自分の身体は元々感度の高い機体である。
それはジェットロンだからではなく、惑星調査員だったから。
気圧、温度、全てこの身体で判断する為に感知能力が高く設定されているんだ。
メガトロンは笑った。感度の高い身体だと。
最初、メガトロンが俺を抱く時に言った言葉だ、自分は今みたいに押し倒されて
陵辱されて初めてのその行為に悲鳴を上げていた。





epilogue bridge






(スタースクリーム)




真っ暗だ。
何も見えない。
アイセンサーが起動してねぇからだ。

冷たい指が頬を撫ぜた。
「スタースクリーム」と声を聞いた。メガトロンの声だ。
冷たい手に頬を摺り寄せて小さく息を吐いた。
今の今まで熱かった身体が冷たい指を欲している。

身体は疲労感に浸り、もう首をもたげる事すら望めなかったが
メガトロンの声と、その冷たい指先に惹かれるように薄くアイセンサーに光を灯す。

「…」
「……起きたのか」
「サウンドウェーブ…」

最初に聞こえた声、聞き間違えるはずがない。メガトロンの声だった。
サウンドウェーブ…また俺に変な気を使いやがって…
いや、もしかしたらサウンドウェーブの声じゃ自分は起きなかったのかもしれない。
スタースクリームは想像していた人物とは違うのに明らかに落胆しそれを隠しもしない。
むしろそこまで頭も回らなければ、サウンドウェーブに気を使う必要もないと思っている。


「…何して」
「…」
「アス、トロトレインは…?」
「戻った」
「…?」
「自室へ戻った」
「…あの野郎…やるだけやって…放置かよ…」
「立てるか」

サウンドウェーブが手を貸してくる、こんな所でじっとしてるわけにもいかない。
自分の身体はもはや自分の意思で動かすことすら困難なのだ。
サウンドウェーブという陰険な男が心の奥底で何を考えているかなど
知ったことではないがスタースクリームはそっとその手に自分の手を重ね合わせた。
サウンドウェーブの手は冷たくて丁度良い。

同時にいつからいたのか、どの段階でここに入室してきたのか。
鍵はかかっていたはずだ。アストロトレインがいれたのか?
アストロトレインがいなくなってから来たのか?いや、それはないか。
「自室へ戻った」と言っているということは顔を合わし言葉を交わしたのだろう。

サウンドウェーブにもう一度「アストロトレインは」と投げかけようと口を開いた。
最初の数字喋った段階で、この男は再び「戻った」と言う。
その言い方が、なぜか怒っているように感じた。自分の気のせいかもしれない。



「…?」

サウンドウェーブの視線を感じて目線を追うと貫かれた手のひらを見つめていた。
もうオイルなんて残ってないのか手のひらからオイルが流れ出ることはなく穴からケーブルや
ひじゃけた鉄が見える。ただ痛みはなかった。
見るも無残に貫通している手は広げて自分で確認すると貫通した先に床が見えるほどの大きさで穴が開いていた。
アストロトレインの奴…と内心で愚痴る。

「…」
「……痛くはねぇから」

指で穴を擦るサウンドウェーブに言う。
この男に限ってないと思うが労わるように触れてくる。
貫通で手のひらの中央に見える床を隠すように手で穴を塞ぎ、そのまま握りこまれた。

「部屋に来い」
「え」
「リペアする」
「…」

この男に限ってない。と言ったがもしかして本気で心配してんのか?
だったらもっと初めっから助けて欲しかったけどよ…
微かに笑いが漏れる。今更すぎるな。そんなこと。

「あぁ。痛むところはないか」
「あぁ…大丈夫…?」

さっきまで、いやどれほど前かはわかんねぇけど。確かに痛かったはずだ。
死ぬんじゃねぇかって痛み。自分は焦ってたはずだ。そうだ。音がしたはずだ。

「どうした」
「…ちょっと、だけ気になるとこがよ…つか頭いってぇ…」
「薬抜きが必要だ」
「抜き…?」
「パイプやオイル内を通して体中に薬が広がってる」
「…」
「新鮮なオイルを流し込んで薬の効果を含んだ部分を洗浄する。部屋に来い」
「…あぁ…」

