うだるような暑さだった。 微かな火薬の臭いと、エネルゴンの甘い匂いが部屋に充満している。 朦朧と視線をめぐらせて、自室の温度を確認するとそこには昨日とまったく同じ気温が 表示されていて自分の身体が高温なのに気付いた。 小さく息を吐くと微かな笑い声が頭上より降り注いだ。 「随分と大人しいな。スタースクリーム」 視線を声のほうへ向けると息を荒くしたメガトロンがいる。 真っ赤な目といつもと違う雰囲気に自分は愚かしくも気付かなかった。 アトモスフィア 「…メガトロン様…?」 「…少し温度があがっているな…熱はしっかり逃がさんか」 首に冷たい手が触れた。ひんやりとしていて気持ち良い反面、冷たすぎて少し痛い。 徐々に視界の曇りを払うとここは自室で、なのにメガトロンがいて、自分を 押し倒していることに気付いた。 「…あの、つっ…」 身体を少しだけ起こすと頭が殴られたように痛みが走る。 上半身を丸めて両手を頭にあてると首に触れていたメガトロンの手が背中をさすった。 突然の優しいメガトロンに困惑するも頭が痛くてそれどころではない。 「飲みすぎだぞ。エネルゴンの過剰摂取には気をつけるように言っておいただろう」 「う、…あの」 「横になれ」 メガトロンは近くにあった布を引き寄せると丸めて寝台に置いた。 ゆっくり丸めた布に頭を降ろされると圧迫感が和らいで安堵の声が漏れでる。 飲みすぎで破壊大帝のお世話になるなんて笑い話になるか?と考え やはり笑い話にもならない、と右手の甲をアイセンサーにのせた。 視界から差し込む光と破壊大帝を遮断して真っ暗な世界でもう一度ため息をつく。 そうする事で少しでも自分を通常の状態に戻したかったのだ。 ふとメガトロンの動いた気配と、同時に唇に微かな接触を感じた。 驚いて身体を逃がそうとしたが気だるい暑さと頭痛により鈍い身体はその接触を 受け入れたまま動かない。 「っ…あ」 「…」 冷たい手が両頬に触れ、小さく開いた唇を割って舌が入り込んでくる。 メガトロンの舌は器用に動き回り、舌を引き寄せ舌先や根元まで絡ませて時に吸われた。 口内で発生した音はそのまま聴覚に響き自分をゆっくり混乱に陥れようとする。 「ま…って」 「何故だ」 「どし、て」 「…どうして、だと?」 恐る恐る視界を隠していた自分の手を退けた。 メガトロンの真っ赤な目がすぐに視界を占拠して息を飲む。 「お前が誘ったのだろう」 「誘…?」 「雄型と接続はしたことはないが、それでも良いのだろう?」 「ま、待って…!待ってください!」 首筋を軽く噛まれて制止を促す声をだした。 機嫌悪そうに目を細めたメガトロンが低い声で「なんだ」と聞いてくる。 「お、俺知りません!誘うだなんて、この俺が?」 「お前だ」 「スカイワープとお間違えでは?」 「お前だ」 「な、何て言いました?本当に記憶にないです」 「酔っていて記憶に残っていないのか。愚か者。しかしあれは本心からでた言葉だろう?」 「だから何て言ったっていうんです!?」 頭がガンガンするが大声をあげて降ってくる唇を止めた。 自分は何か変な事を言ってしまったらしい。破壊大帝に。 しかも記憶に残っていないなど、そんなに酔うことなど普段はありえない。 「先ほどのお前の台詞…興奮したぞ」 「っ…覚えてません!」 口元をにぃと横に歪ませた破壊大帝はもうやめる気などないのだろう。 記憶を必死に探ればレーザーウェーブからメガトロンにわざわざセイバートロン星から スペースブリッジで良質エネルゴンを高濃度エネルゴン酒に品種改良したと送られてきた。 そしてそれを盗み出して自室で飲んでいたらメガトロンがカノン砲を構えて部屋に 入ってきて。そこから記憶がない。 もしかしたら謝るついでに機嫌をとろうと誇張した発言をしたのかもしれない。 まぁ、ないと思うが「好きだ」とか「愛している」だとか。ないと思うが。 