初対面は素晴らしいものではなかった。 「スタースクリーム。アストロトレインだ」 「…へぇ?トリプルチェンジャーか」 「アストロトレイン。こんなんだが我が軍のNo2のスタースクリームだ」 「…そうかい」 アストロトレインはスタースクリームを見て「弱そうだ」と判断した。 SkyGod 「スタースクリームは航空参謀でもある。何かあったらこいつに言え」 「よろしくな。アストロトレイン。スタースクリーム様だぜ」 赤い機体、青い手、随分とカラフルなやつだ。 しかも馬鹿っぽい顔、小柄な身体、なんでこんなんがデストロンのNo.2なんだ?と 内心首をかしげたが、それは解けない謎だった。 自分は灰色と紫を基調としたデストロンらしい体つきだと思う。 身体も大きく、実力もある。 デストロンの大帝にだってなれる器だ。 そんなことを毎日のように考えていた。 運も実力のうちとは言ったものだ。 デストロンに入って数日である仕事を任された。 惑星調査をしていたサイバトロンのアダムスが何か高エネルギー反応に対する 情報を手にいれたという話だった。 捕まえて情報を入手する為に組まれたチーム編成が自分だった。 「アダムスを追え!スタースクリーム!」 「俺一人でぇ?部下を下さいよ!飛べるやつ!」 「…スラスト、アストロトレイン。手伝ってやれ」 名を呼ばれてスタースクリームを見ると悪い笑みを浮かべたスタースクリームが 「よろしくな」と笑った。 「…あぁ、よろしくなぁ。スタースクリーム」 お目付け役のメガトロンとサウンドウェーブがいねぇんなら話が早い。 大帝になる前にまずはスタースクリームを自分の支配下においてみせる。 含みを持たせて笑いかけると馬鹿スタースクリームはにっと笑い返してくるだけだった。 「乗れ。スタースクリーム。スラスト」 「おぉ!スペースシャトル!」 「便利なもんだぜ。トリプルチェンジャーってのは」 2体が体内に入り込んだのを確認してから地球をでた。 スピードをあげるとすぐにアダムスは見つかった。 スラストが喜んだ声をあげる。スタースクリームが「撃て!」と命令してくる。 命令なんてなくても撃つ気だった砲撃を繰り返すとアダムスはすぐに墜落した。 「…あの惑星に落ちたな」 「追え!アストロトレイン!」 あの惑星だ。あの惑星に着いたら俺が大帝になる為の第一歩が始まる… * 「俺のほうが先輩だぞ!」 そんなことを言うスタースクリームを見た。 続けて口を開くと「俺が一番偉い」だなんて言い始める。 メガトロンはこない。サウンドウェーブもこない。お前の味方はいない。 右手をすばやく首に持っていってそのまま強く掴むとスタースクリームは呻き声をあげた。 青い指先が自分の手首にかかって押し返そうとしてくるがこんなやつ片手で十分だ。 そのまま締め上げて抵抗できなくするとスタースクリームは微かに暴れることしかできなくなった。 「黙れ、スタースクリーム」 自分の赤いアイセンサーをスタースクリームへ向けるとスタースクリームは見つめ返してきた。 その目に怯えが走ったのを自分は見逃さない。一度鼻で笑ってからその惑星を見渡した。 「強い奴が勝ちなんだ」 この惑星で一番強いのは俺だ。 まずはこの惑星を俺のものにする。そして俺の軍団をつくる。 その際にはこの馬鹿な参謀をNo.2にしてやっても良いとアストロトレインは内心笑った。 そしたら地球へ戻ってメガトロンを破壊するのだ。その時デストロンの全権は自分のものになる。 トレインへトランスフォームするとスタースクリーム達に威圧的に「乗れ」といってやった。 すでにスタースクリームの首を絞めた時点で怯えたスラストも、No.2のスタースクリームも 怯えている様子だったのをアストロトレインは見て優越感を覚えた。 その後すぐにこの惑星を制圧した。 トランスフォーマーを神だと崇める人間どもは容易く自分の足元へひれ伏した。 そうだ、それで良い。 全員自分の前にひれ伏せば良い。 * 「なんで俺達がこんなことしなきゃなんねんだ…」 スタースクリームの言葉はしっかりと自分へ届いた。 スラストがアストロトレインに痛めつけられるから…だとか何とか言ってるのを聞いたが それはいい。構わない。本当のことだからな。 ただし、スタースクリームの目から怯えは消えていた。 またデストロンのNo.2の目をしてこちらを見てくる。 