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「ここだぜ」
「…確かに酷く散らばってんな」


スタースクリームは金属を一つ拾った。
スキャンすればわかるがトランスフォーマーだ、セイバートロン星の金属だった。
サンダークラッカーに大き目の金属を拾い集めるように指示を出して
スタースクリームは放置されたスペースシップらしきものに近づいた。
恐らくはスペースシップだったもの、天井はなく、雪が内部に侵入し床は見えない。
モニターの一部だけが未だに見えているがその他の機器は白く雪が積もるか氷付けに
なっていて使えるものはないと思える。


かなり前だろう、時間的に考えても昨日、一昨日ではない。一ヶ月以上は前だ。
上手く雪を遮るところに置かれたエネルゴンキューブは横倒れになり
中のエネルギー源は染みを作って凍っていた。
使い物にならない銃器が半分に折れ、あちこちに落ちている。

間違いない。
ここで戦闘があった。



「…」


スタースクリームは殺気だった、何かがいたはずだ。この辺りに。
逃げようとしていたのかもしれない、コンソールの発進スイッチが入りかけていた。
その隣にある緊急信号は光を失ってしまっているが間違いなく送信されている。
乱反射で受信できたものがいなかったのだろう。助けは来なかったのだ。

「…これ…?」

散らばる金属には全てに穴が開いていた。
穴の大きさはスタースクリームの指が3本入るほどで、その穴が横に複数並ぶ。
その穴が下に引きちぎるように伸び、最終的には天井部分の壁を裂いた。

「…」
「スタースクリーム?」
「…」

嫌な予感がすると思ったがスタースクリームはその考えを捨てた。考えたくなかった。
できるだけ楽しい話がしたい。

「で、サウンドウェーブのことはどう思ってんだよ?」
「まっ、まだその話…!」
「好きなのか」
「っ…あ、あぁあ~!そういや昨日よぉ、スカイワープが!」

下手な話の逸らし方だと鼻で笑う、どんなに話をずらそうと俺は話を
元に戻すつもりだった、サンダークラッカーが必死に視線をあちこちに移動させる。

「変な生物みたって言っててよ!」
「そんな話でごまか、…生物?」
「そ、そう!真っ黒だってよ」

スタースクリームはアイセンサーを見開いたまま止めた。
サンダークラッカーは話が逸れた事に安堵したがスタースクリームの表情が
強張ったのを見て安堵を顔に出すのはやめる、それからどうしたと声をかけた。

「…どこで」
「こっから遠くない場所でだぜ?」
「…大きさは」
「…聞いてねぇけど」
「戻るぞ」
「え?へ?」
「まだ、燃料を考えれば隣の発展惑星にならいけるだろ」
「ど、どした?」

スタースクリームはすぐに立ち上がると辺りを窺いながら足早に歩いた。
視線を絶え間なくあたりに配り、時折物音がすると歩みを止めて音を聞く仕草をする。

「なんだよ、どうした?メガトロン様じゃねぇぜ?」
「…俺は科学者だったが生物学はあまり詳しくなかった」
「うん?」
「ただ、昔の知り合いに、生物好きがいて」

スタースクリームはあの白くて大きな機体を思い出した。
昔の親友だ、この惑星のように雪ばかりの惑星に落ちて、死んでしまったが。

「会ったらすぐに逃げろって言う生物がいるんだと」
「…なんだそれ、それがこの惑星にいるのか?」
「そりゃ見ないとわかんねぇな、昔から危険動物に指定されて頻繁に狩られてる」
「じゃなんで居ると思うんだ」

スタースクリームは歩みをもう一度止めた。
聴覚を済まし、何かが自分たちを窺っていないか、もしくは油断したら飛びつこうと
臨戦体制になり尾行してくる生物がいないか調べた。
いないことを知るとようやくサンダークラッカーをみる。

「この惑星の性質上、まず普通の生物が生きていられない」
「…そうだよ、お前そういったよな?」
「その危険種は肉食でも草食でもねぇから、毒も問題なけりゃ他生物もいらねぇんだ」
「はぁ?」
「こんな惑星、立ち寄るのはそれこそ宇宙探査中のトランスフォーマーくらいだろうよ」
「…なに食ってんだ?」
「…」

スタースクリームは脚をもう一度スカイワープの待つ船のほうへ向けた。
足早に、スカイワープとの合流を目指す。


「金属生命体」






*





「さっみぃ…」

スカイワープは胸に抱えた木片を船に乗せた。
指先が凍ってるのを見て小さく「げっ」と呟くと指先同士を擦り合わせて
氷を落とそうと努力する。指先同士を擦り合わせながら辺りを見回すが
2体が帰って来る気配はない。
白く染まる息を指先に吹きかけて暖めようと試みてみたがあまり効果は望めなかった。

「…メガトロン様…」

思いのほかさびしそうな声がポツリとこぼれた。
来るよな?
サンダークラッカーは来ないって言ったけど、来るよな?

