メガ←スカワ メガ→←スタ 音波→サンクラの家出大冒険(笑)
後半多少破壊表現ありますが管理人はギャグのつもり










「そんでよぉ!」
「ぎゃははは!!」

声が響き渡り、ジェットロンの寝室に賑わいが見えた。
6体のジェットロンは思い思いに酒を口にする、既に飲み始めて大分時間が立ち
排気する息は酒の匂いを帯びていた。しかしそれを気にする者はいない。

白いボディをもったジェットロンが「なぁ」と声を一つ空間に放つと他の5体が
視線を送り、続く言葉を待つ。ラムジェットは全員の視線が集まった事に気をよくした。
そのラムジェットとは別の、旧ジェットロンと言われる少し異なった機体を
指して深く息を吐いた。

「おぉい、スタースクリーム、てめぇは何かねぇのか?」
「はぁ?」

スタースクリームはアイセンサーをそのジェットロンへと向けた。
大量のエネルゴン酒を飲んでいるスタースクリームの足元にはキューブや瓶が転がり
唇についた酒を指先で拭う姿はやや鈍い。

「あぁ、俺もスタースクリームが大失敗した話でも聞きてぇな」
「大泣きした話でも良いんだぜ?」

先ほどからジェットロンたちは自分の昔話を語っていた。武勇伝から大失態まで
一通り話し終わるとスタースクリームだけ失態話をしていないことに気がついたのだ。
元よりスタースクリームは失態が多いトランスフォーマーであったが
それを口にする事は稀だった。彼の中のプライドがそうさせる。

「大泣き?」

スカイワープが笑った。
既に酔いが回り、スカイワープの言葉には矛盾が生じたり誇張した話が
多くなっていた。そのためスカイワープの話をこの場にいる全員が話半分に聞いていた。
しかしスカイワープの笑い方は異常だった。思い出したように手をばしばし叩き
サンダークラッカーを指差す。

「大泣きっつったらあれだろー!」
「…あぁ!あれか!」

同意を求められたサンダークラッカーは多少顔を赤く染めていたが
まだ意識はしっかりしているようだった。
何せサンダークラッカーはこの後用事がある。
ここで酔って寝るにはまだ少しばかり早いのだ。
サンダークラッカーはスカイワープと同じように手を一度叩いた。

「なに?」
「なんかあるのかぁ?」
「すっげぇ話あんだぜ!ありゃ笑った」
「いや、笑えないけどあれは大失態だったよな」

何がそんなにおかしいのか、涙まで出始めたスカイワープをサンダークラッカーは
困ったような顔をして窘める。何故なら自分たちのリーダーが一言もしゃべらない。

「…」

スカイワープとサンダークラッカーがスタースクリームを見ると
スタースクリームは視線を合わせることを拒み床を見た。
床に座った6体は円陣を組むように座っていたがスタースクリームが
その輪を少し乱し始める。
その様子は「この話はやめろ」というようなバツの悪い仕草で
逆に悪戯好きのジェットロンを喜ばせる結果になるのだ。

「知りてぇー」
「教えてくれよ」
「いいぜぇ、なんつったっけ?えーっと…あれ?」
「あー、なんつったっけな…」

サンダークラッカーが暫く考えてわからないと結果を出すとスタースクリームに
視線をくれてやる。その視線を受けてスタースクリームは仕方なさそうに口を開いた。





イオマンテ





まだ地球に来るずっと前、デストロンの傘下に入って数百年立った頃だった。


スタースクリームを先頭にサンダークラッカーとスカイワープが船を下りる。
宇宙を長い間放浪するには丈夫な船が必要で、3体の乗っていた船は宇宙船としては
中々の出来である。何せあのデストロン軍の船なのだから当然だ。

船のハッチを開けたまま3体は着陸した惑星に足を踏み出した。空を覆うはらはらと
舞い散る白いものは雪だったが吹雪く様子はなく、ただ静かに舞い散るだけである。
吐く息は白く、この惑星の温度が低いことは誰にでも理解できた。

