スタースクリームの手をきゅっと握るとスタースクリームはびくりと背を
震わせた。逃げようとするその手を力強く握りこんでしまえば少し俯いて
歯を鳴らす。

「サウンド、ウェー、ブ」
「…」
「放せ」

放すはずがない。
ようやく気付いたこの感情を。



航空参謀への色情症





昨日自分たちは合意の上で接続した。最初から思い返せば随分と長い道のりを
辿りここまで来た気がする。
自分はこの航空参謀の事を何とも思っていなかったし、それはこいつも同じだった。
ちょっとしたきっかけで恋人となって、こいつの事を知って、時には言い争いもした
それでも接続までたどり着けたのは互いが互いを認めているからだ。


「スタースクリーム」
「うわぁ!」
「…」
「び、びびったじゃねぇか…んだよ…」
「何故驚く」
「急に声かけるからだろ!」
「……腰は平気か」
「!」

一気にスタースクリームの頬が紅潮する、サウンドウェーブは驚いた。
スタースクリームが今まで恥ずかしがる所など何度も見たし、それにより灰色の
頬を赤に染めることも見た。しかし今のスタースクリームは酷く動揺し全身で
緊張したのがわかった。
メガトロンに怒鳴られた時でもこうはならないだろう。

「ば、ばっかやろ…!誰かに聞かれたら…!」

焦るスタースクリームの頬を撫でた、アイセンサーを限界まで見開き狭い廊下で
わき道に逃げるように身体を捻った。その腕を掴んで抱き寄せ、勢いを殺さず
壁へと押し付けた。

「や、やめやがっ」
「見られるのが嫌か」
「当たり前じゃねぇか!ふざけんな!」
「俺は構わない」
「俺がいやなんだ!」

身体を指先で撫でるとスタースクリームがその指を目で追った。蛇が這うように
ゆっくりと上半身から腹部まで指を下ろしていくとスタースクリームが震える
声で名前を呼んでくる。

「サウンドッ…ウェーブ…」
「…機体に損傷はないか」
「よせ…駄目だ…って」
「何故だ」
「ま、まだ…」
「?」
「触られっ…んの、慣れてねぇ…」

サウンドウェーブの何かに、スタースクリームの言動が触れた。つい最近まで
スタースクリームに感じることのなかった感情だ。

「…」

スタースクリームが必死に隠そうとする表情を曝け出し、そこにある唇に自分の
指を触れさせる、微かに震えるそこに自分の唇を触れさせたかった。

「好きだ、スタースクリーム」
「やめろっ…ここっ廊下だぞ…!」

押し返してくるスタースクリームの身体をもう一度撫でるとスタースクリームは
昨晩見たうっとりとした表情を見せた。昨晩じっくりと触れた身体は今もその
熱さを忘れていないはずだ。


「場所を考えろ、愚か者めが」


その熱に冷や水を浴びせかけるように聞こえた声にスタースクリームは飛び上がった
自分が舌打ちを出さなかったのはほぼ奇跡と言える、熱を失ったアイセンサーが
自分からメガトロンの方へと移動し、主の名前を呼ぶスタースクリームは既に
サウンドウェーブの存在など忘れていた。

「なっ、あの、これは…!」
「場所を考えろと言ってるだけだ、良いなサウンドウェーブ」
「…了解」

メガトロンは注意するのみでその場を去ろうとした、その後を追おうとする
スタースクリームの腕を強く掴み逃がしはしない。

「放せ!誤解を解くんだよ!」
「誤解ではない」
「あぁ!?」
「俺とお前の仲は誤解ではない」
「っ…」
「メガトロンの目の前で抱くことも出来る」


スタースクリームの手がサウンドウェーブの頬を殴った、全力ではないものの
装甲に傷をつける威力を持つ打撃にサウンドウェーブはよろめいた。

「…俺は接続なんてもうしねぇ!!」
「!」
「何度も何度もする事でもねぇだろ…一度で十分だ!」
「待て」


よろめいた自分はスタースクリームを捕まえていることが出来なかった。
赤面しながらも自分に向かってキツイ言葉を残していくスタースクリームは
背を向けると逃げるように立ち去ってしまった。

何故、どうして自分たちはこうなる。
理解は出来ないが後悔はした。

それでもすぐに元に戻れると思ったのは愚かなことだろうか。






「スター」
「サンダークラッカー!資材調達行こうぜ!」
「あ?あぁ、いいけど…」
「…」


スタースクリームの避け方は異常だった。
そんなにメガトロンに見られたことが嫌なのか、だからと言って仕事以外で
まったく口を聞かないと言うその態度はどうだ。
ここ数日、声をかければ一定の距離を保たれ、避けられる日々が続いている。
待ち伏せも通信も部屋に行くのも意味がなかった、自分を嫌いになったのかと
思えばそうではなく、普通に声をかけてくることもあるがそれは手の届かない
場所からで、良いエネルゴン酒が手に入ったと持って来た事もあったが
共に飲もうと誘えば断られた。

サウンドウェーブは自室に向かいながらも考えていた、スタースクリームに
触れるにはどうすれば良いか。触れる許可をどうやって得れば良いか。
謝るのは意味がないだろう、謝ったところでスタースクリームは「接続」を
拒んでいるのであって怒っているわけではないからだ。
かと言って襲い掛かったところであいつも航空参謀の名前を持つ者だ、そう
簡単に崩れてくれるような奴ではないだろう、前回は相手が油断していたから
こそ成功したのだ。下手すれば今度こそ不仲になる。

