寝るか、って言ったのは確かサンダークラッカーだった。 それでも2体は背をあわせることも、抱き合うわけでもなく、離れて眠った。 暖房は入れていたが既にエネルギー不足な船の暖房はついていてもいなくても同じで 逆に風が発生するから寒いと止めてしまった。 スカイワープの用意した木片につく雪が溶けて、質量が減った木片は重なり合った隙間を 埋めるために誰も触れていないのに転がったり水音をさせたりと2体の寝つきを悪くした。 それでも眠ってしまったのはスタースクリームが疲れていたからだろう。 明日になったら、有効な脱出方法と、スカイワープを探す方法を考えないといけない。 ようやく眠りに落ちれたスタースクリームは物音に怯えなくてすむと安堵したが サンダークラッカー肩を叩いた。 「…スタースクリーム」 「…ん」 「スタースクリーム!」 「…なに」 「起きてくれ」 「…なんで」 「何かいる」 スタースクリームはアイセンサーを一気に開くと起き上がった サンダークラッカーをみるとサンダークラッカーもすっかり眠気は立ち去ったのか しっかりとアイセンサーを開いている。 お互い黙り込み、見詰め合うとサンダークラッカーが唇に人差し指をあてて 「しー」と言った。 「…?」 「…」 それからゆっくりとその指をハッチの方へ向けるとスタースクリームをそちらをみた。 最初はわからなかった、ごうごうと雪が船を叩く音のみでそれ以外は聞こえない。 しかし少し集中するとガリガリと引っ掻く音がした、ハッチの隙間に指、いや爪を 引っ掛けようとする音がして2体は強張った。 「…なんだと思う?」 「…わかんねぇ」 「…スカイワープ?」 「なわけねぇだろ…」 スタースクリームはアイセンサーを細めて立ち上がった。 「サンダークラッカー…」 「なに」 「鍵は?」 「……」 はっとサンダークラッカーが顔をあげた、その反応を見てスタースクリームは走ると ハッチの前で急停止をかけ、鍵をかけた。 ガチンっと音がして鍵が閉まると扉の向こうの存在はスタースクリームに 気付いたのだろう。 ハッチを引っ掻く音が止み、ずーずーと鼻で息をするような、嫌な声が聞こえた。 スタースクリームはハッチの前で一歩も動けずに居た。 扉の向こうに何かが居るという事実とそれが頭の悪い生命だとわかるような 汚らしい吐息音で恐怖を覚えていた。 今動けば、足音で自分に気付くだろう、そしたらこれがどう動くかわからない。 自分たちとはまた違う、セイバートロン星の金属片が散らばっていたあそこを見る限り こいつには「篭城」は通用しない。 本気になればハッチを突き破ることもわけない可能性が高い。 「…」 サンダークラッカーがハラハラするように両手を神に祈りを捧げるように 絡みあわせ握っている。大丈夫だと一度頷くとスタースクリームは一歩下がった こつっと床と踵のぶつかる音が船内に広がる。 一際大きい唸り声が聞こえ、船の周りをうろうろし始めた。 スタースクリームはサンダークラッカーの方へ歩くと サンダークラッカーがスタースクリームの手を握った。ぎゅうと、強く握り締めてくる のをスタースクリームも軽く握り返す。 「…大丈夫なのか?」 「…わかんねぇ…けど」 昨日とは違う、体重の重い生物が徘徊する音。 無感情ロボのときはさくさくと雪を踏む音が響いたのに今ではぜぇぜぇと 荒く息づく声とどすんと一歩一歩踏みしめる重い音が聞こえていた。 「…スタースクリーム」 「…」 不安な声をかけるとスタースクリームはサンダークラッカーの手を強く握り返した。 熱く、震える手は関節の隙間から熱感知した冷却液が零れ汗ばんでくる。 「何か、武器あるか?」 「…もう火炎放射とかはでない」 「…俺もだ」 エネルギーは既に自分を動かす為だけしかなく、トランスフォームできても 飛べない確立が高く。ナルビームやクラスターは当然無理だ。 こうなってしまえばまるで猛獣に襲われた人間も同然、スタースクリームは無力に 舌打ちをすると耳をすませた。 結局、その晩は眠れなかった。 雪の音と徘徊する音の区別がつかなくなるとその生物が今どこにいるのか もしかしたら既に立ち去ったのか。それすらもわからなかった。 * 「…じゃ、俺行って来るから」 「…スタースクリーム、まじで大丈夫なのか?」 