「まったく…レーザーウェーブめ…また邪魔をしおって…」 「いかが致しましょうか」 「しかし…あやつが使えるというのもまた事実だ…」 「左様で…」 「あやつが言うことを聞くようになれば一番良いのだがな」 存在意義 「レーザーウェーブ」 「あぁ?またガルバトロンの犬コロか」 「……」 「犬コロって言われるのは嫌いか?」 くくっと喉を引きつらして笑う男をいつもの表情で見つめるとつまらなそうに ため息を吐かれた。 「なんだぁ?俺様に用なんだろう?」 「……」 スラッと手にかざしているブレードを音もなく水平に持ち上げて首元に狙いを 定めるように構える。 レーザーウェーブは表情がないので聴覚機能も兼ねているだろう角が 表情や感情を表している。 イライラしてる時などせわしなく動くのだがブレードを構えるとぴくッと 動いた後に「へぇ」と小さい声で囁いた。 「案外犬コロって言われるの嫌なのかよ?表情に出ないからわかんねぇんだよなぁ」 「………」 「で?これは挑戦か?」 切っ先の向くブレードを鷲掴みにされる。 こちらも手に力を入れて切っ先を首元からそらさない。 それほど力を入れていないのだろう。力が拮抗している。 この真正面にいるトランスフォーマーのほうが遥かに力も体格も良いのだ。 力では負ける。 レーザーウェーブもそれがわかっているので余裕なのだ。 ザリっと音がして地面と奴の左腕に鎮座するオプティカルゲイザーがすれた。 一瞬で重いだろう銃器が持ち上がると顔面すれすれまで近づけてきた。 「殺しに来たんじゃないだろ?」 「…なぜそう思う」 「お前は暗殺者だろうが。殺すときは気配を消して背後からひっそりと…だ」 くくっと喉を引きつらせる。この笑い方に嫌悪感が走る。 オプティカルゲイザーと刃を掴んでいた手を下ろして耳もぴこぴこと動かす。 隻眼からそらさず静止しているとあっちもこちらが喋り始めるのを待っているようだ。 「…ガルバトロン様の邪魔をするな」 「あぁ?邪魔ぁ?俺様がいつあの親父の邪魔したよ?」 「……口を慎め…」 ブレードの刃を光らせるように構えなおすとまた引きつって笑う。 耳を時折動かしてひょこひょこさせているがイラついているのではなく愉快なのだろう。 「最近のお前の行動…目に余るものがある」 「それでお前がやってきてどうするってんだ?」 「これ以上ガルバトロン様の手を煩わせるようなことあれば」 「斬るってか?無理だな」 ガルバトロンは俺様が必要なんだぜ? そう言ってのけるこいつの首を今すぐ落としてやりたい。しかしその通りである。 ガルバトロン様は現在、軍の兵力の低さを嘆いている。テラーコンは戦力に入らない。 スノーストームやアイアントレッド、ショックフリートあたりはまだ実力が 伴っているがそれでもまだ足りない。 サイバトロンは多勢に無勢だ。数が違いすぎる。 「俺様はガルバトロンに戦況を任されてる。お前でも命令聞いてもらう」 「……」 「そうだろう?言われてるだろうが…レーザーウェーブの命令を聞け。と」 「……」 「それともお前はガルバトロンの命令を守れないってのかぁ?」 「なんだと…っ!」 「おっ…怒ったな…図星だろ」 「キサマ…」 ぎりっとブレードを握ると手の金属とブレード同士がぎししっと軋んだ。 「じゃあ俺が見てやろうか?」 「なに?」 「お前の忠誠心をみてやるって言ってるんだよ」 ブレードに重ねるようにオプティカルゲイザーを覆いかぶせると 重さに耐え切れず切っ先が下がっていく。 自分達の距離は数歩分だ。その間を勢いよくつめてくる。 「ッ…なに…」 「まぁ、待てよ」 ガツンと音がして機体同士がぶつかり合う。 ブレードを持ち上げようにもオプティカルゲイザーの重さに持ち上がらない。 姿を消すか?そう思ったのを勘付いたかのように右腕でブレードを 持たないほうの手を握られた。 「これで消えても逃げられねぇだろう?」 「……侮るな…」 自分の身体を殺気立たせる。また奴のアンテナがぴこっと動いたが今度は驚きだろう。 「へぇ?」と感嘆の声を漏らしてまた笑い始める。 「じゃあこれくらい大丈夫だろうが、名実ともにガルバトロンの懐刀なんだろ?」 「っ…?」 奴の顔はアイセンサーを中心に四角で縁取られている。 自分や他のトランスフォーマーとはまた違う顔の構造をしているが その側面で頬を撫でられる。 こいつで言う頬擦りみたいなものだろうか。すりっと頬同士が触れると寒気がした。 耳元で小さく名前を呼ばれると背筋がこわばった。 こいつを恐れているわけでもないのに。何故だ。 「俺には口がないからなぁ、キスなんてものはできねぇんだよ。 だからこれは俺にとっての愛情表現なんだぜぇ」 「なにを…」 「まぁ、そう嫌がるなよ…なぁ」 レーザーウェーブの右手はやたら鋭くとがっている。