自室へ戻るとスタースクリームに貰った酒瓶が数本置いてあった、カセットロンと
共に全て飲み干してしまったのだがそれを見て考える。
あちらから襲い掛かってくるようにできないだろうか、酒に何か混ぜてしまったり。
しかし襲い掛かってくるほど飲むか?あまり薬を盛っても匂いや味でばれる。

…ならウイルスならどうだ。スタースクリームを極度の興奮状態にする事はそう
難しいことではないはずだ。ウイルスなら量はいらない、摂取してしまえばいい。
早速ボトルにエネルゴンを入れる、スタースクリームの好きな濃度を選び、自分の
メインコンピュータよりウイルスソフトを作る、簡単なものでいい、1日で抜ける
ような簡単なものでないと今後の作戦の影響するかもしれない。

ボトルを特製の置き台に設置して、周囲に微量の電離製放射線がでる機器で
そのボトルを囲んだ。放射能に含まれる粒子線を弄り、そのウイルスの効果を
含ませておけば例えエネルゴンでも液体中の情報を分解し、汚染すると再構築する
という一工程を何度も繰り返す。
エネルゴンの放つ蛍光色が強まるのを見てサウンドウェーブはそれを取り出した。
放射能を受けたエネルゴンがルミネセンス効果により発光した現象を目安に
放射能を止めればエネルゴンの色は通常のものに戻ったが完全に汚染された事は
サウンドウェーブの目には明らかだ。

「…」

自分は何をしているのだ。
唐突に思う、前までならそんな自分の私利私欲の為に動くことなどなかったし
こうまでして交歓行為に踏み切りたいと思ったこともなかった。

『触られっ…んの、慣れてねぇ…』

身体がぞくりと震える、今となっては自分はスタースクリームに夢中のようだ。
前まではスタースクリームが自分に夢中だったはずだ、それが今は触れたくて
仕方がなく、仕事の時間を割いてまでこんな邪道な手にでるのだ。

どうなるか楽しみだ、スタースクリームが帰ってきたら差し入れとして渡しに
行こう、そこまで考えてやっとサウンドウェーブは自分の仕事へと戻った。



*




「俺に?」
「あぁ」
「…」
「この間の礼だ」

スタースクリームに透明のボトルを渡せば受け取り、それを覗き込んだ。
見た目は普通、検査で少しエネルゴン情報に崩れが見られるくらいでそこまで
異常はない、あえて言うなら放射能検査には引っかかるだろう。

「…さんきゅ」
「仕事は」
「今日はもうねぇよ、もうこれ飲んで寝るだけだ」
「そうか、次の日に酔いの残らないタイプだ」
「ありがとよ」

スタースクリームは一度だけこちらを見た、少し渋る動きを見せた後に周りを
きょろきょろと窺った。スタースクリームとの距離はボトルを渡せる程度の距離で
胸に手を当てる事も出来ないだろう。
辺りを警戒心旺盛な動物のように見回しているスタースクリームを見つめていれば
スタースクリームはこちらに視線をやってボトルを足元に置いた。

「どうした」

声をかけるとスタースクリームは両腕を左右に広げた。
暫くそのままお互い硬直する、サウンドウェーブが首をかしげるとスタースクリー
ムは顔を赤らめた。

「…補給だよ」
「は?」
「うるせぇ!」

スタースクリームが自分から触れられる距離に入ってくる、それをサウンドウェーブ
が見ると同時にスタースクリームがサウンドウェーブに抱きついた。
背丈はスタースクリームのほうが若干低い、首元に両腕を回して一度強く抱きしめ
られるとサウンドウェーブは抱きしめ返すことも忘れて硬直した。
しかしすぐに離れるとその床へ置いたボトルを拾い上げて背を向け歩き出す。

「待て」
「んだよ」
「スタースクリーム」

振り返るスタースクリームはむっすりとしているがやはりサウンドウェーブには
わかった。照れている。
補給だと言った、接続する意思がないとは言え、スタースクリームは自分に好意を
持っているのだ、自分と同じく触れたいと言う欲求を持っている。
それがわかった途端、この間は邪魔されて出来なかった行動にでていた、腕を
引き寄せてマスクをスライドさせると自分の唇をスタースクリームに押し付けた。

「っ…!」
「…」
「こ、の…っイカレサウンド!」

持っていた瓶で顔面を殴られる、幸い瓶は割れなかったがかなり痛い。
あまりの打撃に廊下のど真ん中だと言うのに転ぶとスタースクリームは唇を
拭いながら辺りを見回した。

「誰かに見られたらどうすんだ!」
「抱きついたのはお前が先だ」
「お前は急に変なことしやがるから嫌なんだ!」
「補給だ」

スタースクリームの言葉を借りてそう言えばスタースクリームはの暴言を残して
立ち去るだけだった。
首元がぞわぞわする、スタースクリームの触れた部分が熱を持って再度その熱に
触れることを望んでいる。もっと触れたいのだ。

「…」

唇程度じゃ足りない、スタースクリーム。抱きつく程度で補給になるのか。
今日は、接続する。あの日からもう数日接続していないのだ、今日接続しなければ
今後もスタースクリームは拒み続けるだろう。
時間的に自分がメガトロンのところへ仕事の報告へ行き、その帰りに寝室に寄れば
丁度いいだろう。
サウンドウェーブはマスクをスライドしてその顔を隠すと微かに笑った。