一晩で作戦を考えた。 スタースクリームはもう一度昨日の場所へ戻ってエネルギーにできる物を探してくる。 サンダークラッカーは船についてる外部アンテナを伸ばす。 これが成功すればこの乱反射の中でも外部との連絡が取れるはずだ。 スタースクリームは船のエネルギーと自分たちが武器を再び扱える程度のエネルギーが 欲しかった。それを探しにいく。 「スタースクリーム」 「あぁ?」 「…昨日、殴ってごめんな」 「…あぁ」 スタースクリームも謝ろうかと思った、でも、やめた。 今謝るとまるで死ぬ前の懺悔みたいで嫌だった、なら帰ってきて謝ろうと思った。 「…気をつけろよ、夜行性だって話だったから…そんなに出くわすとは思わねぇけど」 「そっちこそ、迷子になったら…」 「…心配ねぇよ」 また一晩で雪が積もり、木々の形が変わっているだろう。 それはこのジャングルのような地形で言えば恐ろしいことだった。 しかし昨日のようにあの化け物がずっと船の周りをぐるぐるしてる ほうがよっぽど恐ろしい。いつ入ってくるか、わかんねぇんだ。 スタースクリームはサンダークラッカーと別れると昨日歩いたと思われる雪を 踏んで進んだ。 それを見送ったサンダークラッカーははぁと息を吐いて船をみた。 ハシゴは既に船の装甲についていて、それを上って天辺までいけるようになっている。 さっさと済ませて救難信号を送らなくちゃなと船内に入ると床下から折りたたまれた アンテナを取り出した。 長さを最大にして、セッティングすればもしかしたらメガトロン様に連絡が 届くんじゃないかとちっぽけな希望が生まれ、当然サウンドウェーブのことも思い出す。 怒ってるに違いない。突き飛ばし、無視して、逃げたのだから。 緊急信号を送信したら恐らくキャッチするのはサウンドウェーブだろう そしたら無視されるかもしんねぇと思うとサンダークラッカーのスパークは ぎゅっと締め付けられた。 馬鹿、自業自得だろ。と胸を一度押さえてアンテナパーツを全てかき集めると それを持って外に出る。 辺りを窺うと朝と言う事もあり白い雪がふわふわと舞い散った。 吹雪く様子はなく白銀にこの惑星を染め続けているだけだった。 ハシゴの雪を払って足を引っ掛けると伸ばしたアンテナとマストをUボルトで止める。 しかし風が強く、雪も降っているとアンテナが揺れて電波の送受信に影響が 出そうだと判断して木やロープでしっかりと固定した。 「…こんな、もんか?」 船の上から飛び降りると下からそれを見上げた。 後は本当に送受信できるかのチェックだ。これが成功すれば大分現状は楽になる。 そりゃ、サウンドウェーブが俺を無視せずに助けてくれることを前提してだけど… きっとスタースクリームはまだデストロンに必要だ、だから受信してくれるはず。 船内に入り、コンソールにデストロン基地へと緊急信号を送信した。 「助けてください サンダークラッカー」とこの一文だけ送信すると送信完了と 画面には表示された。しかしサンダークラッカーにはそれが本当かどうか疑わしかった。 文字じゃなくて、言葉でも送った方がいいかなと録音機器を取り出した、録音して 一定時間に一度、自動送信できるようにセットすれば安心だ。 録音を押して「サンダークラッカーです、勝手してすいませんでした。 スカイワープが負傷し行方不明になり、エネルギー不足で帰ることが出来ません。」と 声を入れる。 もうちょっと、何か言ったほうがいいかな。ゴメン、サウンドウェーブ。とか? でもメガトロン様が聞いたら「は?」って思うだろうし、やっぱこのまま。でも。 んーと悩んでいるとガサガサ外で音がした。 一気に頭が冷静になる、スタースクリームか?いや、違う。こんな早く戻ってこれない。 サンダークラッカーはハッチを見た、閉めたよな、と確認するが少し開いていた。 雪が舞い込み、冷たい風が船内に入り込む。 「っ…やべ…」 朝はあまりでないと聞いて油断してた?鍵を閉めようと走ろうとした 途端横から体当たりされたような振動が船に響き、サンダークラッカーは転んだ。 「っ…な…は!?」 どんどんと船に体当たりする音が響くとそれと同じリズムで船は揺れた。 サンダークラッカーはそれでも立ち上がるとハッチを見た。まだ開いてる。 