『俺、…あんたから…逃げ…たよな…』
『…』
『だか…っ…バチが…』
『もういい、休め。ここにいる』


あの日お前に逢えて、凄い、安心したんだ。





アナザー・イオマンテ



少しばかり予定の時間を越えてしまったがサンダークラッカーは吐く息に
酒の匂いを含ませながら廊下を走っていた。
サウンドウェーブの部屋はもうすぐだ。
ジェットロンと昔話に花を咲かせすぎて数分だが寝室に行くと言っていた時間を
越えてしまったのだ。
怒っているだろうか、いやあいつはあまり怒らない。

寝室前について息を落ち着かせる、全力ではなかったが小走りにここまで来た所為で
息があがってる。
ノックしようと手の甲を扉につけて中指の関節を扉にぶつけようとした。


「遅かったな」
「っ…!サ、サウンドウェーブ!」

扉はノックする前に開いた、開けた扉の向こうには自分の恋人がいた。
「中に入れ」と簡単な言葉を投げかけられ、サウンドウェーブは寝室に招き入れる。
中に入って椅子を見つけるとサンダークラッカーは座った。
サウンドウェーブもその正面に机を挟んで座る、ここが指定席なのだ。
いつもここに座る。

「何をしていた」
「すぐ抜け出すつもりだったんだけどよ…ジェットロンと飲んでた」
「そうか」
「あぁ、昔の話してたんだ」



*




「サンダークラッカー」


あの日、もう意識がやばかった。
スカイワープが必死に俺を担いでくれてるんだけどスカイワープだって
体調は万全じゃない。傷ついた身体で俺を必死に運んでくれた、スカイワープの
足は雪を踏みすぎて氷づけになり何度も何度も転んで、それでも立ち上がって
俺を背負ってくれた。
「置いてって良いんだぜ」って一度だけ言ったのに無視するスカイワープだけが
意識の中にいる。頭部や肩に積もった雪は時折地面へ落ちてまた積もった。
スカイワープから嗚咽が漏れて、泣き始めたあたりで自分は顔をようやくあげた
なぜ泣いているのか理解したかったからだ、それもすぐにわかる。

「サンダークラッカー」
「…サ、ウ」
「喋るな、意識だけ保たせろ」

スカイワープが俺をサウンドウェーブに渡すとすぐにメガトロン様に抱きついた。
俺をサウンドウェーブは強く抱きしめていた。身体中傷だらけで、暖かいオイルが
零れる端から凍っていく寒さ。凍った頬を叩いて氷を剥がし、強く抱きしめて
これ以上身体が冷えるのを防ごうとサウンドウェーブは動いていた、俺はあんたを
裏切ったのに、どうしてそんなに優しくしてくれるのか理解できない。

「ど…し」
「救難信号を拾った、遅くなった」
「…サ」
「問題ない、すぐに治療する」
「…ありが、と」
「…」
「来て…くんねー…って思っ」
「大丈夫だ」

遠くでメガトロン様とスカイワープが何か喋ってた。
メガトロン様が「ここにいろ」とスカイワープに言って、スカイワープはその場に
残った。それでも俺たちの近くに来るんじゃなくその場に立ち尽くしてたみたいだ。
船の中に連れて行かれて、身体を温められた。スカイワープは船の端っこで
与えられたエネルギーを飲んでいた。
温かい船の中でサウンドウェーブがリペアをするのを黙って感じる。
アイセンサーを使うのも面倒臭くてサウンドウェーブの手が自分を治療する
それだけを感じていたんだ。

スカイワープがスタースクリームの名前を呼んだ、帰ってきたのか。
でも見もしなかった、声を出すのも辛い、スタースクリームは無事かなぁ、喧嘩
したままだったんだ。
…そうだよ、サウンドウェーブとも俺喧嘩したままだ。
俺が一方的に逃げたんだけど…