まだ身体に薬の効果が残ってるってのか?残っていても仕方がないほど大量に服薬したのは確かだ。
肩を貸してもらって立ち上がる。サウンドウェーブをちらりと見た。
この男の事だ。ただで手を貸すとは思えない。何かあるのか?弱味を握りたいのか?
アストロトレインの時みたいに触られただけで身体から力が抜けるほど
気持ち良いだなんて事はないのが救いだ。今は身体がだるいだけだったが
それだけじゃなく快感が発生するなんてことは勘弁して欲しい。
サウンドウェーブに身体の体重の半分を持ってもらって足を引きずって歩く。

「あ?そっちじゃ遠回りだろ」
「そっちにはジェットロンとメガトロン様がいた」
「…」
「見られても良いのか」

肩を貸してるこの距離で耳元で囁かれた。
快感ではなく畏怖でぞくりと身体が震えてしまった。
とてもじゃないが「転んだ」だとか「怪我した」だとかそんな言い訳で
何とかなるような格好じゃない。薄汚れ、オイルに塗れて、間違いなく交歓行為をした後の様子。
ジェットロンに見られたら。いや、メガトロンに見られたら…

「速く来い」
「…あぁ…っ」

肩をしっかりと抱き寄せられて見つかるわけにはいかないという緊張感に身体を振るわせた。
サウンドウェーブにもこの震えは伝わっただろう。




*



「首とキャノピー内、足のレセプタクルを露出しろ」
「……」

言われたとおりに体中のレセプタクルを露出した。
サウンドウェーブが首元に手を伸ばしてきたが少し目を細めるだけで抵抗はしなかった。
微かに首のレセプタの状態を確認すると空っぽのキューブとオイルが淵まで満ちたキューブの
両方を首のレセプタに繋ぎしっかりとはめ込まれた事をチェックした。

他にも身体のレセプタクルとコネクタ、更に給油口まで開いて全て繋げるとサウンドウェーブは
自分に背中を向けた。
そこには「何故サウンドウェーブの部屋にそんなものが?」と聞きたくなるような
大掛かりなリペア機具がならんでいる。地球で言う心電図のようなものが立ち並び
接続した部分からスタースクリームのデータを抜き出し記録していっている。

「何してんだよ」
「…」

サウンドウェーブがカタカタと何かを打ち込み確認作業をしている。
自分はサウンドウェーブの寝台に座らされていてそれが何をしているのかなんて確認できないが
自分のパルス数やなんやらを調べているんだろう。
ちょっとだけ立ち上がって覗き見る。

…正弦波と余弦波、それと矩形波だな。
それとフーリエ級数の数式、現在の矩形波の流れを模したグラフ。
赤と青で関数グラフをつくってんのは正弦曲線か?
ちょっと覗いたが立ち眩みがしてサウンドウェーブの背中にぶつかった。

「なんだ」
「わり、…なんか、気持ち悪い…」
「座ってろ」

床に座り込むとサウンドウェーブが手を貸してきて寝台に戻される。
背中に手を当てて、少しだけさする様な動きを見せながらゆっくりと寝台の上へと誘われる。
寝台に横になって一息つくとサウンドウェーブが待ってろと告げてまた機具のところへ戻った。

「お前の身体に新しいオイルとエネルゴンを注入する」
「あぁ…」
「同時に媚薬が混ざってるオイルを排出する」
「…あぁ」
「体内を清掃する。具合が悪くなる可能性がある。いいな」
「……」

一度頷く。
体内のオイルを全取替えなんて人間で言えば血液全部だして取り替えるみたいなもんだからな。
まぁ、死にはしなくてもオイルが身体に馴染むまではかなり体力使うだろうよ…

