「スタースクリーム」
「あぁ?サウンドウェーブ。なんだ?」


自分はあいつが好きなのかな。だなんてちらりと思い浮かべた。
まさか、そんな、あるはずねぇよ。これは尊敬に近い感情なんだと思って青い後姿を見やっただけだった。
自分の直属の上司、赤が基調の翼を持っている男のところに全身ほぼ青の男が歩み寄った。

「な、なんだよ」
「…」
「ふふっ」

自分は2体の姿を見ていた。
スタースクリームはサウンドウェーブに頬を撫でられて笑うと
それをみてサウンドウェーブの雰囲気がやわらかくなったのを遠目からでもサンダークラッカーはわかってしまった。
猫をあやすかのように首から顎にかけて撫でるとスタースクリームは首元をすぼめて更に笑った。
くすぐってぇよ。と笑う同機の顔は正直、可愛いと思う。

「やめろって、サウンドウェーブ」
「……」

顎を指先で擦るとスタースクリームはいやいやと身体をよじった。
普段は見えないその可愛いしぐさに自分は半分自分の目を疑ったりもしたが
それよりもサウンドウェーブがそんなスタースクリームの正面に立ち、無言だとしてもそんな
スタースクリームの首をごろごろと撫で続けている。

あいつらはそんな関係らしい。
自分に入り込む隙間は一切見えなかった。




*




「…」


参った。わかんねぇ。


サンダークラッカーは大型のモニターともう暫くにらみ合っていた。
横一線に並ぶグラフと。その横に羅列される数字の列。多分2進化十進表現だと思うんだがちょっとわかりにくい。
その下には地球の全体図数箇所赤い印がついているのは目的地で×がついているのがサイバトロンと交戦した地点だ。
それは知っているんだが先ほどからマニターど真ん中に黄色の背景に赤い字で「エラー」と点滅する。

これはまずいと腕を組んでモニターの前をぐるぐるする。
見張り番をしていたのだ。今は地球時間で言えばすでに真夜中で。もちろん戦闘になることはないと思う。
それでもこのモニターに接続しているのはデストロンの本部である海底基地のマザーコンピューターだ。
これが今エラーを起こしたと悲鳴を上げている。幸いなのはエラー音がないことだ。
メガトロン様やスタースクリームに見られたら説教ではすまないだろうなとサンダークラッカーは
2体のいないことに安堵し、しかしそれは頼りになる人物がいないということにも直結した。

「なにをしている」
「うわぁあ!」
「…」

誰も居ないことを確認していた分、後ろからの唐突な声に文字通り飛び上がり
メガトロンやスタースクリームが扱うたくさんのパネル及びコンソールに倒れこみそうになる。
がしっとインテークを鷲掴みにされて想像していた打撃を受けずにすんだサンダークラッカーはため息を吐いた。

「え、えと」
「…どけ」

振り向いてやっと声の主を見た。サウンドウェーブだった。
バイザーとマスクに表情を隠している主は片手で自分のキャノピーを押すと普段自分が触らない
コンソールに触れてモニターにパスワードを入力し始めた。
そのまま腕を動かしてエラーの修復に入った。何をしているかなんてわからないが
カタカタと音を立てて暫くたつとエラーの文字は消えて今まで見ていた通りのモニターが表示された。

「あ」
「…こっちのコンソールには触れるな」
「う、わ、わりぃ」

多分エラーの原因は触れてはいけない部分に触ってしまったのだろう。
自分をはじめ、スカイワープも、他のデストロン軍団も滅多に触らない重要なキーの並ぶコンソール。
見張りなんかの簡単な作業は簡略化されたエルゴノミクス風のキーボードだけですむ。
そんな簡単作業にしたのはほかならぬ破壊大帝である。
あまりにも無知な同胞達が何度も無茶な操作をしてマザーを壊すからだ。

「ど、どうしたんだ?」

少し緊張してサンダークラッカーは声をかけた。
この男が苦手、とまでは言わないがジェットロンに比べれば話しやすさは半分以下になる。
何を考えているのかもわからない。ただこの男がすごく有能で自分もこんな風になれたらとは思ってる。
嫌いなわけではなく、逆に尊敬の念を持っている。

「データを打ち込みに来た」

中央の椅子を引いてそこに座ったサウンドウェーブが無言で仕事を始める。
こんな時間帯なのにまだ仕事をするのか、この男は。と簡単のため息を小さく漏らした。
ひとつ席を飛ばして隣に座り、勉強も含めて打ち込まれていくデータを眺めた、相変わらず自分にはちょっと難しい。
暫く続く無言が気まずくて「えーっと…」とか呟いた。
男は微かにこちらに顔を向けたがカタカタと手を動かし続けながらだ。

「今まで情報収集してたのか…?」
「スタースクリームと話していた」
「へ…そっか…。お前らってどんな会話すんの?」
「普通だ」
「なんだよ。普通って」

ちょっと笑ってモニターを眺めていると視線を感じてサウンドウェーブのほうを見る。
こちらを見てくるサウンドウェーブと視線がかち合ってぎくりと身体を強張らせた。
何か怒らせたか?とびくびくする自分が子供のようで馬鹿らしいと思いつつも
視線を一度そらして「な、なんだよ」っと言った。

「笑った所を久しぶりに見た」
「う、そ、そうかぁ?」

確かにサウンドウェーブの前で自分は滅多に笑わないかもしれない。
それは緊張からくるものでもあるし、こいつと楽しい気分にだってならないからなのだが。

「ジェットロンは似てる」
「そりゃぁ、同機だしなぁ」
「…」

無言で手を進めるサウンドウェーブにもう一度視線を送った。
今のどういう意味だ?と疑問に持ちながら無言が続く中で、足りない頭を使って自分なりに推理してみた。
ジェットロンが似てるのなんて当たり前だよなぁ。そんで俺が笑ったところを直視してきたんだろ?
そこまで考えて「あぁ」と思ってしまった。口から出なかったのは幸いか。

スタースクリームが笑う顔と重ねたのかよ。

「本当にスタースクリームが好きなんだなぁ」
「…」

ずっと仕事をする手を止めなかった男が手を止めて見つめ返してくる。
今度はそらさなかった。笑って「そうなんだろ?」と言うと男は顔をそらした。
何も言わないところを見ると肯定だ。「あぁ」とは言わないところがサウンドウェーブらしい。
この男の一面を知って楽しくなった。笑うのを堪えていても口に笑みが出た。

「何故笑う」
「別に」
「サンダークラッカー」
「えぇ?なんだよう」

とがめる様な声に困り顔を向けると仕事を打ち終えたサウンドウェーブが立ち上がってこちらに歩み寄ってきていた。
うえっと声に出さずとも驚きのけぞると背もたれに羽ががつんとぶつかった。
頭にサウンドウェーブが手を置いて撫で付けるように擦られた。

驚きの視線をサウンドウェーブにぶつけるとサウンドウェーブが笑ったような気がした。
「見張りを続けろ」と淡白な声で命令を告げる男は頭から手を引っさげて帰っていった。
自分の頭の上に手をぽんと置いて暫くそのままにしていた。

「…」

少しだけ嬉しかった。



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最近自分の小説が無駄に長い事に気付き始めてる。