virus メガトロンの命令でとにかくエネルゴンを探していた。 エネルゴンなんてそんな見つかるわけもないのだが とりあえずメガトロンの怒りを買わない程度には集められたと思う。 ネメシス内を闊歩してドローン達にエネルゴンを運ばせる。 仲間が少ないどころか内部反乱すら起こりそうな現在ではエネルゴン探しも 自分ひとりのほうがはかどるものだ。 今思えばバリケードがいてくれたらと思う。 メガトロン捜索の際には自分が大帝になる一番の障害でありながら 自分の意を汲む良い部下でもあった。 そういえばバリケードはどうしたのか。生きているのか死んでいるのかもわからん。 フレンジーの死は最後にあいつの苦痛の電波を拾ったからわかっていたが。 メガトロンへエネルゴン調査の詳細を伝えるとそのエネルゴンを卵へ与えるよう新たな任を受けた。 この大帝は焦っているのだ。それをひた隠しにしているが自分は気づいている。 優秀な部下達を失い、自分の身体も破損し、オールスパークも失われた今、この方は焦っているのだ。 破壊大帝でありながらもこの方は「トランスフォーマーの未来」なんてものを考えている。 オールスパークがなくなった今、エネルゴンは望みどおりに湧き出てこない。 言ってしまえば食料難でもあり、仲間を増やすこともできない。 デストロンを導くメガトロンの師も死んだ。この方にとってそれは絶望を意味するだろう。 「卵を、早く成長させるのだ」 「…はっ、閣下。御心のままに」 メガトロンは自分を見ることなく新たな命令を授けるとそのまま大帝の席へついて黙った。 口を開きかけてやめる。今進言すればきっと殴られる。 その部屋をでてドローンを集めた。 「先ほどのエネルゴンを全て卵の間へ移動させろ」 きゅいっと機械の声で鳴くと様々な形をしたドローンたちはそれを実行しに動いた。 最後の一匹が視界から失せるのを確認してから自分も歩みを進める。 ふと足元がゆれた。惑星の地動か?と疑問を浮かべたがそうではない。 自分の足元がおぼつかないのだ。 「…馬鹿馬鹿しい」 見ないフリをして卵の間へ向かった。 * ドローンが積み上げたエネルゴンの一つに手を伸ばしてそれをスポイト状の機器に流し込むと 卵の一つに手を伸ばした。 「…生きているか…?」 声をかけても当然返答などないのだが半透明な卵の中で 人間で言う羊水の代わりにあたる液体をこぽりと鳴らしたトランスフォーマーは もそもそと動いて生きていることを知らせた。 らしくもなくそれを見てふっと笑いを含ませるような息が漏れた。 自分も、案じているのだろうか。 オールスパークがこの手にあったら、きっと卵の世話などしていない。 大帝の師より授かったこの仲間を生産する方法はあまりに古めかしく、そして時間と体力を 浪費するものだった。はやく、成長しないだろうか。 「…早くでてこい…」 卵を一撫でしてそのスポイトを卵の斜め下より挿し込んだ。 中にエネルゴンを注入するとそれはすぐに液体に混じり、中にいる未来の仲間に栄養を与え始める。 「…」 きっと生まれたら自分が世話したことなど忘れるのだろうな。と自傷気味に笑う。 この苦労を覚えていろと言いたい。そしてできる事なら自分の手足のように動いて欲しい。 構っていた卵より視線をずらして次なる卵に視線を向ける。 しかしぐっと喉を突くような痛みが発生してそれは途中で断念された。 「…?っぐ…」 急激な吐き気に頭痛。片膝をついてそれが去るのを待った。 また揺れを感じるが今度は自分だとすぐに判断がついた。脚ががくがくと震えて眩暈がする。 「…?」 視線を上げるとそこにサウンドウェーブがいた。まったくもって神出鬼没だ。 立ち上がろうとしたが震える脚がそれを許さない。 少しでも威圧を持たせたくて低い声で囁いた。 「今は構ってられんぞ」 「…」 「…サウンドウェーブ。今は」 ぐっと何かがせり上がってきて口の中を汚した。 それを飲み込んでしまおうとしたが喉が拒否して吐き出してしまった。 自分の吐瀉物をみたが流石に最近何も摂取してないだけあって エネルゴン交じりがないただのオイルだった。 「スタースクリーム」 「…」 なんだと口を開き変えてまた吐き気がした。 再度嘔吐しかけて堪えるとそろりと視界の端にサウンドウェーブのケーブルが見えた。 「…やめろ…今は…」 そのケーブルが触れる前に自分は意識を失った。 * ぴたり。 顎に何かが触れた。 ぴたりぴたり。 それは何度も触れてきた。 冷たいそれは顎より熱を奪っていくと今度は額に触れた。 「…っ…」 アイセンサーに光がともるとその「何か」が何なのかわかった。 サウンドウェーブのケーブルだ。アイセンサーに光がともったのにケーブルが気付いたのか しゅるしゅると持ち主の元へ帰っていく。 それを見送ると背を向けたサウンドウェーブがそこにいた。 放射状に開く翼の下へとケーブルが潜り込むとケーブルの持ち主は振り返った。 「起きたか」 「…」 声がでない。目を潜めるとサウンドウェーブが歩み寄ってきた。 拒みたかったが身体が重い。 「…な…にを、した」 「俺はしてない。先のエネルゴン集めに向かった惑星で何かに触れたか?」 「…覚えていない」 「ウイルスに感染している」 「な…」 「それも3種。