恋愛感情に乏しい音波さんと人に好意を寄せられるのが大好きなスタスクの話。
長編です。2人がくっつくまでとりあえず続きます。
音波さんの性格が頭わるそうです。スタスクがでれでれです。
他の作品とは別次元で考えてください。了承いただける人のみどうぞ!










デストロンの中でスピードは誰よりも速く。
博識な知識と実際に可能にする行動力
機械のくせに表情豊かで感情を表に出し惜しみしない。
そんな航空参謀の弱味を募集中だ。




航空参謀の飼い方

 

「きさまは…!」
「ち…違う!さ…サウンドウェーブが!そう!サウンドウェーブに脅されてやったんです!」
「そんな嘘に騙されるのは貴様くらいだ!スタースクリーム!」


怒鳴り声と哀れな声。いつものやり取り。

一歩引いた所から2人を眺めていたのはサウンドウェーブだった。
何をするでもなく、とりあえず暇つぶしに録音のスイッチを入れておく。
今に限られたことではなくスタースクリームの言動全て、できる限り記録している。
なぜなら

「お前サウンドウェーブ怖くねぇの?」
「はぁ?何で」
「サウンドウェーブに逆らったりしてるけど弱味握られてねーのかよ?」
「別に?」
「うぇ!マジで言ってんの!?」

そうなのだ、自分はスタースクリームの弱味が握れていない。
弱味を握るのが趣味と言うと語弊があるが、日常の合間合間にセイバートロニアン観察と
称して敵味方問わず、弱点・弱み・隠しておきたいこと、ゆすれるネタの採集を
行っている。いざと言う時に「弱味」と言うものは役に立つものだ。
時に話を円滑に、スムーズに行いやすい。

サンダークラッカーならこの間、メガトロン様から預かっていたカノン砲を
落とした所を見た。告げ口を恐れているようだ。
スカイワープなら他のデストロンに「フレンジーはチビで弱い間抜けだ」と
言いふらす割りにフレンジーに何回か負けたことがある。など
一般のトランスフォーマー達は表沙汰になると困る事が山程あるのだ。
なのに、スタースクリームとなると話は別になる。

あいつは別にバレても構わないくらいの気持ちなのだ。
メガトロンの物を壊そうが、サイバトロンのチビに負けようが
海に落ちようが派手に転ぼうが気にしないのだ。
別に誰に見られても知られても構いやしない。まったくもって弱味にならない。

何日も何日もかけて奴を観察した。動き、考え、能力全てを。
メガトロンを陥れる為の作戦ならその作戦期間中のみ
弱味にもなるのだがどうせすぐに失敗して終わるので
長く揺さぶるような弱味にはなりえない。

なので考えた。
弱味を見つけるのはやめた。
弱味を作るほうが効率がいい。


「スタースクリーム」
「あ?」
「話がある」
「なんだよ」
「ここじゃ話しにくい」
「はぁ?……じゃー入るか?」

廊下やメインルームではなくスタースクリームが自室へ入ろうとした時に声を掛けた。
当然、こうなることを見越して。廊下やメインルームでは周りの邪魔が入る上
スタースクリームも何かと逃げやすい。なら当人の自室が一番良い。

部屋の中に入ると足の踏み場はないとまでは言わないが汚い部屋だった。
そこかしこにある鉄くずは何に使うんだろうか。一番近い手製だろう機銃に触れる。

「そこ触るなよ」
「汚い」
「汚くねぇ!俺様専用の研究室をつくらないメガトロンが悪い!」

部屋は寝台の回り以外は汚い有様だ。
別に食べかすや飲み物が散乱している訳ではなく必要ないコードや配線
部品を床や机に投げ出したままなのが余計汚く見せるのだ。

「あ、この間サンダークラッカー達にイス壊されたんだ…まぁ良いや。寝台にでも座れよ」

2人してイスに座ろうとするから大破したんだぜ。と話すスタースクリームは楽しそうだ。
今日は随分と機嫌が良いように見える。
ここ最近わかったがスタースクリームは日によって機嫌が大きく変動する。
その機嫌によってメガトロン様への忠誠度やデストロン軍への貢献度に変わりがあり
機嫌が悪い時にはサイバトロンよりも恐ろしい敵にもなる。

「少しそっち詰めろよ…よし。で、何だ?」

寝台の上にエネルゴンを持ってあがってきたスタースクリームは
その場に座って飲み物を口に含んだ、寝台の上で飲食するとは意地汚い奴だ。
普通、先に客にも出すのが礼儀ではないのだろうか。
そこまで考えを巡らせ、諦める。相手はスタースクリームだった。
こいつに礼儀などと言う言葉はないのだろう。


「なんか作戦か?」
「違う」
「メガトロンからの言伝?」
「違う」
「じゃあなんだよ!」
「………」


諜報部隊の心得。

相手を深く知るには相手に自分を信頼させ、情報を漏らさせる事。
自分を信頼させるには自分も相手を信頼してると思い込ませること。
信頼してるのを表現する時は何かを頼む、好意を表現するのが一番である。
ブレインサーキットがはじき出した答えはこれだった。


「好きだ」
「……」


恐ろしいほどに間抜け面だな、そして不細工だ。
開けっ放しの口と零れそうなエネルゴンジュース。

ふとフレンジーがこの間「サウンドウェーブって考えが時々飛躍的だよなぁ」
と笑われたのを思い出した。何か変な事を言っただろうか
自分はこいつに好意をアピールし、信頼させ、深く関わる。それが目的だ。

「…零れるぞ」
「ぅ、ぁはい!」
「?」

どうやらスタースクリームにとって、自分の言動は変な事だったらしい。
顔色がみるみるうちの赤くなり声が裏返っている。
こんなスタースクリームは初めて見たが完全に状態異常だ。
零すぞと忠告したのにも関わらず、また傾くコップをスタースクリームの手の上から
重ねるようにゆっくりと握り直す。
びくっと身体全体を跳ねさせ、コップを手からすべり落としたスタースクリームの
代わりにそのコップを零さないようキャッチした。


「あ…あぁ!あ!そ、それ!やるよ!」
「は?」
「自分の分もっかい作るから!」


寝台の上からジェットロン特有の身軽さで飛び降り、鉄くずとも兵器とも取れる物の間に
スタースクリームが消えて行く。
その辺に冷蔵庫があるのか…と簡易記憶して小さくため息をついた。
自分は何か失敗したのかもしれない。手に残ったコップはそれを慰めるように
湯気を立てて自分を暖めた。そうか、ホットエネルゴンなのか。
寝台の上で飲食する気は起きないものだがスタースクリームの寝台だ、少しばかり
汚れたところ構わない考え傾けた。

「甘い…」

何を混ぜたらこんなに甘いエネルゴンができるんだ。
普通不透明なピンク色をしたエネルゴンが透明度を増し底が見えるほどに綺麗に輝いた。
もう一度口に含み、味わうように喉に流していく。
自分には甘すぎるがなかなかいい味だと感心した。

またスタースクリームが消えていった方角をみると
半笑いで、しかし顔の赤みが消えた状態で戻ってきた。
その手にはマグカップが一つ。本当に自分の分を作って持って来ている。

半笑いの顔を見る限り、大きな失敗はしてないなと
阿呆面を惜しみなく披露する航空参謀を見ながらサウンドウェーブは内心安堵した。