「他に身体に異常…ねぇの?」
「詳しく調べないとわからない」
「ふーん…」

まだ頭がくらくらした。ただ急かす。自分のブレインサーキットの奥から急かされる。
『メガトロン』の名前を聞いて自分は確かに焦った。
行為中、途中からメガトロンのことなんて頭の片隅にもなかったが
サウンドウェーブがメガトロンの名前を出した時、自分の中で焦燥感が湧き出た。
隠さなくては、ばれるわけにはいかない。普段どおりに、いつも通りに。

「…レーザーウェーブ…部品いつ送ってくるか知ってるか?」
「聞いてない。すぐ送るとは言っていた」
「…あ、のよ…ちょっと見てくんね…?」
「何」
「下腹部の、レセプタ」

アイセンサーを隠すように腕を額に乗せた。
腕より微かにアイセンサーを覗かせてサウンドウェーブをみる。
サウンドウェーブはこちらに振り返っていて「何を言っている」と言った雰囲気を
まとわりつかせていた、それを受けて小さいため息を吐き出す。
もう一度腕でアイセンサーを隠すと仕方ないので説明を始めた。

「…多分、使い物にならなくなってっと思う」
「…」
「アストロトレインとヤる前にコンバットロンの阿呆どもにヤられたからよ」
「…」
「メガトロンに壊れるから酷使すんなって言われてたんだけど」
「…」
「……」

そこまで言うとサウンドウェーブが近寄ってきた。
ぎくりと震えてサウンドウェーブに焦点をあわせた。喋ってる間は腕でしっかりと隠していた双眼で
サウンドウェーブを見つめると目が合ったと同時に頷き「わかった」と言われた。
その声が、この男にしてはあまりにも優しすぎる。
サウンドウェーブの前で脚を開かなくてはいけない。そんな緊張よりもその声の優しさに驚愕した。

「脚を開け」
「…っ」

いたわるように、サウンドウェーブの指がそっと膝に触れる。
急かさず、強引でもない。ゆっくりと軽く押すだけのその所作に目が離せない。


「…ひびがはいってる」
「…くそ…」

割れた音はそれか。と一人で納得する。
メガトロンも接続したら割れるのを予想したんだろう。だから接続しないと言ったんだ。
それなのにそんなメガトロンの気遣いを無碍にしたんだな俺は。
メガトロンの顔が思い出せない。多分、ブレインサーキットが思い出すことを拒否してる。
今の俺じゃメガトロンの前に立つ資格はないとでも言うようだった。


「…ーム」
「は?」
「スタースクリーム。何度も名前を呼ばせるな」
「え、あ、わり…」

サウンドウェーブはまだレセプタを覗き込んでいた。
何度も名前を呼んでいたらしい。気付かなかった。
つか何時まで見てやがる。恥ずかしいからもう足を閉じたいと言う気持ちを込めて
膝に力を入れて両足を閉じようとしたがサウンドウェーブが片手でそれを阻止した。

「な、なんだよ!」
「…」
「…サウンドウェーブ?」

見つめ返す。サウンドウェーブは黙ってこちらを見ていた。
その表情は何もない、サウンドウェーブはいつも無表情だといわれていても
それでも雰囲気でサウンドウェーブの感情はある程度読み取れた。
それなのに今の表情は本当に何もなかった。ただ自分を見ていた。

「……なんだよ…」
「わからないか」
「は…?」

サウンドウェーブはまた黙った。
自分もつられて黙り込む。黙って見つめられる。

あ?

気付いた。
サウンドウェーブの無表情をずっと眺めているのは結構辛いもので
流石の自分も視線をそらした。その時気付いた。
サウンドウェーブが片腕で脚を閉じようとするのを塞いでいる。

何で片腕なんだ?