「なぁ、本当にここで休むのかよ」
「あぁ」

スカイワープが両手で自分の身体を抱き、嫌だと小さく呟いた。
トランスフォーマーは寒さに強い機体ではないのだから仕方がない。
しかし自分たちの乗っていた船も、自分たちももうエネルギーが切れ始めていた。
どこででも良いから着陸してエネルギーを取り入れる必要性があるのは
スカイワープも理解できていた。
しかし何故よりによってこんな惑星なのかと頭を傾けて考える。

「ここがいいんだ」

スタースクリームがぴしゃりと言い捨てる。ここがいい。

3体はメガトロンに極秘でここにきていた、発案者は当然のことながら
スタースクリームで、スカイワープとサンダークラッカーは便乗したまでに過ぎない。
メガトロンの船を盗み、1体の無感情ロボットをちょいと拝借して
セイバートロン星から大分離れた箇所まできていた。
何故こんなことを誰もが思うだろう、スタースクリームの悪い癖で
逆らいたくなる時期がかならずあるのだ。まるで子供の反抗期のような感情は
不定期で、唐突にやってくる。
今回は裏切りでもストライキでもなく、「家出」と言う形で表現した。まさに子供だ。



スタースクリームは辺りをよくよく見渡した。
はらはら舞う雪は遠く、視界が届く距離全てを白に染め、マントルの上を覆う地殻は
雪一色だった。その雪をかきわけ生える木々はジャングルのように広がる。
静かな惑星は雪が木より落ちる音だけを音楽のように響かせ続けた。
その様子を見てスタースクリームは微笑む。

生物がいる惑星は極力避けたかった。特に知的生命体のいる惑星は駄目だ。
メガトロンは自分に高額な懸賞金をかけているに違いない。
温かいホテルに濃度の濃いエネルゴンが美形なウェイターによって
運ばれてくるような場所では意味がない。
これは旅行ではなく家出だということを忘れてはいけなかった。

この惑星は知的生物のない、それどころか文明も未だに作られることない
小さな惑星だった。しかし木々とスタースクリームの理解できる金属、原子があれば
それは有力なエネルギーへと変えられる。


「船とロボットを置いて3体でエネルギーになりそうなもんを探すぞ」
「へーい」
「さむっ…ここ長いできねぇぜ…」


船の中は温かく、ほんのわずかに食料もあるが既に次の惑星に行くほどのエネルギーは
なかった、それにスカイワープやサンダークラッカーも自分たちが保持する能力を
扱えないほどにエネルギーは枯渇している。

3体は雪の上を歩き始めた。
ロボットには船の周りをぐるぐるしておけとでも言っておけばいい。
と、言うかそれくらいしかできないのだ。
故障中で倉庫にしまわれていなかった為持ち出せたもので、時々勝手にエラー音を
だす所と銃器が無装備所な所以外は特に問題もない。
何もないと思うが何か、「敵となるもの」が現れた場合、身体を張って
船を守るためにだけ連れて来た無感情ロボットだ。

この惑星に敵は居るかどうか。
スタースクリームはそれも考慮して、エネルギー物質を探す片手間に別生命体の
痕跡を探してもいた。



「メガトロン様心配してるかな」

スカイワープがぽつりと言葉を零すとサンダークラッカーが意外そうな顔をして
スカイワープを見た。その台詞からは「申し訳ない」と言う気持ちが溢れていたからだ。
では何故ついてきたのか、サンダークラッカーは雪のつく真っ白な葉をかき分けながら
聞いてみた。

「帰りたいのか?」
「んん…」
「家出したい理由があったんじゃねぇのかよ」
「…んー、スタースクリームが」

『メガトロンが家出したお前を心配して追っかけてくる所を見たくないか?』

「…って言ったのか?」
「あぁ、なんか、あっそれ見たいかも…って思っちまって」
「そんな理由で家出かよ…」

スタースクリームはわが道を行くように雪をかき分け進んでいた、後方2体の会話など
耳を貸さず自分の知りたいことを調べる姿は科学者の姿にそっくりだ。

スカイワープは今になって少し後悔している自分が馬鹿らしいと思っていた。
しかし後先を気にするようなサーキットの作りはしていない。
今は後悔よりもこの旅を楽しむのがいいだろうとも思っている。

