ひとつ大きな鉄板の上で。
それをデスクの代わりにしてスタースクリームは仕事をしていた。
部屋まで戻れば勝手の良いデスクがあるのだが部屋まで戻るのも面倒だ。

ここでさっさとネメシス内の状況把握と解析を終わらせてしまった方が次の仕事までの
時間を短縮できるなどと、少しのものぐさを見せたのが一番悪かったのだ。

鉄の板を挟んで対面に座るは大帝メガトロンだ。




licker
 



自分を見張っているのか、と思えばそうではない。
ならば一緒に仕事でも?と思えばやはりそうではない。
いつぞやの豚型ドローンをデスクに乗せてぼんやりと見つめ、小さい小さいエネルゴンの欠片を食べさせているのだ。
何をしているのかと、出来ることならば言ってやりたいものだが、そんなことできる自分でもない。

小さな情報機器と自分を繋いで体内より電子音をさせる。
その音が気になるのかデスクに片腕を乗せているとその腕まで近寄ってきたドローンは
スタースクリームの指を食んだ。

「っ…」

手を勢い良く引いてそのドローンを睨みつける。
食んでいたものが鳴くなって驚いたドローンが「きゅい」っと鳴いて辺りを見回した。
メガトロンがそれに細い左腕を伸ばしてドローンを引き寄せる。
それをチラリと一瞥すると再度仕事に取り掛かった。

「ドローンが嫌いか」
「…」

メガトロンからのまさかの問いに顔をあげると
メガトロンはその細い左腕をドローンの口元に当てて齧らせていた。
嫌悪の瞳でそれを眺めるとメガトロンがこちらを見やった。その表情は無表情に近いが
これは機嫌が悪いわけではなく、純粋に何も思っていないのだろう。

「…嫌いです」
「そうか」
「…そんな単純で、無能なドローンを可愛がる意味がわかりかねます」
「そうか」

メガトロンはそれを聞いて怒るでもなく口調に笑いを持たせるだけだった。
メガトロンの手を齧るドローンは自分の主の手だという理解はあるのだろうか。いや、ないだろう。
最近生まれたばかりのその生命体はオールスパークの力を借りて生まれたものではなく
ただの暇つぶしとして作られた言わばメガトロンの玩具だ。
オールスパークを使っていない分、その無能さが目立つ。普通ならば破壊を主体行動とする生命が生まれるはずなのだが
そんなこともなく、ただ自分よりも大きいメガトロンを不思議な目でみるだけである。

自分はそんな視線を向けられるといらっとする。
腹が立ち、その顔から壊してしまいたくなる衝動に駆られるものだ。
メガトロンはそんな視線を向けられ、自分の手を噛まれてもドローンを見つめるだけだ。理解できない。

「案外慣れると可愛げがあるぞ」
「…」

信じられないと視線を返すとメガトロンと目が合った。
メガトロンは口元に笑みを作って「そんな顔をするな」と言った。
自分の顔に手を当てる。どんな顔をしただろうか。

「…無能は、愚かなことですよ」
「そうは思わんな」
「…」
「わかっていながら愚かな者の方が、嫌悪に値する」

そういってこちらを見てくる。
自分もそれに視線を返すと互いの視線は混ざり合って一瞬でもドローンの存在を忘れさせた。

「逆らうことも知らず、自分の立場もわからないこやつ等はまだ、可愛い」
「…それは」

誰に向けて言っているのだ。

目を細めてメガトロンを見た。
くくっと喉を震わせて笑った大帝はドローンを一度手から引き離すと
今まで噛ませていた細い左腕をこちらに向けてきた。
攻撃か。と身体が一瞬弛緩して応戦しようとしたがメガトロンの赤い目に威圧されて指一本動かすことが出来ない。

顎に鋭い切っ先があたる。
がりがりと引っかかれ頭と胴体の隙間に指が入ってくると引き裂かれると思ったが
そのままがりがりと引っ掻くだけでそれ以上の握力は加えられない。
首を仰け反らせてその指の動きを遮ることなく好きに動かさせた。

「っ…」
「…」

装甲が傷つかない程度の力はくすぐったくもないが痛くもない、気持ちが良いものだった。

「んっ」
「…知っているか。地球の鳥と言う生き物はこうされると気持ちが良いらしい」
「っ…」

微かに逃れるように身を捩らせると顎に触れていた手は退いた。
しかし右腕の握ることが可能なアームが向かってくると頭を鷲掴みにされたが
それもやはり力が込められる事もなくぐりぐりと撫で付けるだけだった。

「あ、の」
「…」

目を細めて身を捩る。
手は撫でることをやめると口へ突きつけられた。

「…閣下?」
「舐めろ」
「…」
「できるだろう?」

薄く、口を開きその指を一本口にくわえた。
メガトロンを見るとにやにやと笑い、指が口の奥へと進んでいく。
オイルだらけの舌でその指を包んで租借する。
軽く噛みながら音を立てて舐めた。

笑うメガトロンと、その指を食む自分はまさに先ほどのドローンに似ている。
右手をスタースクリームに。左手をドローンに舐めさせながら大帝は笑った。







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初代のほうでも似たようなの書いたけど
実写すたすく=ラプター=猛禽類=フクロウ・鷹=喉元ごろごろ
この数式が頭から離れないわけですね。わかります。