「……サウンドウェーブ?」
「気付いてなかったのか」

サウンドウェーブの指がレセプタに入っていたのだ。
怒りよりも驚きと羞恥心が自分の中に湧き上がった。
壊れてるって言ってるレセプタクルに指を挿しこむだなんてこいつは頭がイカれてる。

「抜けよ!何して」
「お前の身体の中にはまだ媚薬の効果が残留してるはずだ」
「あぁ?だからなんだ!?」
「何も感じないのか」

隠していた顔を晒してサウンドウェーブに掴みかかる勢いで怒鳴りつけたが
サウンドウェーブの静かな声に自分も静止する。
確かにおかしい。いや、自分は先ほどサウンドウェーブに肩を貸してもらった際に感謝したはずだ。
「サウンドウェーブに触られて快感を感じなくてよかった」と。

しかしサウンドウェーブはリペア機具で自分の身体の中に媚薬が残り
それが自分のパルス数をおかしくしているのを確認済みだ。
だからこうして身体の至るところにケーブルを挿して身体中のオイルを排出しようとしてる。

それなのに何も感じないのは奇異である。
アストロトレインじゃなきゃ駄目というわけはまずない。
サウンドウェーブの指が内部に入り込んでいるのに何も感じないのがおかしいのだ。
指が入っていることすらわからない。圧迫感すら感じない。


「何本かわかるか」
「…」

首を左右に振った。
サウンドウェーブと自分の理解はほぼ同時だった。

「外部よりも内部のほうが損傷してる」
「…神経回路がやられてるってのか…?」


嫌な想像が頭をよぎった。


『…今日はインストールだけにしておくぞ。スタースクリーム』
『なんっ…』
『今接続すれば破損は間逃れん。しかも神経回路を破損すれば大変なことになるぞ…』

こんな事になるなんて思わなかった。

「…サウンドウェーブ」
「…」
「……直るか?」
「……」

サウンドウェーブは何も言わなかった。
サウンドウェーブは参謀であって衛生兵の類じゃない、わからないと言うことはありえるだろう。
しかしサウンドウェーブは「わからない」といわなかった。黙っただけだった。

静かにサウンドウェーブはスタースクリームの腕をとった。
指先だけを掴んだサウンドウェーブが手を引くと抵抗しない腕はすんなりと
サウンドウェーブの目の前へ移動した。

「…いって…!」
「痛いのか」

手のひらに開いた穴に指を押し込まれてぐいぐいと穴を広げるように弄られた。
手のひらから肩までびりびりっと電気が走るように痛み、それでも身体に残る薬が
痛みを和らげていた。

「神経全て通っていないわけではない。手の痛みは感じている」
「…穴広げる前に言え!」
「…直るかもしれない。直らないかもしれない」

直らない。
その言葉はその直前の「直るかも」の言葉を打ち消す効果を持っていた。
硬直して一言も喋らない自分をサウンドウェーブは黙って見つめてきた。

直らない。それはイコール2度と快感を感じない身体になったと言う意味だ。
自分は快感に弱い体質だった。微かな快感に落とされることは何度も合った。
メガトロンとの初の接続は一挙手一投足全て覚えているほどだ。
昔の自分なら喜んだな。メガトロンに初めて触られた時、快感を覚えた時
自分の感度の高さに嫌になった覚えもある。快感を感じなくてすむのは嬉しい出来事だったはずだ。

しかし今と昔は違う。
メガトロンとの接続が好きだ。否、メガトロンが好きだ。
メガトロンが「来い」と言えば、あるはずもないしっぽを振って喜んだ。
それがばれないように「命令なら行きますが?」とか言っていた。

数日後レーザーウェーブから新しいレセプタが届けばメガトロンは自分を抱くだろう。
その時、自分は演技しなくてはならなくなるのか?それともメガトロンを拒むのか?
理由を聞かれるだろう。しかし理由はいえない。
コンバットロンとアストロトレインのせいだと言わなくてはいけない。

自分の考えを全て推察されたようだ。サウンドウェーブが静かにある提案をだした。

自分はしんだような顔をしていたのだろうか。
サウンドウェーブが優しげに囁く。
呆然とする自分の頬に手を当てて、聴覚機能のすぐ傍でサウンドウェーブは言った。

その提案は嘘のような話だった。失敗する可能性が大きくて、前提からして危うい。
誰も傷つかない、それでいて皆平等に傷つく内容だとスタースクリームは思った。
何度も口を挟みたくなるそれを全て聞いてスタースクリームは頷いた。
流石情報参謀だ。悪知恵が働く。ただ珍しいな。

