「スタースクリーム〜…」 「何やってるんだよー」 サンダークラッカーとスカイワープはスタースクリームの自室前で扉を叩きながら顔を見合わせた。 サンダークラッカーが扉を叩く手を止めてゆっくり下ろすと小さくため息を吐いて スカイワープにどうする?と視線だけで投げかけた。 「反応ゼロだな…」 「おい、スタースクリーム!お前何日篭ってるんだよ!」 「メガトロン様怒ってたぜ〜?」 サンダークラッカーに代わり扉の前に立ち大声で投げかけたが 無視なのか、それとも拒絶の意味をだして寝室内を防音にしているのか。 いらだったスカイワープが扉をガンガンと殴った。 もう数週間に渡りスタースクリームの顔を見ていないのだ。 こうして声をかけようと何をしようと部屋から出てくる気配はなかった。 メガトロンもそろそろカノン砲を構えスタースクリームを襲撃する気配を匂わせている。 スカイワープもサンダークラッカーもそうして大帝とNo.2の喧嘩が始まらないように心配しているのだ。 「おい!こらスター」 「うるせぇ!」 勢いよく開いた扉はスカイワープの顔面を強かに打ちつけた。 「いっ…」とスカイワープが顔を抑えてうずくまるのをサンダークラッカーは 様子を黙って眺めると久しぶりのスタースクリームの顔を見た。 「…で?何してたんだよ」 「見ろよ!ちょっと手間取ったけどよ。やっと出来上がったぜ…」 スタースクリームが自慢げに構えたものをサンダークラッカーは首をかしげて眺めた。 「…兜?」 「マスクだ!!」 mask 「…で?どういう意味なんだ?」 「破壊大帝ともあろうものがお子様用の説明じゃないとわからないと…」 「…」 メガトロンはスタースクリームの作ったマスクを片手にカノン砲をスタースクリームに突きつけた。 スタースクリームは慌てて冗談でさぁ!と叫ぶとわたわたと手を振ってへりくだった。 最初は専門用語だらけのスタースクリーム以外には理解不能な説明だったがそれを もう一度簡単に、誰にでもわかるように言いなおすと極めつけにスタースクリームは結論を言った。 「つまり、そのマスクを被ると誰でもデストロンに忠誠的になるんです!」 「ほう。ならお前にかぶせるのが丁度良いな」 「残念ながらそれは無理な話ですぜ?」 「何故だ」 「そのマスクは正確に言うならば対サイバトロン用でして」 「ふむ」 「メガトロンに忠誠を誓うのではなくデストロンのような行動にでるためのマスクですから」 メガトロンは顎に手を当てて考えた。暫く考えた後にマスクをスタースクリームに投げ返す。 確かにそれならデストロンにかぶせても意味がない。 デストロンのような行動というのは必ずしもメガトロンの有益な行動ではないのだ。 スタースクリームなどがいい例である。しかしサイバトロンにかぶせれば邪魔だけはしなくなるだろう。 「誰に使う気だ?」 「最初はコンボイを考えてましたがまずは試作品としてスカイファイアーを狙うつもりです」 「つまりそれを被るとスカイファイアーはデストロン軍団に降るというわけだな」 「まぁ、そうですかね…善悪の区別をつかなくして本能に忠実に動くように作りましたから」 「…お前みたくならないと良いが」 スタースクリームはメガトロンの言葉に噛み付くとそれから暫くは言い合いをし始めた。 どういう意味ですかね。言葉の意味通りだが。と噛み付き合う2体をスタースクリームの後方にいた サンダークラッカーとサウンドウェーブが黙ってその様子を見ている。 しかしゆっくりとサンダークラッカーが言いづらそうに口を開いた。 「…それどうやって被せるんだ?」 「…え?」 「確かに」 「考えておったのだろう?」 スタースクリームは手の中にあるマスクを眺めて黙り込むと少し慌てた様子で口を開いた。 「も、もちろんです!このスタースクリームにぬかりはありませんぜ!」 「……」 「…考えてなかったな…」 「頼んで被ってくれるような奴じゃねぇしな」 「後ろから無理やりかぶせるか…」 言い訳を考えていなかった分そのわかりやすい嘘は 簡単にばれてメガトロン達はため息を吐いた。 どうして出来がいいはずのブレインサーキットはこんなにも穴だらけなのだろうかと。 「サウンドウェーブ何か手はないか」 「ない。無理やり捕まえて押さえつけて被せるか」 「…あの、メガトロン様。こんな手はどうでしょうか…」 サンダークラッカーが小さく手を上げて小さい声で呟いた。 サウンドウェーブとメガトロンがサンダークラッカーを見ると恐縮した様子で喋り始めた。 「あっサウンドウェーブ。あれ届いたのか?」 「あぁ。メガトロン様の作戦を成功させるための道具だ」 サンダークラッカーはサウンドウェーブに近づいてにこやかに笑った。 サウンドウェーブの手には白いマスクが持たれ、2体はそれを眺めていた。 「スタースクリームはこのマスクを被った者の言うことを聞くようになる」 「メガトロン様に早速届けようぜ」 「これでスタースクリームもメガトロン様に忠誠を誓うだろう」 そんな会話を岩陰より聞いてる者がいた。スカイファイアーだ。 夕刻前の見回りでまさかデストロンの参謀とジェットロンの1体と遭遇するとは 運が悪いと思ったものだが耳をすますと良く知る名前「スタースクリーム」がでてきた。 逃げて司令官に報告だという自分の仕事も忘れてそのまま岩場に身を隠すと会話を聞き続けた。 もし、この時スカイファイアーがスタースクリームの名を聞いても冷静でいられたら 何故わざわざこんな場所でデストロンの中核を担う様な2体が会話しているのか怪しめたはずだ。 