今自分を組み敷いているのは余裕の微笑を持った破壊大帝ではなく
紫色の機体をした刑務所脱走犯だ。




epilogue




ジェットロンの腹部の装甲は他のトランスフォーマーに比べると薄いと思われる。
それは飛び回る機体として、装甲が分厚く重たくては間違っているからである。
証拠にキャノピーを撫でていた手がするりと横にずれて腹部の薄い部分をそっと撫でただけで
ぞくぞくと身体全体が触られるような感覚にスタースクリームは震えて声を上げた。

コンバットロン達に犯された時同様、過敏に反応する体に舌打ちをして
腕全体を使ってアストロトレインを押し返してみる、するとしかめた顔が見えた。
アストロトレインが面倒臭そうに息を吐く。

「おい…暴れるの、やめろよ」
「…っ…やめろ…!」
「……何か縛るもんねぇか?お前鬱陶しい」

アストロトレインが周りを見渡して倉庫内に何かないかチェックしている。
考えもなく、とにかく鍵つきの手短な貯蔵庫に入ったもんだからここにあるのは
キューブやデストロン軍団員の装甲、部品だけで鎖だとか手錠だとか言った捕虜を
捕らえる為の道具はなく、アストロトレインはまた仕方なさげにため息を吐いた。

「スタースクリーム、俺はお前を壊したいわけじゃねぇぞ」
「…っだから」
「ただ、お前を抱くのを諦めるつもりもねぇし」
「アストロ…」
「ちゃんと優しくしてやるって」
「うるせ…俺は、したくね、ぇ」

それまで真っ赤な目をして、優しげに微笑んでいた男が黙った。
仕方ない、とその顔は呆れにも似た表情をしている。

「じゃあ仕方がねぇよな」

アストロトレインが片手に持っていた先ほどの薬品を口に咥えて、何も持たない腕を
この自分達と使えない部品だらけの倉庫で「いいものをみつけた」というように
迷いなく一つの部品を引っ張り寄せると片腕だけでも押さえつけられていた
腕を今度はしっかりと両手で押さえつけてきた。

スタースクリームがアストロトレインの動きを目で追うとアストロトレインが
引っ張り寄せたのは多分誰かの内部の部品だった。
パイプというには細く、関節部位の部品であろう。少しの直線の後、鉤状に曲がった形だった。
それをアストロトレインは脇に置くとスタースクリームの両手のひらを重ね合わせて
もう一度しっかり抑えた。

「少し痛ぇぞ」

パイプを持った腕が振りかぶられたのを見た。
まだ頭がはっきりしない状況ではそれが危険だと察知することができなかった。
アストロトレインがにやっと笑って「我慢しろよ」と言った。
自分の視界からはパイプがこちらに振り下ろされる瞬間微かにパイプの底が光ったことにしか気付けなかった。
ちかっと光って、手のひらが急激に熱くなった。

「あっ…?…あ、あぁああ!」
「…やっぱ痛かったか?」

アストロトレインが両手が自由になったとスタースクリームの目の前に両手をかざした。
口に押しつぶさないように挟んでいた薬をもう一度手に持ち替えてようやく口を開けて笑った。

「痛ぇ…痛い!!」
「これ飲めば痛いのわからなくなるぜ?」

両手のひらをパイプが貫通しアストロトレインの馬鹿力でパイプは床に突き刺さっていた。
両手の平を天に伸ばすようにパイプに貫かれたまま上下しても鉤状のそれは自分をそこに
縫いとめたまま決して逃がさなかった。
細いパイプが手を貫通する痛みは銃撃を受けた痛みにも似ていたが
その痛みが遠くに行くことはなく貫かれた手に寄り添うように痛みはそこにずっといた。
指をせわしなく動かすと鉄の指がパイプにぶつかりカチカチと金属音が響き、その響きがまた
腕に反響するとそれが痛みに繋がった。