「お前が身体張るなんて珍しいじゃねぇか」
「お前が承諾するとは思わなかった」
「そうかよ…」

参謀同士は目をあわして互いをあざ笑うように笑った。







*





レーザーウェーブから最高級で一番最新で、デストロンの経済状況じゃ手がでないのでは?と
思うようなレセプタクルが届いた。
メガトロンは自分の事のように喜んだ。スタースクリームはメガトロンの隣で笑った。
破壊大帝自ら交換を手伝うと申し出たが、サウンドウェーブが割って入った。
スタースクリームとサウンドウェーブは目を合わせて「遠慮します」と言った。
破壊大帝は首を捻った。スタースクリームがいつもの調子で
「直ってすぐヤられるだなんてお断りですぜ」と言った。

その雰囲気はメガトロンとの行為後、寝台の上に寝転び次の作戦を
サウンドウェーブとメガトロンが話している。そんな日々に似ていた。

あの日々と違うのは自分がポンコツだってことぐらいだ。

そうして自分はサウンドウェーブと2体、極秘裏にレセプタを交換した。
そういう約束、作戦だったからだ。




ここまでが 数ヶ月前の話だ。








「…」

モニターを黙って見つめ、外で情報を集めているカセットロンから届く情報を
打ち込み、次の作戦の為に仕事をしていた。まぁ、簡単で退屈な仕事だ。
自分は無言で、背後の破壊大帝の椅子にはメガトロンがいた。
数時間に及ぶ沈黙。背後に感じる視線。


「…」

耐えられねぇ。こんな状況。
流石の自分もこの状況でリラックスできるようなトランスフォーマーじゃねぇ。
席をガツンと音を立てて立ち上がるとメガトロンがこちらをちらりと見た。
無言でメガトロンの横を通り抜け、更に脚を一歩進ませた。

「っ…うあ!」
「…」

羽を掴まれて引き戻される。
痛かったわけじゃないのだが悲鳴のような声が漏れてメガトロンの座る膝に背中を倒した。
メガトロンの膝の上でその身を差し出すように倒れこんだ自分に舌打ちして
アイセンサーをしっかりと起動させると天井と赤い目をしたメガトロンが見えた。
そのメガトロンの表情は自分を怯えさせるに十分値するものだった。

「どうした。何故怯える?」
「…メ、メガ、トロンさま…」
「…」

震える体に震える歯。
がちがちとなるそこをメガトロンがうるさいと行動で制するように顎を掴んだ。

「あ、あ、待って」
「…」

掴んだ顎を引き寄せられて唇同士が触れる。
メガトロンの口だ。メガトロンの舌だ。身体中がざわざわと歓喜で騒いだ。
しかしそれを悟られてはいけない。メガトロンの身体に回しそうになる腕を止める。

がちがちと今だ止まることを知らずに鳴り続ける歯の隙間にメガトロンの舌が入り込んできて
さも愛しいもののようにスタースクリームの舌を愛でた。
震える歯は無理やり進入するメガトロンを噛んだ。本気でじゃない。噛みたくて噛んだわけでもなく
震える歯が勝手に軽いリズムを取るように噛み続けた。

気持ちよかった。メガトロンの舌の温度がわかる。感触もある。気持ちが浮上してきた。

「んっ、んんぅ」
「…」

メガトロンは噛まれていることを気付いていないのかと疑いたくなるほど舌を絡ませることに夢中になっていた。
背中に、メガトロンの背中に手を回したい。抱きしめてもっと絡めてくれと強請りたい。

しかし駄目だ。
自分の感情を引き戻してメガトロンと自分との間につっかえ棒代わりに腕を伸ばした。

「やめて、やめてください」
「…」
「…や、めて」
「サウンドウェーブが好きか」

自分を傷つける言葉が躊躇いもなく振り下ろされた。
スタースクリームは暫く動かずそれからゆっくり頷いて、メガトロンの膝の上から降りた。



数ヶ月前、レセプタが届いてすぐに交換した。
レーザーウェーブには全て話した。そうするしかなかったのだ。
レーザーウェーブは信じられないと言った。内部でそんな事故。事故と言って良いのだろうか。
内部での反乱のような、愛憎劇のようなことがあるのだろうか。レーザーウェーブは困惑した。
信じられないのではなく、信じたくないのだろうが全て話した。
少しだけ躊躇をみせたレーザーウェーブは極秘にレセプタと一緒に
神経回路を直すための道具、部品を送ってきたのだ。

