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それを聞いたとき、自分は思った以上に落ち着いていた。
自分の中に覚悟があったわけでもなく、その言葉は確かに自分を驚かせていたはずだ
それなのに酷く落ち着いた様子で「はい」とだけ呟いた。

「準備が整い次第呼ぶ、いいなスタースクリーム」
「はい、フォールン様」



viviparous
 



どうして自分なのだろうと言う疑問はなかった。
そんな疑問よりもフォールンはどう自分を抱くだろう、そんなくだらない疑問が
頭を埋め尽くしていたのは現実逃避に近かったのかもしれない。
自分がトランスフォーマー、ディセプティコンの卵を準備するうちの一体になるのは
ある意味で名誉なことなのかもしれない、それが体内に情報を仕込まれる内容でもだ。

『お前に大昔の生産法を教える』

見当がつかないこともなかった。メガトロンがいなくなり、オールスパークすら
破壊されてしまった今、トランスフォーマーは絶滅の危機に瀕していると言っていい。
寿命という概念のない自分たちでもそれほど遠くない未来だろう。
だからメガトロンに代わり、ディセプティコンの次の道を指すフォールンの
言うことは絶対でもあり、頼りにすべきトランスフォーマーだった。


「…」


あの老体が自分を犯すのがちっとも想像つかない、スタースクリームは顔を指で
なぞりながら考えをめぐらせていた。
詳しくは知らないが自分にデータを送り込む役がフォールンで、それを
膨らませるのが自分の役目だ。

スタースクリームも使い方を知らない機材や、水にぬれたモナカの皮種ように
へにゃへにゃになった鉄塊ばかりが散らばる室内の更にわざと狭い部分に腰をかけて
アイセンサーを細めてるとフォールンの声が通信機を通さずに直接脳に響いた。
あの老獪はそんなことも出来るらしい、恐れ入るが崇めはしなかった。

一言だけ「来い」と伝わってきた言葉に返答を送ることは出来ない、通信機を
使わず、能力で声をかけてきた。それはつまり返答はいらないと言う意味だ、そして
命令である。

準備なんて必要ないだろう、自分の身体があればいいのだから。
それなのに準備には数日かかったようだった、やはり行為に及ぶその全容は
自分に想像できるものではないのかもしれない。



「お待たせしました、フォールン様」
「よくきた」
「…」

フォールンは先日から数センチと言う単位で動いただけの変わり映えない態度を
自分に晒してくる、特別の機具は必要ないのだろう。
しかし自分が現れても立ち上がるどころか指一本動かさないところを見ると
「お前が動け」という意味だろうか、スタースクリームは一歩近づいた。

「私めが動きましょうか、上に乗れば…?」
「何を言っている?」
「…私の中にデータを送り込むのでは?」
「ふっ…」

フォールンは鼻で笑いアイセンサーを明滅させた後にまるでスタースクリームのような
愚かな生物は視界に入れたくないとでも言うように顔をそらした。
スタースクリームは金属の奥歯を噛み締めるだけでその屈辱を耐え忍ぶと「では?」と
控えめに聞いた、まさか想像とはまったく異なるのだろうか。

「お前如きに何故直接手を下す必要がある」
「…」

今度の屈辱は堪え切れそうになかった、顔をしかめ、アイセンサーに怒りを
灯すとフォールンが顔をそらしていて良かったと思える。

「では」
「…準備は整った」
「…!」

背後から気配を感じた、足音は一つもなく、ふんわりと何かが近寄ってくるのに
気付くとスタースクリームはようやくその怒りに満ちたアイセンサーを隠して
肩越しにそれを見ようと顔をかすかに背後に向けた。

「適任者がいる」

アイセンサーにチラリと入り込んだ無数のケーブルに肩越しなんて真似はせず
身体ごと振り返り警戒態勢をとった。
ここ数日、フォールンに何を言われても焦ることなどなかった自分に焦りが
生じた、ブレインサーキットが戦闘前のように燃え上がり身体中に新しい電力を
送り込み始める。いつでも素早い行動にでれるようにだ。

「そう威嚇するな、ディセプティコンの中でも優秀なものを用意したのだ」
「…サウンドウェーブ…!」

浮いている身体をふわりと床につけるとようやく生物の足音が聞こえた、汚い床と
足が擦れるたびに砂利を踏むような、鉄同士がぶつかる音を奏でる。

「サウンドウェーブが方法を知っている」
「…こいつと…?」

サウンドウェーブが数本ケーブルを腕に巻きつけてきた。
それは無理に引っ張るものではなかったが優しく置いてくるようなものでも
なかった。身体中に満ちる電力がそれを受けると自分の持てる最高速で逃げようと
腕を引く。

