スカイファイアーとは、あの日以来キスをしていない。 「…おはよう」 「…よす」 いつも、スカイファイアーのほうが早くつく。 座標を調べて基地を出て、スカイファイアーのところまで行って。 いつも若干遅刻する自分を待ちかねてスカイファイアーは大きい機体を地面につけて待っている。 座る機体は自分よりも頭一つ分は低く、微かに見上げてスカイファイアーは微笑む。 その頬が以前より赤みを帯びていることも知ってる。 自分が到着するのを緊張して待つ白い機体。 「はい」 「…」 スカイファイアーの手がこちらに伸びてくる。 掴まれる訳でもなく、手のひらを見せるように差し出された手に 自分の青い指先を置くと黒い手は自分の指を軽く握って優しげに引っ張った。 懸命にリードしようとするこの男が、好きかもしれない。 経験値3 指先を握られたまま、スカイファイアーの隣に座る。 無理をして「君を抱く」なんて言ってのけたスカイファイアーは 次の日から変に緊張した目で自分を見る。 あんだけ抱け抱け言ってたくせに、一度「抱くよ」と言われてみれば 自分の欲はすっかり大人しくなっていた。 自分の手をにぎにぎと落ち着かない様子で揉み、時折こちらを見るスカイファイアーに 視線を送るとスカイファイアーは驚いたように身体を強張らせた。 「急かしたりしねぇから、無駄に緊張すんなよ」 「…うん。ごめん」 ぎゅうっと強く指先を握られる。 少しだけ引き寄せられて、顔の距離が近くなった。 触れるかと思ってもその顔の距離は後、指一本分の距離を保って止まってしまうのだ。 指先を放して両肩に手を置かれる。 スカイファイアーの顔が紅潮して真剣そうな表情を保ったまま動かない。 自分は急かさず、煽らず黙ってその顔を見てた。 「無理すんな」 「してない」 「してる」 その言葉で更に顔の距離は縮まったがそれでも唇は重ならない。 スカイファイアーが歯を噛み締めて懸命に触れようとしてくるのをスタースクリームは 茶化すことなく黙って見て待った。 ぎしっと両手に置かれた手が強みを増して肩を軋ませたのにこの男は気付いていないようだ。 スタースクリームはその痛みも耐えた。 スカイファイアーはなんともできる男だった。 デストロンの情報参謀もできる男だとよく言われるがそれとはまた違う意味で、できた男だった。 仕事もできて、誰にでも優しく、笑みの耐えない男だった。 困ったことがあっても何とかしてしまう奴でもあって、そんなときは少しだけ困ったように笑うだけだ。 そのスカイファイアーがこんなにも困っている。笑わず、真剣な顔で自分と向き合っていた。 「…」 青い、自分の指をスカイファイアーの白い口にかざした。 びくりと怯えたように一度震えたスカイファイアーを少し押し返して距離を開く。 「また今度な」 「……っはー…」 大きく吸った息を吐いてスカイファイアーが脱力する。 まるで水中より上がったように肩で息をしてスカイファイアーはこちらを見た。 「…ごめん」 「何謝ってんだよ。馬鹿」 上下に動く肩をばしっと叩いてスカイファイアーの後ろに回った。 そこで座り込むと頭の後ろに腕を回してスカイファイアーに寄りかかって足を草むらに投げ出した。 「誰も急かしてねぇだろ」 「…うん」 全体重をスカイファイアーに明け渡しても微動だにしない大きな身体が 申し訳なさそうに丸くなっていた。 自分にしては恐れ入るほどに心の許容範囲が広がっていた。 普段なら、いや以前なら怒鳴っていただろう。 この間はできたんだからちょっと口くっつけるぐらいなんだってんだ。と。 『君を抱く』 その言葉だけで、満たされてんだから安いもんだな俺も。 「…うーん」 「んー?」 「じゃあ、膝の上くる?」 「なんで?」 「折角、だし」 「…折角の意味がわかんねーよ」 今日は良い天気だな。いや、だから天気の良い場所選んでるんだけどよ。 この間は雨が降りそうな場所だった。スカイファイアーにそれを尋ねたら 焦って天候を調べていなかったそうだ。何焦ってんだこいつは。 空を見上げながら流れる雲を目で追ってみる。 「…おいでよ」 「…いやに誘うじゃねぇか。仕方がねぇな」 振り向くとスカイファイアーの黒い手がこちらに向かってきていた。 あっと思った瞬間に腰を掴まれて引っ張り寄せられる。 「ちょ、ちょっと」 「うん?」 招かれた膝の上に呼び込まれて腰をそこへ落とすと スタースクリームを拘束するように抱え込み抱きしめた。 こういうことは出来るんだなと思いつつ無言になる。 正面から抱きしめられ、腰はスカイファイアーの膝の上。自分の膝は左右に投げだしたまま。 強く抱きしめられるのでスカイファイアーの顔は自分の側頭部に埋もれてて見えない。 見るものもなく、もう一度空をみて先ほど目で追っていた雲はどれか探して見る。 「抱きしめるのはできるんだよね」 「…正直接続の方がこれより密着率低いからな」 「え?そうなの?」 「だってくっ付くのはあそこだけだしな」 「…はしたないなぁ」 「またお前そういうこと…」 スカイファイアーの背中にある羽を掴んで引き剥がすと その説教を始めた顔を見た。 「っ…」 「…なんだい?」 想像してたのは困ったような顔だ。少し怒りながら困りながらの表情で 自分に「そんなはしたない発言はしてはいけない」と物申すかと思いきや その表情は口元に微かな笑みを浮かべつつ、その目は真剣だった。 なんだその顔。格好いいじゃねぇか。腹立つな。 むっと唇を尖らせてその表情より逃げるように顔をそらした。 スカイファイアーが微かに笑い声をあげる。あぁ、畜生、ムカツク。 「…スタースクリーム」 「なんだよ。もう放せよ」 呼ばれて微かに視線を向けるとスカイファイアーの顔が近かった。 あ。と思った。 「…」 「…ス、カイファイアー…」 「…やっぱ口は難しいなぁ。ごめんね」 スカイファイアーの唇が触れたのは鼻筋だった。 一度だけ触れて、離れて行く。 視界に捕らえやすい距離まで離れるとスカイファイアーは顔を赤らめて笑っていた。 「あはは。難しい」 「…あ、ははって…」 こちらまでつられて赤くなる。 鼻を手で押さえて今触れられた熱を記憶する。 「…お前が馬鹿みてぇに緊張しやがるから」 「ん?」 「…俺まで緊張したじゃねぇか」 両手の平を自分で見つめる。 スカイファイアーは何かあった?とその手を見つめてきた。 微かに、震える手を見て自分をあざ笑った。 なんだこれ。俺はどんだけ純情なんだよ。てめぇのが移ったよ。 「あはは、見てくれ。スタースクリーム」 「?」 「ほら」 スカイファイアーが手のひらを差し出してくる。 「あ。」 「震えてる。一緒だね」 「…ばっかみてぇ」 「うん。そうだね」 お互いの顔を見合わせて微笑んだ。 --------------------------------------------------------------- えろ祭、経験地の続き。まだまだ執筆中。 全然エロじゃないところだけ抜き出しました。