とにかく、息を荒くしたメガトロンが腰の部分に圧し掛かっているので 逃げ切れるかどうかは運次第だろう。 両腕のナルビームは外され、寝台の下に転がっていた。手を伸ばしても届かない距離。 「あんた部下を抱くようなご趣味が?」 ここは怒らせるのが無難だろう。物理的に逃げるのは無理だ。 精神面で攻めるしかない。 「そんな趣味は持ち合わせておらん。しかし、お前からの誘いだ。 捨て置くのはあまりに可哀想なのでな」 「捨て置いてもらって結構です。先ほどの発言とやらは全て嘘ですから」 「嘘であのような表情が出来るのか。泣きそうな顔をしておったくせに」 「な、泣きそう…?知りませんって。サンダークラッカーあたりと間違えたのでは?」 「もう無駄に喋るな。照れ隠しはうんざりだ」 「照れ隠し!?馬鹿仰らないで頂きたい!」 メガトロンが腰を掴んで引き寄せられる。 折角布に頭を預けていたのにガツンと後頭部を寝台に強打した。 落ち着いたブレインサーキットへの急な刺激に再びぐらぐらしてくるが、はっきりと 感じた熱さに目を見開いた。 「あ、わ」 「わかるか?スタースクリーム」 パネルは閉じたままだったが接続に使用するだろう自分の下腹部レセプタクルと メガトロンのコネクタがパネル越しに触れあった、コネクタは酷く熱を持っている。 メガトロンが見た目以上に興奮しているのがはっきりと伝わってきてスパークが ばくばくと音を立てた。 「ま、待ってください」 「心配するな。いきなり繋がろうとするほど儂も非道ではない」 「違う。違います。お願い」 「何を懇願する。お前の願いは今、現に叶えているのだぞ?」 メガトロンが腰を更に引き寄せてパネル同士がガリガリと音を立てて擦り合わせる。 微かな振動が伝わってきて小さくのけぞった。 「待って!お願い!ごめんなさい!」 「何故謝る?スタースクリーム。面白い奴だな」 「やめて、お願いします。ごめんなさい。許して…!」 腰を掴まれたまま圧し掛かってきたメガトロンは聴覚機能に唇を触れさせてきた。 隙間に舌を差し込んで、時々噛まれるたびに自分の声は泣き声に変わっていくのが わかった。 「やめてください…!メガトロン様…!」 「…また泣くのか。お前は」 「だから覚えてないんです。本当に…!俺がどうかしてました!許して…!」 「駄目だ」 その言葉で自分に逃げ場がないのがわかった。 正気じゃない。この人は正気じゃない。いつものメガトロン様じゃない。 聴覚機能を攻めて来るメガトロンから火薬と強い雄の匂いがした。 ずっとその臭いを嗅いでいた所為で自分まで興奮してくる。 息をするたびにその臭いを感じてくらくらした。 メガトロンの胸元がキャノピーにぶつかるたびにその胸元を叩く。 しかし叩こうとも押し返してみても期待できる反応はなかった。 「接続なんて…したことねぇし…!できません!」 「ほう。初めてか。意外だな」 「だから…!んっ」 両頬を先ほど同様掴まれて口内を強く絡めた。 メガトロンの口内オイルと自分の口内オイルが深く混ざり合う。 押し倒されているこの状況ではそのオイル達は重力に忠実にスタースクリームの口の中を 満たしていくばかりだ。 苦しさに喉を動かして飲み落としていっても間に合わず、口の端から微かにオイルが 落ちていく。 あの破壊大帝が自分を蹂躙する様を想像するだけで身体が震える。 しかもいつものようにではなく、身体を寄せて押し倒し、口内を荒らして。 あのメガトロン。あの破壊大帝がだ。 いつもみたいに殴ってくれたほうがまだ助かるのに何故こんな風に触れてくるのか。 火薬のにおい。メガトロンの匂い。駄目だ。これ以上は嫌だ。 「やめて、…おねが…もういやです。いや」 「いやいや言うな。共に楽しめ。スタースクリーム」 口と下腹部が密着した状態では逃げられない。 正気じゃないメガトロンがこんなにも怖いものだったなんて知らなかった。 