「あんまり動かすとますます痛くなるぜ。おら、口開けな」
「うあ」

アストロトレインが痛がる顔を覗き込むために多い被ってくる。
その巨体が自分の上にある、それだけで圧迫感を感じた。
視野が狭いのは薬の所為か、酒の所為か、この圧迫感のせいか。なんでもいい。

なかなか口をあけないスタースクリームにアストロトレインが慣れた手つきで
首を軽く絞めて息苦しさに勝手に開口した。
狙い通りの行動だったのかその口にぬるりと舌が入り込むと、入り込んできた舌以外の異物感を感じた。
薬だというのにはすぐに気がついた。コンバットロンにもやられたその行動に
2度も3度も同じものを飲まされるわけにはいかねぇだろと飲み込まないよう舌で押し返した。

しかしアストロトレインは無理やり飲ませようとせず互いの舌を執拗に絡めながら
そのカプセルを口内で噛みしだいた。口内でぱっと薬の味が広がる。
表面はエネルゴンのような味だったカプセルだったが、中はまったく別の液体。
苦くて不味くて吐き出したくなるような味だ。
アストロトレインはそれでも自分の口内から舌を抜かなかった。
むしろ美味そうに味わっている。

苦さに手をがしゃがしゃと動かすと手の甲からオイルがもれだし
それが人間で言う血と同じ役割のオイルであることは自分にもアストロトレインにもわかっていた。
それをさも仕方がないことだとアストロトレインは気にも留めず流すと
カプセル内に入っていた液が完全になくなるまで口内を荒らし続け、ゆっくり起き上がって口元を拭った。

「これは飲み込んでも口内で消化しても効能は発揮される優れものだ」
「…?」
「相手にどう摂取させても良い媚薬って良いよな」
「びや…」
「俺らみたいな奴じゃ有名な媚薬でな。あんまり使うとよくねぇんだけど」

アストロトレインが指先をそっと首筋に這わせた。
スタースクリームは過敏になった身体をびくっと強張らせると反射的に腕を前に突き出そうとした。

「いっ、ぐっ…!」
「おら。手千切れるぞ…大人しくしてな…」

バチっと漏電するような音がして手に痛みが走った。
先ほど頭からかけられたエネルゴンを舐め取るようにアストロトレインが頬を舐めた。
口内で摂取した媚薬とやらのせいか、舐められた頬がやすりで擦ったようにじりじりと熱みを感じ
その熱さが快感だと言うことに気付くのに時間は要さなかった。
大人しく我慢するとアストロトレインが笑った。

「『無理やり』だなんて久しぶりだ…」
「…じゃあやめれば…良い、じゃねぇか」
「まさか。俺はお前を犯したくてうずうずしてたんだぜ…?」
「…」
「目の見えない俺を、こうやって触れてきただろ」

頬を撫でて目頭と目尻に一度ずつ唇を押し付けられた。
指先だけで極めて丁寧に触れてくるアストロトレインにぞくぞくして
身体全身が震えかけるのをアストロトレインにばれないように耐えた。

「錆だらけだった時に俺に触れてきたのはお前だけだった」
「…」
「メガトロンの命令だったとしても意識があったときどいつもこいつも俺から逃げたからな…
 俺はそれが結構嬉しかったりしたんだが」
「…」

アストロトレインが珍しくもうっとりした口調で自分を愛でるように撫で擦り
思い出しているのだろう。そのアイセンサーは自分を写しているのかわからなかった。

「お前が大人しくしてくれるなら出来るだけ優しく抱いてやりてぇんだけど」
「手貫通させておいて、なにが…!」
「だから、大人しくしてろって…」

もう一つ媚薬を取り出して足を左右に広げる。
スタースクリームは両手で足を開かされることに最初何の抵抗も感情も浮かばなかったが
アストロトレインの顔を視認してはっとした。

「なっ、に…!!」
「どこででも摂取できるって…言ったろ?」

にぃっと笑うアストロトレインに危機感を感じた。
足を蹴り上げようとするとそのまま足首を捕まれて担がれた。
アストロトレインがやれやれと仕方なさ気な表情をしてからもう一度笑う。
親指でレセプタを撫で擦られてありえない声がでた。