「ここでするか、他へ移るか」
「…貴様などに俺が」
「スタースクリーム」

自分の低い声はサウンドウェーブに向けられていたのにフォールンがそれを
止めてきた、スタースクリームは自分よりも下の立場のものに命令や見下されるのを
酷く嫌う。それは自分より立場が上のものでも態度に出さないだけで同じことだった。

「他に移れ、見苦しい」
「…了解」
「…」

今度は隠すこともなく自分は歯噛みし、ギリっと音を立てた。
顔はサウンドウェーブからそらすこともせず、今からこいつに組み敷かれることを
考えると今すぐ破壊してやりたい衝動に駆られた。
しかしそんな自分の願望は今も昔も叶えられることなどない。


*



この壊れた惑星にあるネメシス内は広いが使える部屋は少ないものだ。
どの部屋も散らかり、とてもじゃないが床に座り込むなどできない、それ故に
使う場所はスタースクリームの室内となった。
サウンドウェーブに部屋などない、常に宇宙へと出ているサウンドウェーブは
自ら部屋など必要ないと申し出ていた。
当時は部屋を持たないサウンドウェーブを笑ったがこうなれば別だ。
今後も過ごす自室で、嫌悪の対象でしかないサウンドウェーブとの行為を
行えば嫌でも日常生活内で思い出させるだろう。

寝台、なんていう物ではなく大きな鉄板を積み重ねただけのベットに
スタースクリームは腰掛けるとサウンドウェーブのケーブルが足と首の上を這った。
怒りは少しも消していない、それどころか強くなるばかりだ、そんな意思表示を
サウンドウェーブに向け続けるとサウンドウェーブは鼻で笑った。

「何がおかしい」
「…おかしいことなどない」
「…ならさっさとすませて出て行け」

サウンドウェーブが積み重なる鉄板に脚をあげてきた、自分の近距離に入り込まれ
全身が嫌でも殺気立つとサウンドウェーブは構わず肩を押してくる。
地球の小さい脳みそを持つ知的生命体、人間にはパーソナル・スペースと言うものが
あるらしいがそれは自分たちにも存在する。
若干、理由に誤差があるが敵対しているトランスフォーマーが手を伸ばせば
捕まえられる距離に居れば誰でも警戒する。
その距離が、確実に互いのスパークを壊せる距離になった今、警戒どころの騒ぎ
じゃないのは当たり前のことだった。

唯でさえ致命傷を与える距離にいるのに、サウンドウェーブはそれを更に悪化
させるように両肩を寝台代わりの鉄板に押し付けてスパークを差し出すように
胸を開かせた。

「…スタースクリーム」
「…」
「俺の個体データをお前に渡す」
「…」
「お前はそれを取り込み、体内で物質に変える」
「わかってる、だからさっさとしろ」

サウンドウェーブの情報に自分の情報を足して目に見えないデータから固形に
するのは口で言うほど簡単なことではない、それは身体の中で行う為
地球上で言えば哺乳類の行う胎生に酷似している。
しかしそんな有機生命体の稚拙な構造と一緒にされては困る、文明の育ちの
悪い地球なんていう星の生命とは異なり我らはトランスフォーマーとして超越した
生物なのだから。

雄も雌もない、データとそれを受け入れる入れ物さえあれば可能な行為なのだ。
問題なのは受け入れるほうの技術であり、うまく固形化できるものがいない。
だからこそのオールスパークだったのかもしれない、スタースクリームとて
できる自信はあれど試したことは一度もないのだ。

サウンドウェーブが身体を重ねてくるのはこれが初めてではないが行為の意味が
まるで違った、サウンドウェーブはスタースクリームの身体に進入し、情報を
漁り、ハッキングして動けなくし、陵辱するのは趣味でありスタースクリームも
それには全力で抵抗していた。何度か打ち負かしたことだってある。
しかし今回の接続は体内にデータを残すことにあった。

「壁を降ろせ」
「…」

サウンドウェーブが体内に侵入した時には毎回起動するようにしている
ファイアーウォールが邪魔をすれば情報を残すことは出来ないだろう。
サウンドウェーブがその壁を邪魔だと思ったことはない、その壁を削るように
穴を開けるように崩していくのが醍醐味なのだ。
しかし今回ばかりは邪魔である、スタースクリームが自分の意思でセキュリティを
解除すれば、体内に自分が今まったくの無防備であると警告音が響いた。

