「スタースクリーム」

声をかけるとスタースクリームは振り返った。
その表情はきらきらはしていなかったが微笑んでいた。




Energon
 





「アストロトレイン」
「顔、直ったんだな」

指差すとスタースクリームは怪我をしていた頬を押さえて急にキラキラ顔になった。
その顔を見た瞬間スパークが跳ねた。ばくばくと脈を打つ。
どうして急にその顔出すんだよ…やめやがれ。

「…メ、メガトロンがあの後、よ」
「…お、おう」
「直してくれて」
「そ、か。良かったじゃねぇか」

スタースクリームの顔を凝視する。
この顔はメガトロンの話題になった時、というかメガトロンの事を考えたりすると発動するみたいで
その輝きがどうしても苦手だ。それを改めて認識するようにキラキラが収まると自分の脈動も収まった。
わっかんねぇけど、このキラキラには視認不可能な破壊光線でもでてるんじゃないのか。

「今日仕事は?」
「ねぇぜ。明後日からまた惑星まででるけどよ」
「じゃあ今日だな」
「?」
「飲もうぜ!」

エネルゴン!とスタースクリームが笑う。
阿呆面で笑ってんなぁと思ったが別にスパークが跳ねることはなかった。
それと同時にアストロトレインは安心した。
スパークの脈動を感じた日に思ってしまったのだ。

まさか自分はスタースクリームが好きなのか?

そんなわけはなかったのだ。
今話していても何もないし、あのキラキラ目だけはどうも苦手なようだけどもよ。

「楽しみじゃねぇか。どこで飲む?」
「俺の部屋はちょっと今兵器があるからよ…お前の部屋は?」
「ブリッツがトリプルチェンジャー用の基地に帰ってるから今は広いもんだぜ」

帰ってきたら狭っ苦しくなるけどなと言うと
じゃあお前の部屋行くわ、とスタースクリームが事も名さげに言った。
ブリッツも明日か明後日までこっちに出てくることはねぇから良いだろう。
そういや、スタースクリームと2体っきりで飲むのは初めてだな。
そんな事を考えつつも「あぁ」と頷いた。

デストロン軍の回廊で分かれて自室へ戻る。
普段は使わない机がひっくり返って部屋の隅においやられているのを引き摺って
部屋の真ん中まで持ってくるとしっかりと立たせて埃を払った。

普段使わない自室なだけあって汚い。
まずトリプルチェンジャーはどうも「片付ける」って事をしらないようだ。
周りを見渡してとりあえず寝台はあるし、机もあるし、困らないだろうと口に手を当てて考えていると
スタースクリームが早速きたようでノック音を聞いた。

「開けてくれ」
「はええな」

扉を開くと腕に酒をどっちゃり持ったスタースクリームがいた。
キューブを横に3つ。縦に4つ重ねた状態のスタースクリームに「持って来すぎだろ」と思いつつ
扉を手で支えるとスタースクリームが自分の脇の下を通るようにくぐって中に入った。

「汚くはないけど使ってないって感じだな」
「ま、大抵外で過ごしちまうし、長い休みはトリプルチェンジャーの基地帰るしな」

スタースクリームは机にキューブを置くと近くの椅子を引っ張り寄せてから
コップ代わりのキューブに大きいキューブから中のエネルゴンを注ぐ。
キューブ2つに酒を注ぐとスタースクリームはアストロトレインに一つ手渡してから落ち着いたように
息を吐いて気の抜けた顔を見せた。

「どうしたよ。至れり尽くせりじゃねぇか」
「…まぁ、昨日の、あれはな」
「うん?」
「…お前がああ言ってくれねぇと」

そこでスタースクリームは口ごもった。
あぁ、俺が切りだしてくんねぇと自分からじゃメガトロンのところには行けなかったってか。
頭にぽんと手をやって少し撫でる。

「気にするなんてお前らしくもねぇ。座ろうぜ」
「…」

スタースクリームはからかわれるとでも思ってたのか驚いたようだったが
少し嬉しそうに笑うのが見えた所をみると嬉しかったのだろう。
椅子に腰掛けてからまずはスタースクリームの好きな話題で切り出す。

