サンダークラッカーは可能な限り細めたアイセンサーをある一点へ向け
軽蔑した視線を隠す事無く送った。
腕をキャノピーの前で組んで薄く開いた唇からゆっくりと息を吐くと
上の歯と下の歯がガチガチとぶつかり合い音を奏でる。

強く歯を噛み締めなおすとサンダークラッカーは壁へと寄りかけていた身体を
少しだけ浮かせて身体の重心を右から左へと移す動作に入る、先ほどから
落ち着かず口内に溜まったオイルを飲み込むタイミングが掴めずにいた。




フォリア





サンダークラッカーはスカイワープが好きだ。
だって笑う顔が可愛いし、基本的に楽観的でスタースクリームみたいに愚痴を
零したり八つ当たりしたりしない。
例外としてやたらカセットロンに絡むけど他の奴とは上手くやってる
みたいだし、懐っこいし、一緒に居てすげぇ楽しいんだ。


「サンダークラッカー!」
「スカイワープ」
「なぁなぁ、今日よ」
「あぁ?またかよ…」

スカイワープがサンダークラッカーを抱きしめた。背中から文字通り飛びついた
スカイワープにサンダークラッカーは転びかけたが慣れたものですぐに体勢を
整えるとスカイワープに笑顔を向ける。

「この間やったばっかじゃねぇかよ」
「なんでい、嫌なのか?」
「…そういうわけじゃー…」
「ほらみやがれ!」

スカイワープはサンダークラッカーを指して再び笑う。その顔が本当に好きだった。
別に恋人同士って訳じゃないけど、俺らはちゃんと好きだって言い合ったし
それらしい行為だってしてる。
スカイワープとサンダークラッカーの挿れる順番は適当で、最近では動くのが
面倒だとか、レセプタ側のほうが気持ちいいとかでスカイワープに挿れるのが
サンダークラッカーだ。

「わりぃ、仕事あんだ…先部屋行っててくれるか?」
「仕事ぉ?」
「サウンドウェーブが手伝えってよ」

サウンドウェーブと聞いてスカイワープが露骨に嫌な顔をした、隠そうともせずに
むっとした表情の鼻を掴むと「そんな顔をすんなよ」と笑ってやる。

「俺、あいつ嫌ぇ」
「…ん、まぁわかんねぇこともねぇけど」
「あいつ、まだてめぇが好きなんだぜ」
「それはちゃんと断ったって」

スカイワープが言ってるのは、サウンドウェーブが俺に惚れてて、告白してきた
事実を知ってるからだ。
あいつが俺のどこにどう惹かれたのかがまったくわかんない。
真正面から「好きだ」と言われて背筋が凍る気がした、だって俺はあいつが
苦手だから。嫌いじゃない、ただ苦手なんだ。

スカイワープみたいに裏表なくて思ったことが表情に9割でるような奴が好きだ。
なのにサウンドウェーブはマスクとバイザーで全て隠して何も明かさない。
だから好きだって言われて5秒も迷わなかった、「すいません」って謝って
そのまま逃げてきた。
その日スカイワープにそれを言ったら凄い怒って、断ったからって言っても
「ぶっ殺す」って話し聞かないで大変だった。だからその日はスカイワープを
ゆっくり抱いた。つかそれ1年くらい前の話なんだけどな…



「仕事なんだってよ」
「…」
「すぐ終わらせて戻るって、な?」
「…ん、わかった」

スカイワープが拗ねた表情を向けてきたので鼻の頭にキスをした。
それだけでスカイワープは少しだけ笑うと口にキスを仕返してくる。
指同士を絡めてぎゅっと握り合うと「また後でな」と別れた。

サウンドウェーブの仕事は俺にしか出来ないらしい、そんな仕事あるか?と
思っても思いつかない。
もしかしたらジェットロンにしか出来ない仕事で、頼まれてくれそうなのが
俺だけ、って意味だと判断してる。

