「スカイファイアー」 「こっちだよ。スタースクリーム」 スカイファイアーは身体に見合った、いやそれ以上の部屋を上よりもらっている。 自分の部屋もでかいがスカイファイアーの部屋には小さいながらラボラトリーも 付属でついているのだ。 そのラボラトリーはスカイファイアーのものになっていて、研究所の施設では ない。既にその一角はスカイファイアーのものとして扱われているのだ。 スカイファイアーの寝室に入るとその内装は自分とほぼ変わらない間取りである。 しかし部屋の更に奥へと続く頑丈な扉がそのラボラトリーである。 声はそこからした。その扉の前に立ってもう一度名前を呼ぶとその扉は開いた。 「あぁ、すまない。どうぞ」 「あぁ。入るぜ」 スカイファイアーが良いというのだから良いのだ。 このラボラトリーは小うるさい上司達には内緒でスタースクリームも使わせて もらっている。 研究施設内にももっと大きく、機材の揃ったラボラトリーはあるのだが そっちは申請を出す必要がある。いつからいつの期間まで、誰が、何のために。 そこまで記入してやっと使うことができるのだ。申請は一ヶ月単位。 長くても5年まで。申請が通ればそのラボラトリーは申請期間中は他人は 入れなくなる。まぁ、集中できて良い。 ただスタースクリームは大きなラボラトリーもたくさんの機材も必要として いない。最低限の機材が揃っていればそれで良いのだ。 そのこじんまりとしたラボラトリーに招き入れてくれたスカイファイアーは 片手にエネルゴンキューブ。もう片方の手に注射器を持っていた。 それを一瞥すると部屋の奥まで進み、既にスタースクリームの居場所と 化している定位置につく。 持っていた荷物を自分用のデスクの上に置いて、研究したかった資材を並べた。 「それ、色変わったのか?」 「ふふ。わかるかい?」 スカイファイアーは自分を中に入れるとしっかりと鍵を閉めて振り向いた。 「色が変わる」という発言にほぼ2体は同時に部屋の中心にある植物をみた。 植物と言えど植木鉢に入る大きさではなく、スカイファイアーの背丈を優に越す 高さの木だ。 この部屋じゃ狭いとばかりに天井にぶつかり、鉄を突き破れないと知ると天井を 枝が走り始めている木だ。 それをスカイファイアーは凄く喜んだ。 セイバートロン星では木は中々成長しない。それどころかスタースクリームは この種の植物を未だに見たことがなかった。 一枚の葉が5、6又に分かれていて、更に真っ赤ときた。まさに異質である。 前はオレンジがかっていたが今では目を見張る赤さ。 「規律違反だ」 「堅い事言わないでくれ。私と君の仲だろう?」 スカイファイアーは悪人ではないが正しい男ではない。 セイバートロン星では赤の意味は正義と狂気の2つの意味を持っている。 赤い身体は正義だが、赤い目は駄目らしい。スタースクリームがこの研究所で 嫌われる要因の一つだ。 研究員とは鮮やかなものに興味をそそられると同時に畏怖を抱く。 鮮やかは「毒」である。目を惹く存在は危険と戦う為に毒をもたねばならない。 だからセイバートロン星に色鮮やかな植物は存在しないのだ。 「赤い葉をつける植物は研究所内持込禁止だろうがよ」 「これは拾ったのさ」 「どこで」 「どっかの惑星で。綺麗だったから栽培しちゃったけどね。はは」 こいつは悪い男じゃないが正しい男じゃない。それを見破れない奴の多いこと。 木の栄養にエネルゴンを使っているせいでこの異常な成長を見せているのだ。 先ほどから手に持っている注射器にエネルゴンをいれると木の筋にあるガラス球の ようなものに刺した。 「それも、規律違反だな。異種改造」 「こうでもしないとエネルゴンを吸収してくれなくてね」 土のないこの惑星じゃ根っこはむき出しだ。 根から吸い上げるこの植物に改造を施して無理やりこの惑星で育つように している。違反である。 スタースクリームは一息ため息を吐くと椅子に座って持ってきた資材に手をつけた。 スカイファイアーはその木に夢中である。 