どうしてこうなるんだ。 ナイトスクリームは無表情だった、両腕を鎖で繋がれ無力化された状況にも 関わらず整った顔は静かに床に横たわる。 「お前さ…もっと驚けよな」 襲ってるんだからよ。 再会3 まず最初にそうなった理由はやはりガルバトロン襲来が一番大きい。 ナイトスクリームを助けに来たガルバトロンはグリットで追い返す事が出来たが また奪い返しに来るのは目に見えていた。 ガルバトロンが進入してきた穴やナイトスクリームを閉じ込める特別合金の 牢屋を修理している間、スカイファイヤーとグランドコンボイは話あった。 今まで通り牢屋に入れておくのは難しいだろう、と。 場所を移動させる必要性があった、何より特別合金の牢屋の修理にも数日かかる ようでナイトスクリームを移動させなくてはいけないのは事実。 「スカイファイヤー」 「はい、司令官」 「すまないが、スカイファイヤーの寝室においてくれないか?」 「…は?」 そんな会話をしたのが数時間前だった。 ジョーンズ博士に作ってもらった手錠はナイトスクリームのエネルゴンの流れを 乱すもので特殊能力の姿を消すのも不可能にするのはもちろん、自分で走る事も できなくなる代物だ。力を入れたくても身体中のエネルギーがばらばらに動いては それもうまくいかない。 前回のガルバトロン襲来の時に自分は一人でナイトスクリームの見張りに居た。 自分は破損したがナイトスクリームは渡さなかった、その事でグランドコンボイは ナイトスクリームの見張りをスカイファイヤーに一任したいと考えているようだ。 ナイトスクリームの手首と肘の二箇所を手錠で固め、自室までつれてきたスカイ ファイヤーは口では仲間達に「大丈夫だ!任せろよ!」と言ってきたが 内心はナイトスクリームとの距離を測りたいと思っていた。 どうしても思い出してしまうのだ、アイツを。しかしナイトスクリームとアイツを 同一視してしまうのはアイツに失礼だ。 「…まぁ、お前はもっと頑丈な場所に閉じ込めるからな、それまでだ」 「…」 ガルバトロンが迎えに来た日からこいつは静かだ、いや前々から静かだったのだが ずっと俯いて寂しそうな表情をする。まるで俺たちサイバトロンが悪い事をして いるかのような状況はスカイファイヤーを苛立たせたがそれを誰かに言うつもりも なかった。 「…」 「悪いが、繋がせてもらう」 手錠に更に鎖を通して机の足にでも通せばナイトスクリームはその鎖以上の長さを 歩む事は出来ない。 手錠の鍵は机の上、しかしナイトスクリームからは届かない場所に置いた。 少し、心が痛む。それは自分が自称「大空の騎士」だからだ。ナイトスクリームの 背中にある羽やビーグルモードを見る限りこいつも自分と同じ空を飛ぶ事に 快感を生むトランスフォーマーだ。 「…空を飛ぶのは楽しいよな」 「!」 「…お前がデストロンじゃなきゃ、飛ばせてやることだってできるんだけどよ」 自分が鎖につながれたらと思うとぞっとする。空を飛んでこその大空の騎士だ。 ナイトスクリームはだんまりだったが俯けていた表情をあげ、こちらに顔を向けて いる、暫く見詰め合った後に「あぁ!」とスカイファイヤーは声を出した。 「もう一個悪いが、これを取り付けさせてもらうぜ」 「…なんだ」 「発信機だ、もしガルバトロンが奪還に来ても良い様にな」 「なに?…私に触るな…」 「お、やっぱ嫌か、でも命令なんでな」 ナイトスクリームは逃げようとしたが鎖がそれを許さない。 立ち上がろうとして転んだナイトスクリームを見てスカイファイヤーは少し笑った。 丁度良いと床に背中を押し付けたナイトスクリームの腕を押さえつけ起き 上がれないようにするとキャノピーを上に持ち上げた。 「よ、せっ…!」 「痛くはしねぇって」 「っ……!」 羽とキャノピーで隠されていた腹部が見えるとあまりの細さにぞっとする。 こんなんでよくもあんな戦い方が出来るもんだ。よくよく見れば脚も細い。 細い腕に大剣。細い腿に大きな足。なんてアンバランスな生物なんだと まじまじ見つめているとナイトスクリームが呻いた。 「くそ…っ貴様…ぁ!」 「お前さ」 「なんだ…!退け…!」 「誰かに似てるって言われた事ないか?」 ナイトスクリームが暴れるのをやめた。 自分も、どうしてそんな言葉が出たのかわからない。 こいつの暴れ方があいつに似てたからか? 『貴様はなんなのだ!』 『だってお前細っこくって心配になっちまうんだよなぁ』 『…わかった、たたっ斬ってやる…!』 そんなやりとりを思い出す、ナイトスクリームの使うクリムゾンブレードほど ではないが大きな剣を振り回すあの存在が10年立っても忘れられないのだ。 