「おせぇぞ!」 スタースクリームは腰に手を当て、未だにグルグルと船の周りを回るロボットを背に スカイワープとサンダークラッカーを怒鳴りつけた。 スカイワープとサンダークラッカーの頭部には雪が積もり、羽は薄い氷で覆う。 サンダークラッカーが息を吐くと白い息が立ち上ったがスカイワープはひゅーと 喉を鳴らして奥歯同士を打ち付ける。 「…おまっ…ふざけんなよ」 「探してたのによ…」 「はぁ?誰が探してくれって頼んだ、先に船に戻るって単発連絡いれたろ」 「きてねぇよ!」 スタースクリームは「は?」と頭を捻った。体内の送受信情報を確認すれば 送信情報がまだ残っている、きちんと送られている事を確認して2体を睨めば サンダークラッカーは頭を振った。 「いや、きてねぇ」 頭を振って頭部に積もった雪が地面へ落ちるとサンダークラッカーは残りの雪も 指先で払い落とした。スカイワープがガチガチと震えているのを見て雪を払うと 凍った羽をたたきながら船の中に押し込んだ。 「本当にきてねぇのか?」 「あぁ、送信ミスじゃねぇのか?」 「いや、送れてる…もしかしたらこの惑星に電波障害があるのかもしれねぇ」 「どうしてそう思うんだよ」 「惑星のほとんどが金属と毒で生成されてる、特殊金属による乱反射でそういう可能性も」 「毒!?」 「俺らには何の問題もねぇ毒だ、血肉を持つ生物には猛毒だがな」 船の中から「寒い!」と怒鳴り声が聞こえた、スタースクリームとサンダークラッカーは アイセンサーを合わせると頷いて中に入る。開いたままだったハッチを閉めれば 内部には暖かい空気が篭り、スカイワープたちの羽にこびり付く氷を溶かした。 「そんな凍るか?」 「飛んだんだよ…」 「どれくらいの高さで」 「そんな高くねぇ、ただ数キロも上昇できねぇな」 「船じゃねぇとこの惑星は飛べないわ、凍っちまう」 サンダークラッカーがスカイワープの羽を擦ってやるとようやくスカイワープは深い 息を吐いて指先にかけた。 「何かあったか?」 「なーんも」 「クリスタルとかは」 「なかったな、ただ東の奥の方。金属がたくさん落ちてた」 「金属?」 「あぁ、トランスフォーマーがいたのかも」 スタースクリームは硬直した。 今は他の生命体、特に知的生命体には会いたくない。 「いたのか?」 「かもだって」 「機材がぼろぼろ落ちてたけど、他には何も」 「…」 スタースクリームが小さく「俺が明日見てくる」と呟いた。 スカイワープがはっとあの生物の事を思い出した、スタースクリームに告げておくべき かと視線を送るとスタースクリームは考え事をしているようで床に視線を落としていた。 口元に手を当ててぶつぶつ言っている所に声をかける気にはならなかった。 大抵「うるせー」か「黙ってろ」、それか一応話を聞いた後に「だから何?」と 不必要な情報を与えてくるなと言うのだから生物が一匹いたことぐらい言わなくても 問題ないだろうと思ったのだ。 船は大きいものではない、丈夫で良い金属を使っているがそんなに大きい船ではなく 外の無感情ロボが1分かからず一回りできる程度の大きさだ。 防寒と硬い金属で硬質な壁が作られているが外の気配を察する為音は拾いやすい。 当然防音にしようと思えばそれも出来る。 今は外を歩くロボのさくさくと雪を踏む音が心地よく響いていた。 「…今日はもう休まねぇ?」 「…そうすっか」 スタースクリームは船の残量エネルギーをチェックして暖房を少し落とした。 スカイワープが「は!?」と一言漏らしたがあまり強くしたままにしておけば 明日、明後日にはエネルギーがなくなってしまう。 「明日エネルギーが手に入ったら丸一日でも好きに使える、我慢しやがれ」 そう言って船の光りを消した。 3羽は深い眠りについていた。 スカイワープがサンダークラッカーに抱きついてサンダークラッカーはそれを 抱きしめ返していた。スタースクリームはサンダークラッカーに背を向けて床に 転がるとほのかに温かい空気が3体を包む。 意識がない3体の周りを船の装甲を通してロボの足音が永遠に木霊する。 