「感じ過ぎじゃねぇか?お前って感度良いんだな」
「はっあ…!やめて…っ!アストロトレイン!頼むからっ…!」
「…たまんねぇな」

はぁっと興奮したアストロトレインの声が聞こえた。
その興奮した声にすら身体がぞくりとした。
デストロン軍団に居る時のアストロトレインとは違う雰囲気に逃げ出したくなった。
手が自由にならないことにはどうしようもない。両手を必死に動かすと激しい痛みと漏電するだけだった。

「うっぐ…」
「スタースクリーム…頼むから暴れるなって…礼だって言ってんだろ…」
「アストロ…っ」
「出来る限り痛みは与えたくねぇんだよ…」

スタースクリームは快感と苦痛で体内熱があがった。
身体が熱さに換気をしようとファンを稼働させ、それでもこの倉庫内の熱もあがっているのだろう。
内部と装甲表面の温度差に額に汗がにじんできた。
それをアストロトレインが手の甲で撫で、ふき取ってくれる。
その優しさとは正反対の片方の手でレセプタに軽く指を入れた。

「う、ぁあ!…う…」
「…大分緩いな…酷使しすぎてんじゃねぇのか?」
「っせぇよ…!うああ!」

一気に数本の指が入り込んできて身体がのけぞった。
パイプに突き抜かれた手に負担がかかってぎしぎし鳴り漏電する。
痛みと強すぎる快感に悲鳴に近い声をあげるとアストロトレインは目尻に唇を当ててきた。

「少し、耐えろよ」
「う、あ…あぁ…!」

びくりと一度身体を硬直させる。
喘ぎ声なんだか悲鳴なんだかわからない口を静かにさせて集中する。
アストロトレインの指が奥に何かを押し込んで抜け出ていった。
内部熱でそれが溶け始めていくのを確かに感じ取った。身体の神経回路が敏感になっているから
余計溶けていく様が手に取るようにわかった。
溶けたその液がどろりとレセプタ内を犯すと口から嗚咽が漏れた。

無言のアストロトレインを見て名を呼ぶとアストロトレインは笑った。
片足を肩に乗せ、もう片方の足は足首を掴んで押さえ込んでるアストロトレインは機嫌良さそうに
顔を撫でて震える口内に指を入れてきた。

「怯えんな。心配ねぇよ」
「っ…」

顔を左右に振るとその振動で手が痛む。今この状況下はどうしようもなく無力だ。
更に溶け続けている薬品が熱くて仕方がなく足をむずむずと動かすとアストロトレインは足を離した。
担がれていた足も床に落ちると自分の痴態に気付きながらも膝同士を擦り合わせて
液体の熱さとむず痒さ。そしてレセプタに触れられた時に発生した快楽をどこかへ逃がそうと
腰をゆすって蠢いた。

「…すげぇえろい」
「あつ…!」
「熱いんじゃねぇよ。しっかり感じ取ってみ…」
「う、あっ、ああ…!」

全身の過熱を感じ取ってファンでは逃がしきれない熱のために
アイセンサーからぼろぼろと冷却材が零れた。それは熱のせいだけではないのもわかってた。
途中から熱さよりも快楽が強くなってきて口からもオイルが零れた。
それをにやにやと見つめて手を貫いているパイプに手を伸ばした。
アストロトレインが細いパイプの鉤状の部分に手を置くと小さい痛みと漏電音とともに
ずるりとパイプが引き抜かれると手が自由になった。