部屋に辿りつくと外から一声かける、中から「入れ」と低い声が聞こえた。
入ります、と呟いて中に入ると一歩目でサンダークラッカーはこの部屋に
来たことを後悔した。


「っ……さう、んど」
「…なんだ」


サウンドウェーブは寝台に腰掛けてこちらを見ていた、サウンドウェーブと
サンダークラッカーの目が合いサンダークラッカーは歩みも考えることも
何もかも止めた。
サウンドウェーブが気だるげに寝台に視線を落とし、サンダークラッカーも
同じようにサウンドウェーブの寝台に視線を移動させる、先ほどから視界には
入っていたが認めたくないものがそこにはあった。

「…お前に確認してもらう」
「…な、にを?」
「完成度だ」

サウンドウェーブの隣には眠るサンダークラッカーがいた、ただ眠るだけでなく
気を失ったような形で足を左右に開き、下腹部のパネルは開かれたままだ。
そこからオイルが漏れているのもわかっている上でサンダークラッカーは
退室の許可が欲しかった。

「これの中にブレインサーキットはない、模造品だ」
「…どうなって…?」
「俺の組み込んだ動作しかとれない、ただのアンドロイド以下のロボットだ」

サンダークラッカーは逃げ出したくなるのを堪えて「それ」に近寄った。
交歓行為を思わせる部は見ずに顔を覗きに行くとジェットロンの整った表情が
あった、気を失い細められたアイセンサーに光はない、薄く開いた口は
乾いていても見た目はほとんど自分と変わりなかった。


「…」
「どうだ」
「ど、どうだって…」
「お前は俺を受け入れない、だからつくった」
「…」

サンダークラッカーは自分の中では表情を殺せるつもりだったが
その言葉に嫌悪が躍り出る。
サウンドウェーブは鼻で笑い、眠る「それ」の頬を撫でた。

「んっ…」
「…動く、んだよな?」
「もちろんだ」
「…」
「サンダークラッカー、お前に見てもらいたい」
「…何を」
「完成度だ、声、表情、お前に限りなく近づけたい」
「…」

嫌だった、しかしサウンドウェーブはこれを仕事と称した、つまり上司からの
命令になる。それに反対する権利はなく、黙り込んでいるとサウンドウェーブは
壁を指した。

「そこで見て居ろ」
「…」

指された辺りに足を動かして壁に寄りかかるとサンダークラッカーは
アイセンサーを細めた。


「…サンダークラッカー」

サウンドウェーブの、優しい声を初めて聞いた。
しかしそれは自分ではなく「あれ」にかけられた言葉だ。
光の灯らない瞳が明滅するとゆっくりとアイセンサーが起動する、整った表情が
生気を与えられたように動き始める。

「…さうんどうぇーぶ」
「起きたか」
「…俺…?」
「気を失っていた」
「…ん」

あれはもじもじと動いた、脚同士を擦り合わせ下半身についているオイルを
恥ずかしがるように頬を紅潮させる。
まるでこちらに気付かないようにサウンドウェーブだけを見て息をしている。
動いたあれを見てサンダークラッカーは吐き気がした、なんで俺なんだ?
そこまでして俺を抱きたいと思ってるのか?この男が。

「…あっ、何…?やだっ」
「…」
「あっあっ…!や、めっ」

サウンドウェーブがあれの足を左右に割って腰を進めるとサンダークラッカーの
位置からも接続する様子が見えた。サウンドウェーブがトランスフォーマーでも
なんでもない物の中に入っていく。
あれは嫌がっているのに手にはまるで力が入っていないかのように
サウンドウェーブの胸に手を置くだけだ。

「ひ、く…っあ…」
「…サンダークラッカー」
「サウン…ド…!やっあ…!ああ!」
「気持ち良いか」
「ふ、…っ良い…!気持ち…い」

サンダークラッカーの歯がガタガタ音を立てた。
恐怖を覚えた、あれにもサウンドウェーブにも、俺じゃないものが
サンダークラッカーと名付けられて犯されるのを見ていて気分が良くなるような
趣味はない。

