レーザーウェーブという男はよくわからない。
少なくともナイトスクリームは理解できないでいた。

ナイトスクリームはデストロンにしては華奢な腕をつかまれ
レーザーウェーブに引きずられるままに玉座にやってきた。
「ほらついたぜ」と視線を向けられるとようやく落ち着いてその腕を
振り払うことができた。

「つれてきてやったぜ?」
「お前に引き摺られずとも私は自分の足でここに向かう予定だった」
「はっ。知ってるよ。だからつれて来たんだろ?」

レーザーウェーブは単眼を明滅させて笑った。
乾いた笑い声が自分に耳につく。何故、この男は自分を構うのか。
ナイトスクリームは無表情に見つめ、その顔をすっとそらすと
何事もなかったかのように玉座に入ろうした。しかしそれは適わなかった。
腕を掴まれた。

「…なんだ」
「お前はここにいろよ」
「なに?」

玉座の中にはガルバトロン様がいる。
私の主、破壊大帝、至高の存在。
頼まれた仕事上、少しばかり離れていたが仕事が終われば自分はまたガルバト
ロン様の脇でそっと姿を消して静かに、邪魔をせず、常にあの方を守る剣で
あればいい。
ガルバトロン様もすぐ戻れと。言ったのだ。何故ここまで来て入室しない。

「俺が、あいつの、相手をしてくる」

一言一言切って強調する男を怪訝に見つめるとまた笑った。

「今頃あの男は暇して死にそうになってるぜ」
「何が言いたい」
「お前がいねぇとあいつは退屈でいつも死にそうだ。だから俺が遊んで
 くるっつってんだ」
「…」
「見てろよ。面白いもんみせてやる」
「何を」

「ガルバトロンはお前を求めてるフリしてるだけだって見せ付けてやるよ」

掴まれた腕を振り払う。何が言いたいんだこの男は。
言ってることが支離滅裂で事を得ない。感情が蠢き一つに収集できていない。

「お前、ガルバトロンに抱かれたことねぇだろう?」
「抱か…?」
「お前の前に、まぁ、先任者ってのか。ガルバトロンの脇に居た男は
 抱かれてたらしいぜ?」
「だからなんだ」
「お前はその男の変わりだけど、代役すら満足に果たせてねぇ可哀想なやつって
 こった」

ひゃははっと笑って背を向ける。ぴたりと笑い声が止むとちらりとこちらを
見たレーザーウェーブは小さく、低い、殺意をもこめた声で「ここにいろよ」と
言ってきた。
そのままレーザーウェーブは玉座に入っていくとわざとらしく玉座の扉を
開け放して行く。


先任者。とは。
考えようとして自分の思考にストップをかける。
考えるな。ガルバトロン様だけを考えて。自分の命思考全てをあの方に
捧げるのだ。
私はあの方だけを信じて生きていれば、それでいいのだ。




*








そんな難しい仕事は押し付けていない。
いや、ナイトスクリームにしか任せられない仕事だったが
そこまで時間のかかる仕事ではなかったはずだ。
しかし訪れない自分の部下をガルバトロンは少し腹立たしげに待っていた。

「ナイトスクリームはまだか…」
「よう。ガルバトロン」

玉座に座っていた破壊大帝は声の方を見た。
単眼のレーザーウェーブが飄々とした声で玉座まで歩み寄ってくる。
「なんだ」と声をかけるとレーザーウェーブは笑っていた。

「犬っころ居ないと寂しそうだなあんたは」
「…お前で暇つぶしをするとするか?」

立ち上がろうとするとレーザーウェーブが手でそれを制した。

「おいおい待ってくれよ。俺はあんたを退屈から助け出しにきたんだぜ?
 ちょっと話そうや」
「…お前と話すことなどあったか?」
「ナイトスクリームについてとかよ」

レーザーウェーブの頭にある角がぴょこりと動き、今から何か、楽しいこと。
レーザーウェーブにとって楽しい話をしようとしているのがわかる。
しかしその楽しい話は決して自分にとっても楽しいとは限らない。
だから普段ならこんな奴の話に耳を貸すことなどない。なのに今日は。
今だけはナイトスクリームの話だと言うのなら耳を貸しても構わないかと
思ってしまった。

「あんたはあれ、抱かねぇのかい?」
「…ナイトスクリームをか」
「そうだよ。だって代用品だろ?ナイトスクリームは」

代用品と言う言葉が耳についた。ガルバトロンは言葉選びは綺麗な方ではないが
ナイトスクリームを「代用品」と言ったこの男には適うまい。

「何を言っておるのだ。ナイトスクリームは儂の」
「違うね。スタースクリームの代わりだろ。あれ」

立ち上がって剣を抜く。
ガルバトロンはもう言葉は必要ないとばかりにその剣を輝かせた。
レーザーウェーブはそれでも面白そうに笑い、角をぴこぴこさせて歓喜した。

「待てって!慌てんな」
「どこで何を聞いてきたか知らんが憶測で喋るとは…愚かな奴だ」
「憶測?確かに俺はあんたとスタースクリームの実際の接続を見たわけじゃ
 ねぇけど、噂くらいは聞いてるぜ」

