甘い声だった。 スタースクリームが楽しんでいる時の、喜んでいる時の声で 私の名を呼んでいた。それがとても嬉しい。 頬を撫でるとスタースクリームは笑ってその手に顔を預けてくれた。 触れたい。もっと触れたい。そんな情欲はマスクによって取り払われた理性の影響を まったく受けずにスカイファイアーのブレインサーキットをゆったりと犯していた。 スタースクリームのその唇に指を触れさせるとスタースクリームは微かに身を捩った。 それは拒否ではなく、くすぐったいからと言う所作で手をのけられた後も スタースクリームは嬉しげに笑って名を呼んでくれた。 「お前の部屋まだ準備してねぇんだ。できるまで俺の寝室でいいだろ?」 拒否権なんてねぇけどなと笑うスタースクリームに頷くと手を握り少し引かれた。 「来いよ。案内すっから」 「有難うスタースクリーム」 「まぁ、優しい優しいスタースクリーム様だからなぁ」 そう言って2体はデストロン基地内を歩き始めた。 * 「お前は床な」 スタースクリームは事もなさげに言い放った。 寝台は狭い。1体用なのだ。 スタースクリームは大きな寝台を好むし、やはり未来のリーダーは大きい寝室でないと。 設計時に大きめに作ってもらったためスカイファイアーがいるくらいなんて事はないのだが 流石に寝台だけは少しばかり無理がある。もし寝台で2体一緒に寝るのなら かなりくっ付いて寝るか、折り重なって寝る必要がある。それはごめんだなと床を指さして スタースクリームはここで寝ろよと告げた。 「わかった」 「…お前本当にデストロン仕様になってんだろうなぁ?」 「…何故だい」 「だってちょっと口数減ってるだけでそこまで変わった様子はねぇし」 「…」 「デストロンの野郎なら床で寝ろとか言った瞬間に戦闘開始だぜ?」 スカイファイアーにそう投げかけるとスタースクリームはスカイファイアーに背を向け 寝台の脇にある台や棚にエネルゴンがあるけど飲むなよと告げながら部屋を歩き回った。 次々に部屋の中を説明して最後に背を向けたまま寝台を数度叩き「俺がいないときは使っても良いけどよ」と言った。 「まぁ、俺と別行動することなんざねぇと思うけどよ」 「スタースクリーム」 「んっ?わっ…!」 スタースクリームの脇腹にスカイファイアーが腕を通した。 最後からの急な接近は親しい親しくないを関係せずに驚くものだ。 羽交い絞めするように背後より腕が回りこむとキャノピーをするりと撫で擦られた。 「ス、スカイファイアー?」 「…」 「どうした?なんだ?おい」 スカイファイアーはあんまり触れてこない。 それは昔から変わらずだったのだが急な接触にスタースクリームは少しばかり戸惑った。 肩に触れるくらいはあったが、どんなに感極まっても抱きついてくることなどなかったはずだ。 あえて言うなら一度だけ難航していた研究が終わった際に一瞬だけ抱きしめられた。 その時はお互いテンションあがってたわけだし別に抱きつかれたくらいでぎゃーぎゃー言うほど 俺も接触苦手なわけでもないし。構わなかったがスカイファイアーは違ったようだ。 よかった!成功だ!とスカイファイアーが両肩を掴み引き寄せてきた時は驚いたが 俺だって研究の成功は嬉しかったわけだしスカイファイアーの背中に軽く手を回したら びくりと震えたスカイファイアーはすぐに身体を離して「ご、ごめん」と謝ってきた。 何を謝ってるんだと思っていたが。 ここでふと冷静になった。 「…はは〜ん。お前俺様を抱きしめたかったんだな?」 「…」 理性を抑えて欲望を全面的に前にだすマスクだ。 破壊行動や衝動を抑えられなくして、善悪の区別を無くす。 こいつがいつぞや抱きしめてきてすぐに離れたのは体格差を気にして強く抱きしめることが できないからじゃねぇのか?この体格差だとちょっと強く抱きしめられたところで壊れはしないが痛いだろう。 どうして抱きしめたいと思ってるかなんて考えてないが可愛いところもあるじゃねぇかと思う。 「なんだよ。くすぐってぇなぁ」 「…スタースクリーム」 「そんなに俺様に触りてぇのかよ。まぁ、仕方がねぇよなぁ。格好いいからなぁ俺は」 「…」 少しばかり抱きしめる力が強くなる。 目を細めてそれに耐えるとスカイファイアーがまた名を呼んだ。 キャノピーを何度も撫でられて背後よりスカイファイアーの少し興奮した息を聞いた。 こいつからそんな吐息は初めて聞いた。不審に思って少しばかり振り返るとキャノピーを開かれた。 「えっ?」 「…」 「わっ、わわわ!おっまえ!馬鹿!やめろ!」 「…」 両手の指がキャノピー内部にある配線たちに触れ始めその配線をかきわけると もっと奥へと指を進ませてくる。 