とてもじゃないが立っているのが限界な船内でサンダークラッカーは焦った。 揺れが収まればすぐにでも動けるのに、と奥歯を噛む。 しかしそれはすぐに叶えられた。揺れは収まりサンダークラッカーは 自分の足で立っていられるようになった。 身体をたたきつけていただろう船の一部分がへこみ、微かに穴も開いていた。 そこから雪が舞い込むが小さすぎる亀裂に外の様子は窺えない。 「……」 ふー、ふーと荒い息遣いが聞こえる。それは間違いなくハッチの方から聞こえていた。 少しだけ開いた隙間から黒いものがチラチラと見えてそれがサンダークラッカーの 脈動を早める、それと同時に動けなくさせた。 黒い毛がハッチの隙間から入りこんだ、まだこちらには気付いていないのだろうが 頭をハッチの隙間に突っ込むとふんふんと匂いを嗅ぐように床に頭を擦りつけ そこに涎を残した。 4足で歩くその生物は全身が毛に覆われ、真っ黒な体毛は獣のように堅そうだったが 毛のない足先は金属の爪を持っていた、間違いなくこいつ自身が金属生命体だ。 しかし、金属の身体のくせに体毛を持つことがサンダークラッカーには異質に見え より恐ろしい生物に見せる。 「…」 サンダークラッカーは何とかできないかと思った。逃げる、戦う、隠れる。 こうなった今隠れるのはもう無理だろう、いっそ死んだフリでもしてみるか?と 自分を笑う。一歩だけ、後退した。その音は思った以上に響いた。 涎を口から零しながらそれが振り向くとサンダークラッカーと目が合った。 * 「っ…うそだろ…!?」 スタースクリームが戻ってきた時には船は横倒しになっていた。 所々亀裂が走り、無残な姿になっている船を見てスタースクリームは青ざめる。 「…サ、サンダークラッカー?」 ハッチは側面についていたが横倒しにされ天井部分になっていた。 飛ぼうと思ったが羽は凍りつき、エネルギーも足りず、仕方なく船にしがみ付いて 登るとハッチから中を覗いた。 物が散乱し、全て行く前とは違う状態になっている。 スタースクリームはゆっくりと中に着地すると中の荒らされ方に息を呑んだ。 「…サンダークラッカー?」 当然姿はなかった、いやないとおかしい。最悪破壊された、捕食された場合でも 何かしら痕跡があるはずだ。 逃げた?それならそれで良いが、少しでも手がかりが欲しかった。 ひび割れたモニターに「緊急信号送信完了」の文字が表示され、それを スタースクリームは眺めると脇に録音機器が置かれているのを見た。 すぐにサンダークラッカーが何をしようとしていたか理解する。 未だに録音にスイッチが入っているのを見る限り、停止を押す暇がなかった、もしくは 忘れたのどちらかだろう。これに、何か手がかりが、と止めて巻き戻した。 最初から再生にする。 『サンダークラッカーです、勝手してすいませんでした。スカイワープが負傷し 行方不明になり、エネルギー不足で帰ることが出来ません』 「…ぶっ…あいつ…」 鼻で笑う、情けない声だ。どんな気持ちでこれを録音したのだろうかと考える。 その後はあまり台詞はなかった。がたがたと揺れる音や、サンダークラッカーの 慌てる声が入っていて船が襲われたのはわかった。 物音だけじゃどうなったのかわからない。サンダークラッカーが逃げ回っているのは 理解できるがそれがどうなって、何をしようとしているかまでは不明だ。 『っ…いってえええ!!』 「…っ」 ガタガタ音がするだけから急激に悲鳴に変わった。 スタースクリームは驚き肩をすくめ思わず辺りを窺う。 『いっ…やめろ…!…』 「…」 スタースクリームは停止のスイッチに手を伸ばした、胸糞悪い、吐き気がした。 同機の悲鳴を聞いて楽しむ奴は居ない、きっと、大丈夫だ。 あいつなら、スカイワープだってしぶといんだから生きてるに決まってる。 『スタッスクリーム…ぃで…ぇ…』 「…」 『た、すけて、…ひっ』 何かが取れる音がした、どこかを引きちぎられた、もしくは食われた。 スタースクリームはこの場に居るのが怖くなった。 進入口は天井だが、それでも出て行ったと言うことは怪物も、入ってこれるのだろう。 停止に乗せた指を強く押し込んだ。 『サウンドウェーブ…っ』 最後に聞こえた言葉に何も言えなかったが既に押された停止スイッチを もう一度押す気にはならなかった。 →