「悪い…ちょっとだけで良いんだ」 サンダークラッカーが部屋へやってきた。 わからない仕事があるらしいのだが スタースクリームは今セイバートロン星に向かっている。 メガトロン様に「わからない」と告げれば「そんなこと自分で考えろ」と 言われてしまう。 では、他に誰か教えてくれるトランスフォーマーがいるのかと言えば そういうわけでもなく、どちらかと言えば「俺もわからん」と言う返答が多いだろう サウンドウェーブは寝室の扉を少しだけ開けた状態でサンダークラッカーの話を 聞いていた。それ以上開ける気もなかった。 サンダークラッカーは実は内心「どうして扉を開けてしまわないのだろう」だなんて 考えていたのだがサウンドウェーブの内心を知ることはできない。 サンダークラッカーが自分に憧れているのをサウンドウェーブは知っていた。 もはやブレインスキャンをするまでもない、と思うほど彼の憧れはわかりやすい。 スタースクリームにも僅かながら尊敬の念があるがそれはサウンドウェーブとは 比べ物にならないほど僅かなものであり、サンダークラッカーはサウンドウェーブの 主に忠節で、大抵の事はなんでもできて、言葉少なめでありながらも やるべきことは出来る男を心より尊敬し憧れの対象としてみていた。 サウンドウェーブはそれを全部知っている。だからどうしたと言う話だが その憧れを利用して何かをしようと思ったこともないし、これからも それは変わることがないだろう。 自分がデストロンの中でも嫌われているのは知っているつもりだ。 だからこそ、この憧れの眼差しが少しだけむず痒く思うこともある。 デストロンでありながら戦闘を好まない性格の彼は本当に変わり者だと思った。 「それで、教えてくれねぇかな?」 「…」 もちろん、構わない。 メガトロンがサンダークラッカーにやれと命じた事がわからず、自分に聞きに 来たのだから、間接的にメガトロンの命令でもある。 しかし、扉越しに言葉で説明してわかる内容ではないのがちらりと見ただけで 理解できた。普段ならスタースクリームがやるはずの仕事だろう。 「いつまでだ」 「今週中」 まだ数日ある。丸1日あれば終わる内容だ。 「…明日こい」 「え?今日は…」 「今日は無理だ」 「…そ、か…どうして?」 サウンドウェーブに首を傾げてサウンドウェーブは尋ねた。 その目は「きっと難しい仕事でもやってるんだろう?」と問いかけてくる。 しかし残念ながらそうではない。確かに仕事はしているがそこまで難しい ものでもなく、すぐにサンダークラッカーの仕事に手をつけれる程度だ。 あえて言うなら、部屋に入れられない理由は 「…寝室が汚い」 「…はぁ?」 「…」 「あ、ごめ…でも、俺気にしねぇよ?」 だってあのスカイワープと同じ寝室なんだぜ?スタースクリームだって時々 部屋すげぇ汚いしよう。大丈夫だぜ?と続ける顔を見ながら サウンドウェーブは内心静かにため息をついた。 自分とて、普段から部屋が汚いわけではない。 仕事が詰まっていて、エネルゴンキューブやらカセットロンの遊び道具やら 他にもメモリに紙、仕事の道具が散らばっているのだ。 足の踏み場がないと言うほどでもない、今日程度の汚さならスタースクリームを 招き入れたこともある。「汚ぇ」と言われたがスタースクリームも 仕事が詰まり部屋が汚いこともあるのだろう。さほど気にしている様子はなかった。 しかしサウンドウェーブはサンダークラッカーを入れることを渋った。 実はサンダークラッカーがサウンドウェーブの寝室の中に入るのは初めてだ。 初めてというのは刷り込みのように脳にこびり付くもので 中々払拭できないものでもある。 自分の部屋が普段から汚いと思われたくない。 そんな馬鹿のような理由で入れたくなかった。 しかしサンダークラッカーは自分に憧れている。きっと自分の部屋は 綺麗で、清潔で、仕事道具が揃ってるできた男の部屋を想像しているだろう。 もしここで中に招き入れて想像と違う汚い寝室を見たらどう思うだろうか。 『思ったよりサウンドウェーブって小汚いんだな』など思うのではないか。 サウンドウェーブはこの自分の感情に「名誉の為」と名をつけた。 しかしそれは誤りであり、本当はただ単にサンダークラッカーの 夢を壊したくなかった。敬慕の情を向け続けて欲しかった。 いつまでも俺に憧れていて欲しい。 「…片付けたい仕事もある」 「あっやっぱ忙しかったんだよな…ごめんな」 「問題ない」 「ん、じゃまた明日くるから、簡単に教えてくれれば大丈夫だしよ」 時間はとらせないから、と少しだけ困ったように笑う顔を眺めながら サウンドウェーブは小さく呟いた。 「…明日は朝から来い…」 「?…朝しか時間あいてないのか?」 「それは時間がかかる。終わるまで見る」 「…」 サンダークラッカーが僅かな時間呆けたような顔を晒した。 見つめ続けているのに気付くとはっと顔を正してから 少しだけもじもじと身を捩って顔を赤らめる。 「い、いいのか?忙しい…」 「構わない」 「あ、ありがとう…」 嬉しいのを必死で隠すように俯くのを眺めながらサウンドウェーブは 何故赤くなる必要があるのか、何故隠そうとするのか疑問に思っていた。 朝から、自分の寝室に入り、終わるまで様子を見ててやると、付き合ってやると 言われたのがそんなに嬉しいのだろうか。変わった男だ。 「ま、また明日な」 「あぁ」 サンダークラッカーがいなくなってから室内に戻ると汚い部屋を見た。 明日の朝までに片付くだろうか。フレンジーにも手伝わせたほうが良い。 サンダークラッカーの口に合うエネルゴンがない、できたら上質なものがいい。 ランブルに取りに行かせよう。それから。 サンダークラッカーは仕事をするために来るだけなのに 張り切る自分が居たのには、まだ気付かない。 ---------------------------------------------------------- この後 【暇な奴】明日恋人が家に来るんだけど【ちょっと来い】 ってスレを立てるわけですね。音波さん。そんな音波さんは嫌だ。 「ベットの近くにティッシュを置くとわざとらしいから 机あたりに置いておけ!」って助言をほいほい聞く音波さん。それも嫌だ。 珍しく音波さんも感情的。高校生カップルとかで 明日初めて彼女が家に来るんだけど女の子が好きな物とか あったら引かれちゃう物とかわからなくてあわあわするの可愛いよね。