まるで偉いのは自分だとでも言うように。 階段を登りその顔を間近でみるとやはりスラストとは違う、真っ赤な目をしていた。 気に食わないな。 その場では怒りを抑えてアダムスへと向かう。 捕まえたアダムスは意識はなく、簡単に情報は入手できた。 その後まだアダムスの意識が戻り、戦闘にはいったが既に弱っていたアダムスなど敵ではなかった。 「スタースクリーム」 「あぁ?なんだよ」 「このデータを解析しろ」 「ちっ…なんで俺が」 スラストに人間とアダムスの見張りを任せて神殿の奥へと向かう。 目的は神殿ではない、スタースクリームと2体きりで話がしたかったのだ。 首を掴んで壁に押し付けるとスタースクリームは先ほど同様両手で首を絞める手に触れてきた 「あっ、な、なにすっ」 「…お前は俺とお前…どちらの方が強いかわかっていないようだな」 「なっ、お、俺はNo.2で」 「馬鹿め…そんな飾りの肩書きなんの役にも立たん」 壁に身体ごと押し付けて首をしめるとスタースクリームが段々と弱っていくのがわかる。 目を細めて呼吸できずに懸命に息を吸うスタースクリームの顔を睨みつける。 「はっ…はっう…ま、て…」 「苦しいか?」 「っん…ん!」 顔を縦に振るスタースクリームを床に捨てるとスタースクリームは大きく咽た。 情報を解析しろともう一度言って上より睨みつける。こんな弱い奴がNo.2だなんて笑わせる。 スタースクリームはよろめきながらもアダムスの情報が保存されている機器に接続して 暗号化されたそれを解析し始めた。サウンドウェーブがいたら解析も早くすむだろうにと その場を去ろうとするとスタースクリームが声をかけてきた。 「おい、どこいくんだアストロトレイン」 「解析が終わるまで外にいる。終わったらこい」 「もう終わった」 「なに?」 「もう終わった。こんな楽な暗号、すぐに解析できる」 スタースクリームはよろりと動き、壁に寄りかかるようにして こちらに向き直ると解析結果を口に出して言った。 「この惑星の、ここからそんなに離れていない場所。北東に数キロの地点に高エネルギー反応だ」 「エネルギー…」 「あぁ、ただ、何エネルギーかまではわからねぇな…案外この惑星の住人に聞いた方が速いかもなぁ」 「…わかった。ついてこい」 未だに立ち上がらないスタースクリームの腕を掴んで立たせると 軽いスタースクリームは片腕で持ち上げることができた。 「ぃっ…」 「痛がるな」 「…っ乱暴な野郎だな…」 「それがデストロンだ。何が悪い?」 「…」 スタースクリームが顔をしかめた。 これでわかっただろう。俺とお前の力の差を。 スタースクリームがまさかこんなにも情報分析のできる男だとは思っていなかったが それだけじゃNo.2たる所以にはならない。 しかしこの後すぐにスタースクリームが案外つかえる男だとわかる。 「うはー、うめぇぜスタースクリーム」 「だろう。俺様が作ってるんだからな」 「…何してるお前ら…」 エネルギーの正体はクリスタルだった。 触れることはできるが大きな衝撃と熱には弱いそれは加工しづらいもので デストロンへ持ち帰って機材がないと自分たちでは扱えないのもわかった。 しかしスタースクリームは難なくそれを摂取できる媒体に変えて見せた。 「…熱しているのに何故爆発しない…」 「クリスタルをちょいと弄ってるんだ。熱もクリスタルにあわせて温度を調節してる」 「…飲めるのか?」 「あぁ。当然だろ?」 クリスタルが薄い水色の輝きを残したまま液状化され、現にスラストはごくごくと飲み干している。 エネルギーが足りなくなってきていた。ありがたい話だ。 「寄越せ」 「んな言い方しなくても全員分ある。お前せっかちな野郎だな」 「うるさいぞスタースクリーム。スラスト。飲んだんなら早く見張りにつけ」 「わ、わかったよ…!」 キューブにそそいだエネルギーを口に運ぶとそれは確かに上手かった。 スタースクリームを見ると少し睨まれているが「美味いだろ」と聞いてくる 「こんな高エネルギークリスタルが元だ。美味いのは当たり前だろう」 「味は溶かしただけじゃ無味無臭だ。俺が調節してるんだよ」 「くだらない事をする前にさっさと仕事をしろスタースクリーム」 「…はいはい」 スタースクリームが呆れたように背中を向けてスラストを追う。 