ガルバトロンは床に座り込みながら酒を呷った。 ナイトスクリームが近くに座り込み空になった盃にエネルゴン酒を注ぐと また静かにガルバトロンの傍に居た。 「ナイトスクリーム」 「はい」 「お前も飲むか?」 「いえ、私は…」 遠慮がちに頭を下げたナイトスクリームを見てふむと一言呟くと ガルバトロンは酒を飲みながら少し昔を思い出した。 スタースクリームは下戸だった。酷く酒に弱く、無理に飲ませては 床でぐったりとするスタースクリームを見て笑ったものだ。 嫌だ飲みたくないと騒ぐ奴に酒を飲ませるのは加虐心をあおる、そして あの生意気なスタースクリームがへろへろになるのは愉快だったのだ。 なによりあいつは酔うと記憶が飛ぶ癖があったし、あいつにしては甘える行動にでる。 しかしナイトスクリームはどうだろうか。 こいつが床に這い蹲るところなど想像つかない、甘えてくるところも想像つかない。 「遠慮するな」 「…それでは少しだけ」 盃はひとつしかない為自分の飲んでいたものを直接渡すと驚くような表情を見せた。 嫌か?と声をかければそうではありませんとすぐに返事が返ってきた。 「よ、よろしいのですか?」 「あぁ、飲め」 「…では」 口を軽く当てて両手で盃を持つと勢い良く角度を変えて盃より酒を流し込んだ。 良い飲みっぷりだと微笑むと盃が空になったのを見て受け取った。 ぷはっとその口から息のぬける音がしてナイトスクリームの顔を見ると涼しい顔で 口を拭っている。 この酒は自分しか飲まないかなり濃い酒だ。 前に飲みたがるスノーストームとアイアントレッドに飲ませたが一杯で床に 倒れこむほどだった。 それに比べてナイトスクリームは顔色一つ変える事無く飲みきってみせた。 流石自分の右腕だと見つめるとナイトスクリームはこちらに気付き 「有難う御座いました」と礼を述べた。 「美味かったか?」 「はい」 「もう一杯いるか?」 「ガルバトロン様の分がなくなってしまいます」 「心配するな。まだまだあるわ」 「…それでは」 相当気に入ったのかもう一杯注いで渡すとまた両手で受け取って口をつけた。 今度は一気ではなかったが小さく盃につけた口からゆっくりと飲み続けている。 ナイトスクリームは何をするにも遠慮がちだが進んで手に取るとは 気に入ったのだろう。今後酒を飲むときは共に飲むか。 またぷはっと息を吐いて全て飲み終えたのを確認すると 盃を受け取り自ら注いで今度はガルバトロンが飲んだ。 盃の酒を飲みながらナイトスクリームの顔をちらりと覗いたが 未だに涼しげな顔をしながら床を見つめている。 床に座り込んでいるのは自分だけでナイトスクリームは立膝をしていた。 しかし床に座りなおすと一息ついている。 やはりナイトスクリームでも多少は辛いのか少しばかり目をぼんやりとさせていた。 自分の盃を傾けて注いだ分を一気に飲み干すと左腕に重みを感じた。 左にはナイトスクリームが居たのだがその背中が腕に寄りかかっていた。 まさか、酔ったのか?寝たのか?ナイトスクリームが自分に寄りかかるなど あるはずがない。 何をするにしてもまずは主優先のこの男だ。 自分の体重を主に任せるなどするはずがないのだ。 「…ナイトスクリーム?」 「はい」 「…起きているのか」 「どうかなさいましたか?」 口調はいたって普通。 羽が多少邪魔だったが顔を覗き込んでも素面の時と変わりない。 寄りかかってくるナイトスクリームの顔に手を回してその温度を確認してみたが 多少熱いかもしれない、と言った程度のもので酔っているような感じはしなかった。 「…ナイトスクリーム。酔ったのか?」 「酔う、と言う感覚がわかりませんが普段と変わる所は御座いません」 いや、態度こそ普段と変わらないがこの体勢がありえない。 それに気付かないお前もまたおかしい。 暫く考え込む。決して寄りかかられて困ることなどない、重いわけでもない。 むしろナイトスクリームの想像もしない姿に興味をそそられるが 態度が普段と変わらな過ぎてこちらが反応に困るのだ。 「飲むか?」 「…はい」 盃を渡すとナイトスクリームは躊躇せず飲んだ。 酔ってはいるのだろうがそれで気持ち悪いだとか前後不覚になるだとかの 異常はないらしい。口調も舌っ足らずになることもない。顔色も普通。 「…ん」 「飲み終わったか」 「は、い」 けほっと咽たのか咳をするナイトスクリームの口に手を回して 口の周りにつく酒を拭いながらも落ち着かせてやる。 微かに吐き出される息が熱い気がしたがそれに気をやる前に湿ったものが 手に触れた。 「…」 「…ナイトスクリーム?」 ぴちゃっと音がしてナイトスクリームが手を舐めた。 驚きはしたが手を引くほどではないとそのまま手を口に当てたままにすると 甘噛みしつつも舌を這わせてちゅっと吸った。 