しかしスカイファイアーは旧友の名を聞いて冷静でいられるほど物静かな男ではなかった。 そしてサイバトロンにしては少し野蛮な発想が浮かんだのだ。 それを奪えばスタースクリームがデストロン軍ではなくなるのでは。 2体の会話から察するに被ったものの言う事を聞くようになるマスクである。 自分が被ればスタースクリームは自分の言うことを聞いてくれるのではないだろうか。 そうだ。兵器に頼るのは良くないと思うがスタースクリームとまた共にありたいと思うのは当たり前の願いである。 ならばそのマスクを奪い取りたい。この場ならまだしもメガトロンの手元まで行けば もう略奪は不可能だろう。ならばここで奪い取るのが一番である。 しかしどうやって奪いとるか… 「サンダークラッカー。ちょっと付いて来い」 「え?なに?」 「いいから来い」 デストロン2体が顔を見つめあい少しばかり声を潜めた。 スカイファイアーには聞こえない声量で話す2体をスカイファイアーは怪しむことなく 既に略奪する方法にブレインサーキットの全てをかけていた。 サウンドウェーブがマスクをその場に置くとサンダークラッカーの腕を掴むと引っ張って少し離れる。 その動きを見てスカイファイアーはやっと意識を2対へ戻した。 「あ、もうきた?スカイ」 「…」 「ご、ごめん!うん。行く!」 スカイファイアーは影からその様子を覗いていたが何を話しているのか把握できなった。 しかし2体がそのマスクを地面に置いたままその場からいなくなって行ったのを見て チャンスだと辺りを窺いつつも岩陰よりでてそのマスクに近づいた。 白く、頭部から首まですっぽり覆うものだった。 罠か?と一瞬頭をよぎったがそっと片手ですくいあげると変哲もないマスクだと知れる。 1000万年眠っていたせいで今のセイバートロン星の技術は理解し難いがマスクの中には装置がいくつか仕掛けてあった。 これを被ればスタースクリーも私の言うことを聞くようになるのだろうか。 あのスタースクリームが?そんな馬鹿なと思いつつもそれを手放す気に離れなかった。 これならメガトロンが使って、正常に作動するかどうかを確かめてから奪っても良かったなと首を捻る。 軽く頭部にかぶせるように当ててみるとサイズはぴったしだ。 「…」 スカイファイアーは微かに目を細めて研究時代のスタースクリームを思い出した。 彼には一言も告げていないが好きだったのだ。今でも、諦めきれない思いがある。 『スカイファイアー』 にっと笑う彼と、楽しそうに名を呼んでくれる彼にまた会いたいのだ。 息を整えるとスカイファイアーは首までマスクを押し込んだ。 「…はがれねぇなぁ…」 「…」 「何でスカイファイアー無口なんだ?失敗してるんじゃねぇの?」 「いや、ちゃんとデストロンとしては洗脳できてるんだけどよ…」 なんでか無口なんだよなぁ。とスタースクリームは首を捻った。 胸元のサイバトロンのマークははがれないしとブツブツ良いながらもカリカリと指で削っていく。 サンダークラッカーの作戦とは嘘の情報で自分の手で自ら被ってもらうと言う簡単なものだったが スカイファイアーはまんまと引っかかったのだ。 これも愛ゆえなのかねぇとサンダークラッカーは思ったが サイバトロンのインシグニアをはがしにかかっているスタースクリームは スカイファイアーがどれだけスタースクリームの事を思っているかなど分かりもしないだろう。 サンダークラッカーとサウンドウェーブにより基地につれてこられたスカイファイアーは無言だった。 デストロンらしい、破壊を好む性格には変換できているようだが 基本的にこのスカイファイアーはメガトロンの命令に従わない。 それをメガトロンは良く思っていないようで先ほど一度スカイファイアーを眺めては 「マスクに改良が必要だ」と一言残し、しかめ顔を隠すことなく退室していった。 しかもこのデストロン仕様のスカイファイアーはスタースクリームの命令以外きかない。 それが尚更破壊大帝の癇に障ったようだった。 「スカイファイアー。右手上げてみろ」 「…」 無言で、すっと右腕を上げたスカイファイアーをみてスタースクリームは満足そうに笑った。 まるでクリスマスに前々から欲しかったプレゼントを貰った子供のように笑うのをサンダークラッカーは 見て小さいため息を吐いた。これから大変なことになりそうだ。と。 「…このスカイファイアーさえいればメガトロンを倒して…!」 「…そう言うと思ったよ…」 サンダークラッカーは頭に手を当てるとマスクをしたスカイファイアーを見た。 無言で立ち尽くす姿はサウンドウェーブに似ているが体格が違いすぎてある意味怖い。 こんなに大きい兵士は合体戦士を除いていないし、ジェットロンからして大きい機体ではない。 スタースクリームとスカイファイアーの対格差は傍から見ると息を呑むほどであり スカイファイアーがスタースクリームの腕を掴むとそのまま捻り折られるのではとぞっとした。 「ま、怪我しねぇ程度にな…」 話を聞いていないスタースクリームと 聞こえているんだかいないんだかのスカイファイアーから視線をそらすと サウンダークラッカーはそのままメガトロン同様に退室した。 「顔が見えねぇのが残念だぜ。スカイファイアー」 「………スタースクリーム」 低い声で反応を返したスカイファイアーにもう一度笑い返すと スカイファイアーは自分の意思でスタースクリームの頬に触れて もう一度スタースクリームの名を呼んだ。 →