1000万年という時間を体験するのは難しい。
言葉で言ってもわからないし、人間が体験するのはちょっと不可能じゃないかと
スカイファイアーは思う。現代技術においてコールドスリープと言う素晴らしい
手段があれど1000万年と言う時空は飛べないだろう。

何故なら人間の技術的な問題は多い、重力のある場所での保存はできない。
床へつける皮膚が腐り、破けてしまうのだ。しかし無重力状態での保存は
もっとできない。筋肉がなくなり、骨が細くなってしまう。
それが改善されたところで1000万年後に本当に起こしてくれる人がいるのだろうか

普通なら起こさない、現在から1000万年前といえば人類誕生より前だ。
人類が誕生する為に必要だった大きな水溜りが地球と言う星にできた頃である。
つまり、人としての形を成していない、仮に人がいたとしても言葉もわからず
高層ビル、空を飛ぶ機械、小さな箱からの音楽についてこれない。
そんな危険人物を起こすだろうか?




カウンセラー
 



スカイファイアーは飛んだ、1000万年と言う気が狂うような年月を飛び
現代の光りをそのアイセンサーにあてることに成功した。
スタースクリームが起こしてくれたのだ。

トランスフォーマーにいくら寿命の概念がないとは言え、1000年会わなければ
「久しぶりだな!生きてたのか」くらいの挨拶になる。それが1000万年になれば
存在を忘れられても仕方がないだろう。トランスフォーマーの記憶装置とて
万能ではなく、忘れてもいいと思った記憶は端から消されていくのだ。

なのにスタースクリームは私を覚えていた。名前も、姿形も、覚えていた。
人間が誕生し、文明が生まれ、死に、何度も王が変わる月日を越えてスター
スクリームは私の名を間違えずに呼んだ。



「放しやがれ!」
「待ってスタースクリーム」


私にとって、スタースクリームと旅に出たのは昨日のこと。
私にとって、スタースクリームの寝室で美味しいエネルゴンをいれて、2体で
研究について話したのは数日前のこと。

「少しだけ話そう?」
「っざけんな!」
「サイバトロンじゃ私のわかる話題が少なくてね」

スタースクリームは誰もいない森の中でスカイファイアーに絡まれイライラして
いた表情をぱっと消した。
スカイファイアーは少しだけ残念そうに笑ってつけくわえる。

「化石のような私じゃ、新しい技術についていけないよ」
「…そりゃそうだな」

元は優秀な研究員で、現在の時間においてトランスフォーマーが惑星を特定する
ために内蔵されているチップ製造の一端を任されていたこともあるのだが
今となってはそんなもの古い話、自分はテレトランワンに触ることもできない
ような無能になってしまった。

元々知識を取り入れるスペックは悪くないから、数年で現代技術に追いつける
自信があったが1000万年分の経済学と言語学で手が一杯で技術にまで手がまわ
らない、それどころか忙しいからスカイファイアーの相手をしていられないと
追い出される始末だ。


サイバトロンは優しい者の集まりだ、しかし想像して欲しい。
数十年でも数百年でも昔から目を覚ました人物が近くで
これはなんだい。あれはどうやって使うんだ?今はなにをしている?
どうして?それで?だから?そう毎日毎日新しいものに触れるたびに聞かれては
不愉快に感じない奴の方が珍しい。

何せ今は戦争中、それは大将と大将がぶつかりあう最前線。忙しいからまた
後でね、と追いやられてもスカイファイアーに文句を言う筋合いなどない。
むしろ暖かい寝床とエネルゴンを旅客機の代わりをするだけで与えてもらうだけ
感謝しなければいけないくらいだ。


「話し相手がいないんだ」
「…」


スカイファイアーは空を飛んでいたスタースクリームを捕まえて森の中に
引きづりこむとようやくこうして話を聞く体勢になってくれた。
出来損ないの自分に構ってくれる彼に感謝をしつつも欲を言うならもう少し
もう少しだけ構って欲しい。
いや、もっと言うなら一緒に居て欲しい。目が覚めて、新しい時間に放りだされた
自分にわかるものは彼だけなのだ。
1000万年前とは違うエネルゴンの味、機械の形と技術の向上、気候や湿度
大気すら自分を置き去りにしている。

