「で?何の冗談だったんだ?」
「冗談?」

一息入れた事が幸いしたのかスタースクリームは余裕の笑みを
浮かべて軽やかに戻って来た。

「冗談ではない」
「……いや…その…どうした?」
「なにがだ」
「メガトロンの嫌がらせか?」

半笑いなのは照れと疑問が混ざったからのようだった。
大きな失敗ではないがこのままじゃ信用はしてもらえなさそうだ。
どうするか考えた挙句、浅くスタースクリームのブレインスキャンを開始する。

詳細までわかるブレインスキャンをかけるとばれる奴にはスキャンがばれる。
スキャン開始時に音と薄青い脳波が出る為だ、馬鹿や死角からなら看破され
ない事もあるがスタースクリームに真正面から正確な、かつ深い部分まで
脳内を探ればまず間違なくない看破されるだろう。

なので多少体面的な部分しかわからないが、浅くわからない程度の
ブレインスキャンを開始する。

『嬉しい』
『けど』
『意味わかんねぇし』
『本気かどうかもわかんねぇし』
『もし冗談じゃなくとも』
『俺にどうして欲しいんだ?』

ブレインスキャンを終えてスタースクリームに目を合わせると
バイザー越しでも目が合ったのを感じ取ったのか、スタースクリームは
少し大げさに目をそらした。

「俺の意思でここにきた」
「…そ、そうかい」
「冗談ではない」
「……えー…と、あれだ。しょ、証拠!」
「は?」
「証拠がねぇと!信じらんねぇ」

証拠?
感情に証拠も何もないのだが。
口にしても信じてもらえないのなら
行動に起こせと言うのだろうか?

少し、時間にして5秒ほど停止して脳内で何をすれば信じてもらえるかを検討する。
地球のネット回線に進入した時に見た情報を一気に並べて
「好意を表現」で検索をかけて、一番上に並んだものを開始する。
寝台の上で膝立ちしてスタースクリームに近寄る。

「お、い…」
「なんだ」
「な…なんで近寄ってくるんだよ!」
「証拠をみせる」
「何かしようとしてるだろ!!」

スタースクリームの寝台の上をガシャガシャ音を立てて距離を詰め寄ると
スタースクリームの余裕の笑みは消えて後ろに少し下がった。
左手にカップを持ち替えて、右手でスタースクリームの肩を掴む、目を
そらしていたスタースクリームのアイセンサーと再度かち合って
そらさせないようにじっとりと見つめた。

「や、やめろよ。何する気だ…?」
「証拠を見せるだけ。危害は加えない」
「いや、もう危害加えてると思うんだけどよ」

必死に後ろに下がろうとするスタースクリームの肩を押さえて
後方に下がらせないようにした。
むしろ、それ以上下がろうものなら寝台から落下するのが
目に見えているのだが。
スタースクリームの目を覗けば赤い目が不安と恐怖に揺らぐのが見える。
両手で落とさないように持っているマグカップがまた零れそうに傾くが
自分も片手にコップを持っている為、持ってやる事も支える事も出来なかった。
とりあえず忠告だけしてやることにする。


「スタースクリーム」
「な…なんだよ!」
「零れるぞ」
「え、あ」


スタースクリームが視線をマグカップに移したのを見て、警戒心が
少しそちらへ反れたのがわかった。
肩を押さえていた右手に体重をかけすぎないように注意しながら
マグカップに視線を落としたスタースクリームの顔を覗き込むように
少しだけ屈む。

「サ、サウンドウェーブ!」
「……」

自分の頭部、聴覚機能の後方にあるスイッチに手を伸ばすと、微かな音と
共にマスクがスライドした。
左右に収納されたマスクを見てスタースクリームが黙り込む、こいつは
そういえば収納した姿を見たことなかったか。
だが、黙っていてくれるのなら丁度いい。顔の角度を調整して
スタースクリームの顔を覆う。


「ぁ、ま、ま…て」
「…………」
「…んぅ…」

触れるだけ、スタースクリームの唇に触れるだけで唇をあわせると
スタースクリームが目を見開いた。唇の角度を少しだけ変えて
ついばむ様に重ねるとスタースクリームの手からマグカップが落ちた。
少しだけ熱い液体が互いの腰から脚にかけてかかるのを感じた。