スタースクリームにはそのパイプに自分のオイルがべっとり付着しているのを視認する前に
その痛みによりアイセンサーを濁らせた。

「っ、う…あぁ…!」

身体を起こして扉まで這いずった。
アストロトレインは止めもしないでカツンと軽い音を立ててパイプを床においていた。
スタースクリームが扉までたどり着いて鍵に指を伸ばした。
這いずったままでは届かない鍵認証パネルに小さい舌打ちをして膝立ちする。
ふと身体が震えて足から力が抜けた弾みで床に座り込んだ。
座り込むと開いたままのパネルの内部にあるレセプタクルが床に擦れて更に冷却材が零れた。
もう立てねぇとスタースクリームは内心自分の身体の状況を理解した。

「っ…ぁ…!」
「開けるのか?スタースクリーム」
「…アスト…」

優しそうに笑い、立ち上がれない自分の代わりに扉の鍵にアストロトレインが手を伸ばす。
アストロトレインが認証されて扉のモニターにはセイバートロニアンの言葉で[open]と[close」の
2つの文字が青色にちかりちかりと点滅してその存在を知らせた。
上目遣いで睨むと内部で溶けた薬がレセプタ内を伝う感覚だけで達しそうになった。

「っ…!…つ…」
「どうしたよ。開けるんじゃねぇのか?」
「…やば…い…」
「うん?」
「アストロ…ッ…」

アストロトレインが座り込んで俯いた自分の顔を覗きこんでくる。
どうしたよ?と顔に手を当ててくるその顔は笑ったままだ。
震える指をアストロトレインの腕に触れさせてそのまま握りこんだ。
腰の立たない状態でずるずると傍にいるアストロトレインに両腕を絡ませて息を吐く。
これじゃ自分がこいつを求めてるみたいじゃねぇか。違うんだ。

「…言ってみろよ」
「…アストロ、トレイン…頼むから…ぁっ」
「聞いてんぜ」

自分の声が甘い媚を含んでいることに気付いていた。もしこんな声をかけられたら
自分はその声の主を撃ち殺すのではないかと思うほどに甘ったるい声。
それでもアストロトレインは猫を撫でる様に頬を撫で擦り口には笑いを含めるだけだった。

口を開けば甘い声と吐息と飲み込むことも出来ない口内に溜まったオイルが零れた。
鉄の指を立ててアストロトレインの腕を擦ってそのまま腰に手を回した。
もう駄目だ。苦しい。もう堕ちたってかまわねぇよ。

「はやく、いれ、て…っ」
「…」

両肩を掴まれて崩れかけていた身体を抱き起こされてそのまま唇にアストロトレインの唇が当たった
熱さで未だに止まらないアイセンサーからの冷却材で濡れている頬を
一度だけ舐め上げてアストロトレインは満足そうに笑った。

「おせぇんだよ。言うの」

罪悪感は完全に消え失せてしまっていた。




*


腰を待たれて背後より内部に強くコネクタを打ち付けられる。
その勢いのまま冷却材がまたぼろぼろと零れた。
内部に液体が飛び散ったのを感じた。
元からレセプタ内に飛散していた薬とアストロトレインのオイルで溢れだした液体が床に滴ったのを
スタースクリームは微かに見やるとアストロトレインの交歓行為をしていることを改めて
気付かされて頬を染めた。
しかも自分も達していた。本当に限りがないかのように思えて自分に驚いた。
自分の表情はどうなっているんだ。恍惚とした表情をしてなければ良い。

「…アストロ…抜けよ…」
「なんで」
「もう、飽きた…」
「お前が飽きたとしても、ここはまだ出そうだな」

背中に覆いかぶさっていたアストロトレインが片手をスタースクリームの腰へと回して
そこを撫でるついでに今先ほど達して微かに痙攣するコネクタを擦ってきた。
撫で擦られたそこがまたジンジンと熱を持ち始める。
それでもスタースクリームの口からは苦痛の声が漏れ始めていた。

「痛い、か?」
「もう、触るな…!いてぇ…よ!」

確かに快感も走るがそこには痛みも存在していた。
薬が入っているのに痛みが発生するのはおかしいとアストロトレインは訝しげにアイセンサーを細めた。
あの薬は交歓行為を未経験の者でも痛みが発生しない。むしろ痛覚を感じるための回路の正常さをなくし
痛覚を快感に直結させるような優れものなのだ。
だから危険だとも言われてる。痛みを感じなくなる可能性があるからだ。