その手の動きを止めさせようと思って掴んでもスカイファイアーの大きな手に 手を添えるだけのような格好で押しても引いても動かない。 「やめ…っいやだって!おい!」 「…」 「どこっさ、わってんだ…!なぁっ…!」 「スタースクリーム」 背後からふっと息を吹きかけられて変な声が出た。 その間もますます指は体内に侵入しようとしてくる。 レセプタクルを指の腹で往復するように触れて更に強く抱きしめられた。 「おっい!くるし…っ!って」 「もっと…」 「ざけんっなっ…!あっ…」 背後から圧し掛かられて寝台に上半身を預ける。 おかしい。確かにこのマスクは善悪の判別をつけなくさせてるが 常識までなくすようには作ってない。 男同士でこんな状況になるなんて嫌がらせかとも思う。 「どうして…っ」 「…好きだ」 「はっ…ぁ?」 「好きだスタースクリーム」 「…な、なに言って…」 「どうしてかな、今は全然怖くない」 「なに…?何がっ…?」 少しばかり振り向くとスカイファイアーが顔を覗き込んできた。 バイザー越しに目が合って身体が強張る。 作ったのは自分なのだがマスクのバイザーが赤々と光ってこちらを見ると こいつがスカイファイアーではない気がした。 「今なら、君に…」 「っ…」 その続きが酷く怖い。まさか、変なことしようと、してないよな? 「いやだっ」と身体を捩るとスカイファイアーが微かに笑った。 「怖いのかい?スタースクリーム…」 「な、なにしやがんだよ…!」 「怯えないでくれ…可愛い…」 「なっ…なんだよ!頼む!やめてくれ…!」 「痛くしないよ…」 「やめっ…!駄目だ!俺の言うことを聞け!」 「…」 「お前は俺の部下だろ!こんなこと許されないぞ!」 「そんなこと関係ないよ」 赤いバイザーをつけた男がそう言ってのけると メガトロンやサウンドウェーブ達がどれだけまともな思考回路をしているかがわかった。 スカイファイアーから理性を取っ払ったらこんなにも危ない生き物になっちまうなんて。 「じ、じゃあ…あの、明日サイバトロンとの戦いがある」 「…」 「それが終わったらだ!それでお前がちゃんと戦ったら…!」 「そしたら」 「…」 「抵抗しないでくれるね」 「あ、あぁ…」 「わかった」 するっとキャノピー内の手が抜けて行くとスカイファイアーは圧し掛かることをやめて立ち尽くした。 「…っ」 配線がぐちゃぐちゃになったそこを自分で正すとキャノピーをしめてスカイファイアーを見た。 先ほどとはうって変わって冷静で無口になったスカイファイアーはこちらを静かに見つめていた。 「ス、スカイファイアー…あの」 「なんだい」 「…ま、マスクちょっとはずさねぇか?調整したほうが」 「大丈夫だよ。これをつけてから調子がいいんだ」 「…じゃ、じゃあここにいてくれ。ちょっと作戦会議にでも行って来る」 その場を何とか逃げ出したくて適当に言ってみた。 スカイファイアーは黙ったままだったが隣をゆっくり過ぎ去ろうとすると腕をつかまれ ぐっと引き寄せられた。悲鳴じみた声がでて体を引こうとすると正面より強く抱きしめられる。 「いっ…!」 「…どこか行くなら私もいくよ」 「……や、まだ、お前は…」 「私の傍から離れないでスタースクリーム」 「…ス、カイファイアー…」 「……離れないで」 「…わ、かった。わかったから」 失敗だ。洗脳マスクじゃねぇよこれじゃあ。 全然言うこと聞かねぇし、善悪の区別がつかないっていうか、理性がとんでるって言うか… 一応、俺はこいつを元友人だと思ってたわけなんだけど、こいつは違ったんだな。 こいつは俺を独占したがってる。それもちょっと危ない方向へ。 微かに逃げようとすれば更に腕の力は強まるばかりだ。 この体格差をここまで思い知らされたのは初めてだ、少しばかり悔しい。 「…スタースクリーム」 「…」 その声だけはいつものように優しげで研究者時代を思い出すのに 身体を拘束するように強く抱きしめてくるこいつは自分の知っているスカイファイアーではなかった。 とりあえずメガトロンに報告するべきだ。失敗したことを。 それでこいつからマスクをなんとしてでも取り外す必要がある。 そうしないと自分の身も危ねぇし、マスクとった後は捕虜にでもすればいい。 マスクを改善できれば良いのだがとにかく今は廃止だ。 コンボイに使ったらだなんて考えたくもない。どうなるかもわからないしな。 とにかく今はこうしてデストロンと言うよりも異常思考になったスカイファイアーをなだめるしかなかった。 -------------------------------- 続かない…!マスクつけたスカファは格好いいよね!って話(!?)