「あいつの事か」 「…お前…知ってるのか」 「私はあいつではない」 「…あぁ」 「似ているらしいが私はナイトスクリーム、誰でもない」 「…そうだよな…」 『ジェットファイヤー!』 あいつがいるはずないんだ。 スカイファイヤーは頭を振るとキャノピーの裏、自分では手の届かない部分に 発信機を忍ばせた、急に暴れるのをやめたナイトスクリームは無表情になり 顔を背けている。 もしかして、こいつ気にしてるのか?あいつに似ているという事実を気にしてる。 恐らく誰か、デストロンの誰かに言われたのだろう。だからあんな強く否定する。 『よせ、ジェットファイヤー!』 『なんで』 『私は馴れ合うためにここに居るのではない』 『俺に触られるのは嫌かよ』 『違う…違うんだ…私に触るな…頼む』 抱こうとした、寝台に押し倒して、キスをしてやる。 あいつは怖がった、俺をじゃなく誰かに触れられるという温かさを。 だから抱かなかった、抱きしめてやった。あいつは抱きしめられた状態で 謝罪をしてきた。抱いてやればよかったと、今になって後悔する。 そうすればあいつはメガトロンの元に戻ったりしなかったはずだ。 「退け、と言っているのが聞こえないのか?」 「え?」 「…退け、重い」 「あ、…あぁ…そうだな」 ナイトスクリームは不機嫌そうに顔をしかめる、それを見てスカイファイヤーは しんみりした心を入れ替えなくてはと深呼吸した。 ナイトスクリームがむっすりとした表情を向けてくる、スカイファイヤーは 笑いかけてその頬をつねった。 「なっに…!!」 「そういう顔すんなよ、笑ったほうが可愛いぜ?」 「放せ貴様ぁ!」 「ははは!そう怒るなよ」 つねったことが発火点か、笑ったほうが…が発火点か知らないがナイトスクリームは 声を荒げて暴れた。 あー、だから似てるんだってその辺りが。畜生どうしてやろうこいつ。 暴れるナイトスクリームの顎を掴んで固定した。 「キスして良いか?」 あいつとは違うと言う事を自分の身体に刻みたい。 触れればわかる、別物だという事を身体に、ブレインサーキットの隅の隅まで 知らせ刻み付ける事が出来る。 「お前さ…もっと驚けよな」 ナイトスクリームは無表情だった、ただ自分をずっと見つめている。 もしかして惚れちまった?俺も罪な男だからなぁ、なんて冗談を吐こうとして よした。ナイトスクリームじゃツッコミもいれてくれない事を知っている。 もう奪っちまおう、口。それが終わったら俺はやるべき仕事に戻る。 顎を固定したまま自分のマスクをスライドさせようとした、しかしガルバトロンと こいつキスしてなかったか?と思い出すと間接キスなんて言葉が脳裏をよぎり ぞっとした。 「お前もあいつが好きなのか」 薄く開かれた唇からもれた言葉は自分を硬直させるには簡単すぎた。 色んなことが気になった、色んなことを察してしまった。 「お前も」と言う事は他の誰かもあいつが好きだということ。 そしてナイトスクリームにキスをしようとした事があいつを好きに繋がるのは 誰かにあいつの代わりにされてるのか? 「…ナイト」 「同情するな」 「でもよお前ガル」 「黙れ、好きにしたら良い」 強く抱きしめてやりたくなった。 どうしてそんな卑屈になるんだよ、嫌なら嫌がれば良い。 思い切りキスしてやりたくなった。 でもできるはずがない、どうやって触れようと、お前の為にキスをすると 言ったとしてもこいつはきっとそう思わない。 それどころか俺はナイトスクリームにキスをしてあいつを連想しない自信がない。 「う、お…!?」 「っ…!」 警報と爆発は同時だった。 普段ならグリッドに近づいた段階でデストロン警報がなるはずだがこの間の 戦闘で不備が確認されていた。そこを突かれたのだろう。すでにデストロンは セイバートロン星に進入してきてる。 大分揺れたのを確認して立ち上がろうとすると窓の外にテラーコン達が飛んで いるのがに見えた。戦闘が始まっているのだ。 自室は最上階の角部屋だ。窓から飛び出せるように大きな窓がある。 そこから出撃しようかと思ったが窓の外が光ると再び爆発が起きた。 「あぶなっ…!」 「な、っ…」 鋭い閃光が部屋を照らし、爆音が聴覚機器を襲う。 窓ガラスが全て割れ、破片が部屋中に散った。そんなもので怪我をするような やわな装甲をしているつもりはなかったがナイトスクリームを引き寄せ抱きしめると 机の影に隠れた。 煙がたちまち視界を多い、何も見えなくする。 ナイトスクリームは腕の中に居たがスカイファイヤーは数度咳をした。 別にナイトスクリームがここに居るとわかっての攻撃ではなく、恐らく流れ玉の ようなものだろう。窓ガラスが割れたにも関わらず付近に敵の姿は見えなかった。 