最近スタースクリームはよく部屋に来る。 大抵は仕事に口を出していったり、ジェットロンの愚痴を言ったりと 邪魔の一言につきるが、今日のスタースクリームは何か口に出すわけでなく ぼけっと寝台に座っていた。 スタースクリームがチャージポッド兼寝台の上からどかないので 自分は補給が出来ない。 「スタースクリーム」 「………」 「…スタースクリーム」 「………」 顔を見る限り目が光っているのでスリープモードではなさそうだが無反応だ。 デスクから立ち上がって目の前まで近寄っても結果は同じで無反応のまま。 顔の高さを同じにしてみるとスタースクリームの赤いアイセンサーの中で 白と黒の文字列がカチカチと動きまわっていた。 何かインストール中や検索をかけている時なんかはこんな風になるものだ。 何をやっているのか気になるが反応がない限りどうしようもない。 「スタースクリーム」 「…………」 肩に手をやって少し揺すると駆動音が少し遅くなった。 文字列が薄くなり一文字一文字が消えていくとアイセンサーは見知った色に 戻り、微かに動いた。 「スタースクリーム」 「ん?うわ!な、なんだよ!ちけぇ!!」 「…エネルギー補給がしたい。チャージポッドからどけ」 「…あ、あぁ」 立ち上がったスタースクリームの代わりにチャージポッドに座る。 眠るつもりはないので横にはならず寝台に付属されているケーブルを 自分に差し込んでいく。 チャージポッドの電源を入れて出力を上げると身体に満ちてくるものがある。 エネルゴンと同じエネルギーではあるが口から補給するのとこうして ケーブルを通してチャージするのではまた別物だ。 その様子を見ているスタースクリームが寝台の空いている部分に座る。 ケーブルから流れ込むエネルギーを横目に暫く眺めた後また視線を正面に 移して駆動音をさせると文字がまたうっすらアイセンサーに浮かび上がった。 「スタースクリーム」 「…え?何か言ったか?」 「先ほどから何をしてる」 「あぁ、サンダークラッカーが拾ってきた地球の書物をデータ化して スキャンしといたから暇な時に時々読んでるんだぜ。 地球の書物でも結構暇つぶしになるもんだ」 今スキャンしてあるのは生物学と物理学と古文なんだがな、と続けるスター スクリームはどこか嬉しそうだ。声がかけられたことが嬉しいのか、書物の 内容を語るのが楽しいのかはわからない。 「何故俺の部屋で読む」 「……は?」 「自分の部屋で読めばいい」 「……」 むっとしたスタースクリームの顔をみる。少し怒ったようだ。 顔を少しそらして低い声色が放たれる。 「駄目かよ」 「駄目ではない」 「仕事が忙しそうだったから絡まねぇでおいてやったのに」 「……」 一応気は使っていたのか、仕事が終わるのを待っていたのなら 何かしら用があるのだろう。 「何か用か」 「別に」 「用があったから待ったんじゃないのか」 「別に…」 最近は当初の目的よりもスタースクリームという固体トランスフォーマーに 興味が湧きつつあった、前々からジェットロンは感情の起伏が激しく、表情も 豊かだったが中でもスタースクリームはかなりのものだ。 他のトランスフォーマーとは顔の金属素材が別物なのだろうかとも思ったが 特別な素材ではないようである。 自分はこいつに「愛情」はないが「興味」は十分すぎるほどあった。 「前も言ったんだけどよ」 「なんだ」 「お前、実は俺のこと嫌いだろ?」 「…なんだ」 「発言や行動に好意がこもってねぇんだよ!」 「……」 スタースクリームは自分の無愛想な性格が好きではないようだ。 確かに好意をもって接しているわけではないから、それが見破られているのかも しれない。ただそれだけのことだった。 こちらにアイセンサーを向け睨んでくるのを見て自分の首の後ろに手を這わす。 カチンと音がしてマスクがスライドするとそこから自分の口があわられた。 スタースクリームは驚いたように少し身を引いたが顎を掴んで引き寄せると 少し躊躇がしつつも初めの時よりは身を任すように動いてくれた。 唇を合わせて、舌先で唇を舐める。 固く結んでいる為にそれ以上の進入は不可能だった。 暫く唇を舐めると、身をよじって顔をそらされた。 左手で唇についたオイルを拭うスタースクリームの首筋に同じように 舌先をあてるとスタースクリームから甲高い声が出た。 「っひ…!な、にしてんだよ!」 「好意のこもった行動」 「許可取れって言ったろ!」 「…唇に触れる」 「……」 顔はそらしたままだが拒否がでないところをみると許可だと思っていいのだろう。 頬に手をやってゆっくりこっちに向ける。 目線だけが少しそらされたままだが、顔が赤い所を見ると嫌がってはいない。 唇をゆったりと合わせてついばむようにする。 時々ちゅっと音が鳴るとスタースクリームはアイセンサーを細めた。 舌先を唇に押し込むが歯を食いしばっている為、進入はできない、そっとスター スクリームの両手が胸元を押してきたが、力が込められていなかった。 「舌を入れる」 「………」 「…拒否か?」 「…駄目だ」 両手にゆっくりと力が込められて、その距離を開かされる。 スタースクリームの関節が伸びきるほどに距離が開くと スタースクリームは小さく「戻る」といった。 止める必要はない。止めた所で自分はスタースクリームに用などない 呼び止める理由が一つもないのだ。 立ち尽くしたスタースクリームから手を放して扉の開口コードを入力して 扉をスライドさせる。スタースクリームの方を振り向くと 目を合わさせないように扉の前まで歩いてきた。 また少しだけ唇を開き、言葉を発する。 「…わりぃな」 何故謝る? 最初に許可がでないなら行動してはいけないと注意されていた。 スタースクリームが謝る理由がわからないが「気にするな」と声をかけると スタースクリームがゆっくりこっちを見た。 「どうした」 「……」 開けたままのマスクの中、頬にスタースクリームが指を這わせる。 何度か撫でられ、そっと唇に軽くキスをされた。 何も言わないで、そのまま部屋を出て行ったスタースクリームを見送ると すぐ離れてしまったが、スタースクリームからの初めての好意を示す行動だと 言う事にマスクを閉じるまで、サウンドウェーブは気付けなかった。