暫くは黙ってた、それが命令だからだ。
サウンドウェーブが俺に仕事をさせているのだから。
それでも見ていられたのは3分が限度、何度も視界を逸らして、耳を塞ぎたくなる
喘ぎを聞いて足を何度も動かして重心を移動し、上手く飲み込めなかったオイルを
ごくんと音を立てて飲み落とす。

「っああ…!」

俺の声で、甲高い悲鳴が耳に響いた。


「…俺はそんな喘がない…」


腰を動かしていたサウンドウェーブが止まった、本物のサンダークラッカーの方を
見て止まる。
あれはサウンドウェーブの下で疲れたように息を吸い吐きしていた。

「わかった」

サウンドウェーブはそういうと無遠慮にあれの中にいれていたコネクタを
引き抜き下腹部のパネルを閉じた。
快感で動きの鈍いあれはそんなサウンドウェーブを見て不思議そうに
首を傾げて自分を作った主の名前を切なげに呼んだ。

「サウンドウェ…っぐ…?」
「ちょ…サウンドウェーブ!?」
「…」

サウンドウェーブはあれのキャノピーを開いて右手を差し込むとそこにある
パイプやケーブルを引きちぎった。
あれは呆然としていたが思い出したように口からオイルを吐き始める、咽る動作も
生きているように完璧なつくりになっていた。
両腕でサウンドウェーブの腕を掴み「どうして」とオイルを吐きながら懇願している。

「お前は失敗作だ」
「っ…なにが?…俺っ、駄目だ…った?」
「あぁ」
「いだ…っ…痛い、なぁ、サウンド…うぇ、ぶ」
「…」
「俺…あんたが…っ…す、」

サウンドウェーブの右手がオイルの色で染まり始めるとスパークが
あるべき場所には代用品が入っていた、エネルギーを身体中に供給するだけの
その小さなパーツを握りつぶすとあれは力なく崩れた。

「サンダークラッカー、どう違うか話を」
「…最低だ…」
「…」
「本当、最低だ…」

サンダークラッカーはサウンドウェーブのすぐ傍で手を振りかぶっていた。
殴りたかった、殴って謝らせたかったのに自分にはそんな度胸はない。

「俺、ごめん、今日は帰るわ…」

サンダークラッカーは扉に向かって早足に動くと扉の前に立った、感知して
横へとスライドする扉はブーっと否定的な音を出してそれきり動かない。
サンダークラッカーは驚きはしたが悲鳴も怒りもなかった。
背中にサウンドウェーブが触れる。

「サンダークラッカー」
「っ…」
「データが足りない」
「そんなん、知らない…」
「お前の喘ぎ声、達する表情、行為後の反応、全て欲しい」
「うるせ…そんな、お前の趣味だろ!?俺っ、関係ねぇじゃんか…!」
「…」

サウンドウェーブを見るとサンダークラッカーは身体を強張らせた。
マスクがなく、口が見えていた。
ゆっくり伸びてきた手はサンダークラッカーの頬を撫でて首へ降り、胸をさすって
細い腰を掴んだ。

「っ…や、やめ…、スカイワープが待って…」
「一度のデータだけで十分だ」
「一度も二度も…俺は」
「代用品ができれば、お前には手を出さない」
「…まちが、ってるぜ、あんた…」

サウンドウェーブは静かにサンダークラッカーの腰を撫でた、片膝を床につき
腹部にキスをする。
俺はあんたのもんじゃなくて、誰のもんでもなくて、ただ楽しくしたいだけだ。
それにはスカイワープが必要だし、スタースクリームが近くに居れば
安心だし、それだけ。俺と一緒に笑ってくれる仲間がいればそれだけで
十分だってんだよ。

サウンドウェーブは無表情で、何考えてるのかわかんねぇ。
ただ、マスクがない今だけはわかった。


「…サンダークラッカー…」


口元だけで笑う嫌な笑顔。
苦手だ。