ぺたぺたと顔に滑った手が触れた。これは手と認めない。
触れた部分がぬるぬるになった。てめぇどこの惑星だ。言え。こんな気持ち悪い生き物のいる惑星壊滅してやる。


オークションはまだはじまってもいなかった。


水色のぶよぶよした生き物は顔を触ったとに聞いたことのない言葉を発して去っていった。
すかさず横にいた男が布で顔を拭ってくる。拭い終わるとまた違う惑星の生き物が自分に寄ってきた。

「〜〜〜〜〜?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

どうやら右に控える男は多くの惑星の言葉を喋れるらしく質問に受け答えしている。
また顔を撫でられ、目を覗かれ頭を撫でられる。早く終われ。少しでも拘束が緩くなったら逃げてやる。


オークションの客達が自分を触れている間自分は記憶を辿っていた。

そうだ。この惑星にエネルギーを見つけたんだ。メガトロンの命令でサウンドウェーブとカセットロンと自分で偵察に来た。
そしたら惑星の先住民と銃撃戦になって、撃たれたら身体が痺れて。

……サウンドウェーブ…殺してやる…見捨てていきやがったな…!ちくしょうめ!

この惑星では生命体の売買が活発なのかもしれない。むしろそれで惑星の生計をたてているのか。
思わず俯いてしまう。また違う客が自分にさわりに来た。
無視を決め込むとがちゃんと音がして目の前に客が座った。ぐっと顔を掴まれて目が合う。


「……ほお。これがデストロンの航空参謀か…」
「………っ」
「えぇ。今回ちょっとした口から入手しまして」

右に立っていた男は支配人の立場でもあるのかにこやかに笑い、手をごますって客に笑いかける。
スタースクリームは客と目が合ったままそらさなかった。

「名は何と言う?」
「それがまだちょっとわかってないんですよ。申し訳御座いません」
「ふむ…」
「お客様ご購入後に好きに名前をつけてもらって構いませんよ」
「そうか。今のところ購入希望者はいるのか?」
「えぇ!結構いますね。使い道は警備、部下、ペット。他には性処理なんかにも」
「…面白いな」

客は立ち上がった。支配人に「考えておこう」と呟き去っていった。
スタースクリームはそのまま固まっていた。次に来た客にまた身体を触られつつも何も考えられなかった。

さっきの客。
白銀のボディ。赤い目。がっしりとした体。火薬のにおい。
聞きなれた声。見慣れた身体。あえて言うなら胸元のインシグニアはなかった。


メガトロン様…っ…


来てくれたことが信じられなくてますます泣きたくなった。






*




「50000アストロ!」
「53000」
「55000!」
「60000!」



スタースクリームは黙って聞いていた。
結構な額になってきた。嬉しいような、複雑なような。
メガトロンの声が聞こえない。まさか帰ったわけじゃないだろうな。

「80000」

知らない声が結構な額をつんだ。
10000でスタートして、今の額は小さい小さい惑星なら購入できるほどの額だ。
少しの歓声があがる。俺を買いたいと言う声の数も減ってきた。

「81500」
「85000」

俺、すごくね?
ねぇ、メガトロン様。早く。早く買って下さいよ。
俺がどれだけ有能な部下かわかりました?ほら、早く。


「100000」


「100000!他にいませんか!100000アストロです!」


周りは静かだった。支配人はにこにこしながら手を叩いた。


「デストロン軍団航空参謀!100000アストロで落札です!おめでとう御座います!」

喝采があがった。拍手が聞こえる。
100000アストロあったら何でもできるな。すげーな。

落札者が自分の目の前までやってきた。顔を上げると知らない顔だった。

「よろしく頼むよ。航空参謀さん」
「……」

紳士らしい口調だが目つきは最高に悪い。デストロンにいそうな雰囲気だった。
「はがして」と一言言うとスタースクリームの後ろにいた男達が羽についているインシグニアを剥がしにかかった。

「んっ…!?」
「デストロンなんて言う軍団しらないし、そんな肩書きいらないだろ。ださいから、剥がしていいよ」
「んん!ん!」

がりがりとインシグニアのついた部分を引っかかれる。
やめやがれと怒鳴って殺してやりたかった。



「150000アストロある」


ぴたっとインシグニアを剥がす手が止まった。スタースクリームは声の方を見た。


「……」
「150000…?」
「袋を勝手に確認しろ」


青い機体が近寄ってくる。抑揚のない声の持ち主だ。
どさっと重たい音がして床に袋を落とした。そのままスタースクリームに近寄る。

「口の拘束具をはずせ」
「ま、まて!160000だす!」
「…フレンジー」

なれた口調で部下を呼ぶと後ろからとたとたと小さいトランスフォーマーが現れた。


「はいはい!これ足すと200000ね〜!」
「200000…!?」


一気に会場が騒がしくなった。機械音や水の音や炎の燃えるような音や虫の這うような音で囁きあう声。
支配人と男達が袋の中を一目見て間違いなく180000は入っているのを確認すると頷いた。


「名前は?」
「サウンドウェーブ」
「200000アストロでサウンドウェーブ様落札です!!」

その声と同時にスタースクリームの口を押さえていた拘束具は床に落とされた。
数回咳き込んで青い機体を見つめる。

「さ、サウンドウェーブ…」
「…」

サウンドウェーブはスタースクリームの目の前にしゃがみこむと後ろを振り返った。
スタースクリームがその視線を追ってサウンドウェーブの背後を見た。
白銀の機体がそこにいた。