スタースクリームがそれに驚いたように小さく口を開いたので
ついでとばかりに舌先で前歯を撫でた。

「ば、ばかやろう!!」
「ぐっ」
「な、なんてことす…んだ!」

顔を押しのけられて思わず声が出たがスタースクリームは
それどころではなさそうだった。
また何か駄目だったのか、こいつの反応は意味がわからない。

「証拠」
「わかったよ!お前が本気なのは…だからって許可なしにするな!」
「わかった」
「…折角のエネルゴン…零しちまったし」
「持っていないから」
「誰のせいだ!片付け手伝えよ!」
「………」



*


先ほどから2時間が経過。
今でも片付けは継続中、寝台と床を拭いて邪魔な配線をどけていく。
零したエネルゴンだけ片付ける予定が気付けば部屋の片付けと移行していた。

一つ小さいため息をいれて立ち上がる。粗方片付いてきた部屋を見渡した。
エネルギー補充がしたくなり、さきほど受け取ったエネルゴンを飲もうとしたが
置いておいたはずのコップはなくなっていた。どこへ置いたか周りを
見渡すと少し離れた所で片づけをしていたスタースクリームが戻ってきた。

「いやぁ、案外てめぇも使えるじゃねぇか」
「………」

自分がこの部屋に来た理由を忘れていた。そうだ、何やっているんだ自分は。
もう信頼も弱味もどうでも良くなってきて、この部屋から退室しようかと考える。

「ほらよ」
「…?」
「入れ直してやったぜ?」

スタースクリーム様特製なんだからな!と手渡されたのは先ほどの
コップに入った暖かなエネルゴンだった。
黙って受け取り、口に含むと先ほどより少し苦めで自分好みだった。
にっと笑って俺はもっと甘いのが好きなんだけどな、と言ったスタースクリームを
見つめる。
あぁ、最初に一口飲んだ時の「甘い」が聞こえていたのか…
もう一度口に含んで飲み下していく。

「サウンドウェーブ…」
「?」
「その…別に…ど、どーしてもって言うんならなぁ」
「……?」
「つ、付き合っても…い…んだぜ…」

自分じゃなかったら聞き取れないほどの小さい声。しかもどもっている。
サウンドシステムは聴覚がより優れて作られている為に聞き取れたようなものだ。

それよりも、こいつは何を言っているんだ?付き合うとは?
もう一度スタースクリームの目を覗き込む。
見つめられた事が恥ずかしいのか、自分の発言に対して恥ずかしいのか
目を合わせようとしてこない。

顔をそらして、お前は思ったより使えるから…!だとか
俺の命令は絶対だぞ!とか、どこか話がずれている様な
わからない言動が続く。

「…わかった」
「!」

面倒だからとりあえず、わかったと呟くとスタースクリームは目元を赤くして
こっちを見た。
また小さい声で「あ、そっか、その」と会話にならない言葉を口にする。
ブレインスキャンしようかと思ったが、顔から大体の内心が読めたので
やめにした。
嬉しいのが顔にでないように一生懸命隠してはいるのだが、口元が
はにかみ、頬を赤くして目をそらす
訳のわからないやつと思えばわかりやすい。変わった奴だ。
口にもう一度エネルゴンを運んで、コップを空にする。

「うまかった」
「!!……そ、そーかよ」
「そろそろメガトロン様に呼ばれている時間だ」
「あ、あぁ、じゃ、じゃあな」
「あぁ」

コップを渡すと受け取って、片手をひらひらと振ってきた。
踵を返して扉へ向かうとスタースクリームが小さく声を漏らした。
振り返るとスタースクリームはまた少しだけ顔を背けた状態で

「ぜ、絶対他の奴らに言うなよ!」
「…何故」
「な!何故だぁ!?そんなの察しやがれ!」

疑問が腹立たしかったらしい、ずかずかと近づいてきたスタースクリームに
背中を蹴られて外に追い出される。
痛いとは言わないが、何故蹴られたのかこちらのほうが疑問だと思う。
床に倒されるとスライドして閉まった扉にロックの音が発生した。
完全に締め出されたのだ。

とりあえず誰にも言って欲しくないということは、弱味になるんだろうか?と
考えて最初の目的が果たせたような果たせていないような、中途半端な感情が
生まれた。

しかし終わらせるべき仕事を思い出して、仕事以外の内容を脳内から
はじき出すとその場から立ち上がってメインルームへと向かった。



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まだ続きますとも。

stskは男の子に良くある
「え?コイツ俺のこと好きだったの?なんだよ…言われてみれば可愛いような…」
って言う好意をもたれるととりあえず嬉しくなっちゃうタイプ。
音波さんは未だによく状況把握できていません。