「サンダークラッカー」


俺はこの男が何で自分に気をかけてくれているのかわからない。





[blue bird]






「サウンドウェーブ…」
「調査結果はどうなった」
「俺は終わったぜ。スカイワープは少し遅れてる。スタースクリームはメガトロン様に頼まれた仕事と平行してやってる」
「そうか」
「とりあえず、俺の分だけ渡しとくわ」


データを小さいカードに収めておいたのでそれを手渡すとサウンドウェーブは体内に収めた。


「サンダークラッカー!」
「よーす!」
「おう。フレンジー。ランブル」


かぱっとサウンドウェーブの胸元が開いたと思えばそこからは2体のカセットがでてきた。
地面に着地する際にトランスフォームすると2体はわっと話始める。

「仕事はえーな!」
「スカイワープは駄目だなぁ」
「フレンジー。あまり言うなよ。またスカイワープに殴られちまうぞ」
「わかってんだけどねぇ」

どうも言っちゃうんだと笑ったカセットに笑い返す。
姿勢を下げてフレンジーとランブルの顔を見ながら話す。すると上から声がかかった。


「廊下で話し込むな」
「あ、わりぃ…」

癖と言っても良い。すぐにでる反省の言葉。
スタースクリームのように謝り倒すわけではないのだが自分は相手の気分を損ねるのを嫌う。
普通ならわざわざ相手の機嫌を損ねさせるのが好きな奴もいないと思うがこのデストロンではそれが普通みたいなもんだ。
自分の直属の上官である我が軍のNo.2はそれにあたる。何故あぁも人を怒らせるのが上手いのか。
スカイワープも上には逆らわないが自分よりも下にはすぐあたる。

自分はこのデストロン軍団の中ではきっと浮いている。上にも下にもほぼ同等の扱いをするのだ。
軍団では上は崇め、下は駒にするのが普通なのだが、メガトロンを敬愛するわけでもなければ、カセットロンのような
小さく、若い兵達を自分の手ごまにするつもりもない。そのせいかよく好かれる。


「謝ることねぇよ。サンダークラッカー」
「お前気ぃちいせぇよなあ」
「…そうか?」
「サンダークラッカー」
「あ、な、なんだ?」


すっと立ち上がる。出来る限り話す相手の顔をみるのも癖だ。それでもサウンドウェーブの顔を見るのは結構難しい。
相手を顔色を伺えないのは自分の中で結構痛手のようだ。
その分ジェットロンには裏表がなくて気が楽なんだけどなぁ。


「部屋にこい」
「え!」
「いいねぇ!こいよー。サンダークラッカー」
「そうそう!廊下だべりはよくねぇしな!」
足元によってくるカセット達を見下ろすと脚の部品を引っ張りながら「なっ」「なっ」と相槌を求める声。

「仕事があるのか?」
「え、そ、そういうわけじゃないんだけどよ…」
「そうか」
「……」

調子くるうぜ。スタースクリームもサウンドウェーブと話すのは調子が狂うとよく言う。
自分の調子が狂うのと同じ意味だろうか。小さいカセット達をもう一度見ると仕方がなくため息を吐く。


「じゃあ…行かせてもらうわ」
「おー!」
「おー!」

サウンドウェーブが黙って背中を向けるのでついていった。




*





『データの80%解析完了。不明データ残り18%。破損2%』
「わ、わりぃ…ミニボットどもにちょっと打撃くらって…まさか破損してるなんて」
「構わない。これくらいの修復はわけない」

サウンドウェーブの寝室につくとカタカタとコンソールを撫でたり叩いたりして操作する。
仕事に集中し始めたサウンドウェーブは振り向かない。
座るところもないので床に座って寝室に居たジャガーを撫でる。


「ジャガー…」

頭をごしごしとすると擦り付けるようによってくる。
目元を撫でて鼻筋を指先で軽く撫でた。
ぐるると喉を鳴らして更に擦り寄ってくるジャガーに愛着がわく。
翼にはフレンジーとランブルがしがみついている。他のジェットロンにやったら叩き落されるのが目に見えている。
やっぱり自分だからやってくるんだろうなと少し気が落ちる。

「…?」

ふと目線をあげるとサウンドウェーブが振り向いていた。
終わったんだろうか。それでもデスクから離れる動きはない。


「…終わったのか?」
「まだだ」
「……なんか…やっぱ問題あったのか?データ摂取もう一度…」
「いや、問題ない。すぐ終わる」


また顔をデスクに向けるとサウンドウェーブの専門コンピューターにかたかたと打ち込む音が響く。


「それと」
「あ、え?」
「床でなく、寝台に座れ」
「え、でも…」
「構わない」
「……それじゃ…」


立ち上がって翼にくっ付いたままの2体ごと寝台に座る。
ジャガーも後を追ってきて寝台の上にすちゃっと上ってきた。
また撫でてくれと頭を脚に擦り付けてくる。

「なんだ。ジャガー?案外甘えただな…」
「ジャガーは懐きやすいんだぜ」
「特に優しい奴には」

後ろからの助言を聞きつつ頭をごしごしすると膝の上にのってきた。


「おいおい。お前、重いんだからよ…」
「ジャガー。膝の上。ずりぃぞ」
「サンダークラッカーにべったりだなぁ」

小さい2体と1羽は笑った。



「ジャガー。寝台の上から降りろ」


低い声が耳に届いた。
終わったのかデスクから離れたサウンドウェーブが目前に居る。
ジャガーは渋ったよう声を上げて寝台から降りた。

「フレンジー。ランブル」
「ん?」
「リターンしろ」
「えぇー!」
「せっかくサンダークラッカーとお楽しみの最中だったのに!」
「リターン」
「ぶー」
「サンダークラッカーに悪戯すんなよー」


