宴は盛り上がった。 遅く現れたスタースクリームがメガトロンに怒鳴りつけられたが それすら盛り上がる為の余興のようでデストロン軍はエネルゴンを補給し 時には頭から被り、笑い、騒いだ。 サウンドウェーブはカセットロン達と一緒に居た。 フレンジーはスカイワープと飲んでいるようだがコンドルは肩で エネルゴンキューブを啄み、ジャガーは足元で用意されたエネルゴンを ガリガリと食べた。 サウンドウェーブはバイザーで誰にも知られる事なくスタースクリームを探した。 心中の彼はすぐに見つかった。 エネルゴンの摂取が早過ぎて酔い始めているのか机に上半身を寝かせている。 何故その面子になってしまったのかは定かではないがスタースクリームの 座っている卓上にはスラストとアストロトレインが一緒になって座っていた。 スラストはスタースクリームが突っ伏していることに心配しているのか 顔色を伺うように覗き込む。 アストロトレインは興味なさそうに机にあるエネルゴン酒とそれにあった キューブを食べている。 「スタースクリーム。酔い過ぎだぞ」 「あーすとろとれいんー」 「なんだよ。気持ちわりぃな」 「大丈夫かよ。スタースクリーム」 「すらすと。あそこ、あそこのエネルゴン。持ってこい」 「はぁ?まだ飲むのかよ…」 オススメはしねぇぜ?とスタースクリームの欲していたエネルゴン酒を持ってくると 受け取ったのはスタースクリームではなくアストロトレインだった。 「アストロトレイン?」 「そんなに飲みたきゃ俺が飲ませてやるよ」 「お、おい。やめとけよ…」 すでに自分がスラストに頼んだことすら忘れているであろう航空参謀は 自分よりも大きいアストロトレインにインテークをつかまれると 机に倒れていた上半身を持ち上げられた。 「…ん?何だ…?」 「これ、飲みたかったんだろ?」 「……あ、そう。それ」 「随分辛そうだから俺が飲ませてやる」 「おー」 「おいおい!スタースクリーム!しっかりしろよ!アストロトレインも…!」 「俺はいたって正常だぜ。スラスト」 ワイングラスに入った赤みの強いエネルゴンをスタースクリームの 唇にあてがってそのまま上半身とグラスを傾けていくと少しだけ 開いている口の隙間からエネルゴンはどんどん入っていった。 スラストはスタースクリームが吐き出してしまうんではないかと不安だったが スタースクリームはそのワインに入ったエネルゴンを 難なく飲み下すとアストロトレインのほうを見た。 「…うまかった」 「……すげぇ。本当に飲んだぜ。こいつ」 「だ、大丈夫なのか?本当に?」 「……眠…い」 「待て待て。スタースクリーム。もっと良い酒もって来る」 アストロトレインは一度スタースクリームから手を放すと 少し離れた机にある更に濃度の濃いエネルゴンを探した。 暫くしてスラストが戻ってきたアストロトレインの手を見るとグラスが3つ。 先ほどより濃度の濃いエネルゴン。それよりも更に濃いもの。 最後の一つは滅多にお目にかかれないだろう高濃度エネルゴンだった。 「さぁ、スタースクリーム。こっち向け」 「んー…」 「寝るのは後だ。ほら」 「よ、よせよ。過剰摂取はエラーを起こす原因になるんだぜ?」 「それが見たいんだよ」 アストロトレインが嫌な笑いをする。 先ほどと同様にグラスを口に含ませるとスタースクリームは飲み下していく。 2つ目のグラスも同様に飲み込んでいくスタースクリームに アストロトレインは感嘆のため息が出た。 「なかなか強いんだな。こいつ」 「もうよせよ!これ以上はやばいって!」 最後のグラスを手に取ったアストロトレインの腕に飛び掛るようにして 静止にでたスラストだったが、もともと気の弱い方であるスラストは アストロトレインが冷ややかな目線を送るとゆっくりとその手を放した。 「濃度が強すぎるエネルゴンの過剰摂取は五感と脳波に異常が出やすいんだぜ? メガトロン様にばれたら…」 「大丈夫だろうよ。びびるんじゃねぇよ。スラスト」 アストロトレインが最後のグラスを傾けるとスタースクリームは 喉を動かしたが3口飲んだところで少しむせた。 しかし、それに構わずアストロトレインがグラスを傾けるので 口の端からエネルゴンが零れ始める。 「んんっ…!」 「もうちょっとだぜ…?ほら。」 「やめとけって…アストロトレ…うっ!」 「ん?スラスト?どうし…げっ!メガトロン様!」 「……何をしておる」 背後にくるまで気付かなかったが破壊大帝がこの様子に気付いてしまった。 普段なら悪ふざけですむかもしれないが度が過ぎたか?と アストロトレインは少しあせる。 「その、スタースクリームが…酒を飲みたいと…」 「ほう。飲ませてくれと?」 「は、はい!」 「…そうは見えないがな」 スタースクリームはげほげほと咽ると顎に伝ったエネルゴンを拭った。 メガトロンはその様子を横目で見たあとアストロトレインを 睨みつけると大きくため息をついた。 「サウンドウェーブはいるか?」 