サウンドウェーブには感情の起伏というものが欠如している。
もちろん腹立たしく思うこともあれば、笑うこともある。
サイバトロンのイカレサウンドは殺してやりたい、同じサウンドシステムとは
思えない。
メガトロンのことはカリスマ性に尊敬の念と忠義の心がある。
スタースクリームは愚か者で度し難いが、時々笑わせてくれるような馬鹿を
するところは憎めない。カセットロン部隊は大事な部下達だ。

しかし、その感情を表に出さない。だせない。
いつも口に出す際に自分の感情はこの言葉であっているのだろうかと戸惑う。

自分の感情すら片付かないまま思ったことを口に出せるあいつが少し
羨ましかったのかもしれない。




*


この感情は「憎い」で片付くだろうか。

メインルームでカタカタとコンソールを叩き仕事をこなしていく。
気付けば先ほど出かけたジェットロン部隊が資材集めより帰宅して
メンテナンスに入っている。
そういえば先ほどまで同室にいたデストロンの連中も姿が見えない、集中
しすぎていたのか。
そんなに時間が経過していたとだろうかと破壊大帝が面白半分に設置した
地球時間を知らせる時計を見る。
6時間が経過していたようで自分の仕事の進みが少し悪いことを悟る。

エネルギー補給に一度席を立つべきか、いや後3時間もやれば終わる仕事だ。
このまま一気に片付けてしまうおうか。地球時間で現在は25時を回ったところだ。
この時間なら急な出撃もないだろう、一度とめていた指を再度動かし始める。
カタカタと奏でる自分の音以外に後ろから扉を開く音がした。

「……あ…」

扉の音は気にしなかったが後ろから聞こえてきた声に振り向く。
赤いインテークと黄色のキャノピー。他のジェットロンより暗い色の顔。

スタースクリーム

「こんな時間にまだやってるとはご苦労なこった」
「……何しにきた」
「メガトロンに頼まれた仕事をしにさ。すぐ出て行くから気にすんな」

スタースクリームは肩をすぼめてすたすたと入ってきて自分の扱う2つ右の
コンピュータの前に立った。
自分のキャノピーからでるケーブルを繋ぎメガトロンから受け取ったであろう
パスワードのはいったカードを差込、データの持ち出し許可申請をおろすと
基地内のデータを体内のデータバンクに詰め込んでいく。
その様子をバイザーに隠れて一度だけ眺めると再度、自分の仕事を再開した。


正直気まずいと感じているのは自分だけではないはずだ。
スタースクリームは平気そうな顔をしているがデータ移行の最中時々身体を
揺すったり意味もなくコンソールを撫でたりと
容量の多いデータのコピーの遅さに苛立ち、催促するような動きが見える。

「うるさい」
「うるせぇ。早くしねぇとメガトロンが部屋で待ってるんだよ」
「なに?」
「寝室で待ってるんだよ。メガトロンの野郎」
「寝室?お前のか」
「はぁ?んなわけねーだろ。メガトロンのだよ」


小さくしつけぇなと呟いたのが耳に入ったがそんなことよりも先ほど、と言うには
前過ぎるがスカイワープとサンダークラッカーの会話が思い出される。

『毎晩メガトロン様の寝室に入り浸り』

スタースクリームの顔をずっと眺めているとスタースクリームは罰が悪そうに
目を細めた。

「なんだよ」
「……」
「…おい」
「………」
「…けっ…無愛想な奴はこれだから」

スタースクリームは背中を向けてまたパソコンのコンソールを弄り始める。
それでもスタースクリームの背中を見続ける。スタースクリームは
この視線に気付いているだろうか?
音を立てないように立ち上がってその背中の真後ろに立つ。
羽に指をかけて、強く握るとスタースクリームは背後にいたことに
気付いていなかったらしく大きく声をあげた。

「うぁあ!な、何、何しやがる!!」
「スタースクリーム」
「あぁ!?なんだよ!」
「何故メガトロン様の寝室に入り浸っている?」
「はぁ?何言ってるんだ。お前」
「答えろ」

羽を右腕で強く掴まれスタースクリームは顔だけをこちらに向けたが
身体全体をこちらに向けることが出来ず、身をよじった。

「別にたいした…」
「もう抱かせたのか?」
「…は?」
「前に俺がやってやったことを、メガトロン様にやってもらっているのか?」
「…お前、何言ってんだ?」

スタースクリームが身をよじるのをやめて硬直した。
多分マスクがスライドした音を聞き取ったのだろう。
首の後ろにマスクの下から現れた唇を当てて少し強めに噛んだ。

「ひっ…!」
「言っている意味がわからないか?」
「ま、なに、なにが?」

わからないならと羽を掴んでいた手で頭を掴み下を向かせる。
あいていた左手でスタースクリームの下腹部のパネルまで指を持っていくと
あわてたようにスタースクリームが暴れだす。