サウンドウェーブにリペアをしてもらい、随分と時間と手間がかかった結果がこれだ。
直らなかったのだ。しかしサウンドウェーブも自分も驚かなかった。
2体の間にある密約は「直らないだろう」という前提で始まっていた。

『やっぱり駄目だな…』
『…』
『…つか、てめぇ…本当に良いのかよ?』
『責任は俺にもある』
『お前そんな奴じゃねぇだろ』

この男はあいつらに好き放題抱かれて、それ故レセプタクル。その内部である神経まで
破損したスタースクリームには自分の責任があると言う。
コスミックルストの治療法にスタースクリームをベースにしたのが全ての原因だと言いたいらしい。
普段はそんなの気にしないだろうよ。俺の知ってるサウンドウェーブはそういう男だ。
どういう気まぐれなんだかしらねぇけど、こいつは俺と一緒に深淵まで付き合ってくれるらしい。

サウンドウェーブは新しい高級品のレセプタクルに指を入れて中を擦っていた。
自分は相変わらずそれを痛くも痒くもないと見つめていた。

しかし、結果は必ずしも「望みなし」ではないのだ。
サウンドウェーブの読みではレセプタと回路を結びつけ、修復したとしても
すぐに全快とはいかないのだ。馴染むという工程が必要になる。とこの男は言った。

『だいたい馴染むってどれくらいだよ』
『…トランスフォーマーは長く生きる』
『…』
『数年、で済めばかなり速い』
『…百年は覚悟しろってか?』
『それで済めば良い』
『…』

スタースクリームは顔をしかめた。
その間、接続できない。いや、できないことはなくても
メガトロンと接続すれば自分がどんなことをしたか。自分がどれだけ乱れてしまったかバレる。
そうすればメガトロンはどう思うだろうか。殺されるか?違うな、もっと酷いだろうよ。

…違う。考えるべきはそこじゃねぇよ。
どうやってメガトロンを避けるかだ。
避け続けてもメガトロンは簡単に自分を捕まえるだろう。
ちょっと接続したくないんですと言っても数日はそれで断れても数ヶ月、数年という単位で
断ればメガトロンはどうする?勘ぐるか、無理に接続させられるか。

しかし慌てなかった。対処法はあの日、考えたのだ。

『サウンドウェーブ…』
『…』

自分のアイセンサーをサウンドウェーブに向けるとサウンドウェーブは頷いた。
サウンドウェーブがマスクをスライドさせて唇をあらわにした。

『気がはぇえな…』

自分が笑った。内心には絶望感がいたがあの日と同様あざ笑うように笑った。
サウンドウェーブも笑った。声に出してではなく、唇を少し動かすだけのあざ笑い。

両顎を支えるように両手で包み、サウンドウェーブは唇を重ねてきた。
抵抗しなかった。サウンドウェーブはキスと言うものを滅多にしないのだろうか。
動きが思ったよりも稚拙で少し下手だと思った。メガトロンが上手すぎるのかもしれない。
角度を上手くあわせるようにスタースクリームが顔を微かに傾け更に深く唇を重ねた。

お互いの間に愛はないだろう。
だって俺はメガトロンが今でも好きだし、サウンドウェーブはこんなことに興味はない。
ただあの日、自分がポンコツだと気付いた日にサウンドウェーブから言われた。