熱いメガトロンの下腹部パネルが自分のパネルを擦る。 わざとメガトロンがパネル同士を擦り合わせているのには気付いていたが 的確すぎる動きにむず痒さを覚え始めていた。直接的な動きでない分、ぞくぞくする。 「はっ…ぁ…やだ…」 「…気付いておるか?お前も、かなり熱くなってきているぞ」 「違う…摩擦熱だ…ひっ…!」 擦るのではなくガツンとぶつけられて衝撃で声がでた。紛れもない喘ぎ声だ。 「ほう。お前は随分高感度だな」 「や、めて…やっ、ぁ…あ!」 ぞわぞわする。全身の装甲の表面に何かいるようにぞわぞわする。 気持ち良いと言う言葉ではなく、また違う意味での快感に身体が悲鳴をあげ始めていた。 「だらしない顔をするな。まだ何もしていないだろう」 「やめて!こ、こすらないで…!」 メガトロンは普段こんなことをする男ではない。自分もそうだ。 接続したいだなんて思ったことないし、むしろ想像すらしたことはない。 メガトロンもそうだったはずだ。お互いに部下と上司と言う距離感を間違える事無く ここまで何百万年と共に歩いてきた。 何を間違えてこんな状況になってしまったのか、理解しがたい。 まず自分は他人にこんな風に身体に触れられたことはなかった。 殴られたり、肩を叩かれたり、その程度はあったとしても こんなわざわざ快感を与えようとしてきたのはメガトロンが初めてだ。 それゆえこのむず痒さをどう逃がしたら良いかわからない。苦しい。 パネル同士を擦り合わせるのが止み、呼吸の整わない自分をメガトロンが見下ろしてきた。 「うちの航空参謀はこんな顔が出来たのか。何百年と共にいたが知らなかったわい」 「も、もう満足でしょ…!やめて…!」 「満足?お前が満足しただけではないか。もっと快感を与えてやるぞ。 そしてもっとその表情を晒してみろ」 「ぃ、嫌で、す!メガトロン様!やだ!」 出来る限り必死に暴れるが今までもそうだったじゃないか。 どんな状況でも俺はメガトロンに勝てた試しがない。「背後から。突如」などの オプションが付かない限りメガトロンはいつも余裕の表情で見下してくるのだ。 どんなに暴れてもその腕を絡め取られてメガトロンは笑う。 「っ…ふ」 身体がびくっと跳ねる。目を細めてメガトロンを視界から排除した。 性的快感なんて味わったことがない。これが気持ち良いと言うものなのか。 頭がぼんやりしてきて時折メガトロンがパネル同士を強く擦り合わせるとそれにあわせて 身体が数度跳ね上がって勝手に声が漏れ出て行く。 呼吸は整わないし、無理やりだし、とてもじゃないが快感に流されるような気持ちには なれない。 「よく見えんぞ」 「うっ…う、ぁ…」 緊張と暴れたせいと、酒のせいもあってか過呼吸のように息を吸うタイミングが覚束ない。 メガトロンは首から顎にかけて撫でながら引き寄せるとメガトロンの額と自分の額が ぶつかった。 「…これだけでもう達しそうなのか」 「た、っし?わかん…ね…俺、どうし」 メガトロンを見るとメガトロンも少し息が上がっていた。 広すぎないこの寝室の狭い寝台の上で俺らがこんな状況下だなんて誰が想像できようか。 火薬の匂いと甘い酒の匂いが混ざって独特の雰囲気をかもし出す。 それがまた、自分らを煽っている。 「め、めがとろっ…様…ぁ…」 「……今、楽にしてやるぞ」 暑さに浮かされているのか。酒に酔いすぎてしまったのか。 お互い冷静な判断が出来ないまま唇を重ねると互いに舌を絡め始めた。 ブレインサーキットが揺さぶられたようにガンガンする。熱かった。 それが、メガトロンのせいであるのは否めない。 離れてほしくて押し返すと抵抗を邪魔と感じたのかメガトロンは両手首を掴み 頭上に押し付けてきた。 「抵抗するな」 「っ…い」 メガトロンも両手を使わざるを得ず思うように動けないのが煩わしそうに睨みつけてくる。 