聞いたら、いいのか?聞いてもいいのか? なんで安定剤なんて持ってるんだ? 出て行ったサンダークラッカーを背中に感じつつ扉が完全に閉まったのを 確認してスタースクリームは構えていた解剖機具を一度降ろした。 「…俺だったらあんなもん飲んでる奴とは…つきあわねぇけどな」 誰に言うでもなく呟くと薄いバイザーをかけてスタースクリームは解剖を再開した。 →