2種は既知のウイルスだが1種は新種。しかしこれも危険性は中」 「…」 「全て処理した。体力の回復を待て」 「…」 そういわれたが無理やり身体を起こす。 ここは、サウンドウェーブに与えられている部屋か? 台座の上より足を下ろすとサウンドウェーブの脇を通った。 「…礼は言っておこう。サウンドウェーブ。優秀な男だな」 「…」 まだ頭はぼやけるが冷静さは保たれていた。 そうだ、自分の障壁となる仲間は毎回退けるのではなく、時には煽てておくのが良い。 バリケードにもよくやったものだ。お世辞というのは安上がりで敵を退ける一番の武器だ。 サウンドウェーブは驚いているのか、それとも止める気などないのか自分を黙って見送った。 自分にはメガトロンより卵に栄養を与える仕事を預かっているのだ。 自分以外にやらせれば良いのだがこのディセプティコンにそんな器用な奴がいるだろうか。 それに自分が一番卵の扱いに長けている。フォールンより直に教わったのは自分だけだからだ。 卵の間へつくとエネルゴンは放置したままだった。 エネルゴンを一つ鷲掴むと確認したが誰かに食いつままれた形跡もない。 身体がだるいので一つ取り入れてしまおうかと掴んだそれを眺めるが卵の数とエネルゴンの数は同じだ。 自分が一つでも取り入れてしまったら栄養がいきわたらない。 「…?」 先ほどエネルゴンを注入した卵を見る。 指先でその表面を叩いてみた。 「…おい」 呼びかけに答えないのは知っているが先ほどのように くるくると液体の中で揺れ動いてこぽこぽと音を立ててくれればそれで十分だった。 「…おい?」 動かない。ぴくりとも動かないそれをみて スタースクリームは叩いていた指に鋭い爪を立てた。 叩くのではなくその卵の表面を刺すと風船のように一度へこみ、更に力を込めると 裂けたその隙間より液体をぶちまけた。 汚れた指先を気にせず進ませると中にいるまだ幼いトランスフォーマーに触れた。 引きずり出さずともわかっていたそれを卵より出すと粘ついた液体を滴らせた。 「…死んだ」 死んでしまった。 同時に理解する。 自分のせいだ。 「…」 幼いながらに小さいレセプタクルがあるその首筋に細いコネクタを通すと ウイルスが発見された。コネクタを通して自分にも入り込もうとしたウイルスは サウンドウェーブが自分の身体の中に用意したファイアーウォールに阻まれてこちらには流れてこない。 どこでだ。 エネルゴンを与える時に、移してしまったのだろう。 しかしどこでだ?どの段階で。 「スタースクリーム」 「っ」 「何をしている」 「…メガトロン様…」 苛立ちよりも疲弊を前面に出した声に振り返る。 大帝はうかがうようにこちらを見て手にある物体を見た。 「…それは死んでいるのか」 「…はい」 「かせ」 「いいえ」 「…」 手を差し伸べてきた大帝にきっぱりと断ると顔をしかめられた。 「ウイルスに感染しております。触るのは危険かと」 「…ウイルス?」 「…私がエネルギーを確保する為に向かった惑星で、感染しました」 「お前がか」 「…はい」 「…」 「…も、申し訳御座いません」 メガトロンの目が微かに血走ったのを見て謝る。 顔を伏せると手に持っていた生き物より物体になったそれを奪い取られた。 「あっ」 「どんなウイルスだ」 「さ、サウンドウェーブが言うには3種。2種は既に確認済みのウイルスでしたが1種は危険度中の未知ウイルスで」 「既に治療は受けたのか」 「…はい。倒れていたところを、サウンドウェーブに…」 「そうか」 手にしたそれを眺めた後床に捨てるとメガトロンはこちらを見た。 お叱りを受ける。大切な卵を一つ、台無しにした。 「閣下…申し訳御座いません。申し訳…」 「何故謝る」 「…少ない同胞を…」 メガトロンが手を伸ばしてきてぎくりと身体が震える。 しかしその手が首ではなく額に伸びると額から頭部にかけて撫でつけられる。 「…貴様も同胞だ。忘れるな」 「…め、ガトロンさま?」 床に詰まれるエネルゴンを一つ掴むとそれを渡してきた。 受け取って首を傾げる。 「飲め」 「…しかし」 「体力不足だからウイルスに感染するのだ」 「…」 「それを摂取したら寝室よりたち歩くことを禁じる。良いな」 「…しかし仕事は」 「次にしろ」 「卵は」 「他のものにやらせる」 「しかし」 「スタースクリーム」 メガトロンの顔を見た。その顔は恐ろしく、破壊大帝らしい顔つきであった。 「足をもがれたいのか?なら望みどおりにしてやるが」 「…いいえ、いいえ閣下。貴方のご命令に従います」 「それで良い」 メガトロンは幼いトランスフォーマーの死体をまたぐとそのまま外へと続くハッチへ移動した。 スタースクリームは黙ってメガトロンの言葉を意味、そして表情を何度も脳内で再生させる。 「…」 スタースクリームはその死体とエネルゴンを黙って両手へ持つと自室へ向かった。 ------------------------------------------------------ 映画でも小説でもメガトロンの仲間に対する扱いは結構良いよなぁ。 どうしてあぁもスタースクリームだけに当たるのか不思議。しかし愛なら仕方ない。 にしても卵はやはり生ませたのだろうか。はぁはぁ(´Д`///)