「…?お前、どっかおかしいんじゃねぇのか?」
「いてぇっ…いてぇよ!ア、ス…っ」

繋げたままアストロトレインはスタースクリームを抱き上げ、座りなおした自分の
膝に互いに向きあう形にスタースクリームを置いた。
繋がったままでのその移動はスタースクリームに快感を発生させたようで甘い声をあげさせたが
スタースクリームの表情は苦痛で曇り、快感ではない。また熱を逃がす為でもないだろうに
アイセンサーから大量に冷却材をこぼしていた。

「助け…っいてぇよ…!」
「どこがいてぇんだよ」
「わか、んね…」

顔を左右にぶんぶんと振って四方に冷却材を飛ばしたスタースクリームの顔は酷いものだった。
アストロトレインは自分の息も整わないのに薬を追加するのは危険だと躊躇した。
スタースクリームに比べれば可愛いものだが自分も多少は薬を体内に取り込んでいる。

「…くれ…!」
「あぁ?」
「…さっきの、薬…!」
「やめとけ」
「…」

顔を更に左右に振り、スタースクリームは目の前の存在に抱きついた。
身体が痛い。とスタースクリームは言った。
何処が痛いのかもわからぬほどに全身が痛み始め、その痛みによりくる
吐き気と意味のわからぬ快感で混乱に陥った。

「…もう一粒飲ませることはできねぇから。折半な」
「…せっ…?」
「2体で1粒だ。それ以上飲むとてめぇの場合…癖ついて戦闘なんて出れなくなるぞ」

スタースクリームは痛みで頭の中がぐしゃぐしゃになりながらもアストロトレインの話を聞いた。
飲みすぎると通常生活でも痛みが快楽に変わる可能性がある。と。
それは航空参謀として、それ以上に一兵士としての生命に関わる話でもあった。

「サイバトロンの攻撃食らってイキてぇってんなら構わなぇけどよ」
「…ざ、けんな。そんな薬飲ませてっ…たのかよ」
「どうすんだ…?」

倉庫内には異質な空気が流れていた。
倉庫に入ってきた時は抵抗していたのに、先ほどまでは互いに欲望を貪っていたのに
今現在では悪巧みをたくらんでいるように互いに顔を突きつけてその2体の間にある
一本の手中には小さい一粒の薬剤があるのだ。

アストロトレインはそれを口に咥えてスタースクリームに差し出した。
冷却材とオイルと、様々な液体で濡れたスタースクリームはアストロトレインの口を一度だけ見て
アストロトレインのアイセンサーへと視線を移す。

スタースクリームはアストロトレインのアイセンサーを眺めたまま
そっと自分の唇を薬剤へと向かわせて歯で器用に挟んでいるアストロトレインの唇に噛み付いた。
互いに舌の上で転がした後、アストロトレインが自分の口内に薬剤を巻き取った。
追ってスタースクリームの舌がアストロトレインの口内に入るとアストロトレインが
薬剤を噛み潰し、中から湧き出た不味い液体を少しだけスタースクリームの舌の上に撫で付けた。

「…てめぇはこれだけにしとけ。それだけで今までの摂取量だ…十分効果を発揮する」
「まだ、いてぇ…」
「すぐ収まるぜ…ほら。考えてねぇでこっちに集中すんだよ…」

アストロトレインがそう言うと確かにスタースクリームの下腹部に痺れが走った。
痛みではないその感覚に甘い声が漏れて恍惚とした表情が漏れ出る。
アストロトレインもそれをみるとにやりと笑い再度揺さぶりをかけ始めた。