『直るまでメガトロンを避ける必要がある』
『…あぁ』
『それまでの間だ』







「サウンドウェーブが好きか?」
「…はい」

メガトロンの膝から降りた自分は申し訳なさそうに顔をそらした。
メガトロンの目が怖かった。どう思われてるのか考えたくなかった。
一番怖かったのはサウンドウェーブと一緒にメガトロンに実は俺ら付き合ってるんですなんて
嘘を言いに言った日だったが。あの時はいっそ死んでしまいたいと思ったほどだ。
自分はずっと床を見てた。サウンドウェーブが感情なさげにと「こいつが好きだ」「くれ」なんて言うのを
ずっと黙って聞いていた。メガトロンの表情は見なかった。見れるはずもねぇ。

「スタースクリーム」
「…」

メガトロンは続きに何も言わなかった。ちらりと表情を盗み見ようとすると
怒っていなかった。呆れている様子もなかった。微かに困ったように笑うだけだった。
どうして、そんな顔するんですか。メガトロン様。
好きです。メガトロン様。また、ニューリーダー宣言して、あんたと。

「……メガ」

「スタースクリーム」

低い声に顔を弾けるようにあげると扉のほうにサウンドウェーブがいた。

「サ、ウンドウェーブ」
「何してる?」
「……何も」

近寄ってきてサウンドウェーブが腕を握ってくる。
数ヶ月前、貫通し穴が開いていた手を握って「来い」と言ってきた。

メガトロンを見ずにサウンドウェーブに引き連れられるままメガトロンの前を横切った。
メインルームにメガトロン一人残し廊下にでた。

「サウンドウェーブ」
「どうした」

スタースクリームはいつもの声でサウンドウェーブを呼んだ。
仕事中の声だ。その声は恋人に甘えるような含みを持たない。

「キスしてくれ」
「ここでか」
「あぁ」

サウンドウェーブが微かに渋った。
マスクをスライドさせて顔を近づけてくる。
サウンドウェーブの首に腕をまわしてより深く舌を絡めた。

後百年はこうしてサウンドウェーブと嘘を吐き続ける。
メガトロンにこれが偽りだとバレたらそこでおしまいなのだ。
サウンドウェーブは言った。メガトロンはお前を軽蔑はしないはずだと。
数百年。我慢して自分を愛する真似事をして、直ってからもう一度メガトロンのところへ戻れば良い。
メガトロンはお前を受け入れるはずだと。何度も裏切るお前を迎え入れる時同様許すだろうと。

そんなことあると本当に思ってるのかよ。サウンドウェーブ。





*






スタースクリームは起動を開始した。
明るくなる視界にゆっくり身体を起こすとそこにはサウンドウェーブがいた。

サウンドウェーブの部屋だ。後姿を眺めながら今まで寝ていた寝台に伏せた。
メガトロンの声がした。だから目が覚めたんだろう。モニターに映るサウンドウェーブと話している。

サウンドウェーブの寝室にいる理由は「リペアとどれほど良くなっているか」の確認。
まぁ、指入れて感じるかどうか調べるだけなんだけど。
朗報として何本入ってるかわかるようになってきた。案外数年で済んだりしねぇかな。
数年だったら、メガトロンも「お前のわがままに付き合うのも大変だわい」とか言って
笑って今までの関係に戻してくれねぇかな。
スタースクリームは寝台にうつ伏せになると床にだらりと腕を下ろして指先で床を引っ掻いた。
わざと金属の指と金属の床をぶつけるとカツカツと音が鳴る。
一秒に一回のペースで鳴らすとそれは音楽のようだった。
サウンドウェーブが振り向いた。メガトロンも黙ったと言うことは自分が起きたことに気付いた。
モニターの方を見るとメガトロンがこちらをみていた。そこにはメガトロンの寝室と
自分がよく横になっていた寝台がそこにあった。

「起きたか」
「…あぁ」
「少し待て」
「いや、会議は終了だ。構ってやれ」

メガトロンの声は破壊大帝らしい声だった。
指でカツカツ叩くのはそいつなりに甘えておるのだ。なんて続けられて
顔から火が出るんじゃねぇかと熱くなる。

「また連絡する」
「了解」

ブツっと音がしてモニターが消える。
大型のモニターが消灯すると寝室が少しだけ暗くなった。

「メガトロンは俺とお前が事後だって勘違いしてんのか?」
「…」
「…んなわけねぇのにな」

何も感じねぇんだからよ。
サウンドウェーブと接続したことは一度もない。
定期検診、と言う名の確認のために、レセプタに指を入れて検診することはある。
ため息を吐くとサウンドウェーブが頬に手をやってきた。
アイセンサーを動かしてサウンドウェーブを見つめ返す。

