近づくにつれて熱を感知するサーキットが悲鳴をあげた。
じりじりと装甲の表面で熱が上昇し、強すぎるエネルギーに頭部で一度だけ
バチリと青みがかる放電を発する。



ハッピーデイズ




「ナイトスクリーム」





ナイトスクリームは「はい」と返事をした。
絶対の主が自分の名を呼んでくれたことへの喜びがスパークを揺らし
悲しみも痛みも感じさせない力になる。

ガルバトロンの顔はナイトスクリームの位置からは一切見えなかった。
ただ隣を飛ぶナイトスクリームは一度だけガルバトロンの方へ顔を向け表情が
窺えないと知ると視線をスーパーエネルゴンへと向け、再びエネルギーに触発され
放電した衝撃にアイセンサーを微かに細める。

一瞬だったはずだった。スーパーエネルゴンに向かう間は数秒だった。
その間がこんなにも長く感じたのは恐らく、最後だから。
ユニクロンを取り込んだガルバトロンに一歩も近づけなかった事を
ナイトスクリームは悔やんでいた、近づきたくても近づけなかった。
大切な主が危険だったのに、自分は黙ってみていたのだ。

この方をユニクロンから守れるのは私ではなく、コンボイだと言う事は知っている。
それでも守りたかったのだ、目の前でコンボイに救い出され、コンボイを救った
ガルバトロンを見て傷つかなかったわけではない。
私では助ける事も守る事もできない。

「ガルバトロン様!」
「止めるなよナイトスクリーム…」

止められない事は知っている、止めない事が主の死に繋がる事もわかっている。

「これは儂の意地だ」

全てわかっていた。

「お供いたします…ガルバトロン様…!」

この時、私は「拒否」させなかった。ついて行きたいのではない。ついて行くと
言い放った。最後の最後に無礼だと言う意識もあったがこれが私の意地なのだ。
大帝は笑った、笑い、ついていく事を許してくれた。


スーパーエネルゴンはインフェルノに太陽へ連れて行かれたときにも似た感覚だ。
これ以上近寄ったらこの身体も、スパークも壊れてしまうのはわかっていたが
隣にはガルバトロン様がいた。ならば退かない、供に行くと決めたのだから。
熱に身体中の部品が悲鳴を上げ、溶け、放電しスパークを焦がす。

「ナイトスクリーム」

再び主が名を呼んだ、「はい」と同じ返事をすれば大帝は鼻で笑った。



「…色々あったな」



何故、今ガルバトロン様がその言葉を選んだのかはわからない。
それでもストンと焦げたスパークに言葉が落ちてくれば自分は熱を忘れられた。
熱も苦しみも、恐怖もなく、玉座に座る大帝の隣に居る、いつもの日々と変わらない
スパークが現れた。

そんな全てを享受した状態で、自分はぼんやりとなんて言葉を返そうかなんて
考える。最後の言葉になるだろう。後数秒で自分たちはいなくなる。
走馬灯なんてものはないと思っていたが、ガルバトロンの言葉により
ナイトスクリームにはそれに近い状態を得た。

初めて目を覚ました時に隣に居たガルバトロン。
過去を忘れて自分と生きろと言ってくれたガルバトロン様。
いつも気だるそうに玉座につく主の隣に居ることを許してくれ、いつでも私を
助け出してくれた。
この方の名を呼ぶ声が好きだ。張り詰めた水表面に一滴だけ降って来た水滴の
ように自分はその声に反応する。
感情をくれた、未来をくれた、仲間もいた、戦いで得る喜びも知った。
過去も生きる意味も何もかも失った私を抱き寄せてくれた。

空っぽの私を認めてくれる貴方が好きだ。


だからそんな声を出さないで下さい。
謝罪を含ませる声色で、過去を振り返らないで。
見えない角度でそんな顔しないで、こっちを見てください。ガルバトロン様。
最後だから貴方に言いたい言葉があるんです、最後だから見たい表情があるんです。
私にそんな力はないのだけれど。




「幸せでした」




微かに振り向いたガルバトロンに、ナイトスクリームは笑った。