「進入するぞ」
「…早くしろ…!」

首や背中、キャノピーではなく脚を掴まれ左右に開かされると
反射でサウンドウェーブを拒否するようなセキュリティが起動しようとした。
それを意思の力で押さえ込むとサウンドウェーブは難なく身体を押し込んできた。
嬉しくはないがまったく痛みはなかった、サウンドウェーブは誰にも知られること
なくコンピュータやセキュリティに入り込むのが得意な男だ。
レセプタクルとコネクタの規格があわないから痛みが発生するなんてそんな
愚かなことは起こらない。痛みや破損で気付かれては密偵の得意な衛星参謀の
名が廃るというものだ。

わざわざそんな身動きしづらい場所での接続には理由がある。
データを固形化させる場所は腹部であり、そこに近い場所にデータを残す必要が
あったのだ、だからこそ首やキャノピーを使うことが出来ない。

「っ…」

それでも高性能なスタースクリームは体内に入り込んできたケーブルの存在を
身体全体で気付き反応を示している。
データを残す為だからとはいえ、深すぎる進入に苦しさを覚えて呻き声をあげた。

「ま…だか、早くデータを寄越せっ…」
「壁を全て乗り除け」
「もう除いた」
「まだだ」
「っ」

意識の外でやはり拒否しているのかもしれない、勝手にファイアーウォールが作動
していると言うのならそういうことだ。
自分に意思で押さえ込めないというのなら簡単だ。

「お前が撤去しろ」
「…」
「得意だろう…」

サウンドウェーブがかすかに笑った、今のスタースクリームの言葉はサウンド
ウェーブのハッキングテクニックを褒めているのと同義語だったからだ。
自分でも抑えられない部分を他人に押さえ込んでもらうのは恥である、スター
スクリームは歯噛みした。

「一つはお前の意思で撤去されている」
「…?」
「もう一つ、硬い壁がある」
「…そんなものはない」
「今お前にデータを送り込んでも無駄だ」
「そんなセキュリティは存在しない、さっさと送り込め!」

サウンドウェーブが暫く黙った後に腰を動かしてきた、律動し始めるケーブルに
悲鳴が出そうに鳴るのを歯が押さえ込んでくれる。
個体データを送るだけでなく、サウンドウェーブのオイルも必要とするその行為は
どうしても快感を発生させるものだ。
スタースクリームの食いしばる歯がガチガチと悲鳴の代わりに音を立てると
サウンドウェーブは楽しげに腰を進めてくる。

「くそ…っ」
「出すぞ」
「さっさとしろ!」
「…」

スタースクリームは黙ってその衝撃を受け入れると体内にサウンドウェーブの
データを感じた。腹部近くまで差し込まれたコネクタが動くと滑った感覚がする所
からオイルの存在も感じ取った。

「…?」
「…」

スタースクリームは黙って見下ろしてくるサウンドウェーブを見つめ返して
首をかしげた、何かがおかしいのは自分もわかっている。
サウンドウェーブが背中より無数のケーブルを伸ばしてくるとそのケーブルは
腹部にたどり着きそこを擦るように動いた。

「…どうした」
「…やはりデータが消されていく」
「なっ…」
「もう一つの壁だ、データを拒否している」
「そんな馬鹿な…」

自分が欠陥品だと言われた気がした、データを受け取って物質化すること自体は
難しく出来ない者が多いと言われるのに自分はそこにもたどり着いていない。
サウンドウェーブのデータを受け入れることすらできないのだ。

「…ハッキングしろ!」
「…このセキュリティは外からでなく、内からしか解除できない、感情部分だ」
「それをハッキングするのがお前の仕事だろう!役立たずめ!」
「…」

サウンドウェーブが目を細めた。肩を抑えていた鋭い両手が頬を包むと
顔が近づいてきて額同士を擦り合わせる、新手のハッキングなのかと
思ったがそうでもない。

「…何を」
「俺を愛せ」
「は?」

スタースクリームはアイセンサーをサウンドウェーブへ向けたまま困惑の
表情を曝け出した。
サウンドウェーブは暫くその表情を眺め、スタースクリームには
わからないように笑った。
それはサウンドウェーブのハッキングの始まりだった。