「…どうしたよ」
「…」

サウンドウェーブが無言で唇を重ねてきた。
抵抗しない、する暇もなかった。
寝台に未だに横になってた自分は、はたから見たら押し倒されているような形に見えるだろう。

「…サウンドウェーブ?」
「…」

サウンドウェーブは無言だった。
自分の反応を待っているようだった。
ちらっと、「この男は俺に好意を持ってるのでは」なんてありもしない
妄想を考えたがあるはずない。の一言で片付けて笑いかけた。

「今は、恋人のフリしなくていいぜ?」
「…あぁ」
「…もうちょい寝るわ」
「…あぁ」

サウンドウェーブがもう一度唇に触れてきた。
「おやすみ」と聞こえた気がした。いやいや、だから俺のブレインサーキットと
聴覚までイカレちまったのか?こいつがそんな事言うはずないんだ。
フリしなくて良いぜって言ったのに深く眠りに落ちるまでの間
頭部を撫でてくるこいつがメガトロンのような、そんな気がした。


「よく眠れ。スタースクリーム」


メガトロンの声だった。サウンドウェーブめ。もうばれてるんだよそれ。






俺様の名前はスタースクリーム。
元研究員で、現在は悪名名高きデストロン軍団の副官であり、軍団の主戦力の航空兵の長。航空参謀だ。
現在位置は、セイバートロン星より約1800万アストロ東へ。銀河系の地球に基地を構えて
セイバートロン星のためにエネルギーを奪取。そしてサイバトロンの殲滅が目的。

デストロンの破壊大帝メガトロンの慰み者。愛人もしていた。
好きだった。メガトロンは案外行為の最中優しいからだ。だから俺は喜んで相手になってた。
この感情に名前をつけるなら愛だろう。

メガトロン。好きだぜ。愛してるって言ってやるよ。むかつくけど嘘じゃねぇさ。
だけどこの星に来てから散々な目にあってる。だからこの星が嫌いだ。

スカイファイアーと俺を引き裂いた星。
メガトロンと俺を引き離す星。
何が「地球」だ。この感情を奪っていくこの星を地球とは呼ばねぇからな。

死の星で十分だろう?
だってエネルギー奪取が終わればこんな星、すぐに消え行く運命さ。





アオグ星。










----------------------------------------------------------------------

abyss=深淵、深い穴、計り知れない、無限、どん底

nirvanaも暗かったですがあっちよりも救いがないエンディングでした。最初はもっと酷かったんだよ!
この後は皆様の脳内補完をお願いします。アストロやレザウェがメガ様に言っちゃうかもしんないし
もしかしたらこのまま音波スタで落ち着くかもしんないし。可能性無限大すぎるまま終わったw
epilogue bridgeはエピローグ後にまだ続きがある場合に使われる言葉なのですが
続きはないですwあくまで脳内補完で…

abyss書く際コンバットロンを調べまくったおかげで奴らが好きになりました(笑)
こんな役ですまんな。コンバットロン。でも好き。
最初から鬱展開だよ!って言ってあったんですがそれでも読んじゃって(´Д`;;)ってなった人は
本当ごめんね!初代アニメ本編を見てくるんだ!


*えろ祭時と、撤収後では若干内容が違います。
→コンバットロンへのソフトダウンロードの部分
→コンバットロン、アストロトレインとのえろシーン
→おまけで書いた数ヵ月後のメガトロン様とスタースクリームの話
を大幅にカットしています。他にもえろ系のシーンはかなり省略してます。
他、多少表現を変えたり、心理描写を増やしたりしています。
えろ祭撤収から遅くなりましたがこれでabyssは終了です。
有難うございました!