指で弾いたコインが素早く回転し、スタースクリームの手中に収まるまでの間は たった数秒、3秒にも満たない一瞬だった。 「わりぃな、土下座はスタースクリームに頼めよ」 ワンコイントラベル 「スタースクリーム」 「んー?」 「メガトロン様から渡されたデータだ、それと組み合わせろ」 サウンドウェーブがスタースクリームの寝室に訪れた。あの日、コインを 弾いた日から数日が経過している。 土下座を本当にして欲しかったわけではないが、あのスタースクリームが どれほどのプライドの持ち主で、どれほど常識的な性格で、どれほど現在の スタースクリームと性格が異なるのかを知りたかっただけだ。 スタースクリームはそんなサウンドウェーブの考えなどしらずにデータを 受け取るとそれをスタースクリームの専用メインコンピュータに接続して 弄り始めた。 「ちょっと待ってろ」 「わかった」 スタースクリームは手を素早く動かして次の作戦に使う機器の詳細情報を 定めて行く。サウンドウェーブは待っている間にスタースクリームこだわりの インテリアの数々を眺めていた。 「今回の宇宙光発電衛星ジャック作戦どう思う?」 「…メガトロン様の命令だ、実行する」 「俺は絶対失敗すると思うけどな」 「何故だ」 「作戦自体穴だらけなんだよ、誰に入れ知恵されたんだか知らねぇけど」 「…」 「擬似衛星を打ち上げるまではまだしも、その後通信観測用人工衛星を 乗っ取るのは不可能だ、衛星の軌道とアダムスの宇宙偵察の軌道がある 一定時間に一度交差してやがるからな」 「…」 「太陽光は常にエネルギーを採取できる良いシステムだけどよ、擬似衛星 作るのだってただじゃねぇし、だったら水力発電襲った方が早ぇんだよ」 だから無理だって言ったんだとスタースクリームは続けながらもメガトロンの 決行しようとしている作戦の重要部分を司る擬似衛星のシステムと人間の 衛星を乗っ取る為のウイルス作成を続けていた。 サウンドウェーブはそれを黙って見ると優秀な男だと再認識した。 本当は、あのスタースクリームの方が優秀なのではと思っていたのだ、まだ 常識のあるスタースクリームの方がデストロンに貢献できる逸材だと サウンドウェーブは判断し、可能ならばこっちのスタースクリームと入れ替え ることが出来ないだろうかとまで考えていたのだ。 しかしその考えは全て撤回した、こっちの方が優秀だ。 「…スタースクリーム、これはなんだ」 「ん?」 整えられたインテリアは美しいもの好きのスタースクリームにぴったりの ものだった、光り輝くエネルゴンを結晶化させたクリスタルや エネルゴンフラワーと言ったエネルギーを含んで成長した珍しい植物が 透明な瓶の中に浮遊するようにあった。 その中に、かすかに異質なインテリアが一つだけあった。 それを手に取りスタースクリームの方へ向けるとスタースクリームは「あぁ」と どうでも良さそうに一言呟いた。 「1000万年前くらいに流行ったんだぜ、そのコイン」 くの字に曲がり、随分と年季の入ったコインだとサウンドウェーブは特定する かすかに黒ずみ汚くなったコインは数日前にスタースクリームから没収した コインに似てなくもないがあちらは新品のように綺麗だった。 「すげぇ綺麗な音がする上にコインナンバーを指定しておけばどんなに離れて てもその音が聞こえるって優れもんだったんだけどな」 「…見かけたことがない」 「増産されて数が増えてからはどこででも聞こえるもんでうるさいって 生産中止になったもんなんだ、俺の研究所の奴が作ったんだぜ」 「壊れている」 「…知り合いに貰ったんだ、その時にはもう壊れてやがったよ」 「捨てないのか」 「欲しけりゃ持ってけ」 ジャガーの首輪くらいにはなるかもな、と笑ったスタースクリームは 話してる間も手を止めなかったのもあり終了したデータをコンピュータより 引き抜いて手渡してきた。 知り合い、というのはスカイファイアーのことだろうとサウンドウェーブは あたりをつけていた、そして最近スタースクリームの機嫌が良いのは サイバトロンのあの白い男との仲を取り戻した所為だというのも知っている。 スタースクリームは仕事を終えると立ち上がって廊下へ向かった、その腕を 掴み「どこに行く」と疑問をぶつけるとスタースクリームは顔をしかめて ため息をついて見せた。 「メガトロンの野郎が呼んでんだよ」 「何故」 「この間の続きをするぞ、とか言ってたけど何の話かわかんねぇ」 「…」 「あのポンコツ遂に壊れたんじゃねぇか?まぁ、行くけどよ」 スタースクリームは腕を引き、サウンドウェーブから離れると部屋から 出て行った、サウンドウェーブは黙ってそれを見送るともう一度その コインを眺めた。 細部をスキャンすると繊細な機器なのがわかるが、くの字に曲げられた ことによって既にその機器が死んでいるのがわかる。 さらに其処につく指の跡を探った、目に見えない程度だが触った時に指先の 装甲が削れてつくことがある。それを特定すると強く指で掴んだ跡が残って いた、紛れもなく自分の装甲塗料と同じ成分だ。 「…」 他にもスタースクリームやスカイファイアーなどの塗料も付着しているが どれも古く、今このコインに初めて触った自分の塗料ですら1000万年前の 塗料だとわかる。 サウンドウェーブはようやく全て理解すると興味が失せたようにコインを 更に折り曲げてから指先で弾いた。 湾曲したコインは弾かれると風鈴のような音ではなく鉄屑の飛ぶ音が 響くだけだった。 ---------------------------------- スタスク「アーッ!!!」 音波さんはいっつもおいしいとこどりな気がしてなりません。