このラボラトリーはスカイファイアーの宝箱なのだと本人が言ったのを覚えている。 存在しちゃいけないものなどないと、禁止されているものばかり集めたラボだ。 部屋を見渡せば毒性が強すぎる為にセイバートロン星から除去、追放された植物と 鉱石ばかりだ。 「君になら」と見せられた時は頭を殴ってやった。信じられないと。 「言わないでくれ。私がクビになるよ」 そう言って彼は笑った。 「今は何を?」 「近くの惑星で飛散方ウイルスが発見されたから10年は外出禁止らしい」 「10年?また微妙な長さだ」 「長すぎるだろ。俺は明日から新しい研究資材を取りに行くつもりだったんだ」 「気長に行こうよ」 「…」 既に1年前に研究し終わった鉱石をごろごろと机に転がして そのうちの一つを割って見せた。黒い表面に中は虹色に光る。 もう調べつくしたものだが暇なのだから仕方がない。 ふと机の下に投げ出している足に何かが触れた。 「ん?」 机の下に頭をもぐらせて下を見るとそこには白い生き物がいた。 「うわぁ!」 「えっ、なに?」 「な、なんかいるぞ!」 「え?あぁ。それね」 あっちいけ!と軽く蹴るとぴょんぴょんとジャンプしながら白い獣は スカイファイアーの元へ行った。 抱き上げれば丁度良いくらいの大きさだろう。そして大きな耳。 その姿は地球で言う「兎」にそっくりだったが残念なことにスタースクリームと スカイファイアーはこの時、地球の存在を知らなかった。 「可愛いだろう?」 足元にぴっとりとくっついた生き物の耳をちょいちょいと引っ張って スカイファイアーは微笑んだ。 「どこがだ!あぁ!しかも目が赤い!」 「君にそっくり」 「お前が目を赤くしたらそんなんだよ!」 目が赤いというのは身体が赤いと違って何故か嫌われる。 精神異常の表れだとか、そのブレインサーキットが狂気に犯された証拠だとか 言う。 目の赤いスタースクリームにこうも声をかけてくるのはこのイカレ男 スカイファイアーだけだった。 「どうしてお前が悪い奴だって誰も気付かないんだろうな」 「私?悪くないよ」 「その生き物も違反だろ。なんだそれ。見たことねぇ」 「これは没収したんだ」 「没収?」 「最近研究所入りした子達が他惑星から極秘裏に持ち込んだんだ。 ラットの代わりにするつもりだったみたい」 ラットは研究に必要不可欠な生き物だ。たくさん増えて結果も出やすい。 その真っ白ふわふわな生き物は研究には不向きだろう。何より目が赤いのが そう思わせる。 「こんなに可愛いのにね」 「毒があるかもしれねぇぞ」 「ないよ。調べた」 スカイファイアーが壊れ物を扱うように抱き上げてそのひくひく動く鼻を撫でた。 頭を撫でれば大きく縦に長い耳は伏せた。そうか、動くのか。 「…鳴かないんだな」 「そうだね。鳴いたところを見たことがないなぁ」 「それ、餌は?」 「エネルゴンあげてみようかと」 「…お前のエネルゴン万能説には呆れるぜ」 その白い生き物に顔を寄せるスカイファイアーは異質にもほどがある。 調べたからと言って未知の生き物には触らないのが普通だ。 よくみりゃヒゲがある。そこから毒がでるかもしれない。 「君も抱くかい?」 「よせ。気持ち悪い」 酷いなぁと笑うスカイファイアーを尻目に消毒液を触れてしまった足にかけた。 「酷いな」 「うるせぇ」 「スタースクリーム」 「あぁ?」 「君の幸せを願ってる」 足から視線を上げてスカイファイアーを見た。 こちらを見ているスカイファイアーはにこりと微笑んで鮮やかな青色の アイセンサーで見つめてきた。 「それが私の幸せなんだ」 こいつは時々これを言う。 嬉しくはなかったが、気持ち悪いとは思わなかった。 「そうかよ」 「うん。幸せになってねスタースクリーム」 こいつの口癖なのだと割り切った。 ------------------------------------------------------------ 実はワンコイントラベル以上に長い長編の最初の部分 まだ半分くらいしか書き終えてないので書き終えたら一気に更新するつもり