「…サウンド、ウェーブ」
「…なんだ」
「ごめ、俺」
「黙っていろ、リペア中だ」
「俺、…あんたから…逃げ…たよな…」
「…」
「だか…っ…バチが…」
「もういい、休め。ここにいる」

サウンドウェーブの声がすぐ耳元でする、「ここにいる」ともう一度言われて
凄い安心した。
その安心感は自分に休息する場を与えてくれる、耳元で「休め」と俺を気遣う声が
してそのまま意識を落としてしまった。
次に目を覚ます頃にはサンダークラッカーは暖かなセイバートロン星の
リペア台で眼を覚ますことになる。

*



誰かが俺の名を呼んだ。
真っ暗闇で俺はひたすら歩く、何かが追いかけてくる気がするから。
それは間違いなくあの事件が原因だったがそこまで自分は冷静ではなく
夢だということにも気づけないままひたすら歩き続けるのだ。

「…ッカー…」
「…っ…?」
「サンダークラッカー」
「…サウンド、ウェーブ」
「声はでる。意識も問題ない。痛みは」
「…」

顔を左右に振るとサウンドウェーブは納得するように頷いた。
頭を一度だけ撫でられて「もう少し休め」と言われると自分の隣の寝台に
スタースクリームがいるのを見つけた。ここは、リペアルームか。
スタースクリームの身体は治療用ケーブルだらけでまだ眠っているようだ。

どうやら酷い夢を見ていたようだとサンダークラッカーは息を吐き出す。
どこも痛くないがおそらく長い間意識を失っていたのだろう。
ブレインサーキットが時刻調節をしたいと唸り、身体中に新しいエネルギーと
電流を送ると指先がびくりと動いた。
恐ろしく気だるい身体を起こそうかと考えたがその考えを拾い上げてくれた
サウンドウェーブがサンダークラッカーの胸を軽く押さえてまだ寝台に
伏せることを強制する。

「…スタースクリームは?」
「内部損傷が酷いが、お前ほどじゃない」
「スカイワープ…」
「一番怪我は少ない、凍傷が酷いが装甲を変えれば問題ない」
「…そか」

サウンドウェーブはサンダークラッカーに背を向けるとコンピュータを弄り始めた。
サンダークラッカーの首、キャノピーにセットされたコネクタは
そのコンピュータに繋がりサウンドウェーブが体内情報を見ているのがわかる。

「右腕は動くか」
「…」

動かして見ると上下動は出来ても左右に触れない。サウンドウェーブは
その動きを見て近くに歩み寄ってくると右腕を掴み、関節部位を見てくれた。
俺は勝手にオイルさしとけば何とかなるなんて思ったがサウンドウェーブは
関節部位の装甲を軽く持ち上げると中の配線を摘み様々な角度から入念に調べた。

「…少し時間がいる、信号が右腕に伝わりきっていない」
「直るのか…?」
「問題ない」
「…サウンドウェーブ?」
「なんだ」
「…ありがとう」

サウンドウェーブは一度だけ硬直したがまたいつものように動き出した。
それを見て気付く、こいつもあれ忘れてない。
俺がこいつから逃げた事、わすれてねぇんだ。
謝らないと、弁明や言い訳はしないつもりだけど、俺が逃げた訳を話したい。
それで謝ってもう逃げないことを伝えないといけねぇんだ。

「サウンドウェーブ…?俺、あのさ…」
「また来る、休んでいろ」
「っ…あ…」

足早に、一度も振り返らずに。サウンドウェーブが逃げた。
サウンドウェーブが俺から逃げた。

「…うそ…」


暖かいリペアルーム、身体の調子もそこまで悪くない。
敵もいないし、スタースクリームも意識がないけど隣に居る。
なのに心が冷え切っていた、こんなことってあるのか?