「んっ…あ」
「いてぇか?」
「んんっ」

アストロトレインに真正面から抱きかかえられて内部のコネクラをきちきちと
音を立ててレセプタが締め付けた。
アイセンサーを明滅させて紫色の胸元に頭をすりよせると子供をあやすように頭をなでてきた。
アストロトレインが聴覚機能の近くで何かを囁いた。
その内容はスタースクリームの様子を可愛いだとかいつもとは比べ物にならないだとか
甘い内容だった。しかしスタースクリームにはそれがまったく聞き取れず、薬の効果が全身に回り
アストロトレインの声ですらぞくぞくと身体を振るわせる原因の一つになっている。

「今後も、抱かせろよ…スタースクリーム」
「うぅっ…あ、…あぁっう」
「聞けよ」

狙いを定めてパルスを流すとスタースクリームは弓なりにしなった。
ぼろぼろとアイセンサーから冷却材を流す。それは熱すぎる熱を逃がす為の要因のひとつでしかたなかったが
アストロトレインから見れば人間が流すそれにも似ていて酷く滑稽だった。

「すっかり堕ちちまったけど、ちゃんと俺の声聞こえてるんだろうな」
「はっ、ああ」

膝の上に乗せられたままスタースクリームは未だに弓なりになって天を仰いでいた。
口を開け閉めしながら断続的に喘ぎ声を漏らすのを見てアストロトレインはその伸びた首筋に噛み付き
猫が毛づくろいするように何度も舐めるとスタースクリームがアストロトレインの肩に手を伸ばした。

「め、が」
「あぁ?」
「メガ、トロン」


もう一度、内部を突いた。
スタースクリームは細めていたアイセンサーを開ききると大きく喘いだ。

「…俺はてめぇを離さねぇぜ…」
「う、うああ!」

両手の指をスタースクリームの指に絡めた。
恋人同士のように向かい合い手を絡め、指同士をすりすりと擦り合わせながら
首筋を噛み、もう一度愛に近い言葉を言ってみてもスタースクリームには反応らしき反応はなかった。

カキンと音がした気がする。

スタースクリームはアストロトレインの睦言に無反応だったのは快楽に身を投じていたせいだった。
しかしその音だけはしっかりと聴覚に残り記憶の中で何度もリピートさせていた。

「…なに…?」
「あぁ?もう一度言うかぁ?」
「…ちが、音が…」
「は?音なんて、てめぇのオイルのたれる音くらいだろ」

顔を左右に振って違うと否定する。音は何かが割れる音に似ていたと思う。
音はメガトロンがサウンドウェーブからだしてもらった丁度良い大きさのキューブに
氷とエネルゴンを大量にいれ、温いエネルゴンが氷を溶かし始める時になるパキンという音に
似ていたとスタースクリームは思った。快感に落とされながらもそこまで冷静に考えられたのは
その音が何故か重要に思えたからだ。

「…待ってくれ…なんか」
「待ってだとかなんだとか、てめぇも忙しいな…」
「…お、かしいんだ」
「全部終わったら聞いてやるよ」
「んっ」

口内を犯された。
待ってくれ。と何度も言っているのにアストロトレインはその舌を絡めとって遊んだ。
パキン。とまた音がした。異常なまでに胸騒ぎがする。
それはサイバトロンに逆転される前に感じる雰囲気にも似た、この後悪いことが起きると
予感させる音だった。

小さなその音は広大な砂漠に落としたコインのような、微かな存在だった。
それでも無視できない音だった。
うつろな意識でアストロトレインを押し返した。

「だからなんだ!」
「…」
「どうしたよ…まさか狂ったわけじゃねぇよな」
「……」
「スタースクリーム?」

はぁと熱い息が漏れた。
重たい身体を動かして、頭を侘びるようにだれた首を左右に振って断った。
音を作り出せない、何も奏でない声で嫌だと言ってみた。
何もつかめない様に彷徨う両手をアストロトレインに伸ばしてもう一度首を振った。
その手を押さえ込まれた。違う、握って、ぎゅうっと握りこんで耳元で、あぁ。何か言ってる。

「好きだぜ」
「…あぁ」

バキッっと音がした。
その音に頷くように首を縦に振った。