「ここに。メガトロン様」 「スタースクリームを寝室に連れて行け」 サウンドウェーブはメガトロンの後ろにいた。 メガトロンが呼んだから現れたわけでも、常にメガトロンの後ろに 控えているわけでもなかった。 メガトロンがとめなければ、自分が止めようとしていた。 メガトロンはアストロトレインとスラストと何か話しているようだった。 多分この後メガトロンの説教が始まるだろうと予想してスタースクリームに 肩を貸すとよろよろと歩き始めたのでそのまま寝室までつれていく。 「スタースクリーム」 「んぅ…」 「大丈夫か?」 「…ん」 こくこくと頭を上下させる。 一応問いに答えるくらいの意識は残っているようなので そこまで心配することもないだろう。 寝室にはいるといつぞや片付けたにも関わらず、また汚くなり始めている部屋に ため息を吐く。寝台の上まで連れて行くとスタースクリームが薄く目を開いた。 「あすとろ…?」 「違う」 「…?すらすと?」 「違う」 視覚に異常が出ているのだろうか? 自分の声を判断できていないところからして聴覚にも異常があるのかもしれない。 困ったように目を細めるので無防備な口に触れるだけのキスをする。 「…サウンドウェーブか…」 「そうだ」 「………なんで」 「メガトロン様が寝室へと命令した」 「………」 「どうした?」 スタースクリームは俯いたまま何も言わなかった。 まだ酔ってるのかもしれない。あまり酷いなら洗浄するか 部品を変えないといけない。 「まだ悪いのか」 「……いや」 「どうした」 スタースクリームが顔をあわせないようにしている事に気付いていた しかし意図が読めない。覗き込むようにしても逸らされる。 「お前、俺の事好きか?」 「…またか」 「答えろよ…」 スタースクリームは度々聞いて来る質問だった。 勘が良いとも思うがこの質問は鬱陶しい。 「好きだ」 「嘘だ」 「好きだ」 「サウンドウェーブ」 顔をあげたスタースクリームにそれ以上言葉が出なかった。 今の今までエネルゴン酔いを起こしていたとは思えないほどに はっきりとした顔だった。 「良いからよ」 「何?」 「もう付き合わなくて良い」 「スタ、」 「いらねぇから」 わからない。 スタースクリームが何故こうまでに否定するのかが。 彼は確かにエネルゴン酔いしている。 先程触れた唇からはむせ返るようなエネルゴンの匂いと エネルゴンの過剰摂取により熱を感じた。 今でも触れば身体は熱いしエネルゴンの匂いはするが 彼の言葉が冗談やその場の思い付きによる台詞でないことはわかる。 「勝手だな」 「俺がかよ?」 はっと鼻で笑われる。スタースクリームは視線を下げて嘲笑うような笑みを浮かべた。 勝手だ。スタースクリーム。 確かに好きだと告げたのは俺の方だった。それが本心ではなかったのも認めよう。 しかし、「付き合う」事を提案したのは自分ではない。スタースクリームだ。 それでいて今「いらねぇ」と言ったのもスタースクリームだ。 別に構わない。 俺はこいつを好きではない。興味の対象ではあったがそれも今日までだ。 「わかった」 「………」 無言で立ち上がってスタースクリームから離れる。 「サウンドウェーブ」 「……なんだ」 「嘘だったんだろ?」 「……」 「最初の好きから。全部」 いつからわかっていたのだろうか。スタースクリームの言葉は確信を持った声だった。 バレていたのなら今更取り繕う必要もないだろう。 「そうだ」 スタースクリームはいたって普通の表情だった。 驚くわけでも怒るわけでもなかった。 感情の起伏の激しい、表情豊かな奴だから騙されていたことに どんな表情をするのか興味があったのだが。 よくよく考えてみれば当初の目的であるスタースクリームの弱味は 掴めたのではないかと考える。 スタースクリームにとってこの弱味はどれほどのものかはわからない。 案外終わってしまえば誰かに言っても構わない。 別に弱味にもならないかもしれない。 できればもっとスタースクリームにとって確実な何かを掴みたかったが それももう終わりだと区切りをつける。 サウンドウェーブは最後にスタースクリームの無表情を記憶すると そのまま背を向けた。 扉まで歩き、スライド式の扉に手をあて、開くように入力する。 「サウンドウェーブ」 すぐ後ろから声がして振り返ろうとしたができなかった。 スタースクリームの重みを背中に感じ取った。 額を背中にすりつけているのがわかった。 「俺は楽しかったけどな」 背中を押されてそのまま退室する。 自分でも驚くほどに耳が冴えていた。扉の閉まる音が耳に付く。 その後重々しい音と共に扉にロックがかかったのもわかった。 それ以上に耳に残ったのはスタースクリームの声だった。 --------------------------------------------------------------------- (´・ω・`)ショボーン