しかしスタースクリームも正常に働かないブレインサーキットに加え、メガトロンが 圧し掛かってきてる分、不利だった。 お互いに拮抗しているとメガトロンが再度パネル同士を擦りあわせた。 「くっ…ぁ」 「そのまま達したいのか」 首を左右に振るとメガトロンは耳元で囁くように喋り始めた。 「なら抵抗をやめろ。パネルを開いて直に触れてやる」 「そんなこと望んでっ、ませ…ぃっ」 擦る動作で口が回らない。 メガトロンはその様子が楽しいらしく、くすくすと笑うと更に押し付けて律動した。 認めたくはないがパネルがきつい。中がオイルで濡れていて気持ち悪い。 気付かないうちに抵抗する力が弱っていた、メガトロンは片腕で両手首を押さえ 熱くなったパネルを撫でた。 「めっ、メガト…様」 「心配はいらん」 指先でそこを少しだけ開くとメガトロンの指が直に触れる。 声は漏らさなかったが軽く背中を反らして歯を食いしばった。 唇を甘噛みされながら熱くなった内部を触れられれば何も考えられなくなる。 「息が荒いぞ」 「はぅ、ふ……っん」 「…良い顔だ。スタースクリーム」 メガトロンの手が動くたびに水音がして頭の中までぐちゃぐちゃになってくる。 両手を押さえつけてくる当人の胸部に頭をこすり付けて声を押し殺そうとした。 メガトロンはその様子をどうとらえたのか押さえつけていた手を放してその頭部を 撫でてくる。 下半身に直接くる刺激と頭部に触れてくるやわい快感がない交ぜになってどっちが 本当の快楽だかわからない。 「…だっ…だ、めだ」 「どうした」 「くるしっ…い…!もう、触る、なっ…!」 「もういくのか」 「わ、かんなっ…わかんねっえよ…!!」 「怖がるなスタースクリーム。死んだりしない。そのまま味わっていろ」 キューブにエネルゴンを注いでいくような、どんどん溢れてくるような感覚だった。 考えるための部分が急激に狭まっていくのを感じて焦って自由になった手でメガトロンを 押し返した。それでもメガトロンは頭部を撫で続けてくる。 「いっ、あああ…!あっ…!」 「……」 「あ、…ぅ…っ」 手をメガトロンに押し当てたまま身体が跳ねた。 オイルが出たのを理解したがそれ以上思考が進まなかった。 目がちかちかして閃光を食らったようにアイセンサーの機能が異常をきたしている。 「…出す前に言わんか…愚か者め」 「う、っ…あ」 「息を落ち着かせろ」 「はぁ…ぁ…っ…は…」 ゆっくり息を吸って吐いて、体の熱を外に逃がす。 ちかちかする視界が正常に戻り始めればようやく考える余裕がでてきた。 今のなんだ?身体が自分のものじゃなくなっていく感覚。あれが達するってやつか? 気持ち良いかと言われれば正直わからない。気持ち良いより何も考えられなくなって 息苦しくて熱くて、とてもじゃないがもう一度という気分にはなれない。 「スタースクリーム」 「…は、い」 視線をメガトロンのほうへ向ける。 破壊大帝は微笑んでいた。汗ばんだ額を撫でて顔を直視してくる。 「儂にもやってくれるな?」 「メ、ガトロンさまに、も?」 「そうだ」 「どうやって…?」 手を引かれてメガトロンの熱いパネルに触れる。 自分で触れろと耳元で囁かれるとぞくぞくとした。 「でき、ね」 「できるだろう。スタースクリーム」 「無理…だ…!もう…!」 「…では別の方法を取るとするか…」 「…?」 メガトロンはスタースクリームの羽をつかみ寝台より身体を起こさせると 呆けたスタースクリームの口内に指を突っ込んだ。 「む…!」 「お前には饒舌な舌があったな」 メガトロンの親指が舌を掴み、その表面を擦ると 口内のオイルがその摩擦を和らげようと大量に分泌された。 それを見てメガトロンは口の両端をあげると口を閉じることができず 顎に伝うオイルを一舐めしてから足を左右に開いた。 「な、に」 「舐めろ」 破壊大帝は声に出して笑いながら言った。 →