「サウンド、ウェーブ…?」
『ここにいる』

あの言葉が心底嬉しかったんだ。



その日からサウンドウェーブは毎日リペアにきてくれた。
だけど俺があの話を盛り返そうとするとサウンドウェーブは逃げる。
俺のことが嫌いになったんだ、ってわかった。


「後数日で自室へ戻れる」
「…サウンドウェーブ、色々有難うな」
「…」
「俺のこと、嫌いなのに色々…」
「誰が嫌いだと言った」
「…」

あんただよ、とは言わなかった。
正直に言葉で嫌いになったと言われた訳ではなかったが、より酷い。
逃げるなんてひでぇよ。
俺の顔を正面から見ないところとか、名前を呼ぶと逃げようとするところとか。
でも、発端は俺だ。俺が先に逃げて

「…ごめん」
「なにがだ」
「嫌いになったんだろ?俺のこと…仕方ないよな、良いんだ。それでも…でもな」
「スタースクリームか」
「そうじゃないって…だから」
「仕事だ、また後でくる」
「待てよ!」


サウンドウェーブが驚いたように動きを止めた。数日で十分動くようになった
身体を上半身だけ起こしてサウンドウェーブを見る。
サウンドウェーブのバイザーはこちらを見つめ停止していた。
礼を言いたい。謝罪したい。この2つが自分を動かしていた。
いや、更にもうひとつあった。

「ごめんな」
「…」
「ちゃんと謝って、それからお礼を言いたいんだ、サウンドウェーブ」
「それは」
「俺が嫌いでも良いんだ…でもこれを聞いてから…俺を嫌いになってくれ」


サウンドウェーブは一歩も動かない。表情の変化も窺えないのは
いつものことだとしてもこの硬直の意味はなんだろうかと考えた。
俺の近くにいるのがそんなにいやなのか?
サンダークラッカーは一度大きく息を吸って止めると何から語ろうか考えた。
口に含んだままの息を薄く開いた口より吐き出すまでにいくつも考えたが
どれも遠まわしすぎて俺の気持ちが伝わらない気がした。


「…お前から逃げたのは…お前が怖かったからなんだ」
「…知っている、それだけか」
「だから謝りたい…誤解してた…お前は…怖くなんかねぇよな」
「…何を」

手を伸ばしてサウンドウェーブの腕を掴んだ。
自分の動作ひとつひとつに驚いたように反応するこの男が珍しい。
確かに今日おかしいのはきっと俺だ、普段ならこんなことはしない。
両手でサウンドウェーブの手をぎゅっと掴むとその手に顔を寄せた。

「有難う…」
「サン…」
「俺を見捨てないでくれて有難う…サウンドウェーブ」
「…」

サウンドウェーブが動いた、サンダークラッカーの顔にもう片方の手を
伸ばし、頬を撫でるとそのまま顎を掴んで上に持ち上げる。
サンダークラッカーはまさかと思いつつもその動きが何をするための
動作なのか、わかっていた。
近づいてきたサウンドウェーブのバイザーが収納され唇が露になると
サンダークラッカーはサウンドウェーブの手をぎゅっと掴んだ。
唇同士が軽くふれあい、離れる、もう一度軽く触れて離れる。

「…サンダークラッカー…」
「…サウンドウェーブ、あの、よ」
「…」

「…告白の返事、今からでもいいか…?」





*





「飲みすぎだ」
「ん、もうやめとく」
「…」
「…本当懐かしいよなぁ、あの頃から大分立つけど、俺今でも覚えてるぜ」
「あぁ…」
「…サウンドウェーブ」


サウンドウェーブは机の上に並べられた空っぽのエネルゴンキューブを
積み重ねて片付けるとその手をぎゅっと握られた。
握った張本人でもあるサンダークラッカーを見るとサンダークラッカーは
へへっと笑い両手で手を握る。


「サンダークラッカー」
「…あの頃からなんも変わってねぇしさ」
「…あぁ」


サウンドウェーブが頷くとサンダークラッカーも頷いた。



「あんたが好きだ」








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アナザーイオマンテ

もっと色々書こうとしたけど時間開き過ぎて何書こうとしてたか忘れた・・!
とりあえず音波サンクラはラブラブしてたら良いとおもいます。