「メガトロンはあの後どんなんだったんだ?」
「素直じゃなかったけど謝ってきたぜ。最初から殴るんじゃねぇってんだよなぁ」
「お前、メガトロン好きだなぁ」
「はぁ?何言ってんだよ…俺様があんなじじい」
「…じじいねぇ」

スタースクリームの好きな話題を振っていくとスタースクリームは上機嫌に酒を飲んだ。
ジェットロンはどうも酒が好きらしい。デストロンの面々はエネルゴン酒好きが多いが
ジェットロンは酔い方が独特で面白い。
サンダークラッカーはへらへら笑いながらずっと飲んでておっさんくさくなる。
スカイワープは笑い上戸で絡み上戸だ。途中でぷっつり意識切れて寝る。
スタースクリームはどうだったか。忘れたな。前の宴会見てなかったかもしんねぇ。
とりあえずペースは速いのがわかった。

「飲みすぎじゃねぇか?」
「俺明日休みだから」
「お前部屋戻れるんだろうな」

ちらりとスタースクリームが開いてる寝台2つを見た。
アストロトレインもその視線に当然勘付くことがある。こいつ、泊まる気か。

「ブリッツが戻ってきたらどうすんだ」
「戻ってこねぇよ。良いだろ?」
「本気で泊まる気かよ。自室までそう遠くないだろうが」
「ここから1エリア離れてんだぜ。酔ってたら戻れねぇよ」
「抱っこして持ってってやろうか」

冗談めかすとスタースクリームが鼻で笑って「ふざけんな」と言った。
特別笑い上戸でもなければ泣き上戸でもなく、淡々と飲む姿はアストロトレインの機嫌もよくした。

「泊まってくからな」
「好きにしろよ」

エネルゴンを注いでやると「にひひ」とスタースクリームは笑って一気に飲んだ。

「良い飲みっぷりじゃねぇか」
「ん…」

天を仰ぐようにごくごくと飲み、それをアストロトレインは楽しげに見た。
喉が動き、その喉元の鉄を口の端より飲みきれなかったエネルゴンが伝ったのに気付くと
そこへ指這わせて拭ってやった。

「おい、零れて」
「…」
「…スター」

がしゃんっと音を立てて机に頭をぶつけた。
それは自分ではなく、スタースクリームだったがあまりの音と勢いに
アストロトレインは小さな悲鳴を上げた。

「ちょっ…おい、おい?」
「……」
「…スタースクリーム」
「……」

驚いた。スタースクリームは落ちるまでの兆候がない。
普通なら目が虚ろになったりしても良いんだが。

「…もう飲まねぇのか。スタースクリーム」
「…」
「完璧に落ちたな…」

席を立ってスタースクリームの傍まで寄ると背中から抱き起こして姫抱きにした。
スタースクリームが脱力しすぎていて動き大きく抱き起こすことになると
自分の腕でスタースクリームの座っていた椅子を倒してしまった。
それを気にせず跨いでブリッツウィングの寝台に向かう。

姫抱きにして顔を覗き込むとアイセンサーの光は完全に失ってスリープ状態に落ちているのがわかる。
微かに開いた唇からは小さい寝息が聞こえてくる。
少し前の自分ならば抱きあげもせず、椅子で寝かせていただろう。いや、床か?
その前に部屋に招き入れない。いやいや、それ以上前にメガトロンとスタースクリームの仲を
取り持つなんてこともしなかっただろうな。

寝台の脇に立ってゆっくり降ろすとスタースクリームの顔を間近で見る羽目になった。
くったりと脱力するスタースクリームは適当に投げれば鉄製の寝台に頭を打つだろう。
それも構わないが、とりあえず頭に手をやってゆっくりと降ろしてやった。