その指先で 首筋をがりがりと引っかかれると身体が震えた。 恐ろしくなんてない。その指先で喉を引き裂かれてもなんとも思わないだろう。 しかし違う。違う意味で背筋に震えが走るのだ。 「お前…反応いいな」 「……?」 「これで悲鳴でも出してくれれば最高だぜ…」 「…悲鳴が聞きたければいつでも聞かせてやる」 床に降ろされたままのブレードの切っ先を地面に擦るとギキッと 耳を裂くような音がした。 レーザーウェーブは笑って「自分の悲鳴に興味はねぇよ」と言った。 「ナイトスクリーム」 「な、んだ」 「もしお前が俺の前で脚を開くならガルバトロンへの邪魔、控えてもいいぜ?」 「…開く?」 「あぁ、ここを」 また鋭い指先が脚を擦る。太ももをザリザリと音を立てて装甲を削る。 膝から足の付け根にかけて上ってくる不快感に身体が引けた。 「…ナイトスクリーム」 低い声が聴覚機能のすぐ横で囁く。ガルバトロンとはまた違う低い声。 しかし自分の耳は聞き取った。遠くから響く、自分の名を呼ぶ声を。 ぱっとレーザーウェーブから顔を反らして視線を声の聞こえたほうに向ける。 「…どうした?」 「ガルバトロン様がお呼びだ。退け」 「チッ…今からがお楽しみだったのによ」 「退け。行かなくては…今すぐ参ります…ガルバトロン様…」 小さく囁いてその場を離れようとする。 すりっと最後に頬同士が擦れ合ったが何も感じなかった。 先ほど感じた振るえが嘘のように何も感じなく、今自分の神経は 全てガルバトロンの声に注がれていた。 「ナイトスクリーム」 「なんだ」 「考えておけよ…」 「…脚を開くとか言う行為か?そんなことで良いのか」 「そんなこと?くくっ…あぁ。いいとも」 「あの方の為なら屈辱にも痛みにも耐えれる。脚を開くなどなんてことはない」 「……お前が俺の言葉の意味をわかってるかどうかのほうが怪しいがな…」 大げさに肩をすくませるようなリアクションをとられたが気にしない。 背を向けてその場から離れるように動く。 「今日、ガルバトロンが眠ったら来いよ」 「お前の部屋にか」 「そうだ。ガルバトロンには言うなよ」 「…ガルバトロン様の邪魔をしないと言うのなら」 「しないさ、しないとも。くくっ…」 「…了解した…ならば向かう」 レーザーウェーブのアンテナが天を仰ぐように上を向く。 くくっと笑う声が口もないのに響かせる。 声は抑えるつもりがないのかどんどん大きくなっていった。 「……」 何が楽しいのかわからないがこいつは狂犬だ。放っておけば良い。 姿を消してガルバトロンのところへ移動する。 離れてもまだ聞こえるレーザーウェーブの声だけが嫌悪感を煽った。 * 「ナイトスクリーム。何をしていた」 「申し訳御座いません…次の作戦時に不備のないように確認を」 「そうか…こちらにこい」 言われるがままに身体を動かす。 すぐ近くまで寄っていくとガルバトロンは椅子に深く腰掛けて背もたれに背を預けた。 膝の上に座れるほどのスペースを設けると ナイトスクリームは躊躇なく自分の主の膝の上に横向きに座った。 ガルバトロンは満足げにナイトスクリームの体重を受けるとインテークを噛んだ。 ナイトクリームもその行為を黙って受けるとガルバトロンの手が キャノピーを撫でるのをみた。 「む…?ナイトスクリーム…リペアは終わっているのか…?」 「…はい。先ほど数分ですが…リペア液を浴びました」 「傷が残っておるぞ」 「っ…?」 ゆっくりと指で撫でられて脚をみると一本だけ鋭く線が入っていた。 そんなところを戦闘で負傷した覚えはなかったがすぐに原因はわかった。 (…レーザーウェーブ…) 「しっかり直しておけ」 「しかし…浅いので問題は」 「…ここもだぞ…」 首筋を一度舐められる。装甲がえぐれているので少しだけ痛みが走ったが 一声もあげなかった。 「今日は良い…傷を全て直しておけ」 「はい…」 口を重ねてふさがれるとガルバトロンの舌がもぐりこんできた。 トランスフォーマーにしては熱を持った舌を絡めてナイトスクリームは息を吐いた。 いつもこの後に訪れる痛みと快感を予想してブレインサーキットが熱を帯びたが ガルバトロンはナイトスクリームを手放した。 「…くく。そんな目で見るな」 「そんな目…とは」 「すぐにでも、触れて欲しいと表情が物語っているぞ?」 「……」 そんな意識はなかったがガルバトロン様が言うのならそうなのかもしれない。 羞恥を感じたわけではないが視線を落とすと額にガルバトロンの唇を感じた。 レーザーウェーブとは違う触れ方にナイトスクリームは 自分の知らない部分で欲情していた。 ---------------------------------------------------------------- 続きはない。なぜなら没だから。