しかしサンダークラッカーの聴覚に高い音が聞こえた。 アイセンサーに輝きを戻し視線をハッチへ動かすとその音が何かわかる、ロボだ。 ロボが何かを見つけてピーピー鳴いているのを理解すると上半身をゆっくりと 起こし立ち上がろうとした。 「寒い…サンダークラッカぁ」 「…ちょっと待ってな」 スカイワープがすがり付いてきたのを微笑みながら撫でるとスカイワープは 少しじれったい表情をした。眠気で舌っ足らずな声で名を呼んでくるのは可愛いと 思うがうるさいエラー音を止めなくてはこの後安らかに眠るのは難しい。 スタースクリームもサンダークラッカーという温かい生物が動いたことに気付き 顔を少しだけ上げた。 「…なに…?」 「ロボが誤作動してる、うるせぇから止めてくるな」 「…うん」 こっちも寝ぼけてんなぁとサンダークラッカーは微笑んだ。 頭部を撫でてやればスタースクリームはゆっくり頭をまた伏せた。 サンダークラッカーは素早く動くとハッチを少しだけ開き、すぐに閉める。 外は相変わらずまっさらな雪に覆われ静なもので、ピーピーと鳴るエラー音以外は 何も存在しないようだった。 眠っていたため体内には保温してあった熱があった。それが息を吸い、吐くたびに 体内の温度は冷えていった。 船の周りはロボの踏みしめた後があったが一度踏んだ雪を二週目に同じ部分を 踏むため足跡は一つだけだ。その足跡を追って歩くとロボはそこにいた。 「うるせぇなぁ…」 両腕をライトに変えて雪の中を照らそうとしているが今は太陽の当たらない時間で 真っ暗だ。いくら雪が白くてもあたりに広がる木々の中は暗闇に満ちていて ライトを当てたところだけが浮かび上がるような形だった。 何も居ない木々を照らすロボの近くで腰を下ろし、エラー音を止めた。 音が止まってもロボは木々の間にライトを向け、右へ左へと頭を振っている。 サンダークラッカーはふーっと息を吐くとその光りへと視線を向け 自分も木々の中を見てみた。ガサっと音がしてもそれは雪が落ちる音であり やはり生物の気配はそこにはない。 「ほら、再開だ」 ロボットの方向をゆっくりと変え、一歩踏み出すと再び船の周りを回る仕事に入る。 サンダークラッカーはロボが歩き出し、船の角を曲がった辺りで自分も身震いすると 誰も居ないこの場所で、スカイワープの言葉を思い出していた。 『じゃあお前は何で家出なんかしたんだ?』 別に、デストロンが嫌いなわけじゃないんだ。 あそこは特別居心地がいいところじゃなかったけど、自分の居場所だって思えた。 じゃあなんで逃げてきたんだ、そんなの簡単な理由だ。 『好きだ』 サンダークラッカーは自分の両腕で肘を抱くとアイセンサーを細めた。 思い出したくなんてない、そんな感情わかんねぇよ。 あんただって、そうじゃないのか? デストロンに愛とか、ないんじゃねぇのか?なんであんなこと言った? 唐突に抱きしめられて、耳元で言われた言葉が、今でも身体に残ってる。 すげぇ怖くなって突き飛ばして、そのまま逃げてきた。 「…サウンドウェーブ…」 どうしてあんな事いったんだよ。 大きくため息をつくと木々に背を向けた、しかし急に嫌な音がした。 ゆっくり振り返り、木々を見る。 何も居ない、いなかったが木や草を覆っていた雪が全て地面に落ちていた。 何かが通った後のように一本の道筋になって雪が地面に落ちている。 サンダークラッカーはそれを黙って見ると首をかしげた。 「…何かがいるのか?」 両腕にライトを搭載したロボが行ってしまった今、自分で腕をライトに 変形させるしかないのだがエネルギーの少ない自分も無駄な電力は使いたくない。 確認するか、見なかった事にするのか、悩む時間はそんなにいらなかった。 サンダークラッカーは再び木々に背を向けると船の中に戻った。 バタンと音を立てながら、急いでハッチを閉める。 しかし雪が中に舞い込んでしまった。 中の温度が下がったことに申し訳なさを感じながら、サンダークラッカーは再び 自分の居た場所へ戻るとそこにはスタースクリームとスカイワープが 抱きしめあいながら眠っていた。 