スタースクリームの名を2度出した男に剣先を向けると残念そうにため息を吐く。
喜んだりため息を吐いたりこの男はおかしい。しかし戦力だ。
殺しはしない。できない。

「落ち着きねぇのなぁ。で、何で抱かねぇ?スタースクリームみたいに
 押し倒してあんたのケーブルぶっ挿してやれば」

剣を一度振り下ろした。それは当たらなかったが振り下ろした風が
レーザーウェーブにあたった。軽やかな風圧はレーザーウェーブを扇ぐだけ
で暑い場所なら良いそよ風になっただろう。
レーザーウェーブは黙ると首をかしげもう一度残念そうにため息を吐いた。

「儂はナイトスクリームをあいつと同一視したことはない」
「ぶっ…おいおい!ひっでぇ嘘だなそりゃ!」
「…レーザーウェーブ」
「犬コロ初めて見たとき帰ってきたって思ったんだろ?俺のスタースクリームが
 帰ってき」

そこで言葉は止まった。
一瞬で剣を床に突き刺したガルバトロンがレーザーウェーブに詰め寄り
その頬を殴った。殴ったで済むような打撃ではなかったが破片を散らし
壁際に叩きつけられたレーザーウェーブは黙るしかなかった。

剣を床に刺したのはガルバトロンにとって一瞬の判断。
剣のままだと手加減できずに殺してしまうところだったからだ。

「貴様のそれは妄言だ。長い監禁生活で狂いおって…」
「狂ってんのはてめぇだろ…?」
「貴様まだ…!」
「ひゃははっ、あーあ。楽しかったわ。ありがとよガルバトロン」

足を引き摺りながらレーザーウェーブは玉座の間を後にした。
ガルバトロンはそれを追わなかった。ただ最後まで睨みつけ、完全に消えて
から玉座に戻った。

ナイトスクリームを初めて見たとき。
確かに、レーザーウェーブを殴り否定はしたが確かに思ってしまった。

「スタースクリームが帰ってきた」と思ってしまった。

逃げるナイトスクリーム追った。コンボイなど視界に入らなかった。

しかし、違うのだ。
ナイトスクリームとスタースクリームは同じであって、まったく別の存在だ。
あれを抱くのはまだ早い。いや、もしかしたら抱かない。
破壊大帝として恥ずかしい話だ、ナイトスクリームを汚してしまいたくないのだ。




*





しっかりと玉座の扉を閉めて足を引き摺りながらレーザーウェーブはにやにやと
笑う。ガルバトロンに用意された自室へ向かう為に歩み、数歩進んで足を止めた。

「…聞いてたか?」
「……」
「どうよ。あれがあいつの本心だ」
「否定していた」
「あの慌てよう…ありゃあ本心だぜ。俺様の妄言?そんなこたねぇよ」

ナイトスクリームは黙って床を見ていた。
レーザーウェーブがその表情を覗き込んでも、いつも通りすぎて面白くない。
しかしそれは表面だけで、内心はどれだけぐちゃぐちゃになっているのか。
それをレーザーウェーブは知りたくて仕方がなかった。

「可哀想な犬っころだよなぁ。てめぇは」
「…」
「お前はあいつに洗脳されてんだよ。本当のお前はあいつなんて好きでも
 なんでもねぇのさ」
「黙れ」
「いつかガルバトロンがお前に飽きる日までお前は」
「殺すぞ」

ナイトスクリームの顔に覇気はなかった。いつも通り無表情で、怒りも困惑も
そこには見えずレーザーウェーブを落ちているゴミを見るような興味なさそうな
顔で見た。
レーザーウェーブはナイトスクリームに怒鳴られることはあれど暴行を受けた
ことはなかった。いつも殴るのはガルバトロンで、それをナイトスクリームは
黙ってみてるだけ。

「殺す」だってよ。いいじゃなぇか。実にデストロンらしいじゃねぇか。
その右手にあるクリムゾンブレードを持つ手が震えていようとも。

「ま、俺もリペアしてぇし。お前はあれを信じてりゃいいさ」
「…」
「もし信じられなくなったらこいよ。抱いてやるから」

ナイトスクリームが目を微かに細めた。それをレーザーウェーブは嬉しがった。

「てめぇはあの3馬鹿とは違う。デストロンとしてお前を汚してみてぇのさ」

笑いをかみ殺すようにくつくつと笑った男は足を引き摺りながらそこを
立ち退いた。それでもナイトスクリームはそこから動けなかった。

レーザーウェーブの言動と、ガルバトロンの反応が自分に突き刺さってきた。
今自分が動けないのはそれに縫いとめられているせいだ。

ガルバトロン様が私の絶対の主だった。
そこに愛情はない。ただただ敬愛していた。だから代用品でも構わなかった。


「…ガルバトロン様…」


だからこの感情がただの洗脳によって齎されただなんて信じない。





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ガルナイはお互い信じてるし公式ガチカプだと信じて疑わないんですが(お前…)
スタスクの存在があるから本当に少し突付くだけで崩れると思う。

ナイスクはレザウェやシックスショットの兎兄弟に優しいよね。
別に優しいわけじゃないんだけどデストロンの中じゃ優しくみえちゃう。
レザウェをぼこしてるガル様諭してみたりシックスショットが
「名前で呼んでよ!」って言ってるのに「弟ー」「馬鹿の弟ー」って苛めてる
ガル様筆頭を尻目にちゃんと「シックスショット」って呼んであげてるし。
シックスショットはナイスクに懐いてたら良い。