彼の見た目がまったく変わっていない事は感動した。1000万年あれば一度
くらい身体を変えていてもおかしくない。
当然痛んだ部品を変えるのはかかしていないだろうけど、見た目がそのままだと
言うことは嬉しかった。

「何の話がしてぇんだよ」

スタースクリームは近くの木を一本なぎ倒すと横になったその木に座った。
乱暴だなぁと思いつつ隣に座るとスタースクリームは思い出すように顎に
手を当てて首を捻り唸った。


「どうかした?」
「お前のわかりそうな話題を考えてんだよ」
「何かある?」
「…お前の好きだったエネルゴン生成会社あったろ」
「あぁ、サンテリー社?」
「あそこ980万年前に倒産したぞ」
「えぇ!?」

大きい声をだすとスタースクリームはこっちを見た。
目が合った状態でスカイファイアーはぽそりと零す。

「株投資してたよ…」
「ぶっ…!」

スタースクリームが口を押さえて噴出した。顔をそらして肩を震わせ笑う彼は
「他人の不幸は蜜の味」なんて考えの持主なのだろう。
一通り収まるとスタースクリームは顔をこちらむけた。

「あー、言っとくけど今のセイバートロン星はもう株式なんて体制はねぇからな」
「ないのかい?」
「あぁ、一回見てきたほうが早いんじゃねぇか?あーそれと」
「うん」
「研究所に頭おかしいのいたろ」
「『スパチュラ・フレイジャー』?」

スパチュラとは当時良くフラスコの底に溜まった固体やアメ状液体を掻き出す為に
使われた「ヘラ」のことだ。
フレイジャーは減圧により固形や液体を蒸発させる為の装置、ロータリーエボ
パレーターの扱いが凄く上手く、そっち方面では名前を轟かせていたのだが
何故かいつもスパチュラを左手に持ち、壁や窓枠をカンカン叩いて歩く変な癖の
持ち主で、それ故ついた通り名が「スパチュラ・フレイジャー」


「そうそう!よく覚えてんな!」
「昨日の事のように覚えてるよ」


何せスパチュラで身体を叩かれたことがある、癖だけじゃなくて彼は手に
スパチュラを持っていることをまったく記憶していない男だった。
痛いと咎めても叩いている事がわからないのだ、左手に別人格があるのではと
疑った事もある。そして何より対トランスフォーマー恐怖症で人目の多い場所では
喋ることもままならない男だった。欠陥品だとよく罵られている所を見かけたのを
思い出す。


「あれな、やっぱネジどっかなかったらしいぜ」
「やっぱり」
「定期健診でわかってよ、そこ修正したら癖も頭もすっかり良くなって
 なんか賞とったり、セイバートロン星生放送とかに出演したりしてたぜ」
「彼が?凄いなぁ」

「それから女に夢中の、名前なんつったっけ?お前の知り合いで」
「あぁ、彼か」

スタースクリームは記憶の箱をひっくり返して古い記憶を探してくれた。
自分がいなくなって変わった事や起こった事をひとつひとつ教えてくれた。
それは正直必要のない知識だ、もう会わなくなってしまったトランスフォーマーの
話などいつか忘れてしまうだろう。


「それでな、あそこ、あー、研究所出てすぐの店」
「うんうん、わかるよ」


スタースクリームは名前や細かい地理を覚えていないようだった。
相槌を打って、わかるよと言うとスタースクリームは嬉しそうだった。
それ以上に嬉しかったのは私だ、経済学や言語学より、よっぽど楽しい。
彼がトランスフォーマーの名前を間違える度に、店の場所を間違える度に
スタースクリームが自分の名前をすぐに言い当ててくれたことが嬉しかった。

「わかるか?」
「うん、わかる」


トランスフォーマーの記憶装置は万能ではなく、忘れてもいいと思った記憶は
端から消されていく運命だ。
それでも、今この瞬間を、この必要なくも楽しい話をスカイファイアーは
しっかりと記憶していった。


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スタスクは恋人とか友人とか以前にスカファにとって唯一なんだろうなぁと
サンテリー社とサントリー社に一切関係は御座いません(笑)
スパチュラってのは今現在も使われてるヘラですね
フレイジャーは世界的有名な方から。