「ナイトスクリーム」 「はい」 「…何をしている?」 「どうかしましたか」 微かに振り向いたナイトスクリームはやはりいつも通りだった。 顔色一つ変えず、問題があったか?と尋ねてくる忠臣を見てガルバトロンは 確信した。完全に酔っている。 「…」 「…は」 吐息を漏らしながら主の指を齧り、齧った部分に舌を当てて最後に唇で吸うのを 数度繰り返しながらナイトスクリームは更に両手で自分よりも大きなその手を 掴み逃がすまいとした。 逃げるつもりなどないガルバトロンの指から手の平に唇が移動すると そこをまた丹念に吸っていく。 手のひらに何かついているのだろうかと疑いたくなるほど夢中になって 手にかぶりつくナイトスクリームは外見こそ普段と同じであれど中身は異なる 存在だった。 大きな手を動かしてナイトスクリームの顔を丸ごと掴むと引き寄せてやる。 喉を鳴らしながら引き摺られるようにナイトスクリームはガルバトロンの膝に もたれかかった。 膝枕するように倒れこんだのを見てガルバトロンは笑いかけてやると ナイトスクリームは名を呼びながらまた舌を手に伸ばした。 「…ガルバトロン様…」 「……」 顔を近づけてやるとそれに気付いたナイトスクリームはゆっくりと 手を伸ばしてきてその指の腹は労わるようにそっと頬に触れてきた。 盃に残っている分の酒を口の中に含むとナイトスクリームに誘われるまま その口を塞ぎ酒を注いでやる。 重力に逆らわず自分の口内よりナイトスクリームの口へと酒が移動すると ナイトスクリームは躊躇せず飲み込みながら舌をこちらの口内に侵入させてきた。 ナイトスクリームとは何度かこうやって交歓行為まがいなことをしたこともある。 しかしナイトスクリームは自分に純忠すぎて自分から動くことはない。 動けと命じれば動くが「どこにどう触れろ」とまでつけないとどうしたら 良いかもわからないのだ。だから接続までに至ったことはない。 「ナイトスクリーム」 「はい、ガルバトロン様」 「どうした?積極的ではないか」 「そうでしょうか?」 「あぁ」 「申し訳御座いません」 「いや、好きにしたらいい」 ナイトスクリームを抱き起こして膝の上に乗せると 少し熱いのかナイトスクリームは小さく息を吐いて胸元に寄りかかってきた。 ガルバトロン様、と小鳥が囀るような小さな囁きをかけられて後頭部に 手を回してやるとナイトスクリームの腕が恐る恐る背中に回ってきた。 「…ガ、ルバトロンさま」 「…」 「ガルバトロンさま」 ナイトスクリームは自分の膝に座っても見上げなくてはならないほど小柄だ。 それは自分との対比であって普通のトランスフォーマーからしたら 普通なのかもしれない。 ナイトスクリームが自分を見上げて首に走るパイプを舐めてくる。 指と同様に吸って舐めてを繰り返すのを自分は黙って見つめた。 「ガル、バトロンさま…」 「…ナイトスクリーム…」 「少し…熱いですね」 「そうか?」 「はい」 「酒に酔ったか?」 「いえ、そういうわけではないのですが」 「…」 「熱くて」 熱い。と言うわりにはべったりとくっ付いてくる。 額を擦りついてきて吐息を漏らすナイトスクリームは誘っているのではないかと 思うほど背中に手を回してぎゅうぎゅうと締め付けてきた。 「ガルバトロンさま」 膝の上で身体を起こして首にまとわりついてくると頭部に唇を押し当てたまま ナイトスクリームはうっとりと目を細めた。 きっと、明日には忘れておるのだろうとガルバトロンはナイトスクリームの 身体を手で支えながら思った。 スタースクリームがそうだったように記憶が飛んでしまうんだろう。 スタースクリームとは随分酔い方が違うがガルバトロンは忘れてしまう事を 直感していた。 覚えていたらそれはそれで面白いんだがな。 ナイトスクリームがすりっと頭部に頬を擦りつけてきてもう一度名を呼んだ。 このまま抱いてしまおうか。酔ってしまった忠臣に悪戯として抱いてしまうのも 破壊大帝らしくて良い。 「ガルバトロンさま…」 「…あぁ、ナイトスクリーム」 「…ガルバトロンさま…」 抱きついてくるナイトスクリームの重みを感じながらもガルバトロンは また盃を呷った。しかしそれではつまらない。 うやむやに抱いてしまうだなんて勿体無いことをするはずがない。 むしろ普段はみられないナイトスクリームを見ているだけで十分だった。 ----------------------------------------------------- 驚くのも無理はない…ガルバトロンに首はないのだ…!(正宗風) 拍手でコメ貰って酒を飲むナイスク…だと!?可愛いじゃないか!と書いたもの… 怒られたら下げます。 この後の展開は各自むふふと想像してくださいませ。むふふ。