「…だぁー…くっそ女々しいのうっぜぇなぁ…!」

足元の雪を蹴っ飛ばして自分の頭を左右に振った。
くだらない考えを吹き飛ばそうとする。
まず1体でいるからこんなこと考えちまうんだよ、とスカイワープは
アイセンサーを細めて舌打ちを落とした。
あの人が俺を見てないのは知ってる、No.2のことばっか考えてるのも知ってる。

「…わかってんだよ…」

指先がずきりと痛んだ、凍った指先が解凍して欲しそうにガタガタと震える。
その指先を強く握るとスカイワープは遠くを見た。

「…そういやロボは?」

船の周りをうろうろさせているロボがいつまでたってもハッチの前にやってこない。
船の周り一周にそんな時間はかからないから、スカイワープが船に背中を預けて
寄りかかっていれば必ずロボはその前を通るはずなのにやってこない。

「…停止しちまったか?」

エラー音も聞こえないし、その線が強いよな、とスカイワープは船の周りを歩き出した。
無感情ロボの小さい足の形が雪の上にぽつぽつと残され、それを確認しながら
追っていくとそこにポツンと何かが落ちていた。

「…脚?」

ロボの脚。関節が無理に捻じ曲げられて、ぶち切れている。
複雑なケーブルたちが無残にも引き裂かれ辺りに散らばり、脚だけがポツンと
そこに残っていた。
スカイワープはアイセンサーを細めると両腕の銃器にエネルギーを溜める。

「…なんだ?」

一瞬、スタースクリームとサンダークラッカーの悪戯だろうと思ったが
こんなことするような奴らじゃない。しかも今はエネルギー不足で余計な悪戯に
手を回してる暇はないはずだ。
と、なればこれは誰かがやったに違いない。
捻じ切れた脚のケーブルは木々の中に消えていた、スカイワープは怯える事無く
その木々の中に足を踏み入れると雪の上にぽつぽつと金属が落ちているのを見た。

「…」

一つ拾い上げる、強い力で捻じ切られた後が痛々しい。
スカイワープは銃身に熱がこもっていないことに気付いた。
砲撃できるほどエネルギーが足りていないのだ。
つまり自分に残された武器はひとつもない、無防備だと知ったがスカイワープは
それでも先に足を進めて行った。

「てやんでい、俺がびびると思うなよ…!」


迷わず
脚、金属片、装甲がまるでスカイワープを呼ぶように落ちていた。
木々の奥の方奥の方へと続くそれをスカイワープは見つめながらも歩いた、大丈夫。
俺たちはトランスフォーマーだ、そう簡単に破壊されるような装甲はしてない。

大きなものが落ちていた。スカイワープは辺りに目をやって何も居ないのを確認すると
ゆっくりとそれを持ち上げた。


「…うわ…」


言葉も話せないロボだったが、スカイワープは顔をしかめて直視するのを躊躇った。
頭が落ちていたのだ、殴られたのか顔の半分は剥ぎ取られ、小さいブレインサーキットが
殴られた部分より覗けた。両目はなく、口は顎がなかった。

「…」

ようやくスカイワープの中に「恐怖」が生まれた。
一応、無感情で低能なロボでも装甲の硬さはトランスフォーマーと同列なのだ。
スタースクリーム達に知らせねぇと、とスカイワープは頭を持ったまま元来た道を
戻ろうと足を後ろへ下げた。

ぜぇ、と聞こえた。
間違いなく、生物の吐息でありながらスカイワープにはそれが生物の吐息だと
判断できなかった。一度ではなく、走り回った後のようにぜぇぜぇと何度も
息づくその吐息は隠れようとしていなかった。
スカイワープがそれから一歩も動けなかったのには理由がある。
知的生命体とは思えない、荒々しい獣の息がスカイワープの耳元で聞こえていたからだ。