「おい!馬鹿やろう!なにしてっ…!か、噛むな!」
「お前がわからないというから見せている」


会話の合間合間にスタースクリームの首の後ろを噛むようにすると
その度にスタースクリームは怯えたように体を硬直させた。
下を向けさせたのはスタースクリームがわからないというから
この間、洞窟の中でやってやった行為をもう一度、認識させる為だ。


「違う!俺はメガトロンなんかとっ…!」
「そうとは思えない」
「サウンドウェーブ!俺に触るな!」

パネルに指を引っ掛けて中のケーブルを軽く撫でるとスタースクリームの
両腕にあるナルビームに熱が溜まり始めたのを自分のバイザーが認知し
過熱を自分に教えてくる。ナルビームを起動させているのだろう。
確かに、ナルビームで自分の稼動回路を打たれれば麻痺効果により、電波、パルスの
供給がおろそかになるだろう。
そうすれば動けなくなるのは自分だ。そんな事をされては困る。

頭を掴んでいた右手に力を入れなおして、スタースクリームが使っていたデスクの
角にふりおろした。
当然、スタースクリームの頭部はデスクに強打し、破損した。しかもかなりの破損だ。
抵抗を抑える為にやったことだが、少しやりすぎてしまったかもしれない。
スタースクリームの様子を見る限りブレインサーキットにも支障が出ている。
スタースクリームの両腕のナルビームどころか腕全体から力が抜けて、デスクの上に
上半身を預けるように脱力し、視界をうつろわせている。
しかも頭部破損によって、どこかの配線が切れたか頭部からオイルが漏れ始める。

コンピューターのデータバンクとスタースクリームを繋ぐケーブルを
はずしてキャノピーを一度閉じてやる。
開いたままのうつ伏せは身体に負担だろうと自分なりの気遣いだ。

「スタースクリーム」
「…う、いてっ…え」
「気分はどうだ」
「……気持ち…悪い」
「…その割には、気持ち良さそうだが」

下腹部のケーブルを指で揉み解すと、スタースクリームから痛みより快感を
含むだろう息が漏れた。
デスクに倒れこんだスタースクリームに覆いかぶさるようにして、ケーブルを
更に弄る。首筋や、インテークを舐めるとスタースクリームは呻いた。

「あ…駄目だっ」
「メガトロンにもさせているのか?」
「…ぁ?…だか、ら…違うっ…て」

前にも感じた。
こいつの唇に触れると高濃度エネルゴンの匂いがした。
どうせメガトロン様のエネルゴンのつまみ食いだと判断したが違うのだろう?

「お前はいつもメガトロンの口に触れているのか」
「だか、ら、なんでメ…っあ、メガ、トロンが…」
「お前は好意を持って近づいてくる者を邪険にしないが、誰でもいいのか」
「んんっ…んっぁ…さ、さうんどっ…!サウンドウェーブ、やばい…から」
「誰にされてもお前は感じるんだろう?」
「ちがっ…!ぁっ!あっ、もっう…駄目だ…!」

スタースクリームのケーブルからぱたぱたと冷却液と潤滑油が混ざって
零れ落ちていく。限界が近いのを察して擦る力を強めていく。

「こっ…ここっ!どこだ…と思っ…」
「メインルームだ。扉にロックはかけていない」
「……っ!んん!」

スタースクリームの身体が震えて言葉がつむげなくなっている。
それでいい。ここで限界を迎えてしまえばいい。

「誰もが集まるこんな場所で達するのか」
「ばっかやっ…!…あ、ぅ…んあっ!!」
「……汚したな」

この男が憎い。
自分の手と、床を体内オイルを撒き散らして汚すこの男が憎い。

好きだと告げたらあんなにも喜んだ。
しかしこの関係が終わればすぐにメガトロンの元へと行くのだ。
なんとつまらない男だろう。こいつは誰でも構わないのだ。
この感情は「憎悪」か「軽蔑」だと思った。その言葉が適任だと。

しかしこの男に言葉で「憎い」と言ったことはなかった。

自分が破壊した頭部から漏れ出るオイルと瞳から出た冷却液が混じるのを見て
優越感ではなく罪悪感が生まれた所を見るとやはりこの感情は憎しみや
蔑みとは別のものなのかもしれない。

そう思うと自分の口からこの男にこの感情が伝えられないのだ。