元居た場所に戻りたいと、2体の間に冷え切った身体を差し込んだ。 冷たい足に触れたスタースクリームが目を細めこちらを睨み付けると 体勢を変えず脚で思い切り蹴飛ばしてくる。 「いってぇ!」 「…寒い、あっちいけよ」 「ん、スタースクリーム…寒い…」 「おう、寝ようぜ」 「あ〜!てめぇらぁ!」 もう意識を落とし、話を聞かない2体に一度怒鳴りつけた後 自分もスタースクリームの背中にへばりつき、少しだけ温かさを分けてもらって ゆっくりと眠りに落ちた。 * 「起きろよ、スカイワープ」 「…寒いから起きたくねぇよー…」 「馬鹿言ってんじゃねぇよ、今日こそエネルギー手に入れて次の惑星行くんだよ」 「うぅ…」 「スタースクリーム、俺が案内するから放っておいてやろうぜ」 スタースクリームとサンダークラッカーは目を合わせるとサンダークラッカーは ゆっくりと笑った。 昨日見つけた機材が落ちている場所、というところに案内してもらいたかった スタースクリームからすれば3体で行こうと2体で行こうと構わなかった。 しかしこうも自分が働こうとしているのにぐうだらしている所を見ればむっとするのは 誰にでも言えることだ。 「…しゃーねぇな、そのかわり…木片集めとけ、雪ついたままで良い」 「どれくらい?」 「抱えて2回分、後で乾燥させて使うからな」 「ほいよ、見張りは任せとけって」 へらへら笑うスカイワープを一瞥するとサンダークラッカーに案内しろと告げた。 ほいよ、と返事が一つ返ってきて雪の上に足跡をつけて歩く。 サンダークラッカーがあたりに視線を配ってブレインサーキットの記録回路に がちがちに刻み込んであるだろう地形の特徴を読み取っている。 「…迷子になったら謝る」 「はぁ?」 「雪で地形変化が起こってる、昨日とは若干違う」 「…地形変化に乱反射電波障害かよ…厄介な惑星だな…」 2体は暫く黙った、それはお互いが地形を覚える為だった。 帰るのはそこまで難しい話ではないだろうがもし、万が一迷子になんてなったら この雪に冷える風、洞窟や風を遮るものもなく数時間ともたないだろう。 昨日らくに戻ってこれたのは運が良かったと2体は改めて感じていた。 「…そういや」 「ん」 「お前、返事したの?」 「なにが?」 先導するサンダークラッカーがスタースクリームに視線を向けると辺りの木々に 視線を向けていたスタースクリームがサンダークラッカーを見る。 にっと口に笑みを作ってしらばっくれるなよ、と笑うスタースクリームの表情は まさに悪戯大好きな子供のようだ。 「サウンドウェーブ、だよ」 「っ…」 「その様子じゃしてねぇな、ばーか」 「知、…って…!」 「てめぇがこんな家出なんて馬鹿な話に乗るのは理由がねぇとなぁ」 スタースクリームは歩みを更に進めてサンダークラッカーの横に立った、にやにやと 笑みは消さず顔を唇が近づく寸前まで近づける。 サンダークラッカーは震え上がった、何にかはわからなかったが雪のせいだと思いたい。 デストロンらしい笑みは自分には出来ないものだ。スタースクリームはまさに デストロンを具現化したような存在で、憧れとともに畏怖な存在でもある。 「どこまでした?」 「してっねぇ…」 「本当に?」 「当たり前…だろ…」 「深く考えんなよ、手荒にされたりしねぇさ」 「…?」 「付き合ってみて、嫌ならお前から捨てたら良いじゃねぇか」 「…」 サンダークラッカーはむっとした、何にかはわからない。 ただ、仲間を、サウンドウェーブをそんな風に言うのが気になったのだ。 歯を食いしばり、何も言い返さずにスタースクリームの頭部に積もった雪を見て 手で払い落としてやる。それからゆっくりと息を吐いて再び歩き始めた。 「こっちだったはずだぜ」 「はっ、どうだか」 雪を踏み鳴らす音が響く、ひゅーと高い風の奏でが聞こえ、無機質な雪の落下音が 絶え間なく聴覚に声をかける。 2体はそれらを全て無視して歩き続けた。 →