「デストロン軍団の航空参謀とはそんな情けない声なのか?」
「……」

スタースクリームは口をぱくぱくと動かした。
声は出なかった。とりあえず泣きそうだったのでこらえた。





*




「……」
「なんだその顔は」
「…す、ません…でし…」
「ほう。悪いと思っているのか?」


メガトロンは笑った。
止まって話を聞く気はないのか足早に歩いていく。
サウンドウェーブも足が速い。自分もついていくには速く歩くしかなかった。


「…その、あの金…どこで」
「なんのことだ?」
「に、200000アストロですよ?どこでそんな金…」
「あれか」
「そりゃ、できたら格好よく『10倍だす』とか言って欲しかったんですけど、200000って普通の額じゃないでしょう?」
「……」
「100000だけでも小さい惑星買える額ですぜ。倍の200000って…」
「…メガトロン様。そろそろ」
「うむ。アストロトレインが来る時間だな」

サウンドウェーブとメガトロンが二言三言会話するとほぼ同時にアストロトレインがやってきた。
目の前で着陸し、ハッチを開くと「どうぞ」と声をかけられる。

アストロトレインの中はいつも通り広く片付いていて見知っているのもあってか凄く落ち着いた。

「しかし、スタースクリームに100000の価値があるとはおもえねぇなぁ」
「なんだ。アストロレイン。俺は200000の価値だぞ」

アストロトレインの声が響いたので返答を返すとメガトロンが口を挟んだ。

「アストロトレイン。スピードをあげろ」
「へい」
「なんですか。メガトロン様、そんなに急がなくても…」
「そろそろばれるからな」

暫く黙ってからは?と声をかけるとサウンドウェーブが見知った機械を弄っていた。

「…サウンドウェーブ何してんだ?」
「仕事だ」
「なんのだよ」
「……」

メガトロンが腕を組んで壁に寄りかかるとため息を吐いた。

「レーザーウェーブがセイバートロン星で使っている幻を作り出す機械だ」
「……へぇ、幻」
「サウンドウェーブとレーザーウェーブに急がせて改良し、重さ質感をだし触れることも出来るようにしたのだ」
「とは言ってもこの機械と離れれば幻も消える。そろそろ幻が消える」
「…じゃ、じゃああの200000って」
「偽者だ」
「200000なんて金あるはずない」


…デストロンって…
アストロトレインの中でスタースクリームはため息を出す気力もなく
とりあえず今はこの阿呆大帝と阿呆参謀と一緒に居たくないので前のほうに進み、操縦席に座った。


「おい、勝手に座るんじゃねぇよスタースクリーム」
「…アストロトレイン…頼む…ちょっとここにいさせてくれ」
「珍しくへこんでるじゃねぇか」
「…デストロンってそんな貧乏だったか?」
「貧乏って言うなよ。200000もってる奴がおかしいんだ」
「お前いい奴だな…」

アストロトレインの操縦席でぐったりと転がる。
アストロトレインは迷惑そうだったが今はちょっと無理だ。
メガトロンに感動した俺が馬鹿だったんだ。


「でもよ、だったら『デストロン軍団全軍アタック!』の方が良かったってんだよ…格好つけて金持ってるみたいな態度できやがって」
「俺もそう言ったけどよ、あの惑星は同じ惑星に住む奴は仲間みたいな意識があるから駄目らしいぞ」
「…逆襲を恐れてるってぇのかよ!デストロンが!破壊大帝が!」
「…大きかねぇがあの惑星に住む生き物全てが歯向かって来たら大戦争だろうが…」
「そんなの言い訳になるか!俺たちは戦争してんだぞ!」

アストロトレインはため息をついた。
スタースクリームは苛立ちを隠せなかった。
金を持ってきたサウンドウェーブとメガトロンが格好よかった分、むかつく。

「一応、デストロンで金かき集めてたぜ?」
「…え?ほんと?」
「あぁ。足りなかったらしいけどよ。うちの軍は金よりエネルゴン好きだからな」
「…ちなみにいくら?」
「かき集めて86000くらいだったはず」
「…」

少っ…いや、少なくはないけどよ…中途半端だな…

「中にはスタースクリームなんてうっぱらっちゃっても良いって言う奴もいたし」
「…お前は?」
「あぁ?俺?」
「あぁ。アストロトレインはいくらだした?」
「…20」
「……素直なお前が素敵だと思うぜ」
「黙れ。お前もううるせぇから寝てろよ」

疲れた。確かに眠い。
言葉に甘えて眠ることにしよう。

「寝る」
「ついたら落とすからな」
「起こせよ」

アストロトレインが何か言い返してきたが操縦席に体重を預けるとブレインサーキットを落とした。




--------------------------------------------------------------------------------------------

素敵なまでにやまなし、おちなし、いみなし。
なんとなくオクで競りにかけられたスタスクを書いてみたかったわけだ。
サンクラでもよかったなぁ…いっそジェットロンで売り出しても良かったなぁ…

アストロって時間や距離単位なんですけどよくわからないので捏造です。セイバートロン星の単位なんて知らんわ!