「…俺は追ってこないと思う」

サンダークラッカーが寂しげに言葉を紡ぐ。その言葉の寂しさを表すように
白く蒸気に変化し息が空へと上がっていく。
スカイワープは少し驚いた表情をサンダークラッカーに向けた、迎えに来て欲しい
スカイワープと異なり、サンダークラッカーは探して欲しくないように見える。

「なんでだよ」
「…今は忙しいだろ」

今は戦争の真っ最中、セイバートロン星を拠点とした戦いが日々続いている。
ここ数年は冷戦状態のようにサイバトロンとにらみ合うだけだったがあくまでも
戦争中なのだ、メガトロン達が自分たちを探しに来るはずがない。
あるとするなら「Dead or alive」と書かれる自分達の顔と名前の載ったポスターが
出回るくらいだろう。

「じゃあお前は何で家出なんかしたんだ?」
「っ…」
「デストロンが嫌なのか?」
「…そういう、わけじゃ」

デストロンに疑問を持っていたのは今に始まったことじゃない。
疑問は常に胸に抱いていても行動に移すまでもなく、何故なら疑問以上にあの場所を
サンダークラッカーは気にいっていたのだ。今回の家出はまた別件だ。

「あれ?スタースクリーム?」
「あれ」

2体が辺りを見回すとスタースクリームの姿は見えなくなっていた。
2体のジェットロンから離れた航空参謀は以前の職の癖が出つつあり、
既に自分のすべき事を忘れ去っていたのだ。
雪に両膝をついて根強く咲く草花に手を伸ばしては顔をしかめてぶつぶつと囁く。


「…これは」

見知らぬ惑星だった、名も知らぬ惑星は年中雪が降る、光合成もできない草木は
不思議な構造をしていた。
一枚の葉をすり潰すとスタースクリームは少しだけ舐めた、広がった苦味をぺっと
雪の上に吐き出すとそこは銀交じりの紫色に変化した。

「…毒か」

かといってトランスフォーマーに作用出来るような強力な毒でもなく、血肉で生きる
生命体には猛毒である程度だ。他の草木を千切って舐めても同じだと気付くと
スタースクリームはこの惑星の地層、マントル、核いずれかに毒素が
含まれているのではとあたりをつけた。
しかしスタースクリームには好都合だった、ますますこの惑星には生物はいないと
確信を得るに値する情報。苦い舌を洗うため綺麗な雪を掬うと口に含みまた吐いた。

不思議なことに草木には「金属元素」が多く含まれていることがわかった。
ケイ素に金属テルルなど、様々だ。普通には見られない量を含む為、大量に集めれば
この草木から金属を作ることも可能だろう。しかしそれには必要な機器が足りない。

でもこの草木を持って帰れば…そこまで考えてスタースクリームは頭を振った。
持って帰るとはどこにだ?自分はもう帰らない、あの軍は俺の力を過小評価し
正当な褒美を与えない。あそこにいては自分は腐るだけだ。だからあの2体を連れて
出てきてやったのだ。

気を取り直してスタースクリームは立ち上がった。
この惑星に間違いなく生物がいないとわかっただけでも良い。
もし何かいるとしたらそれは化け物だ。



*





「おっ、サンダークラッカー!」
「んん〜?」

スカイワープとサンダークラッカーはスタースクリームの捜索はせず、木々や石を
拾って歩いていた。何でもいいから持って帰ればスタースクリームがどうにかして
くれるという変な信頼感があったし、馬鹿でも子供でもないのだから一人にしても
スタースクリームはいずれ戻ってくる。

スカイワープが楽しげに名を呼んだ為、サンダークラッカーは手を止めてスカイ
ワープの傍へと近寄った。

「どうした?」

スカイワープがサンダークラッカーの方を一度見ると目の前にある緩やかな傾斜を
描く山を指差した。岩や大木に隆起した土は2体の歩みを阻んだが自然が作り上げた
この光景は綺麗だった。

「あぁ、綺麗だな」
「は?違う違う、あそこに」
「ん?」
「…あれ?いねぇ」
「何がだよ」
「あそこに居たんだよ」
「スタースクリーム?」
「いや」

スカイワープは軽く首をかしげた。



「真っ黒な生物が」



スカイワープが指差した先はしんしんと静かに雪が降り積もるだけの
雪景色が広がるだけだった。