…やはり自分はこいつが好きじゃないな。
特別何も感じない、抱きたいとも思わないし、前よりも少し仲間意識が強くなっただけか。

ならばあのスパークの脈動はなんなのか。
やはりスタースクリームのキラキラ目から破壊光線がでてるんじゃないだろうか。
スパークを直接攻撃するような。あぶねーなこいつ。

「…」

光が灯らないアイセンサーを指で撫でた。
完全に落ちている状況では何をしても起きないだろう。

「…いっちょキスでもしてみるか?」

最後の確認だ。
したいわけじゃないが、キスして脈動を感じ取ったらこいつを好きな可能性が高い。
もし、口に触れただけだと身体が認識したら。「キス」ではなく、触れただけだと思うのなら
もう白だ。完全にこいつに興味はない。

確かめたい理由はまさに簡単だ。
多分自分は誰かを好きになったことなんてねぇ。
抱いてみたいで抱いたこともあるし、抱いてくれと言われりゃ抱くし。
だから、あの脈動は自分にとって初体験だった。


「…」
「…」
「…スタースクリーム」


スタースクリームの顔の両脇に手を置いて自分は立ったままスタースクリームに覆いかぶさった。
最初1分はスタースクリームの顔を見た。
すうすうと寝息を立てる唇を凝視してそこに触れる想像をする。
ゆっくりと関節を曲げ、身体を沈ませてスタースクリームに顔を近づけていく。
後数センチのところでもう一度身体を止めた。

「…」

何故か、身体が動かない。
もう少しで触れる距離を詰められない。

「…あぁ?」

スタースクリームの唇から目をそらして自分の胸元を見る。
ばくばくと、脈を打ち身体の熱を上げるスパークに気付いてしまった。


「…んだよ。これ」


顔が熱い。身体が思うように動かない。
触れちまえ。とブレインサーキットが小さく呟いた。
小さい音を立てて唇を同じ形をしたものでふさぐ。
しかしいつもならその唇を割って口内を犯してやるのに、できないですぐに離れた。

すぐに身体を起こしてスタースクリームの顔をちらりと見て背を向けた。
自分の寝台まで歩いていくと床に膝をつき寝台に手を乗せてその腕に頭をおく。

「…畜生」

自分の腕に「はぁ」と熱い息を浴びせかけた。
腕に頭を乗せていると視界に映るのは暗闇だけで、無駄な情報を省いたその状況下では
自分に思い起こさせるのはスタースクリームの寝顔とその唇の感触だけだった。

自分にとってキスなんてものは酒やメシに近い。
腹が減ったら食べる。飲む。いつ食べたかなんて覚える必要はないし
その味を次の日まで覚えるつもりもない。
自分にとってキスは挨拶以下の行動で、回数も、最後はいつかも覚えちゃいない。

しかし、今はどうだ。
考えるつもりもないのに唇の感触がよみがえる。
金属にしては柔らかい部分だ。同じ形をしたもので塞ぐとぴったりと合わさって互いの隙間を無くした。
スタースクリームの薄く開いた唇からかかる吐息と興奮気味の自分の息の温度差が違いすぎる。

「惚れてんじゃ、ねぇかよ…!」

自分の口を押さえてその言葉だけ落とした。
惚れるというのがこんな感情なのだと初めて理解できた。
しかもこの後2体きりだけの寝室で一夜を共にするのだ。
相手は酔いが回って起きない。なんというチャンスか。
しかしアストロトレインはわかっていた。ヤりたいときに誰彼構わず襲い掛かる自分と
同じ部屋でもスタースクリームに危険はまったくないだろう。

キスだけでこんななのに襲えるか。

アストロトレインは眠くなるまでずっとそのままの体勢でスタースクリームの唇の感触を何度も思い出した。




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アストロはちょっと大人びてる高校生みたいなもんだと思ってる。
周りからも「体格は良いし、そこそこに頭は切れるし、できる奴」って思われてて
自分でも「俺SUGEEE」って思ってるんだけどどこかしら幼い部分が残ってるような。

時系列は「変身の泉」数日前くらい