流石に主人の命令には逆らわずトランスフォームして胸部に収納されていく。



「あ……えっと…」
「………」
「な、んだ?何?」
「………」


だから苦手なんだ。


何を考えているのかわからない。
スタースクリームもスカイワープも結構考えが突拍子もなかったり、意味わかんねぇことは多い。
それでもあいつらは思ったことを隠し通すことができない。
それをどうだ?この男はどうでも良いことも大事なことも隠していることも何も話さない。

だから握られた手を握り返せない。


「サウンドウェーブ…」
「……」


スタースクリームの苦手は俺と同じ理由なのか?
あいつもこうやって触られてるのか?
それならサウンドウェーブの理由はなんだ?
俺の右手を掴んだと思ったらサウンドウェーブの左手に乗せて、そしてもう片方の手で俺の右手を撫でる。
親指の先から始まって、全部の指の第一関節、第二関節の隙間をゆっくりゆっくり撫でていく。
稼働域を確認するかのように時々曲げさせて、弄って、それが全部思ったら今度は裏返す。
手のひらを黙って見続けた後に更に関節部分を触っていく。

「……」
「……」


これをされるのは初めてではない。
初めてのときは思わずやめてくれと怒鳴った。そしたら黙れと言われた。
上官を敬う気持ちは薄いほうだが逆らえるほど度胸もない。

今では黙って指先を差し出す。


「サンダークラッカー」
「……」

目線だけサウンドウェーブに向けるとサウンドウェーブは見返してきていた。


「顎をあげろ」
「……ど、どうして?」
「あげろ」
「……はい」

威圧的な態度に逆らえないまま顎をあげると撫でられていた手を引かれた。
サウンドウェーブのマスクが静かな音でスライドされた。
口をみるのは初めてだ。思ったより普通だなと思う。
そのまま手を引かれ続けて身体が前のめりになる。

あ、駄目だ。駄目。駄目だって。やめろ。く、口が、触れちまうよ。

「さ、サウンド…」
「静かに」
「…あ…わ」
「サンダークラッカー。静かに」
「あ、…は、い…」

触れる。もう触れる。
恐ろしさに身体を硬直させて訪れる感触を待つ。
歯を食いしばって引ける身体を懸命に保つ。
無表情だと思っていたサウンドウェーブの口元が少しだけ笑っているように見えるのはじぶんの見間違えだろうか。

足元でジャガーが小さく唸った気がした。







「やめろインチキシステム!!!!!」



聞きなれたワープ音。

聞きなれないサウンドウェーブの呻き声。



「す、スカイワープ!?」
「そいつはうちの子だぞ!スタースクリーム!!!見つけたぞ!サウンドウェーブの寝室!」

通信機にスカイワープが叫ぶと了解とスタースクリームの声が聞こえた。
サウンドウェーブはと見れば突き飛ばされたようで寝台を挟んでスカイワープの反対側へ落ちていた。
暫くかからずスタースクリームがハッキングでこじ開けただろう扉を割って入ってくる。


「サンダークラッカー!無事か!?」
「ス、スタースクリーム?なんだよお前ら…」
「サンダークラッカー!!サウンドウェーブとキスしようとしてただろ!」
「なに!?本当かサンダークラッカー!」
「え、あ、キ、キス?」


詰め寄られて後ずさりする。
キス?そうか。キスか。そうだよなぁ。俺とサウンドウェーブ…
頭に熱がこもる。ヒューズが飛ぶんじゃないかとサーキットが回転する。
あつい。顔があつい。

「趣味わりぃぞ!サンダークラッカー!」
「おいこらサウンドウェーブ!」

スタースクリームがゆっくり立ち上がったサウンドウェーブに詰め寄る。


「ジェットロンは美形でスマートで愛でたくなる気持ちはわかるがうちのサンダークラッカーに無断で手はださないでもらおうか!」
「ば、ばかやろう!スタースクリーム…!」
「いや、スタースクリームの言うとおりだぜ!」

「…退け」


サウンドウェーブは立ち上がるとマスクは閉じられていた。いつもどおりの無表情。
サンダークラッカーははらはらして両手を祈るように握った。


「あぁ!?」
「お前らに興味はない。退け」
「このヤロウ!色か!自分に似た色だからか!!」
「……」

サウンドウェーブはため息をつくとスタースクリームをアイセンサーから排除したように視界からそらした。

「サンダークラッカー」
「あ、うん?」
「データは修復した。問題ない」
「あ、あぁ…悪い…」
「こら!こっちみろ!」
「それと、サンダークラッカー」

サウンドウェーブの前でぎゃんぎゃん言うスタースクリームと俺を守るように前に立つスカイワープが視界から消えたように
サウンドウェーブの声しか聞き取れない。ん?と顔を見合わせるといつもの口調で喋り始めた。

「続きはまた明日だ」




視界から排除していたはずの物体2体が恐ろしい勢いで喚き始めたのはこの後だった。






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スタスク「あんな野郎に流されやがって!」
サンクラ「き、気のせいだって…仕事の話をしてたんだぜ?」
スカワ「てやんでい!!あれはキスしようとしてた!」

次の日両脇をがっちりガードされるサンクラ。
ジェット2羽は「サンクラ(ジェットロン)は俺のもの」みたいな感じ。
兄弟に彼氏が出来ないようにガードするみたいな