*




「スカイワープ!」
「スカイワープ!!どこだよ!」

スタースクリームは船の中を覗いた、何も居ない、何の気配もない。
しかし木片は頼んだ分もう揃っていた。つまり木片を探す為にどこかへ
行っているわけではない。大体スカイワープがこの寒い中どこかに行っていると
考える方が難しい。

「…どこだよ!スカイワープ!」
「サンダークラッカー!離れんな!」

サンダークラッカーが船の周りを走った、スタースクリームは追おうかと思ったが
もしスカイワープが戻ってきたら?と考えると深追いできなかった。
船の外に出て片手を船に触らせたまま船の周りを一周する、その途中で
あの無感情ロボの脚を見つけた。
サンダークラッカーは木々の中に入っていったのか辺りに見当たらない。


「…サンダークラッカー?」


小さく呟いてスタースクリームはしゃがみ込んだ。
脚を良く見るとあの穴が開いていた、スタースクリームの指3本はいるサイズの穴。
スタースクリームは嫌な予感がすると思っていたことが現実に起こりえるのではと
青ざめた。この穴は、恐らくは歯型だ。
横に何十と続く穴の後、スタースクリームはその穴と自分の手を見比べて
スパークがざわついた。

これが歯型だとしたら、恐らく口の大きさは自分たちを丸齧りできるくらい
大きいのではないか?その口の大きさから考えて、大きさは恐らくジェットロンの倍は
ある。まだ憶測だがこれが事実起こりえてしまった場合、それは死を意味する事も
わかっていた。

がさっと背後で音がするとスタースクリームは飛び上がって
エネルギーのないナルビームを構えて見せた。


「サ、サンダークラッカー!」
「スタースクリーム…!」
「なんだよ…お前か…」
「…スカ、スカイワープ」
「あ?いたのか?」


スタースクリームはナルビームを下ろしてため息を吐いた。
しかしその途中で喉が引きつれ息を吐き出せなかった。



サンダークラッカーが手に持っていたのはスカイワープの左腕だった。



「…生き、てるよな?」
「…」
「…スタースクリーム、スカイワープさ」
「そんなん…わかんねぇよ」
「…スカイワープ大丈夫だよな?」
「わかんねぇって…」
「…ちょっと怪我して」
「わかんねぇって言ってんだろ!」


強く怒鳴りつけるとサンダークラッカーは黙った。
動揺して大声だすなんてと少し後悔したが謝りはしなかった、サンダークラッカーに
「寒いから、中に入ろう」というのが精一杯だった。

「…その腕は…元あった場所に戻して来い」
「は?」
「もし、本当に例の金属生命体が主食の怪物だったら餌になる」
「…何言ってんだ?」
「それ食ってる間は俺たちを襲うことはねぇだろ、少しでも腹を」

無感情ロボの落ちた脚を見ながらそういうとサンダークラッカーの振り上げた腕に
気付かなかった。拳を作った手が右頬に当たるとスタースクリームは勢いがつき
数メートル飛んで雪の上に転がった。

「…ってぇな…なにしやがんだてめぇ!!」
「ふざけんなよスタースクリーム!」

起き上がる前に腹の上に圧し掛かってきたサンダークラッカーが
首を掴んで怒鳴りつけてくる。
額同士をぶつけるほど近づけて大声を出すサンダークラッカーなんて
見たことがなかったスタースクリームは驚いて反論する余裕がなく、ただ見つめ返す。

「スカイワープはっ…生きてるに決まってんだろ!?」
「ワープもできねぇ飛ぶことも出来ねぇでどうやって逃げんだ!あぁ!?」
「絶対帰って来るに決まってんだろ!その時「俺の腕は?」って言ってくる!」
「…っ」
「その時「餌にしました」だなんて言うのか!?どうなんだよ!」
「…っ勝手にしろよ!」

サンダークラッカーの腹を蹴り飛ばすとサンダークラッカーは雪の上に転がった。
手は貸さずスタースクリームは船のハッチへと向かう。
何でこんなイライラしてんだ?俺たち。


サンダークラッカーも大人しく船に入ってきた、ハッチを閉めて2体は少し離れて座った。
無言の船の中にいる2体を叩くように、雪の勢いは増すばかりだ。