アストロトレインはそれを見送りつつもう一杯そのエネルギーをキューブに注いだ。 * 3日天下とは誰が言ったのか。 「オメガスプリームだ!」 「逃げろ!」 早くも自分の計画は破綻し始めていた。 思えばアダムスがサイバトロンに緊急信号を送った時からかもしれない。 まさかオメガスプリームがくるとは予想できなかった。 オメガスプリームの巨大な身体とその大きい砲身から砲撃が発せられると アストロトレインは足元を崩され下がった。 やばい。ここは撤退だ。いや、もうそれどころではない。逃げられるかどうかも怪しい。 こんな惑星で木っ端微塵はいやだ。 無意識に辺りを見回した。 いない。あいつらが、スタースクリームがいない。 「スタースクリーム!スラスト!?」 きょろきょろと見回したがいるのは目前のオメガスプリームと サイバトロン副官。そしてパーセプターとかいう顕微鏡だ。 デストロンのインシグニアが一つも見つからず、アストロトレインは数歩下がって逃げた。 「スタースクリーム…!どこいっちまったんだ…!?」 逃げ惑いながらあの姿を探した。 あぁ、置いていかれた。俺一人こんな惑星に。 自分ながら愚かだ。 そんな狼狽していては足元にも意識はいかない。 ぽっかりと開いた穴に足を滑らせるとそのまま落下した。 悲鳴をあげながら落ちる際にバチッと高圧エネルギーの音を聞いた。 見えた岩場に手をかけると自分のすぐ真下は放電するエネルギーの海で 落ちたらまず間違いなく死を意味していた。 手をかけた岩場に上って見るとそこは神殿とクリスタルの洞窟を繋ぐ穴だったようで 見知ったクリスタルが目の前で輝いた。 しかし喜んで入られない。 置いて行かれたのだ。 「アストロトレイン様…!」 愚かな人間が駆け寄ってくる。 耳には入ってこない、何かを話しているがそれよりも置いて行かれたという事実が自分を震わせた。 両手のひらを握り締めて震える。あいつらに、スタースクリームに置いて行かれた。 ジェット音が洞窟に響いた。 ぱっと顔を上げると自分の落ちた穴とは別方向の洞窟の入り口より スタースクリームとスラストが入ってきた。 だらしない自分の姿を見せたくなくて立ち上がるとスタースクリームの心配そうな顔が見えて固まった。 「無事だったか…」 は? こいつは、俺の心配をしてるのか? 首を絞めて、床に捨てて、こき使った自分を心配してわざわざ戻ってきたのか。この愚か者は。 「オメガスプリーム相手じゃ勝ち目はないぜ!」 スラストが続けて言う。 そうだ、今は逃げるが勝ちだ。 「だったら逃げるしかないな…!」 そういって銃器を構える。 このクリスタルをサイバトロンに渡すわけには行かない。破壊していく。 スタースクリームに同意を求めるようにちらりと視線をやると頷いて返してきた。 自信を持ってその銃器をクリスタルへと発砲した。 クリスタルが一つ爆発すると隣に熱が移り続けて爆発し始めた。 すぐにトランスフォームすると2体に向かって言った。 「速く乗れ!」 「サンキュ!」 「あんがとよ!」 2体が乗り込む。礼を言う余裕があるのかこいつらは。 案外図太い2体だとアストロトレインは思いつつも戻ってきたこいつらを 置いて行く訳にも行かず、しっかりと乗り込んだのを確認して惑星を飛び出した。 「…惑星が爆発してるな」 「早く地球へ戻ろうぜ!」 「わかってる。無駄足だったな」 スタースクリームとスラストが力尽きたように自分の中で座った。 はぁっとため息をつく2体に声をかける。 「…寝てて良いぞ」 「え?」 「はぁ?」 「…寝てて良いって言ってんだ!うるせぇんだよ起きてると!」 「…」 2体は顔を見合わせて笑った。 「じゃ、眠らせていただきますかね」 「ありがとよアストロトレイン」 「…うるせぇな」 2体が横になるとアストロトレインは内部を荒らさないように安全に運転しつつもスピードをあげた。 -------------------------------------------------------------------- ツンデレアストロ。 この後トリプルチェンジャーの反乱に続く。 まだスタースクリームをあまり意識してないアストロ。 反乱編もいつか書きたい。反乱の次はアルファートリンを探せに続く。 アルファートリンのあたりではもうアストロ、スタスクに惚れてるな。(!?)