「よ、せ」 「なに?げほっ…聞こえないぜ」 「私に触れるな…放せ…」 『私に触るな…頼む』 「…そんなこと言うなよ、ナイトスクリーム」 「放せ!」 名を呼ぶと怒鳴られた。自分とて戦闘が始まった今こうしてこいつを いつまでも抱きしめてはいられない。「はい」と引き離して立ち上がると割れた ガラスを踏み鳴らしながら窓に近寄った。 「…またガルバトロンか?」 外を覗いたがテラーコンばかりでデストロンの主力たちはまだ見当たらない。 しかし先ほどの威力は主力組だろう。テラーコンにあの威力はない。 レーザーウェーブほどの力を持つ奴は宇宙からでも届く威力の持主だ、もしかしたら まだ宇宙にいるのかもしれない。 「ふふ…」 「っ!?…いっ…っだぁあ!」 背後で笑う声がした、ナイトスクリームだと理解する前に壁へと吹き飛ばされる。 壁にヒビが入るほどの力だった、あの細い腕にどうしてそんな力があるのだ。 痛めた身体でナイトスクリームを見ると手首と肘だけ手錠で固定された状態で 鎖は引きちぎられていた。 その不恰好な格好で腕には深い緑色に光る大剣が握られていた。 「なっ…どうしてだ…!そんな力が…」 「確かにこの手錠は普段より動きを制限される、しかしこれくらい問題ない」 「逃げる気か?飛べはしねぇだろ…!」 「…」 ナイトスクリームは窓枠に手をかけた。大きな窓淵に飛び乗り立ち上がると ゆっくりと外を見つめる。 外からの風にナイトスクリームがアイセンサーを細めた、爆音が響き外は戦場だと 教えてくる。飛べもしない、ブレードも上手く扱えないナイトスクリームは 必要ないとでも言うような爆発の数々をただ黙って見つめていた。 「貴様に心配される筋合いはないと思うが」 「死なれたら困るんだ…!」 「触れるな」 伸ばした腕を払いもせず、ナイトスクリームは言葉だけで制した。 触れるな、と自分はよく言われるな。なんてくだらない事を考えながらも 何故伸ばした腕を止めてしまったのかわからない。 「さらばだ、ジェットファイヤー」 とんっとナイトスクリームは窓枠を蹴った。ナイトスクリームはそのまま 外へ飛び出すとやはり思うように飛べないのか落下していく。 「あの、馬鹿…!」 自分も窓枠に手をかけた。今なら飛べば間に合う。 しかし脚を窓枠にかける前に最上階のここより更に上より大きな影が飛んできた。 自分よりも大きなその影は地球にはない戦闘機の形をしていて、鮮やかな青と白の 機体が目に入る。上より下にスピードを緩めずとんだその機体の爆風で スカイファイヤーは窓の傍より室内に吹き飛ばされた。 「い、まのは…!」 再び立ち上がり窓枠に近寄るとあの破壊大帝の声が聞こえた。 「トランスフォーム!」とナイトスクリームよりも下に回った戦闘機は叫び 大きな腕と立派な翼を持ったトランスフォーマーに変形した。 広げた腕がナイトスクリームを丁寧にキャッチするとそのまま抱きしめた。 この位置からでもナイトスクリームが驚いているのがわかる、ナイトスクリームは 助かるとは思っていなかったのだろう。 「引き上げるぞ!」 「レイヒー!」 「おぉう!」 やはり目的はナイトスクリーム。エネルゴンにも目を向けずガルバトロンは強く ナイトスクリームを抱きしめたまま上昇して行った。 「…あいつに抱きしめられるのはいいのかよ」 当たり前の事を呟いてスカイファイヤーはその場に座った。 はぁ、と大きなため息を吐いて頭を抑える、飛び出して行ったナイトスクリームの 姿がこびり付いていた。 『さらばだ、“ジェットファイヤー”』 「………あいつなんつった…?」 スカイファイヤーは立ち上がって再び窓枠にしがみ付いた。 もう見えなくなったガルバトロンとその胸に抱きかかえられるナイトスクリームを 探すがもういない。 「…なんで」 お前はあいつじゃないんだろ?俺は昔の機体の名をナイトスクリームに教えてない。 「なんでだよ」 『ジェットファイヤー!』 「お前なのか…?」 あぁ、だから抱いておけばよかったっていつも後悔するんだ。 ---------------------------------------------- 再会3!要望多くて自分でも書きたかったのでようやく書けてうほほいでした。 ナイトスクリームは自分とスタースクリームはまったく別人だと思ってるよ! ガル様も別にスタスクとナイスクを同一視はしてないんだけど ナイスクはどうしても代用品にされてると思っちゃう。 ここでは「お前なのか…?」ですがナイスクがエネルゴンでナイスクRになった時に 気付くよね。「ナル光線!」て使ってるし。流石に技名がかぶったら誰でも気付く。 本編じゃ無視されてましたがな(笑)